会議室を出た後、シリウェルはカガリと共に行政府の執務室へと来ていた。この場には二人しかいない。
「今更だが……久しぶりだな、カガリ」
「シェルお兄様……はい。本当にお久しぶりです」
畏まる必要もなく、誰に遠慮することもなく話をするのはいつぶりだろうか。以前、オーブに来た時はカガリは不在だった。次に会ったのは、ヤキンでの戦いの最中だ。ゆっくり話をすることもなかった。
「お兄様、先程はすみませんでした」
「お前が謝ることはない」
「ですが……」
カガリが謝ったのは、ついさきほどのウナトとの会話のことだ。非常識と取られてもおかしくないものだった。だが、ウナトはそれを狙っていたという可能性もある。セイラン家はアスハ家よりも名家としては劣るものの、オーブを共に担ってきた一族でもある。簡単には切り捨てられるような家ではないのだ。
更に言えば、先程の言い方はカガリがアスハ家の血を引いていないことを暗に伝えていた。必要なのは意志であり、血筋ではないというのがアスハ家の考え方だが、セイラン家では違うらしい。プラント側の人間という立場できたシリウェルに対して、存外にアスハ家の血をオーブに遺さないのかと意見してきたに等しかった。
カガリにもそれはわかっているのだろう。シリウェルは表情を曇らせるカガリの頭に手を乗せる。
「お兄様?」
「オーブの獅子たる伯父上の意志を継ぐのはお前だ、カガリ。その事は、オーブの人々が一番よく知っている」
「……それは、そうかもしれません。ですが、それでも私は……私は……お父様の、本当の子ではない、のです」
「カガリ……」
苦しそうに告げられた言葉。それは真実、カガリがウズミを父として慕っていたからなのだろう。血の繋がっていないのだと知った時、カガリはどれ程悲しんだことか。想像に難くない。この場でカガリはそれを告げようとしたのだろうが、シリウェルには必要ないものだ。
「それ以上は言わなくていい」
「え……?」
「お前の本当の両親が誰なのか。そんなことはどうでもいい事だ。俺にとってはな」
「おにいさま……」
「それに……俺は全て知っているんだ。お前のことも、そしてキラ・ヤマトのこともな」
「えっ?」
知っていると告げた時、カガリは驚愕に目を大きくした。それはそうだろう。だが、シリウェルははっきりと伝えなければならない。
「知っていても、どうでもいいということだ。俺にとってカガリは従妹であり、それが変わることはない」
「あ……」
「もし、お前がアスハの名を重く感じるなら、離れても構わない。伯父上も、お前を苦しめてまで継いでほしい等とは思っていないだろう」
現時点ではアスハ家の当主はカガリである。戸籍があるとはいえ、シリウェルはプラントの人間だ。それを放棄するつもりはない。しかし、カガリの後ろ楯としてアスハの人間であることを辞めることもしないつもりだ。万が一、カガリが苦しいと言うならばアスハ家の年長者として対応をすることもできる。
「わ、たしは……それは」
「捨てることはできない、だろう?」
「はい……私はこの国を守りたいのです。まだまだ力が足りないことはわかっています。辛いと思うこともあります。でも、お父様が守った理念で、オーブをこれからも守っていきたい。そう、思います。例え、お父様と血が繋がらなくても……娘でいられなくても、これだけは変わりません」
「カガリ……そうか。なら、俺はお前を後押しするだけだな。たとえば、セイランから何かを要求されたときのために、な」
「シェルお兄様」
悲しげな表情だったカガリが笑みに変わる。ウズミの子ではないことを知られて、拒絶でもされるかと思ったのだろうか。セイランについては、後々考えなくてはいけないが、先にシリウェルからの用事も済まさせてもらわなければならない。プラント大使としてではなく、個人的な用事を。
カガリとシリウェルは対面する形でソファーに座る。
「カガリ、俺から頼みがあるんだが」
「頼み、ですか?」
「あぁ。……ラクスに会わせてほしいんだ」
「!? ……ラクス、に」
「出来ればその辺りも説明が必要だろう。エターナルに乗っていた全員でもいいな」
「その……お兄様、ラクスたちはその……」
「個人的にいくつか話がある。……頼めないか?」
「……わかりました。聞いてみます。場所はどうしますか?」
「……こっちにも会わせたい人がいる。アスハ邸で頼みたい。構わないか?」
「多分ですが、大丈夫だと思います。お兄様には、アスハ邸で滞在してもらう予定でしたし」
「すまないな、助かる」
「いえ……それでは、先に向かっていてください」
カガリは立ち上がると、執務室を出ていった。ラクスらと連絡を取るのだろう。出来れば早めに用件を済ませておきたいが、あちらにも予定があるだろう。その辺りの調整はカガリに任せるしかない。
「……俺も戻るか」
ラクスに会わせたい人。即ち、ミーアを連れてこなければならない。カガリに会わせるという意味では、ユリシアも対象だ。二人を連れてくるべく、シリウェルは二人が待機しているだろう場所へと向かった。