泣き疲れたミーアは眠ってしまったので、ユリシアが付き添ってベッドで休ませてもらうことになった。
「ラクス、大丈夫?」
「キラ……。はい、ありがとうございます。私は大丈夫ですわ」
ラクスを気遣うキラ。彼はラクスが安心していられる相手なのだろう。以前のラクスにはない様子だった。ラクスはシリウェルにとっては妹同然だが、ずっと共にいたわけではない。知らない表情があって当然だろう。
二人の様子をじっと見ていると、バルトフェルドが側に来る。
「気になるのか?」
「……兄代わりとしては気にならないといえば嘘になるな」
「ラクスはキラと恋人だ。……元の婚約は破棄されているんだろう?」
「あぁ。書類上はそうだ。だから、誰と結婚しようが問題はないが……」
恋人同士。その言葉にシリウェルは複雑な想いを抱いた。プラントにおいて、恋人という関係は未来がないことが多い。かつてのギルバートも計画を練った起因の一つが、恋人との別れだったらしい。純粋に恋愛を楽しむようなことは、プラントではほぼ無理なことだ。
「お前も、アマルフィとは似たようなものだろ?」
「いや、俺たちは……」
「ん? そういや、お前さんはそういう方面には疎かったな」
「……どういう意味だ?」
「こっちの話さ」
茶化している風だが、バルトフェルドの言葉に身に覚えがあるのも事実だ。否定できる要素はない。ため息をつきながら、シリウェルは用意された紅茶に手を付ける。
「それはともかく、ファンヴァルト。お前からの話は他にもあるんだろ?」
「あぁ……今の方がいいか。隠すことでもないが、事情が事情だからな」
ここで話すべきことは、現在の彼らの処遇についてだった。
第二次ヤキン・ドゥーエでの戦いにおいて、アスランとバルトフェルド、エターナルと共に出港していったクライン派に所属している軍人は、現在亡命扱いになっている。ラクスも当然、その中に含まれていた。
しかし特例として、今後プラントに入国することは可能であり、別人を偽る必要はない。戦時中は反逆罪とされていたが、それは覆されている。逆に彼らの行動は軍内部でも評価され、権力に屈することなく平和への道を作るために意志を貫いた戦士として、英雄の近い扱いだ。
「カナーバ議長を始め、現最高評議会でも既に承認されていることだ。もし、プラントに戻りたいと望むのなら便宜は図る、と伝言を預かっている。尤も、戻れば否応なしに舞台へと上げられるだろうがな」
「それは……どういうことですか?」
キラの疑問に答えたのはシリウェルではなく、隣にいたアスランだった。
「……俺たちは、望む望まないに関わらず軍に所属し英雄的行動を求められる、ということだろう」
「アスラン……」
既に名声を得ている。ならばそれに相応しいとされる場所を用意され、それを求められる。シリウェルも異論は唱えない。それは、まさに現段階でシリウェルが置かれている状況そのものだからだ。
「シェルお兄様も、ですか?」
「……こうなることはわかっていた。その上で行動した結果だ。今の俺は、国防委員長という肩書だが評議会への口出しも許可されている。本来ならばあり得ない状況だ」
「ファンヴァルトの発言権が増している、か。だが、プラント国民は何とも思わんだろう。お前さんは前々から英雄だからな」
「一人の人間に権力が集中するのは良くないが……現状ではそうせざるを得ないことは理解している。その責任も。俺の言動でプラントが動いてしまうことも、な」
「私がいなくなったせいで、お兄様への負担が大きくなってしまったのですね……」
「こうなることがわかっていて、お前が動くことを止めなかった。逆に、お前に情報を与えたのは俺だ。だから、ラクスが気にすることじゃない」
動くために必要な力を与えたのはシリウェル。きっかけの一つになったことは間違いないはずだ。だから、気に留めることではない。
「なら、ファンヴァルト。お前は、俺たちに暫くは戻るなと言いたいのか?」
「そうだな。無理強いはしないが、少し落ち着いた状況の方がいいだろう。今は、影響が大きい」
ほとぼりが冷めてからなら、プラントの状況も変わっているだろう。騒ぎになることは間違いないが、少しでも影響を減らせればそれに越したことはない。
「わかりました。……状況を教えてくださってありがとうございます」
「アスラン、いいのか?」
「あぁ。あんな風にプラントを飛び出したからな。元々、戻るつもりはなかった」
「けど……」
「いいんだ。これで……俺も、まだ整理が付かないこともある」
「アスラン……」
アスランに寄り添うカガリ。こちらも先ほどのキラとラクスに似たような雰囲気を持っている。どうやら、そういうことのようだ。カガリはナチュラルで、アスランはコーディネーター。この関係がどうなるかは、オーブの状況にもよるだろう。カガリは代表首長なのだから。
「俺の方も、暫くはこちらにいることにするかね。急いで戻る必要もない」
「バルトフェルド……わかった。好きにするといい。戻ってきたら、容赦はしないがな。ラクス、お前はどうする? できれば、お前には暫くここにいてほしいと思うが……」
「……はい。私は……」
少しだけ迷いを見せるラクス。これまでプラントで果たしてきた行動への責任があるのだろう。更にはミーアのような存在も出てきたのだ。ラクス自身は地位を望んではいないが、またミーアのような被害者が出ないとは限らない。その懸念を切るためには、ラクスがプラントに戻った方がいい。
「……ラクス。一つだけ言っておく」
「お兄様?」
「お前はシーゲルの娘のラクス・クライン。それ以下でもそれ以上でもない。だが、忘れるなよ。お前は軍人でも為政者でもない。本来ならばその肩書に責任など存在しない」
「……それは、そうかもしれませんが……」
ラクスは平和を願った。お互いを滅ぼすだけの世界を嫌った。だから願いを同じにする者と手を取り、戦った。それだけだ。行動したからには責任を。尤もな意見だが、一人の少女にそれを押し付ける方が間違っているとシリウェルは思っている。その立場に自分が置かれているからこそ尚更だ。広い視野と洞察力を持っているラクスだが、彼女もまた戦争の中で父を失っている。家族を失って傷ついていないわけがない。更に、政治を任せようなどと、無責任なのは大人の方だろう。
「お前がそれを望むのなら構わない。だが、その意志がついてこないのならば今戻っても意味がない」
「お兄様……」
「今最もラクスが望んでいることはなんだ?」
「……私は」
ちらりとラクスはキラを見る。シリウェルとて察しが悪いわけではない。ラクスが彼と共にいることを望むのならば、それを叶えたいと思う。
「キラと共に過ごしたいのならそうすればいい。俺は……お前には幸せになってもらいたいからな。シーゲルもそれを望んでいるだろう」
「……お兄様、ありがとうございます」
ラクスも残ることを決意した。これで、シリウェルから話したいことは終わった。
土日の投稿はお休みします。
次回は、3/25の予定です。