モリスンとユリシアと共に向かったのは、オノゴロ島の軍港に隣接している場所の一室だった。
モリスンが室内に到着したことを伝え、その場をシリウェルに譲った。
「……ここでウズミ様がお待ちです」
「あぁ、案内ご苦労だったな」
「いえ、それでは私はこちらに控えておりますので」
「わかった」
モリスンは部屋の警護だ。その中には誰もこの場に近づかないようにとの見張りも含まれている。
ユリシアに目配せをし、シリウェルは戸を開けた。
「……ご無沙汰しております、伯父上」
入り口に立ち、シリウェルは頭を下げた。ユリシアも頭を下げる。シリウェルが礼を尽くすほどの相手であり、伯父と呼ぶのは一人しかいない。一軍人に過ぎないユリシアが簡単に会うことなど出来ない人物、ウズミ・ナラ・アスハなのだから。
ウズミは立ち上がり、シリウェルの側まで来るとポンと肩に触れその身を起こさせる。
「久しいな、シリウェル。元気そうで何よりだ」
「伯父上も」
柔らかな笑みを浮かべウズミは、シリウェルの顔を見る。こうして顔を付き合わせて話をすることは、随分していない。任務で来ているとは言え、会うことが出来たのは素直に嬉しいとシリウェルも感じていた。
「……? そちらは?」
ウズミはシリウェルの背後にいたユリシアに目を向けた。顔を見るのは初めてだろう。ユリシアはシリウェルとは違い公人ではない。顔を知らなくても当然だろう。
「……紹介します。ユリシア・アマルフィ、俺の隊に属していますが、今回は護衛という形で同行しています」
「ユリシア・アマルフィです。ウズミ様、宜しくお願い致します」
シリウェルが紹介すると、ユリシアは敬礼をしながら挨拶をする。
「ユリシア・アマルフィ……確かお前の婚約者だったのではないか?」
「まぁそうですが、ここでは俺の部下の一人です」
この場は私的なものではない。あくまで非公式ではあるが、任務の一つなのだ。身内に婚約者を紹介する場所ではないのだと、シリウェルはあえて強調した。
「……お前がそういうならいいが。まずは座れ」
「はい」
向い合わせのソファーに座ると、タイミング良く侍女がコーヒーを持ってくる。ユリシアの分もだ。
困惑するユリシアに、ウズミは座ることを勧めた。シリウェルの部下ではあるが、ウズミがそういうならシリウェルも異論は出来ない。
「……いただきます」
「うむ。では、シリウェル。話をしようか」
コーヒーを飲むユリシアに満足したのか、ウズミはシリウェルに先を促した。
「……用件はわかっているでしょう、ウズミ代表」
「私はもう代表ではない。弟に譲ったよ」
「ホムラ叔父上、ですか……代表だけでなく、首長も降りたんですね」
ウズミは国の代表だけでなく首長家としても代表だった。それさえも降りたということだ。
「ではヘリオポリスでのモルゲンレーテの介入は認める、ということですか?」
「一部の者たちが独断で連合と通じていたことは認める。だが、オーブとしてモルゲンレーテが介入したことはない」
「……一部、ですか」
「一部だ。オーブとして、プラントと敵対することはない」
あくまで国としての姿勢は変えないということだろう。それでも、事実としてヘリオポリスで最新のMSと戦艦が建造されたことは変わらない。代表として見落としていたことの責任を追及されるのはわかっていたのだろう。だから、ウズミは代表と首長を降りたのだ。
「……わかりました。ヘリオポリス壊滅の賠償は必要ですか?」
「必要ない……要求出来ないとわかっていて聞いておるのか?」
「ただの嫌味でしょうね、これを聞いてこいと提案したのは……」
そう、シリウェルが問いただしていた内容は議会でまとめられたものだ。いかに軍としてはそれなりの地位にいるとは言え、シリウェルは正確には最高評議会議員ではない。政治的な交渉をしたことがないわけではないが、国の代表である最高評議会の意見を優先的にしなければならないのだ。
「お前も政に染まってきたな」
「……父の影響でしょうね。それに、伯父がオーブ代表なら嫌でもそうなるでしょう」
「……苦労をかける」
「俺が望んだことです。伯父上たちのせいではありません」
「そうか……」
ユリシアは二人の会話を黙ったまま聞いている。護衛という名目でいるが、戦闘技術はシリウェルの方が上であるため、本当に名目上のものでしかなく、やることがないのだ。そんなユリシアの様子をみて、ウズミは話題を変えた。
「シリウェル、この後はどうするのだ?」
「この後ですか? カーペンタリアに向かう予定です」
「直ぐに行くのか?」
「……ザフトの軍人である俺が長居する訳にはいかないですから」
シリウェルはプラントにもオーブにも国籍を持っていた。それは、シリウェルがハーフだからだ。連合との戦争が始まるまでは、年に一度はオーブへと帰ってきていたし、アスハ家にはシリウェルの部屋もある。ウズミも少しはゆっくりすると思っていたのだろう、僅かに驚いていた。
「……マーナもホムラも喜ぶと思うのだがな」
「すみません……」
「仕方ないか。今の状況が状況だ。無理強いはできまい」
ザフトの軍人であり、隊を任されるほどだ。ウズミも戦争の最中であることは十二分にわかっている。
「ならば、お前の結婚はまだ先なのだな……」
「え?」
「ユリシア嬢との結婚だ。年齢を考えれば早いということもあるまい」
突然ユリシアとのことが話題になり、シリウェルは動揺した。それは隣に座っていたユリシアも同じだ。
「ユリシア嬢とシリウェルの式ならば、是非ともみたいものだが」
「えっ、あの、そのウズミ様……」
「……伯父上、ユリシアをからかうのはやめてください」
「たが、お前はファンヴァルト殿の遺児だ。周囲が望んでいるのではないか?」
プラントルールで決められた結婚ならば、反対するものはプラントにはいない。成人も過ぎ、適齢期であることは確かなのだ。急かされたことがないわけではない。
「……それでも今は無理です。戦争が終わるまでは、俺は前線から離れることはできませんから。そんな時間はありません」
「そうか……そうだな」
「……はい」
当然という風に話すシリウェルと、若干寂しそうなユリシアの様子にウズミは気がついていた。