「俺からの報告は以上だ。他に聞いておきたいことがあれば答えるが……何かあるか?」
オーブに滞在しているとはいえ、別邸まで来れる機会はそう多くはない。こうして彼らと顔を合わせて話せるのも、次はいつになるかわからない。話があるならこの場で片付けておくべきだろう。
「……それなら、シェルお兄様。私から良いですか?」
「カガリ?」
「お兄様は、私がお父様の娘でないことをご存知でした。その……一体いつから、なのですか?」
「……」
まさか、この質問が先に来るとは思わなかったので、シリウェルは驚きに目を見開く。いつからなどとどうでも良いことだとは思うが、カガリにとってはそうではないのか。もしくは、別の事が気になるのか。
「理由を聞くのは野暮か……そうだな。俺が話さなければならない事とも無関係ではない、か」
「え?」
「……特にキラ、君には話しておくべき事だろうから」
「僕、にですか?」
「あぁ」
最後のラウとキラの会話から判断するに、お互いに己がどういった存在なのかを知っている風だった。そして、恐らくはラウの最期を見たのもキラだろう。
カガリの質問に答える範囲を越えているだろうが、知りたいのなら話すつもりではあったので問題はない。
「……どこから話すべきかな」
「ファンヴァルトは、キラの事も知っていたのか?」
「バルトフェルド……あぁ、知っていた。キラが、カガリの双子の兄であることも。二人の両親がヒビキ博士夫婦であることもな」
「お、にいさま……それは」
「いつから知っていたか、だったか……いうなら、最初から、と言うのが正しいな」
「え……?」
何を言っているのか。全員の表情がそう物語っている。しかし、それは嘘でも誇張でもなくシリウェルにとっての真実だ。
「……俺は記憶力がいいんだ。生まれつきな。二人が生まれた時の事も覚えているよ……メンデルが襲撃されたことも」
全てを知ったのは、もう少し成長してからだったが、確かに覚えていた。人工子宮と呼ばれる機械から生まれたキラと母体から生まれたカガリ。だが、直ぐにメンデルはブルーコスモスに襲撃され機械も破壊され、沢山の研究者たちも瞬く間に殺害されていった。シリウェルが見たのは、己が逃げるまでの事。父テルクェスが助けに来たことで、シリウェルは難を逃れた。
「メンデルが廃棄されたのは、事故じゃない。だが、これを公表することも出来なかった。当時のブルーコスモスは、それほどに世界に影響力を持っていたんだ」
「なるほどな……言うなればお前さんは生き証人か」
「たかだか2歳程度の子どもだがな……」
父がどれ程の権力者だとしても、自我が芽生えたかどうかすらわからない段階の子どもの記憶など、証言にもならないだろう。ここまで月日が経ってしまったのだ。全ては今更のこと。
「じゃあ、お兄様は最初から……全て?」
「そうだ。初めてお前に会ったときは驚いたよ。あの時の片割れが従妹になるとは思わなかったからな」
「……僕のことも、ですか?」
これまで黙っていたキラが問う。キラのことを知ったのは最初だが、彼があの時の子どもだと知ったのはいつだったか。
「……ヤマト夫妻に引き取られたことは聞いていた。だが、君がパイロットだと知ったのは君と顔を合わせたあの時だ」
「え……?」
「恐らく、ラウは知っていたんだろう。意図して俺には伝えなかったんだな。キラの名前を聞けば、俺が思い出すとでも思ったんだろう……余計な世話だ」
今は亡き友人を思い出し、シリウェルは自嘲気味に笑った。
「あの……ファンヴァルト隊長はその、クルーゼ隊長と?」
「? ……あぁ、お前はクルーゼ隊だったか。そうだ……ラウとは友人だった。俺たちは似た者同士だったから」
「……シリウェルお兄様」
「キラが人の夢で生まれたのなら、ラウたちは人の欲から生まれた存在だった。だが、結局はどちらも人の願いによって生まれた希望だ。ラウは認めないだろうけどな……」
「人の願い……」
無意識なのかキラは、シリウェルの言葉を繰り返した。
ラウの話に驚かないということは、どういう風にラウが生まれたか知っていたのだろう。或いは、どこかでラウからもたらされたか。
「キラ、君はラウに会ったのか?」
「っ……は、い。コロニーメンデルで……」
「メンデル……そうか。そこに行ったのか……」
L4には未だに廃棄された当時のまま、ことはが残されている。不穏な集団が根城にしたこともあるが、現在は無人となっている。
「……何か残っていたのか?」
「……」
「そう、か」
無言は肯定だろう。ラクスたちは首を横に振っていた。見たのはキラだけで、ラクスらは話を断片的に聞いただけだという。なら、彼の話をしておいた方がいいだろう。何故、ラウが世界を壊そうとしたのか。
「……ラウは、クローンだった。それでも必要とされてたんだよ……あることが判明するまではな。クローン体だったラウは、生まれつきテロメアが短く長くは生きられない。元となった人間の遺伝子通りの寿命の分だけしかなかった。……それがわかった時、ラウは捨てられた」
「そんな……」
「……だから、ラウは元となった人間を殺したんだ」
正確には火事を起こして、その家族を壊した。元の人間は死に絶え、ラウはそこから逃げたのだ。
「……アル・ダ・フラガ、ね」
「……貴女は知っていたのか?」
「……ムウ……彼から聞いたわ。メンデルから戻ったときに。彼の、父のクローンだと」
マリューが口を開く。悲しげに紡ぐムウの名。名前だけならばシリウェルも知っている。この場にいないということは、戦死したということだろう。ニコルと同じく。
「ラウと彼は血の繋がりだけでいえば親子だった。アルダは富豪だったからな。メンデルの研究者たちは研究費用が必要であり、アルダはその援助者だが……実際にはそれを盾に違法クローンを強要した……強欲な人物だったらしい。俺も、ラウから聞いただけだからな、真相はわからない」
「……ムウも言ってたわ。傲慢で、強欲だったって。そんな父親が嫌だって。彼は世界を憎んでた……でも、だからって世界を巻き込む理由にはならない」
「……マリューさん」
その通りだろう。理不尽な生き方を強要されることなど、珍しくはない。どのような生まれであろうとも、他者を害する理由にしてはいけない。道徳的にはマリューの言うことは正しい。しかし、感情がそれを認めなかっただけだ。ああ見えて、ラウは激情家だった。世界を憎む理由には、シリウェルとそしてレイも関わっている。そのことで人間を見限ったラウには、世界は守るものではなくなった。勝手にそう決めて、勝手に行っただけだ。
最後にはシリウェルも、そのラウの行動を認めることなく対立的立場を取った。しかし、ラウの想いを理解できないわけではない。マリューのように、大衆意見としてラウを否定することは出来なかった。
「……」
「お兄様、どうされたのですか?」
考え込んでいたように見えたのか、ラクスが顔を寄せていた。シリウェルは苦笑しながら首を横に振る。
「……いや、何でもない」
「ファンヴァルト、お前はクルーゼの事を伝えたかったのか?」
「……ラウから想いをぶつけられていたキラは、知るべきだと思った。そして、それを支えるお前たちにも。……今後のためには事実と向き合ってほしいからな」
どんなに隠していてもいずれは知られるだろう。戦争の事がなければ、ウズミもカガリに出生の真実を伝えることはなかったはずだ。キラも知らずにいただろう。だが、それではだめだ。既に彼らは守られるだけの子どもではない道を選んでいる。その手に武器を取って戦う道を。ならば、知らなければならない。世界の裏にいる彼ら、ブルーコスモスと無関係ではないのだから。