ラウの話が一段落したところで、シリウェルは別邸を後にした。疲れて寝ていたミーアも起きたこともあり、お暇することにしたのだ。
まだ残るというカガリと別れ、シリウェルたちはアスハ邸へと戻った。
夕食後、ミーアは直ぐに部屋で休むというので、シリウェルはユリシアと共に自室に戻ってきた。テーブルの上にはサクヤが入れた紅茶が置かれている。
一口飲むと、シリウェルはソファーに身体を預けた。
「……」
「シリウェル様?」
「……少しだけ、安心したんだ。ラクスも、カガリも……どうやら信頼できる人たちがいるようだからな」
気がかりだったラクスの様子も知ることが出来た。何より、オーブで一人頑張っているだろうカガリにも大切な相手が出来ていたことがシリウェルにとっては大きい。従兄でありながらも、遠く離れた場所にいて力を貸してやれない。オーブの情勢はまだまだ苦難な環境に置かれている。政治家としてはまだ新米であるカガリでも、周囲に支えてくれるものがいることで戦い続けていられるのだろう。傀儡になり兼ねない状態ならば、どうにか手をまわそうとも考えていたが、その必要はなかった。
「……そうですね。ラクス様も、お元気そうで私も一ファンとして安心しました」
「ユリシア……悪かったな。君にとっては、負担になるような形だった」
「いえ……シリウェル様がラクス様と親しいことは存じていましたし、ミーアさんの事情も今回のことで理解できましたから……これからもミーアさんのことは気にしていたいと思います」
「……ありがとう、ユリシア」
まだまだ一軍人の立場に過ぎないユリシアを巻き込んだ形となったことに、少なからず申し訳なく感じていた。しかし、ユリシアは気にしていないと微笑む。今回のことも、他言は無用な案件だと理解しているようだ。ラクスのこともミーアのことも、そしてその場にいた亡命と扱われている彼らのことも。
シリウェルはユリシアに手を伸ばすと、ユリシアは手を重ねた。そのまま手を引っ張り、シリウェルの上に乗っかる形でユリシアが倒れこんでくるのを抱きしめた。
「シ、シリウェル様っ!」
「……ここは俺の部屋だ。誰も来ない……」
「そ、それはそうかもしれませんが……その、重い、ですし」
「こう見えても、それなりに力はある方だが?」
「そういうことじゃありませんっ!」
顔を真っ赤にして反論し、ユリシアは体を離す。そんな風に感情を露わにして慌てる様子も、好ましいと思う。
ふと、バルトフェルドにユリシアとシリウェルが恋人だと言われたことを思い出した。誰かに愛情を向けたことがないシリウェルには、ラクスとカガリがキラ、アスランに向けているような想いをユリシアに向けているだろうか。
共にいることも、こうして傍にいて触れていることも嫌だとは思わない。己の領域に入ってきても、不快ではない。万が一、これが他の誰かであればどう感じるか。恐らく突き放し、そもそも領域外に追いやって近づくことを拒否することだろう。
「シリウェル様?」
考え込んでいたことに気が付いたのか、ユリシアが顔を覗き込んでいた。苦笑しながら、シリウェルは頭を横に振る。
「いや……何でもない。俺は、君をどう想っているのか考えていたんだ」
「シリウェル様……」
「俺は……こうして君に触れているのは嫌じゃない」
ユリシアの髪を一房手に取り、口元に寄せる。
「っ……シ、シリウェルさま、その」
「傍にいてほしい、とも思う。だから……君を抱いてもいいか?」
「あ…………はい。私も……一緒に」
ゆでだこのように真っ赤にしているユリシアの様子に、シリウェルは微笑む。そのまま両腕でユリシアを抱きながら、立ち上がる。
「きゃっ」
「……言っただろ? 力はある。君くらいなら、抱き上げて連れて行ける」
「うぅ……それでも恥ずかしいものは恥ずかしいです」
「そういうものか?」
「シリウェル様は、その……照れたりとかしないんですか?」
「……君以外いないのにか?」
逆に、二人だけしかいない状態で照れるユリシアが不思議だとシリウェルは首を傾げた。こうして抱き上げて移動するのは初めてではあるが、意識をするようなことではないと思っている。他人に見られているのならば、ユリシアが照れるのもわかるが、シリウェルに照れる要素はない。万が一、人がいても平気でやるだろう。ユリシアには悪いが、シリウェルが人前で特別扱いをすることで不用意な戯言への牽制にもなるので、人前の方がやるべきだとも思っている。
そのままシリウェルは寝室の方へと歩いていき、器用に部屋の扉を開けるとベッドの上にユリシアを下ろした。
「……あの日、以来だな」
「シリウェル様……その、あの時は……」
「わかっているさ。……だが、今日は違う」
「……はい」
シリウェルもベッドに乗ると、ユリシアに覆いかぶさる形でキスを交わす。初めて関係を持ったのは、同情に近いものだった。戦場の中で失われた命を理由に、不安を紛らわせるために。
だが今回は違う。正真正銘、二人の想いが合わさった結果だった。