ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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第61話 オーブの状況

 翌日、再び各首長らと会議を迎えた。今回はこれが最後になる予定だ。今日の夜はカーペンタリアに戻る。

 全員が席についたことを確認すると、カガリ主導により会議が始められる。プラントの人間であるシリウェルから話はない。オーブ側からの回答を待つだけなので、ただ腕を組んだまま様子を見守った。

 結論としては、現段階でオーブへの帰国を要望している者については、できるだけ早く戻ってきてほしいということ。プラント側もそのために支援を要請する。そして、元オーブ国民のうちナチュラルは数年の間に帰国をすることを要望として挙げてきた。避難したオーブ国民のナチュラルをすべて帰国させてほしいということだ。中には、プラントにそのまま居住を希望している者もいるが、一度オーブに帰国してからの話だという。

 話を持ち出したのは、ウナトらだ。コーディネーターはそのままでもいいが、ナチュラルは戻すべき。議論の方向性は、プラントにナチュラルがいるのは不自然であり、住みにくいだろうということになっている。これはプラントに対する侮辱だろう。しかし、戦時中の風潮はまさにそれであり、クレアをオーブへと避難させた事実もあるため、シリウェルには反論しにくかった。

 結局、最後まで口を挟むことなくシリウェルは会議を傍観していた。ナチュラルとコーディネーターの扱いがあからさまに違うことについては意見をしたいが、あくまでここはオーブ側の意見を聞く場だ。話された内容をそのまま持ち帰るだけである。

 

 会議終了後、眉を寄せているカガリを見るに、納得がいっていないことが読み取れる。為政者として、周りをまとめる力がまだカガリには足りない。ウナトらを論破するだけの根拠も持ちえない状態では、逆に負けてしまう。それではだめなのだ。

 

「カガリ……」

「お兄様……申し訳ありません。私は、何も反論することが出来ませんでした。コーディネーターもナチュラルも共に生きていけるはずなのに、私は……」

「……仕方ない。お前にはまだ経験が足りない。為政者としてのな」

「わかっています。……けど、私は……」

 

 外からみれば、カガリは代表首長とはいえ実際には傀儡に近い。古くからオーブを見ていた彼らに対し、どこかで迷いを見せているような態度も彼らを助長させている原因の一つだろう。カガリの意志は、ウズミの考えに基づくものだ。どこかでウズミを意識し、その通りにしなければならないと思っている。己の意志ではないから、不安がにじみ出ているのだ。

 

「確かに、ウナトたちはこれまでオーブを見てきた。いろいろなことを知っているだろう。だが、彼らはオーブしか見ていない」

「え?」

「国民を、人として見ていないんだ。オーブという国と、己の位置を見極めているだけで、そこにあるものは見えていない。でも……カガリ、お前は違うだろう?」

 

 オーブに住まう民が、血の通った同じ人であることを知っている。同じように笑い、悲しみ、怒ることを知っている。

 

「お前には彼らにはない、その視野の広さと想いの深さがある。お前は一人じゃない。キラが……お前にとっても血のつながった兄がいるだろ?」

 

 ここでシリウェルが傍にいると言えたなら、どれだけいいことか。しかし、それはできない。シリウェルは既に選んでいる。プラントを。オーブを大切に想う気持ちは変わらない。それでも、オーブにずっといることはできないのだ。

 

「キ、ラ……」

「俺もいる、と言いたいが……プラントに帰ってしまう身分ではお前の支えにはなりえないだろうからな」

「……シェルおにいさま」

「お前は伯父上じゃない。カガリだ。間違えそうならば、キラやラクス、アスランを頼ればいい。この場は一人で戦っていけるほど、簡単な世界じゃない」

 

 政治の世界は、きれいごとだけではやっていけない。時には非情な判断も必要になるだろう。恐らく、今のカガリにはできないことだ。いつか、それに気が付く時も来るだろうが、それまではウナトらにその役目をやってもらうしかない。つまり、カガリが主体となって動けるまでは、オーブの動きも注意しなければならないということだ。

 プラントにとって、オーブは決して安全な国ではないということを示している。

 今後、カガリを利用して何かを企むというならシリウェルはその者たちに弓を引く。例えそれが、オーブを守る首長らであっても。

 

 カガリに寄り添いながら会議室を後にすると、行政府のカガリの執務室まで送り届けた。今は、一人にしておく方がいいだろう。

 

「……試練、だろうな」

 

 エールを送ることしかできない己がもどかしいが、それも自分で選んだ道だ。カガリと同じく、シリウェルもプラントを守ることを選んだのだから。

 一人になったところで、シリウェルは前方からウナトとユウナのセイラン親子が歩いてくるのを視界に捉えた。このままだと鉢合わせするが、相手もわかっていて向かってきている。その顔につけられた笑みがそれを証明していた。ならば、逃げることはできない。シリウェルも彼らに向かって足を向ける。

 

「おや、シリウェル様このような場所にまだいらしたのですね」

「……少し寄るところがあったからな」

「そうでしたか。ですが、このような場所であったのもちょうどいい。実は、カリナも貴方様に会いたがっておりましてな。時間を作っていただけませんか?」

 

 カリナとシリウェルのことをまだあきらめていなかったようだ。シリウェルはため息をつきたくなった。

 

「カリナ嬢との縁談は断ったはずだ。会ったところで、俺の意見は変わらない」

「シリウェル様、貴方はアスハ家の血を持つ最後の男児です。なら、その血筋はオーブにこそ残すべきではありませんか?」

「……悪いが、それには賛同しかねる。俺には既に婚約者がいる。彼女以外を妻に迎えるつもりはない」

「オーブを捨てるとおっしゃるのですか? アスハ家の者である貴方が? カガリ様を置いて、一人見捨てるというのですかな」

「ハーフである俺を嫌っていたのはお前たちの方だったと思うが?」

 

 半分コーディネーターの血を引くシリウェルを歓迎したことなどセイラン家にはない。ナチュラルとコーディネーターの友好の証として、プラントとオーブ双方から国籍を与えられ、何かと便宜を取られているシリウェルを疎ましく思っていたのはセイラン家をはじめとするブルーコスモスよりの首長家たちだ。今更、シリウェルに取り入ったところで、受け入れられるはずがない。

 シリウェルは眉を寄せ、ウナトを睨む。

 

「……オーブに身を寄せるならば、貴方様の身の安全は保障したのですが……残念です」

「何っ!?」

「次に会うときまでには考えておいてくださいね。カリナも待っていますから。では、私たちはこれで」

 

 にやにやと笑いながら、ウナトとユウナは去っていく。一言もしゃべらなかったユウナだが、その眼はずっと笑っていた。

 だが、そのことよりも最後にウナトが告げた言葉の方がシリウェルには重要だった。まるで、シリウェルの身に危険があることを示すかのようだったからだ。

 

「……セイラン家、もしやつながっているというのか……」

 

 ブルーコスモス。その中枢と関係があるかもしれない。シリウェルはウナトらが去った方を睨みつけていた。

 

 




明日は投稿をお休みします。次回は、3/29の予定です。
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