夕方までにはオーブを去り、シリウェルはカーペンタリア基地へと戻ってきていた。
レンブラントと話をするため、シリウェルはカーリアンに赴いた。自室に行き、ブリッジにいたレンブラントを呼び出す。
『隊長? お戻りになられたんですね』
「あぁ、先程な。話がしたい。俺の部屋に来てくれ」
『はっ』
通信を切り、シリウェルは机の上にあるPC開いた。作業をしながらオーブでの出来事を思い返す。ウナトのことといい、頭の痛くなる課題が多すぎる。
今後は、常にオーブの、否セイラン家の動きを監視しておく必要がありそうだ。セイランに潜り込ませるのは難しいが、ユウナの方にならば探りを入れるために誰かを潜ませても問題ないだろう。ユウナという男は軍人ではなく、ただ机上で知識を得ただけの頭でっかちだ。先の戦争でも、我先に避難したという。結局は、戦争も外から見ていただけで、行政府職員からの心象もよくなかった。漬け込む隙はユウナの方がある。
こちらの匂いをかぎ分けるほどの知識も技量もないのだから、そう簡単に潜入がバレることもないはずだ。とはいえ、潜入させるのならそれ相応の実力がなければならない。
「……追々考えるか……」
「失礼します、隊長」
考え込んでいる間に、レンブラントが部屋へとやってきた。敬礼をするレンブラントに軽く手を挙げて応える。
「随分とお疲れのご様子ですが……」
「少し色々あったんでな……機体の調整の方はどうなっている?」
「現時点では、問題は見られません。演習と称して海上での模擬戦闘をしましたが、宇宙空間とは違い対空が海面側に対しては使用できませんから、海中から攻撃をされれば打つ手はありません」
「……それはそうだな。海中、か……MSの新型を作って配備するのが一番妥当だろうな」
これまでも水中戦闘用のMS開発は行われているが、その性能は既に古い。艦の防衛に合わせたMSを作ることも視野に入れた方が良さそうだ。地球軍が開発したという換装を利用したMSも面白い。ザフトとしてもあらゆる可能性を考慮して、武装強化を行っても構わないだろう。平和条約の中に、やんわりとも見込まれている内容に抵触しそうだが、同じようなことは大西洋連邦……いやブルーコスモスとて行っているはずだ。
「状況はわかった。こちらで手を打つ。残りの演習内容はどのくらいだ?」
「地球圏において行うものは、ほぼ消化済みですがCICとMS運用の点で調整をしたいことがあります。あと2日ほどいただければと」
「2日か……その程度ならいい。わかった。出立は4日後とするか。一日くらいは休暇も必要だろう」
「そうですね。ではそのように伝えます」
「頼む」
シリウェルらが不在の間も演習は続いていた。戦時中ではないのだから、急ぎ戻る必要はない。無論、長期間留守にすることも避けたい。プラントに戻った際に、また休暇を取らせることもできる。ここでゆっくりするよりは、他の皆もその方がいいだろう。
「隊長は、この後どうされるのですか?」
「考えたいこともあるから、暫くはここにいるつもりだ。何か用でもあったか?」
「いえ……戻られたばかりなのですから、今日は休んではいかがですか?」
「……問題ない。ここにいるだけだ。それほど長時間作業をしているわけじゃない」
「隊長」
「作業に戻っていい、レンブラント」
「……はっ」
何か言いたそうにしているレンブラントだが、指摘される前に命令で以て下がらせた。上司とはいえ、レンブラントにとってはシリウェルはまだまだ子どものような存在だ。戦時中は、怪我などで何かと心配をさせた自覚はあるが、今はそれほどではない。
先ほどの話に出たMS設計のことも考えたいことだが、それよりもまずはオーブだ。
「……プラントに戻る前に手を打っておくか」
シリウェルは端末を手に取り、通信をつなぐ。数回のコール音の後、相手側からの声が届いた。
『もしもし……』
「……サクヤか。俺だ」
『若様っ!?』
「少し話がある……今、一人か?」
『……はい。私室に戻っております』
「手短に伝える。セイラン家に人を送りたい。秘密裏に、だ」
向こうでサクヤが息を飲む音が聞こえた。内容が内容だけに、緊張をしているのだろう。
「影を動かすことを許可する。アスハの名において」
『カガリ様へは、どうなさいますか?』
「不要だ。あいつは知らないだろ?」
『……承知しました。すぐにでも対応いたします』
「面倒を頼んですまないが、任せた」
『お任せを……』
直ぐに通信を切る。
オーブで感じた危うい状況。直接手出しはできないが、シリウェルにはオーブ内で動かす手があった。真っすぐで、政に染まっていないカガリは知らないアスハの裏の存在。現時点で、それを動かすことが出来るのはシリウェルだけだった。時期が来れば、カガリに引き継がなければならない事項だが、まだ早い。
「今思えば……こういうことを見越して、伯父上は俺に引き継いだのか……」
改めて、ウズミの先見の明には恐れ入る。だからこそ、オーブは小国でありながらも大国と渡り合い維持できたのかもしれない。シリウェルはウズミを尊敬すると共に、その慧眼に恐ろしさを感じた。