ここから原作でいうところの種運の開始となります。展開は似ていますが、ほぼ捏造になると思います。
第63話 不穏な門出
それから約1年後―
本日、プラントのアーモリーワンでは、新型艦のMSのお披露目が行われる。
最新艦の前に立ち、シンはその巨体を見上げていた。そこに、後ろから歩いてきていたアーシェも並ぶ。
「これが、ミネルバ、か」
「どうしたの? もしかして、緊張してるとか?」
「そんなんじゃないさ……ただ、漸くなんだなって思って」
「そうだね……あっという間だったけど、これで漸く兄様の力になれる」
「あぁ」
アカデミーへ入学してから、力を手にすることを目指してきた。シンとアーシェは無事にアカデミーを卒業し、ザフト軍に所属することになった。所属隊はグラディス隊。目の前にあるミネルバが母艦となるのだ。シンはエリートの証でもある赤服を与えられMSパイロットとして最新鋭の機体を扱うことになる。
同じくアーシェもグラディス隊に所属する。しかし、軍服は一般兵と同じ緑だった。ミネルバの副操縦士として艦に乗る。
国防本部委員長であるシリウェルの妹としては、不出来かもしれないし、アーシェ自身もその結果に落ち込んだ。だが結果を知ったシリウェルの反応は逆だったのだ。赤服ともなれば、ルーキーと言えども戦場を駆けるパイロットとなるのが普通だ。しかし、一般兵のルーキーにはそれが求められることは少ない。アーシェの成績からして、パイロットには向いていないため、それがないことに安堵したという。アーシェとしては複雑な想いだ。
とはいえ、いずれにしても兵であることには変わらない。戦艦を動かす任務を与えられたなら、その行動は間接的に人を殺めることを忘れるなと、シリウェルからはキツく言われている。
シンに至っては、それ以上に厳しく言われた。MSに乗るということの意味を。
シンは再び艦を見上げる。
「シンは、ここにいていいの?」
「え?」
「ほら、私はミネルバに乗るけど、シンの集合場所は機体の格納庫のところだよね?」
「……あぁ」
シンの機体とは、ZGMF-X56Sインパルス。最終調整が終わったので、本日ロールアウトすることになっていた。
「これから行くさ。アーシェは?」
「この後、艦のクルーの挨拶があるから、このまま向かうつもり」
「そうか。それじゃ、また後でな」
「またね、シン」
手を振るとシンは、アーシェに背を向けて駆けていった。
ミネルバのクルーには、シンらの同期も多く配置される。パイロットも同じだ。シンと同じくエリートの赤服を着ることになったレイ、赤服の紅一点であるルナマリア・ホークがミネルバに配属される。
アモーリワンに新造された格納庫。そこにシンの機体がある。レイやルナマリアが乗る機体は、ザクウォーリアで、既にミネルバに配置されているらしい。シンのインパルスだけが、調整遅れのため格納庫にいるのだ。
「あった……これだ」
シンは格納庫内にあるインパルスの前に立った。この機体の基本設計はシリウェルによるものだという。それだけで好奇心が疼くものだ。
軍服のままシンは、インパルスへと乗り込んだ。
機体のOSを立ち上げると、文字の羅列がモニターに流れる。3つのパーツをドッキングすることができ、それぞれをここから操作することもできる。事前に資料はもらっているため、後は実際に動かすだけだ。
『シン・アスカ、OSの状態を確認してくれ。問題があれば、調整する』
「は、はい……えっと、大丈夫みたいです。問題ありません」
『わかった。シリウェル様にも伝え──―』
「えっ」
その時、大きな爆発音と共に地面が揺れ動いた。まるで地響きのようだ。地球上ではないため、それはあり得ない。ならば、何が起きているのか。
ピーピーという音がインパルス内に流れる。通信だ。シンは回線を開くスイッチを押した。
『インパルスパイロット、シン・アスカで間違いないですか?』
「はいっ。えっと、一体何が?」
『国防本部所属ミーア・ヴァストガルです。本部より指令です。アモーリーワンにて襲撃がありました。場所は、MS格納庫。そこから近くになります。直ちに出撃し、対象の排除をお願いします』
「出撃、ですか? その、俺はえっと」
『時間がありません。ジュール隊他は、宙域へ回しています。近くにいる隊はグラディス隊のみなので、急ぎ対応願います。同じくミネルバへも出撃命令が出ています』
ミネルバまで出撃する。それは出航式というお披露目もなくなるということだ。それだけの事態だということに、シンの手が震えた。これが初陣だ等と、弱音は吐いていられない。震えを堪えるように操縦捍を握りしめる。
「わかりました。シン・アスカ、出撃します」
『……後武運を。宜しくお願いします』
「はいっ」
武装を確認し、シンは拘束を解除した。パイロットスーツを着ておけば良かったと後悔するが、既に遅い。
「……大丈夫だ。ちゃんと出来る」
シュミレーションはしてきたのだ。動かすことも出来た。やれるはずだと、シンは己を鼓舞する。
『インパルス、動くのか?』
「国防本部より指令がありました。このまま行きます」
『っそうか。わかった。無茶するなよ。総員、インパルスが出る。離れろっ』
モニターから格納庫にいる人たちがインパルスから離れるの確認し、シンはインパルスを動かした。
格納庫から出て向かう先は、爆発があった場所。これが、シンの初めての出撃となった。