種運は、ちょくちょく別視点、主にシン視点が入ります。
国防本部の執務室では、緊迫な雰囲気が流れていた。そこへ、指令を伝えていたミーアが走ってくる。
「ミネルバ配置完了しました。宙域へのルートも問題ありません」
「わかった。ご苦労だったな、ミーア」
「はいっシリウェル様」
秘書として力を付けてきたミーアは、今では一人で動き回ることまでできるように成長していた。専門的知識も身に着け、アカデミー出身ではないにしても知識量だけなら劣ることはない。
シリウェルは己の席に座ると、モニターを確認する。
襲撃されたのはアモーリーワン。最新機体を配置していた場所だ。敢えてそこを狙ったということは、ザフト側にスパイがいることに他ならない。前回の大戦時に洗い出しをしたものの、完全ではなかったようだ。物事には絶対などあり得ない。今すべきことは、この事態を収拾することだ。
「どうしますか?」
「……レンブラントに連絡を入れろ」
「隊長も出撃なさるのですか?」
「俺が行ってどうなることでもないが……気になることがある。マリクはここで指示を頼む。何かあれば連絡を入れろ」
「……わかりました。無茶はしないでくださいよ……」
「ミーア、お前も来い」
「は、はい」
急ぎ足で本部を出て行くシリウェルを慌ててミーアが追っていく。大戦が終わってから、ここまで緊迫した状況はなかった。しかし、いつかは起こり得る事象だと想定していた。戦争が、人々の争いが本当の意味で終わることなどないと、シリウェルは知っていたからだ。
ファンヴァルト隊母艦カーリアンスは、軍港にて出撃準備をしていた。ミーアを伴ったままシリウェルは、艦内へと入る。ブリッジには、既にレンブラント以下クルーが席に着いていた。
「「隊長」」
「「シリウェル様」」
入ってきたシリウェルに、レンブラントらが敬礼する。マリクからの連絡は来ているようで、事情も理解しているということだろう。
「プラントの近くにunknownが一つありました。恐らく奴らの母艦かと思われます。ミラージュコロイドを展開している模様」
「そうか……」
カーリアンスの索敵機能は、ザフト内でもかなり優れている。そのレーダーでさえミラージュコロイドで隠れてしまわれると確認は難しい。他では確認が取れなかったのは仕方ないことだ。相手側がユニウスセブン条約違反である兵器を開発していたことは、既に予想内のことであるため驚きはない。お互い様だ。
「大西洋連邦、いやブルーコスモスか……今までにはないタイプのようだが、新型か。他にも色々とありそうだ」
「どうしますか、隊長」
「ミネルバの動きは?」
「ミネルバ及びインパルス、宙域にて確認しました。通信、入ってきています。画面繋ぎます」
ユリシアを見れば、直ぐに返答が返ってくる。正にたった今ミネルバから回線が開かれたらしい。シリウェルは指揮官席に座ると、画面を開いた。
『ファンヴァルト閣下、タリア・グラディスです。申し訳ありません、撃墜出来ませんでした』
「状況は?」
『MS3機が奪取、敵艦―今後ボギーワンと称します。そちらへ収容されました。本艦及びMSに損害はありません』
「……」
『閣下?』
モニターの向こうにいるタリアは、暗にこのまま追撃をすると言いたいのだ。シリウェルもそれはわかっている。だが、どこか胸騒ぎがする。そんな予感がシリウェルの判断を鈍らせていた。
「隊長? どうかされましたか?」
「……いや、何でもない。グラディス、そのまま追え。こちらも後から追う。判断は任せる」
『はっ』
プチっと画面が切れた。タリアは指揮官としても優れた判断力を持っている。任せても問題はないだろう。しかし、シリウェルの顔色は優れなかった。
頭のどこかで警戒を鳴らしている。それが何か、今のシリウェルにはわからなかった。
思考を切り替えるため、シリウェルはレンブラントにミネルバを追う指示を出す。そして、回線を最高評議会へと繋いだ。
「シリウェル・ファンヴァルトだ。ウルスレイ議長はいるか?」
『はっ……それが、L4より未だ帰還しておりません』
「……わかった。無事が確認でき次第教えろ。コロニーの被害状況は?」
『死者・重軽傷者多数出ております。そちらは、医療チームを派遣し対応中です』
報告を聞く限り、対応に問題はない。このまま任せてもいいはずだ。気になるのは、ウルスレイからの連絡がないことのみ。抜け目がない彼女のことだ。そう簡単に死ぬ筈はないが。
「前方に、ミネルバ。更に前にボギーワンを確認しました」
「ミネルバの右舷に回れ」
「はいっ」
速さではミネルバには敵わない。しかし、様子から既に戦闘に入っているようだ。状況の報告を聞きながら、シリウェルはボギーワンに注視する。
奪取されたMSは既に乗りこなしているようだ。その技量、ナチュラルではあり得ない。ならば、コーディネーターか。これも否だ。現在、ブルーコスモスに侵食されている大西洋連邦が憎きコーディネーターを使うことなどない。直ぐに抹殺するはずだ。今のブルーコスモスにコーディネーターに価値を見出だすとは思えないのだから。その理由として、先の大戦で大西洋連邦側にいたパイロットたちがいる。
「まさか……くっ」
「シリウェル様っ?」
ミネルバに近づき戦闘宙域が目視できる場所に来て、シリウェルは何かを感じた。示すならば嫌悪。否、不快感が正しい。胸を押さえ思わず声に出してしまった。
小さい声であっても、シリウェルが発した声はブリッジ内にいるクルーらには届いている。一斉にシリウェルを見ていた。
「隊長、大丈夫ですかっ?」
「……だ、大丈夫だ。すまない……」
「顔色が悪いです。ここは任せてください。ヴァストガル、隊長を部屋に」
「わ、わかりました」
「俺は平気だ」
不快感はあるものの、それだけだ。ブリッジから出なければならないほどのものではない。しかし、レンブラントは厳しい表情を崩さなかった。
「隊長、ここは引いてください。気にかかることがあるのなら、尚更です」
「レンブラント……わかった。すまない、任せる」
「はい」
「一人で行ける。ミーア、君はここで状況を見ておけ」
「え……は、はい」
それだけ指示を出し、シリウェルはブリッジを出る。そのまま艦内にある私室へ向かった。
レンブラントの言うように、先ほど感じたものが気になるのは間違いない。椅子座り背もたれに寄りかかる。胸の上に手を当てるが、不快感は治まることはない。これが一体何なのか、今のシリウェルには知る由もなかった。