ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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第68話 プラントの議長

 ハッチが開いたミネルバの格納庫へ到着する。

 

「大丈夫か、ミーア?」

「っ……だ、だいじょうぶです」

 

 流石に宇宙空間が怖かったのか、ミーアは震えながらシリウェルにしがみついていた。シリウェルの秘書となってから一年と少し。飛行艇などで宇宙を飛んだことはあるが、機体では初めてだ。仕方ないだろう。

 

『シリウェル様』

「今、降りる。少し待て」

『はっ』

 

 外からの声に応じると、シリウェルはハッチを開く。ミーアを先に出そうと彼女を見るが、未だに震えが止まっていないようだ。

 

「……ミーア?」

「も、申し訳、ありません……わたし」

「気にするな。なら、掴まっていればいい」

「は、はいっ」

 

 そのまま腕にしがみつくのを見てから、シリウェルは格納庫へと降り立った。無重力の中だ。どれだけ掴まれようとも負担には感じない。

 降り立ったところで、ミーアは腕から離れた。

 

「あの、えっと……」

「すまない。艦長は?」

「え、あ、はいっ。こちらにいらっしゃると──」

「ここに来ております、閣下」

 

 慌てふためく兵の後ろから、タリアが姿を現す。その表情はどこか呆れ顔だ。

 

「差し出がましいとは思いますが、閣下。人目があるところで、何をしておられるのですか」

「……初めての出撃だったからフォローしたまでだ。それ以上のことはない」

「周りがどう思うかは別だと思われます」

「グラディス……随分はっきりと言うんだな」

「……申し訳ありません」

 

 謝罪をしつつも、全くそうは思っていないだろう。その言葉はどこか機械的だった。

 

「まぁいい。それで、ウルスレイはどうしている?」

「……貴賓室にて待機していただいています。アスハ代表も同様です」

「わかった。案内頼む」

「はい」

 

 不満を隠そうとせず、タリアは頷くとシリウェルを案内するため床を蹴った。シリウェルもそれに続き、ミーアも後を追う。

 

 貴賓室へと到着すると、タリアが中へ呼び掛ける。

 

「グラディスです。議長、ファンヴァルト閣下をお連れしました」

『はい、どうぞ開いています』

「はっ」

 

 開閉ボタンを押せば、扉が開く。そこには、微笑むウルスレイの姿。タリアの横をすり抜けて、シリウェルが中へと入った。

 

「シリウェル様、ご足労頂き申し訳ありません」

「……すまないと思うのなら、相応の表情を作れ。満面の笑みで言われても説得力は皆無だ」

「うふふ。すみません。不謹慎ですが、シリウェル様とお会いできて嬉しかったもので」

「……あんたはどこでもそれだな」

「本心ですよ」

「だから質が悪い」

 

 心底呆れたように話すシリウェルに、ウルスレイはどこか楽しそうだった。

 

「グラディス、案内ご苦労だった。あとはいい。ブリッジに戻り、宙域の警戒に当たれ」

「……はい。では、失礼します」

 

 扉を閉めてタリアは去っていく。部屋の中には、シリウェルとミーア、ウルスレイが残された。

 

「で、何故ミネルバに乗った? あんたが、考えもなしに行動するとは考えにくい。尤もらしい理由をつけてまで……何を考えている」

「……相変わらずですね。ですが、私はただ己を守る行動を取ったまで。シリウェル様の意に背くようなことはしておりませんよ」

「ウルスレイ……」

 

 問い詰めるシリウェルの視線から逃げるでもなく、ただ笑みを浮かべて受け止めている。議長と国防委員長。政治のトップと軍のトップ。立場は同等ではあるが、ウルスレイは、シリウェルの信望者だった。それは、必ずしもプラスになるとは限らない。ウルスレイ自身は意図的に、巧妙にそれを行っている。面倒な相手、それがシリウェルの彼女に対しての評価だった。

 

「はぁ……仕方ない。今はそれで納得しておく。議長としての自覚があるなら、要人としての行動を取ってくれ」

「そっくりそのままお返しいたしますよ」

「俺は軍人だ。あんたとは違う」

「関係ありません。今、プラントにおいて最大の要人はシリウェル様なのですから」

「……」

 

 注意をすればするだけ、跳ね返してくる。計算で動く人間よりも、こういった信念で動く人間の方が厄介だ。強かと言えばそれに違いないが。

 

「口の減らない奴だな」

「それが私の取り柄ですから……それはそうと、会談の結果についてですが」

 

 それまでの笑みを引っ込めて、ウルスレイは固い口調へと変えてきた。シリウェルも改めてウルスレイに向き直る。

 

「オーブ陣営の要求は変わりありませんでした。人材の流出を止めたいのでしょうが、今となっては人の居場所は生まれでは決まりません。かの国は、それを理解しておられないのではありませんか?」

「狭い世界でしか見れていないのだろうな……それで?」

「……失礼を承知で申し上げますと、あの方では代表としては力不足です」

「……そうか」

 

 厳しい評価だと、シリウェルは思わなかった。政治家として、まだまだ足りないモノがあることは政治の世界に携わるものならば誰もが感じることだ。それ故に、今のオーブは他国から軽んじられている部分があることは否めない。周囲の首長らが、何とかフォローしているのでそれほど大きな影響はでていない。しかし、それは代表とは名ばかりのものであり、傀儡に近いということだ。

 ウズミがオーブ代表だった頃よりも求心力は落ちていると言っていいだろう。

 

「周囲に恵まれていることを、勘違いなさっておいでですよ。そもそも今の地位があるのは、かのウズミ氏の力であり、あの方の力ではありません」

「辛辣だな……気に入らないにしても、それであいつを評価するなよ。感情的になって視野が狭くなっては、あんたも同様だ」

「……申し訳ありません。失言でした」

 

 ウルスレイは一瞬眉を潜めたが、俯き頭を下げた。己の言葉が間違いだとは思わないが、同じに扱われる事の方が嫌だったのだろう。

 

「俺たちしか聞いていないから、構わない。……話はわかった。とりあえず、議会には連絡しておくが、どうする?」

「いずれにしてもカーペンタリアに赴く予定がありましたので、このまま同行するつもりです。問題ありますか?」

「同行って……わかっているのか? ミネルバは」

「わかっていますよ。それでも議長として見ておかねばならないこともあります」

 

 議長としての判断。それを言われてしまえば、表向き軍人のシリウェルには反論することはできない。政治的な事に口を出すことは最低限にしたいというのが、シリウェルの想いだからだ。

 シリウェルは渋々承知するしかなかった。

 

「わかった……そう伝えておく」

「お願いしますね」

「……ミーア、行くぞ」

「え? あ、は、はいっ」

 

 部屋を出ていくシリウェルと慌てて後に続くミーアを見送り、扉が閉まる。残されたウルスレイは、それまでの表情から一変し、憎々しい顔になった。

 

「気に入らないのではありません。嫌いなのですよ。その血を持たないくせに、その血に守られているあの娘が……貴方は、何もわかっておられない……シリウェル様」

 

 

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