ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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原作の種キャラ好きには、少し嫌な内容が含まれているかもしれません。


第69話 理想と現実

 ウルスレイの部屋からそれほど離れていない部屋が

 カガリの待機している部屋だった。

 その部屋の前に立ち止まると、シリウェルは外側にある通信ボタンで中へコールをする。

 

「……カガリ、いるか」

『えっ……』

「シリウェルだ」

 

 カチという音と共に扉が開けられた。そこには、戸惑いを隠せずにいるカガリとアスランの二人がいた。

 

「久しぶりだな、二人とも」

「ご、ご無沙汰をしております」

 

 シリウェルとミーアが中に入り、扉も閉まった。これで、余計な会話を聞かれる事もない。

 

「カガリ?」

「シェル、お兄、様……お兄様っ」

 

 溢れる想いのままカガリが抱き付いてきた。シリウェルもその身体を優しく抱き止める。久しい温もりを感じながら、カガリの金色の髪を撫でた。今、この時だけは従兄として触れあっていられるのだと。

 

「無事で、良かった。アスラン、感謝する」

「……いえ。カガリを守るのが、私の役目ですから」

「そうか……」

 

 秘密裏に来ていたのだから、通常の護衛を連れるわけにもいかず、プラントも目立ったことはしてやれなかった。あのような出来事に巻き込まれれば、怪我の1つや2つで済んで御の字と言ったところだ。それが、二人とも無傷でいるのは、間違いなくアスランがそこにいたからだった。

 

「それでも礼を言わせてほしい。ありがとう」

「……はい」

「シェルお兄様……」

 

 シリウェルの胸に埋めていた顔を上げたカガリの頭にポンと手を置き、シリウェルは微笑む。そうして、カガリを椅子に座らせると本題に入った。

 

「カガリ、アスラン。二人には、このままミネルバでオーブへと送らせてもらうことになった。既に艦長には話をしてある。不自由を強いるが、そこは我慢してもらうことになるが」

「いえ、ありがとうございます。私達がこちらにお邪魔したのが悪かったのですから、そこまでしていただき、申し訳ありませんでした」

 

 頭を下げるカガリ。確かに、二人が乗艦してあることは予想外だ。機密という意味では、他国の代表であるカガリを乗せることにメリットはない。そこは、友好国という配慮があるため、出来ること。そもそも、既に乗艦しているのだから、宇宙空間で降ろすという選択肢など出来はしない。

 

「ただ、例の襲撃をしてきたunknownを追うことだけは許容してほしい。このミネルバと俺の艦が追跡している」

「っ……は、はい」

「俺から話すことはこれくらいだが……カガリ、お前からも何か言いたいことがあるんじゃないのか?」

「……そ、れは」

 

 今後についてはこれ以上伝えることは出来ないので、シリウェルからの話は終わりだ。このまま部屋を出ても構わない。しかし、それではカガリの為にはならないだろう。公的な場所でなく、誰の横槍も入らないプライベートに近い形で話が出来る機会が次に持てるのかわからない。だから、話をするならば今しかないのだ。

 カガリは俯き、拳を握りしめていた。

 

「カガリ、言ってみろ」

「っ……シェル、お兄様は……どうして、その……いえ、何故力を作り続けているのですか?」

「……カガリ」

 

 隣でアスランが気遣うように、カガリの震える肩に手を乗せる。そこから読み取れるのは、アスラン自身はカガリよりも現実を知っているということだろう。その瞳には、どこか諦めの意志が見える。同じものを見ていても感じることが違うのは、汚い世界を知っているからなのかもしれない。

 

「カガリは、どう感じた?」

「わ、わたしは……二度とあの様な戦いを起こしたくありません。力は、更なる力を呼びます! 戦いが戦いを呼ぶ! ならば、お互いに退かなければなりません‼それを、前回の大戦で皆知ったはずです!」

「カガリっ」

「構わない、アスラン」

 

 先程までとは違い、感情を露にして瞳には強い意志が灯っていた。シリウェルを前に取り繕う必要などない。カガリを止めようとするアスランを、逆にシリウェルが制止させる。吐き出した方がいいのだ。

 力が力を引き寄せる。カガリのその考え方は間違いではない。真実だ。それこそ、コーディネーターが存在した理由でもある。誰もが、他者より上へと更なる力を求める。

 

『他者より上へ、他者より先へ』

 

 ふと、かつての友人の言葉が脳裏を掠める。言葉は違うが、意味するところは同じだ。

 

「お兄様っ! どうしてですかっ! どうして、貴方が……」

「簡単なことだ。まだ、戦いは終わっていない。それが理由だ」

「え……?」

「プラントだけではない、大西洋連邦も新たな力を開発している。その証拠が、今回の襲撃だ。ユニウスセブン条約で禁止されたミラージュコロイド。それを搭載した母艦……これが意味するところを理解できない訳じゃないだろ?」

「そ、れは……」

 

 実際に目にしたのだから、これを否定することは出来ないはずだ。

 

「戦争が終わったというのは、表向きにすぎない。政治の世界にいるんだ、お前にもわかるはずだが?」

「……お兄様」

「アスハの名は、オーブ国民にとってそれだけで安心感を与える。それまでの実績がそうさせている。だが、お前にはまだ足りないものがあるようだな」

「シリウェル様……」

 

 話を聞いていたミーアがポツリと呟く。この場でどうしたらいいのかわからないようだ。かといって、口出しできるような内容ではない。

 

「た、確かに私はまだまだ力不足ですっ! ですが、それでもわたしはっ」

「政治は結果が全て。どれ程努力していようとも、結果がなければ評価はされない。今、オーブが体制を保っていられるのは周囲の力だ」

「お、にいさま……」

「今のお前では、己を道具とする意味もない。己の言葉で人を動かしてみろ。そして結果を出せ。それができなければ、お前が話すのはただの理想論として切り捨てられるだけだ」

 

 厳しいことを言っている自覚はある。目の前の従妹が傷ついていることも、承知の上だ。それでも伝えなければならない。政治の世界はかくも厳しいところだと。ウズミの威光だけでは、やっていくことは出来ないのだと。

 

「それが出来ないのなら、その座を降りろ。今、お前が降りたとしても何も変わらない。それだけ、オーブにおいてお前自身がしてきたことは何もないということだ」

「ファンヴァルト隊長……貴方は……」

「……理想と現実は違う。カガリ、お前にもわかっているだろう?」

 

 シリウェルから発せられる言葉の数々に、カガリは動揺を隠せずにいた。正確には為政者ではないシリウェルだが、己の立場から政治と無関係ではいられない。政治と密接に関係する立場だからこそ、言えることがある。オーブでは、誰もカガリに対してこういったことは伝えないはずだ。現状の首長たちは、カガリには理想のみを語っていてほしいはずであり、まだ未熟者であることこそが彼らにとって都合がいいのだから。

 

「……では、私が間違っていると。お兄様は、そうおっしゃるのですか?」

「何が正しく、何が間違いなのかを判断するのは俺ではない。後人たちが判断することだ。俺は、これ以上無駄な犠牲は増やしたくない。プラントを、守るために出来ることをしているだけだ」

「プラントを……では、お兄様にとってオーブは」

「……俺がオーブに手を出すことは、最終手段だ。あの国を戦争の道具にするのなら、俺はそれを許した組織と戦うことを辞さない。それが、お前の判断だとしても、だ」

 

 オーブは中立国。何らかの形で、それを再び失うことがあれば、誰であろうとも許さない。ある意味での警告だった。

 

「それだけは忘れるな。プラントにいても、俺はアスハの家であることを捨てない。伯父上や母上が最期まで守り通した理念と覚悟を踏みにじる真似は誰にもさせやしない」

「……でも、それは身勝手では、ありませんか? お兄様は、オーブではなくプラントを」

「そうだ。これは、俺が勝手にすること。傲慢な手段だろう。糾弾されて当然だ。プラントからも非難される行動だろうな」

 

 シリウェルは苦笑する。非難されるのが、目の前の従妹であってもシリウェルは実行に移す。それが、オーブを押し付けてしまったせめてもの償いだ。カガリは、知らなくていい。

 

「話が逸れたな。俺が言えるのはこれくらいだ。その上で、代表を続けるのなら……考えを戒めろ。周囲はお前が考えている以上に、お前をお飾りとしかみていない」

「……は、い」

「……邪魔をしたな。カガリ、アスラン、元気でな」

「……はい。ありがとうございます、ファンヴァルト隊長」

 

 涙目になっているカガリ。抱き寄せたくなるのを耐えて、シリウェルは部屋を出た。あのような顔をさせた張本人が慰めることなど出来ない。ここは、アスランに任せるしかないだろう。

 

「シリウェル様……良いのですか? その」

「甘やかされては成長しない。……カガリは強い。経験を積めば、その意志を生かして良い為政者となる。だが、今は時間が足りなすぎる。これで、少しでも警戒してくれることを願うしかないんだ」

「えっと……何か、あるのですか?」

「何もないなら、俺が言うことはない。この話は終わりだ。だが、ミーア。君も肝に命じておけ。これから世界は動く」

「は、はいっ」

 

 




嫌いではないのですが、最初の彼女はちょっとなぁと思うところがあったので・・・ご不快に思われた方がいたならすみません。
今後に踏まえて、身内に警戒心を抱かせたかったシリウェルの兄心のつもりです。
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