ミーアと共にシリウェルは艦へと戻ってきた。
機体から降りると、そのまま私室へと向かう。ついてきたミーアに先にブリッジへ向かうように指示をし、シリウェルは一人部屋へと入った。
「……評議会へ連絡が先か……」
通信回線を開き、待機しているであろう最高評議会へと繋ぐ。被害の確認も終わった頃なはずだ。その辺りも聞いておきたい。
『シリウェル様』
「そちらの状況はどうだ?」
『はい、現在確認を終えたところでございます。死者は30名ほどで軽傷から重傷者までを含めて100人を越えていました。現在、各市の病院へ移送を開始しているところです』
「……死者が出たか」
『……申し訳ございません』
「いや、責任を被るのは俺の方だ。このタイミングにミラージュコロイド……中から知れたと考えるのが妥当だな」
軍の責任はシリウェルのもの。軍の守備に穴が合ったということだ。守備隊も責任を感じていることだろう。プラントに比べて手薄になってしまうことは、ある程度仕方ないとはいえ、正式な御披露目を前に襲撃されてしまったのだから。
シリウェルは頭を抱えた。
『シリウェル様……』
「いや、すまない。今はこれからどうするかを考えるのが先だな。建物の被害はどうだ?」
『そちらは新型MSを格納していた場所に限られていますので、然程甚大なものはありません。ただ、一つだけ申し上げますと……』
「何だ?」
『被害者の多くは、人の手によって殺害されたものになります……かなりの手練れかと』
「……そう、か」
ふと、前回の大戦時のアラスカでのことを思い出し、シリウェルは己の腹部に手を当てた。軍人ともなればコーディネーターがそう簡単に遅れを取るとは思わない。しかし、シリウェルでさえあの時は重傷を負った。多人数に対し一人だったのもあるが、それでもただのナチュラルではなかったのは確かだ。
「確認ご苦労だった……帰還次第、結果は俺から報告する」
『シリウェル様……わかりました。お願いします』
「それと、ウルスレイはミネルバに避難していた。無事を確認している」
『議長がっ!? ……それは、お手数をおかけしました』
「あれのすることだ。気にするだけ無駄だろうが……小言はそちらに任せる」
『承知しました……』
回線を切ると、シリウェルは背もたれに身体を預ける。
状況は悪い。あの母艦の所属が分かれば、抗議することも可能だ。しかし、その情報は何もない。更に悪いことに、どうやら内部に情報を流している人物がいるらしい。まるで、先の大戦でのラウの立ち回りのようだ。同じような想いを持つものがいる、ということなのか。それとも別の思惑があるのか。
「後手に回ってる……どうやら、本格的に始まりそうだな」
いつかはやってくることだと思っていたが、予想以上に早く事態は動いているようだ。
「……やるしかないか」
重く息を吐き、シリウェルは身体を起こす。PCを立ち上げ、キーボードに指を走らせた。無数のようにみえる文字の羅列が切れることなく、目の前に流れていった。
『隊長っ!』
「っ!」
突如に大きな声がシリウェルの思考を遮った。ハッと我に返る。回線はブリッジからもたらされたものだった。
「どうした?」
『緊急回線にて、ユニウスセブンに異常が生じているとの報告があります!』
「ユニウスセブンが?」
世界の情報を整理していて、そちらの報告を見落としていたことにシリウェルは思わず舌打ちした。よく見れば、その情報はシリウェルにも届いている。
「艦を向かわせろ! 直ぐにだ!」
『はっ』
急ぎPCを閉じ、シリウェルは部屋を飛び出していった。
ブリッジに入り、直ぐにレンブラントの横につく。
「状況は?」
「例のボギーワンを追っていたミネルバが近くにいたので、先行しています」
「ミネルバか……後はどうなっている? 今日の巡回なら、ジュール隊も近くにいるはずだ」
全ての隊の予定は頭に入っている。異変を察知したのなら、彼らの方が先に向かっているだろう。
「はい。イザーク・ジュールよりユニウスセブンの状況を確認する旨、報告がありました」
「……そうか。だが、どうして……」
血のバレンタインから多少の軌道変動はあったものの、全て想定内のことで軌道を大きく外れることなどはなかった。
しかし報告では、ユニウスセブンはその軌道を大きく外れ、このままでは地球の引力圏内へと向かってしまうということだった。自然に軌道を外れる。そんなことが起きうるのか。これまでの歴史において、全く起きないとは言い切れない。だが、このタイミングだ。
「……嫌な感じだな」
「隊長?」
「あまりにタイミングが良すぎる。狙ってると言われてもおかしくない」
「……確かに、それはそうかもしれませんが、一体何のために」
このままだとユニウスセブンが地球に落ちてしまう。何とかして軌道を戻し、落下を回避しなければ地球が大きな被害を受ける。それだけはさせるわけにはいかない。
ミネルバから帰還した時点でプラントへの帰路を取っていたため、距離は離れてしまっている。この時は、己の判断に文句をつけたい気分だった。