ユニウスセブンへ急いでいると、ミネルバより通信が入った。繋ぐとグラディスが映る。
『ファンヴァルト閣下』
「グラディス、どうした?」
『……本艦に搭乗しているオーブ代表の護衛である彼が協力を申し出ております。その判断を仰ぎたいのですが』
聞けば、シンを初めとするパイロットたちは出撃しているとのこと。MSが余っているなら、協力させてほしいとアスランが言ってきたという。
確かに、戦力としてはかなりのものだ。ミネルバのパイロット三人が相手になっても及ばないほどに。だが、アスランはオーブにいて、現在ザフトの所属ではない。
シリウェルは目を瞑り考える素振りを見せる。腕は鈍っているかもしれないが、それは直ぐに慣れる。
「隊長?」
「……グラディス」
『はっ』
「許可はしない。アスラン・ザラは、現段階で民間人と同等。軍人ではない相手を使うわけにはいかない」
『閣下……わかりました』
「こちらもそろそろ到着する。そこで待て」
『はっ』
プチンと画面が切れる。レンブラントが意味ありげな視線を向けていることに、シリウェルは苦笑した。
彼の名前に反応したのだろう。
「彼は、今カガリの側にいる。護衛としてな」
「……そうでしたか。なら、尚のこと戦力になるのではないですか?」
「確かに、彼の力量はこの状況において、かなりの力となる」
「隊長……」
緊急時だ。レンブラントもアスランを出撃させるべきだと考えたのだ。だが、シリウェルは首を横に振った。
「あれは、今はザフトとは関係ない立場だ。ここで彼に協力を依頼すれば、オーブとの問題となる」
「それは……確かに考えられることですが、しかし──―」
「あいつらに隙を与えるわけにはいかない。これからのためにはな」
「隊長?」
レンブラントには何のことを言っているのか理解できていないはずだ。それはそうだろう。これは、シリウェルにとって私的な問題なのだから。
「隊長、ユニウスセブンです!」
「状況は?」
ユリシアの声が届き、シリウェルは映し出された画面に視線を移す。複数のシグナルがあるが、そのほとんどがザフト軍の所有するものだった。
「……隊長、これはどういうことでしょうか」
「ユリシア」
「は、はいっジュール隊より報告があります。……その、我軍より離脱した元ザラ議長の信望者、とのことです」
信望者。その言葉にシリウェルは、拳を握りしめた。
「だから、厄介なんだ……」
「隊長?」
「……何でもない。ユニウスセブンを落とすことが目的ということだろう。ザフトの兵が関わっているというのなら、あれを落とさせる訳にはいかない」
「っはい」
「MS隊、出撃だ。俺も出る。レンブラント、後は任せた」
「はっ、隊長もお気をつけて」
見送られながら急ぎ格納庫へと向かう。これはある意味で先の大戦の後始末だ。何としても防がなければならない。万が一にでも落ちてしまえば、プラントやコーディネーターへと疑念が増すことに成りかねないのだから。
機体へと入り、シリウェルは直ぐに宙域へと出た。シグナルは全てザフト軍のもの。把握するのは容易い。
戦闘中であったMSの所属を照合し、ジュール隊のものではないことを確認。シリウェルは回線を開く。
「こんなところで何をしている」
『っ、シ、シリウェル・ファンヴァルトっ!』
「自分たちが何をしているのかわかっているのか?」
『貴様こそ、何をしているのだっ! ナチュラルを滅ぼすことこそが、正義だ! パトリック・ザラこそが正しくコーディネーターの未来を創る!』
「……話にならない」
『我らこそが正しい! ナチュラルなど、滅びてしまえばいいっ』
それが、彼らの動機なのだ。盲目なまでにパトリックに従う。己で考えることを放棄し、信望者となった末路だ。
「……俺は、互いが手を取り合う未来を信じている。それを壊すと言うのなら……」
『なっ!』
ビームソードを手に機体を一刀両断にすると、相手の機体が爆発した。かつて、味方であった相手をシリウェルは斬り捨てる。慈悲はなかった。
「残念だ……」
『ファンヴァルト閣下っ』
「イザークか……最早、説得は無理だ。テロリストを一掃する」
『……はっ。それと、報告が』
テロリストたちはユニウスセブンに装置を取り付け、軌道を変えているらしい。先ずはそれを外すのをイザークらに優先してもらう。
シリウェルは邪魔をするであろう連中を消す。久しぶりに行う戦闘。そこにどこか高揚感を得ていた。
容赦なく斬り、散っていくテロリスト。シリウェルの目の前には戦闘中のシンたちの姿があった。テロリストは、熟練したパイロットたちだ。流石のルーキーたちも苦戦を強いられているようだった。
「……時間が惜しい。仕方ないか」
本当なら彼らにも対戦経験を積ませてやりたいが、状況的に余裕はない。シリウェルはそのままビームでシンたちから視線をこちらに引き付けると、次の瞬間にはコックピットへ攻撃を命中させた。爆発するのを見届け、シンたちへ回線を開く。
「無事だな」
『シリウェルさん!?』
『シェルっ』
『え、えぇ?』
「時間がない。お前たちはジュール隊の作業をフォローしてほしい」
『は、はいっ』
それだけ告げると、シリウェルはその場を去る。まだユニウスセブンは止まっていない。このまま進めば、手遅れとなる。いや、既に地球の引力圏内に近づきつつあった。
「まずいな……イザーク」
『はっ、あと一つで終わりです』
「そう、か……引力圏内に引っかかる。MSは全員帰投させろ」
『わかりました。……その、閣下は?』
シリウェルはどうするか。この大きさのまま落ちれば、被害は甚大なものとなる。海に落ちれば、津波となり人々を飲み込む。陸地に落ちれば、周辺を巻き込んで多くのものを破壊するだろう。なら、選択肢は残されていない。
「君は、戻れ。命令だ。いいな」
『閣下っ……わかりました』
渋々といった風に了承したイザークの回線を切り、シリウェルはレンブラントへと繋いだ。
「レンブラント、MS部隊帰投。ミネルバへも通達しろ。出来るだけ、ユニウスセブンから離れるように」
『隊長っ、まさかっ!』
「後は頼む」
『たい──』
説教を聞いている時間はない。シリウェルはレイフェザーの武装を全て開放し、ユニウスセブンの破壊を試みる。これだけの大きさだ。MSの威力では、完全破壊など出来るわけがないだろう。それでも、やらなければ地球にいる人々へ被害が出る。今のシリウェルに出来ることは、少しでも被害を押さえることだけだ。
『シリウェルさんっ!』
「っ! シンっ!?」
そこへ突如声が届いた。見れば、インパルスがこちらへと向かっている。
「戻れと言ったはずだ。グラディスからの命令を聞かなかったのか?」
『それは、聞きました。けど……けど、シリウェルさんが戻らないって聞いて……』
「シン。お前がしていることは軍規違反だ。わかっているのか?」
眉を寄せて画面に映し出されたシンを見据える。語気はいつも通りではあるが、怒っていることは伝わっているだろう。
『でも……それでも、俺は』
「シン、もう一度言う。戻れ」
『っ……俺は、戻れません。ここで、シリウェルさんを置いていけばきっと後悔する。アーシェも、俺も……もう、誰かを守れずに後悔するのは嫌なんです』
「シン」
『だから……俺もやります! そのために、俺は志願したんですっ』
破壊作業をするシン。既にMSも地球の引力圏内に入っている。これでは戻ることは既に難しい。シリウェルはため息をついた。
「……仕方ない。圏内突入フェーズのことはわかっているな?」
『は、はい』
「ならいい……俺が合図したら書き換えには入れ」
シンは第2世代コーディネーターだ。シリウェルよりも耐性は強い。もしもの事態には陥らないはずだ。
それよりも、ユニウスセブンの破壊をしなければならない。一機増えたことで作業は効率を増す。
細かく砕かれた破片が、地球へと降下していくのを見ながら、シリウェルは限界を感じた。
「これまで、か……シン、準備しろ」
『はい、大丈夫です』
「そうか……巻き込んですまないな」
『シリウェルさん……』
そのままユニウスセブンと共に、機体は大気圏へと落ちていくのだった。