もう見ていない人もいるかもですが、続きです!
これからも不定期更新でやっていきます。ごめんなさい・・・
降下していく中で、破片が広がりながら落ちて行くのを見て、シリウェルは眉を寄せ拳を握りしめた。
元の大きさからすれば小さな破片。しかし、ひとたびそれが地上へ落ちれば人の営みを破壊する恐怖の破片となる。どれだけの破片が落ちて行くのかわからないが、少ないくない被害が出ることは予想するに難くない。
「……すまない」
これが世界へどういう変化をもたらすのか。決して良い方向性にはならないことはわかっている。しかし、それ以上に父の墓標でもあった場所が壊されたことに、シリウェルはやりきれない想いを抱いていた。
『──ょう、隊長!』
「……レンブラントか?」
『ご無事ですか、隊長?』
「あぁ、座標は……そこか。そのまま降下だ。俺が合流する」
『……はっ』
母艦は直ぐに確認できた。距離的に、シリウェルが動いた方が速い。その前にと、シリウェルは回線を開く。
「シン、無事か?」
『は、はい!』
「わかった。今回は命令違反だ。説教の一つや二つは覚悟するんだな」
『は、い……』
「だが……助かった。礼を言うよ、シン」
『シリウェルさん……はいっ!』
落ち込んでいた表情がぱぁっと明るくなった。それを見て苦笑すると、シリウェルは回線を切る。
「それでも……犠牲は出る。被害者からすれば、コーディネーターを非難したくもなるだろうな」
破片は小さくした。手は尽くした。しかし、今も降り注ぐ破片の落下により、被害を受けた者たちにとっては意味のない言葉だ。言い訳と言ってもいい。結果が全てなのだ。その過程に意味などないことは、シリウェルも良くわかっていた。
ミネルバの姿は見えないが、シンを見失うことはないだろう。単純な性能だけでいえば、カーリアンスよりも上なのだから。後程ミネルバとは状況確認をしなければならないが、まずは現状把握が最優先だ。
母艦に戻れば、格納庫でユリシアが待っていた。
「シリウェル様っ!」
足早に駆け寄ってくるユリシアをシリウェルは苦笑しながら、抱きとめる。ここが格納庫で、他にも人はいる。シリウェルを出迎えるためにだ。いつものユリシアならば人目を気にして真っ赤にする場面ではあるが、それを気にする暇もないほど不安にさせた、ということなのだろう。
「心配かけたな……すまない」
「本当に心配しました。ユニウスセブンがばらばらになって……シリウェル様がいなくなったらと」
シリウェルの軍服をぎゅっと握りしめるユリシア。いつもと違う様子に、シリウェルは戸惑う。シリウェルが出撃することなどいつものことだ。更に言うならば、前回の戦争の時はもっと無茶をした自覚もある。それに比べれば大したことではないのだが。
「ユリシア、あとで話そう。今は、状況を優先したい」
「あ……申し訳ありません」
己が取り乱していたことを悟ったのか、スッと手を離したユリシアは顔を真っ赤に染めて俯く。シリウェルも不安にさせた自覚はある。落ち着いたらユリシアと話すと決め、急ぎ格納庫を出て行った。
一方、残されたユリシアは自分がしでかしたことを漸く認識し、羞恥心で一杯になっていた。そこへ、整備士の女性が一人近づく。
「ユリシア、大丈夫?」
「……大丈夫、じゃないかも」
「貴女らしくもない……隊長が戦場に行くことなんて今までも何度もあったでしょ? ユニウスセブンのはちょっとびっくりしたけど隊長の腕なら心配いらないってわかってたのに、どうしたの?」
トントンと肩を優しく叩きながら近づいてくる彼女は、ユリシアとアカデミーで同期だったテレッサ・バーンだ。母艦がヘルメスだった前回の戦争の時も整備士としてファンヴァルト隊に配属していた。シリウェルともユリシアとも付き合いは短くない。
「わからない……けど、すごく不安になって……」
「そう」
「……少し頭冷やしてくる。シリウェル様に迷惑を掛けちゃったから」
「隊長はその程度気にしないんじゃない? まぁ、今はユリシアに構っている状況ではないだろうけど」
「うん……」
シリウェルの立場上、真っ先にすることは状況の確認だ。それを一時とはいえ、足止めしてしまった。そのことを思うと、ユリシアは自己嫌悪に陥ってしまう。ユリシア自身どうしてあのような行動をしたのかわからないのだ。ただ、いつになく不安で堪らなかった。それを抑えきれずに、シリウェルの姿を見て駆けだしてしまっただけで。
「あとで謝りにいってくる」
「うんうん、そうしなさい」
テレッサとユリシアがそんな話をしている間、その対象であるシリウェルはブリッジにて険しい表情で報告を聞いていた。
「最悪だな……」
「えぇ」
ユニウスセブン落下。その影響、損害は直ぐに判明することではない。だが、既に世界では落下の映像が流されていた。更に加えれば、コーディネーターのテロリストによるものだという説明をしているところもある。あの場には、ボギーワンもいた。大西洋連邦へ情報が流れてもおかしくはない。だが、情報が流れるのが早すぎる。
「こちらが何か手を打つ前に、ということか。そしておそらくは、中立を保っている各国へ圧力をかけるつもりだろう」
「……なるほど、地球圏の勢力を大西洋連邦へということですか」
地球へのテロを起こしたコーディネーターを悪とし、プラントへの不信感を煽る。今回、プラントへ襲撃したことも有耶無耶にするつもりだ。ユニウスセブン条約を無視した武装についても同様に。
「隊長……どう、されますか?」
「……」
ここで一番に考えなければならないのは、プラント。だが、シリウェルの脳裏にはオーブが浮かんでしまう。今のカガリに、この状況を御しきることができるだろうか。答えは否だ。その意志が強くとも、彼らブルーコスモス側の首長たちを論破するだけのものがカガリにはない。ならばその先に待つものは……。
シリウェルは、強く拳を握りしめる。一時とはいえ、オーブの理念が崩される瞬間を見なければならない。唇をかみしめ、そっと目を閉じた。
(……すまない、皆……)
オーブにいるシリウェルを慕ってくれている者たちへ、心の中で詫びる。だが、今の情勢ではオーブを見捨てる選択をしなくてはならない。それが、シリウェルの立場でもある。何よりも、これ以上状況をひどくさせないために。
「隊長?」
「……カーペンタリアへ向かう。その後、本国へ帰還だ」
「はっ」
レンブラントへ指示を出すとシリウェルはブリッジを後にするのだった。