ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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アスラン視点です。

次回は主人公視点へと戻ります。


第78話 暗雲込める空へ

 

 アスランは慎重な面持ちで目の前の白亜の艦、アークエンジェルを見据えていた。キラは覚悟を決めたという。オーブから去り、独自に行動すること。そしてカガリを連れ出すことを。

 出航の準備が進められる様子を見ながら、アスランは己がどう行動すべきか迷っていた。

 

「アスラン」

「キラ」

 

 そんなアスランの下へキラがやってくる。その身は既にオーブ軍の軍服を纏っていた。キラは軍人ではない。けれどアークエンジェルに乗るに当たって彼らは軍服を纏うことを決めた。オーブ軍は階級制度を用いている。どの階級の服にするかというところで、彼らは以前来ていた地球軍の階級に沿ることを決めたらしい。キラは士官クラスのものを着ていた。対するアスランは私服のままだ。

 

「……」

「……」

 

 キラは何も言わない。だが恐らくわかっている。アスランが迷いの中にいることを。何に迷っているのかということを。暫く二人でアークエンジェルを見つめていると、先に口を開いたのはキラだった。

 

「決めるのは君だよ、アスラン」

「……わかっている」

 

 オーブにはいられない。それはアスランにもわかっている。だが、このままキラたちと共に行くのが正しいのかもわからなかった。今のアスランに出来ることは何か。もっと他に出来ることがあるのではないだろうか。アスランは拳を握りしめる。

 

「俺は……ファンヴァルト隊長のところにいく」

「……」

「ウルスレイ議長に疑念はある。そのようなことをする人物には見えなかった。だが……もしそれが確かなら、危ないのはファンヴァルト隊長だと思う」

「アスラン……」

 

 ザフト軍の最高指揮官。その地位にいる彼が脅かされることなんてない。アスランとてわかっている。わかっているが、此度の件でシリウェルにも何か起きているのではという懸念が浮かんだ。ファンヴァルト隊は存在しているし、彼にはかなりの崇拝者がいる。ザフト軍にも、プラント国民にも。彼が害されることはない、自分たちよりもよほど信頼を得ている彼なのだから。

 

「ラクスはファンヴァルト隊長にとって特別だ。もしラクスが消されても、伝えられるのは戦後かもっと後になっただろう。あの人のことだから、ラクスのことを案じて連絡を取ることなどしないだろうし、気づく機会は多くないだろうから」

「そうかもしれないね」

「気づいた時には既に遅い。きっとファンヴァルト隊長は自分を責めるだろう。そしてもっと自分を追い込む。ラクスの分まで、と」

 

 責任感が強い人だから、そうなることは容易に想像出来た。己が持つ言葉と行動がどれほどの影響力を持つかを理解している彼。二度とその様な真似はさせないと、プラントの最高責任者の地位に付くだろう。その先もきっとプラントと世界の為に身を注ぐかもしれない。

 

「……ファンヴァルト隊長が父のようになるとは思わない。だが、彼がそうなることを望むものがいる、気がする」

「それがウルスレイ議長」

「あぁ……恐らくは」

 

 そのためにシリウェルが理性を保つために存在している者たちを排除しようとしている。いや、違う。ウルスレイ議長が描くシリウェルの在り方を作るために、彼女が選定していると言った方がいいかもしれない。

 

「考えすぎならばそれが一番だが、ラクスを排除する理由がそれ以外に思いつかないんだ」

 

 平和を願う歌姫。今も尚、ラクスの影響力は健在だ。ラクスはプラントを、世界の平和を願っている。だからこそ先の大戦では行動を起こした。それを知っているならば、放って置いたところで問題はないと分かっているはず。それでもラクスを排除したいと願うならば、理由として考えられるのは限られてくる。アスランが導き出したのはその一つに過ぎない。それだけでも十分に不穏だが。

 

「そう」

「何が起きているのかを知るためにも情報は必要だ。だから俺はプラントに、ザフトに行ってくる」

「……わかった」

「だから……カガリのことを、宜しく頼む」

 

 プラントに向かうことをカガリに告げてはいない。アスランとて、ここ数日はカガリに会えていなかった。気が付けばカガリはセイラン家に行ってしまい、コンタクトを取ることさえできなくなっていたのだ。アスランが迷っていたのはそこにも理由があった。何も言わずにカガリの元を去ってしまう。それだけが心残りで。

 

「わかった。カガリは必ず僕が奪ってくるから」

「奪う、か」

「うん。強奪、するからね」

「……国家元首を強奪とは、国際指名されても不思議じゃないな」

 

 これからキラたちが行うことは、犯罪と受け取られる行為だ。それでもキラは実行する。それによって自分らが追われたとしても、カガリを、オーブの理念を本当の意味で奪われないために。

 

「承知の上だから。全てが同じ色に染まる。それを望まれたとしても、命じられるまま討つのは間違っている。オーブは強い力を持つ国だ。だからこそ、染まってはいけない。立場や所属する場所で決められるのは絶対に違うんだ」

「あぁ」

 

 オーブは強い。キラの言葉にアスランは頷く。武力が、ではない。その意志と理念がだ。人々が共に生きていけると、理解し合えることをその身をもって示してきた国。ここで陣営を定めてしまえば、それを失ってしまえば、世界は再び二分される。そうしないために、キラたちは動く。どれだけ異質だとしても。どちらからも賽を投げられたとしても。

 

「ファンヴァルトさんの存在はそれを体現している存在。だから彼が身動きできない状況は好ましくない。ザフトにおいてもさ……ラクスもきっと心配している。今回のことを知れば、きっとカガリも」

「そうだな」

 

 二人とも兄と呼んで慕っている。やはり動けるのはアスランだけだ。少しでもこの状況を打開するために、希望を見出すために。

 

「キラ」

「うん」

 

 堅い握手を交わしてから、アスランはアークエンジェルの元を去った。行き先はアスハ邸だ。サクヤという女性には事前に話をしてある。プラントへ向かうシャトルを用意して待っているらしい。

 アスハ邸の専用シャトル。発着場に向かえば、それは準備されていた。

 

「アスラン様」

「ありがとうございます、サクヤさん」

「いえ……ですがどうかお気をつけて。若君もプラントに向かっているはずですので、アスラン様が向かうことは知らせておきました。知らせを聞くのはプラント到着後でしょうが」

「わかりました」

 

 不安がないわけではないが、彼にまず会わなければならない。ラクスの件、カガリの件。話すことは沢山ある。

 

「……」

「サクヤさん?」

「若君を、どうかよろしくお願いします。何があろうとも、我々アスハの者は若君の意志に従うと、お伝えくださいませ」

「……必ずお伝えします」

 

 他にも何か言いたげだったが、時間はそれほど用意されていない。オーブが完全に大西洋連邦の同盟国となる前にここを出なければならないからだ。これがプラントへ向かう事の出来る最後の機会。

 アスランはシャトルへ乗り込むと、ハンドルを掴みプラントへ向けてシャトルを発進させるのだった。

 

 

 

 

 

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