ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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足早に書き殴りました。
これから動き出します。
原作とは同じなようで違う動き方をするのでご了承ください。。


第79話 その先は……

 

 予想通り、大西洋連邦が動き出していた。想定内とはいえ、少なからず人々への影響はある。ユニウスセブンがザフト軍の仕業であり、地球の人々からすれば敵だと伝えているのだ。それを信じるものは、ザフト軍すなわちコーディネーターへ憎悪を向けるだろう。

 ユニウスセブンの破壊工作をしたのは確かにかつてザフト軍だった者。完全に否定することが出来ない以上、疑惑の目はザフトへと向けられる。ここまで来ると、逆に乗せられている気分にもなってくるが。

 

「まさか、な……」

「隊長、そろそろプラントです」

「あぁ」

 

 広大に広がる宇宙。それに比べればシリウェルなどちっぽけな存在なのだろう。たった一人が出来ることなどたかが知れている。だから仕方ないのだと納得するしか、させるしかない。それがどのようなことであっても。

 シリウェルが座る指揮官席に備え付けられたPC。それを起動し情報を確認する。オーブの現状を知るために、情報を検索する。そこに書かれていた内容は、シリウェルの予想通りにものだった。

 オーブ連合首長国は、大西洋連邦との同盟を締結する。友好国だったプラントと敵対する意志を示したということだ。すなわちザフト軍と、シリウェルとも。

 

「ん?」

 

 眺めていると、秘匿回線からメッセージが届いていることが確認できた。このような手段を取って連絡をしてくる人間は限られている。内容を開けば、さすがのシリウェルも絶句した。

 大西洋連邦との同盟締結については既に確認した。その中でオーブ国内でも動きが出ているというもの。一つはカガリとセイラン家の縁談。つまりユウナ・ロマとカガリの結婚ということだ。カガリ自身も受け入れたとあるが、本心ではないだろう。やはりあの状況の中で意志を貫けるほど、カガリは強くなかった。まだ十八歳の少女であり政界に身を置いて一二年程度では致し方ない。

 

「……」

 

 今すぐに出向いて助けてやりたい。ただ一言、アスハ家の年長者として認めないと告げるだけでも止めることは出来る。だが、それはどうしてもできなかった。この状況で、コーディネーターが、ユニウスセブンを落下させた原因であるザフトの人間が、そこに介入するわけにはいかない。世界情勢を鑑みても、どちらを優先すべきかなど明らかだ。

 

「カガリ……だがそれでもお前は国家元首なんだ」

 

 身内だけであれば許されることだが、事はそう簡単ではない。カガリはたとえお飾りであっても国家元首という立場。その決断はオーブという国を巻き込む。間違った決断をすれば、国をも巻き込むことになる。たった一言で、国民すべてを巻き添えに。

 シリウェルは目を瞑り、拳を握りしめた。まだ大丈夫だ。取り返しのつかないところまでは来ていない。なりふり構わず力を奮う時ではないのだと。己に言い聞かせる。どれだけ取り繕っても、シリウェルの心の中はオーブのことでいっぱいだった。

 

「ヤキンに入ります」

「……」

「隊長?」

「あ、あぁ。わかった……」

 

 どれだけ考えてもシリウェルが取るべき行動は、オーブの為ではないことだけは確かだ。今は、地球の被害を最小限にし、支援のために軍を動かす。カーペンタリアにはウルスレイが残ったままだ。何かあれば、そちらから連絡がくるだろう。シリウェルはプラントで為すべきことをしなければならないのだから。

 

 

 ヤキン・ドゥーエを抜けて港へと入る。向かう先は、国防本部だ。

 

「閣下、お帰りなさいませ」

「長々と留守にしてすまなかった、マリク」

「いいえ、状況が状況ですから致し方ありません」

「そうだな」

 

 プラントへ帰還した翌日。留守の間の報告を聞きながら、シリウェルは映されたディスプレイへと視線を滑らせる。ザフトへの批判を続けているのは、やはり大西洋連邦だ。いずれどこかでぶつかり合う可能性は十分にある。懸念すべきは、そこにオーブが出て来るかどうか。オーブ軍の将校らは、シリウェルにとっても切り捨てきれない存在。それが許されることではないことはわかっていても。

 状況を確認しつつ指示を出しているところへ、慌てた様子でミーアが中へと入ってきた。今の時間は、別のことを任せていたはずだ。

 

「閣下、急ぎ報告があります」

「ミーア?」

「これを」

 

 その様子を怪訝そうに見返しつつ、渡された端末を受け取る。そこにはミーアが書いたであろうメッセージが記されていた。

 

「……これ、いつだ?」

「つい先ほど」

 

 口頭でも伝えられる内容だが、それをあえて口に出さない方法で伝えてきたのは、そこに秘匿性があるからだ。確かにこれは安易に口に出せる内容ではない。

 

「彼はどこに?」

「カーリアンスに」

「わかった。直ぐに向かう」

「はい」

 

 シリウェルは直ぐにカーリアンスへと向かった。

 

 

 

 明日には巡回へと向かう予定だったカーリアンスはその準備中であり、内部には少なからず人がいる。今回の巡回にシリウェルは同行しない予定だ。L4近くまで宙域を航行する程度なので、それほど時間もかからない。隊を預かる立場ではあるが、国防委員長としての役割の方が重要だ。その上での決定である。

 

「隊長、お待ちしておりました」

「レンブラント、彼は?」

「はい、ご案内します」

 

 シリウェルを出迎えたのはレンブラント。彼の立場上、複雑なので艦長であるレンブラントが担ったということだろう。

 案内されたのは、客室として用意された一室。中へ入ると、随分と久しぶりに見る顔があった。

 

「アスラン・ザラ」

「ご無沙汰をしております、ファンヴァルト隊長」

 

 アスランはオーブから極秘にプラントへ来た。その伝手は、アスハ家に仕えるサクヤからのもの。オーブ本国からの正式な入港ではないということだ。それだけ身を隠してまでこちらへ来る事情があったととらえるのが普通かもしれない。

 

「君がどうしてここに来た? しかも一人で」

「俺以外、自由に動ける人間がいませんでしたから」

「どういう意味だ?」

 

 自由に動くという意味であれば、最も警戒されない人物であるラクスが一番適任者だろう。シリウェルとも知己であり、プラントの平和の歌姫だ。むしろアスランの方が警戒される。前大戦で凶行に走ったパトリックの息子なのだから。

 

「やはりファンヴァルト隊長はご存知ではないのですね」

「カガリのことならば把握している」

「いえ、それではありません」

「……何か、あったのか?」

 

 アスランが気にするとすればカガリのこと。そう考えたのだが、アスランの表情は優れない。だが別の懸念というのが、シリウェルには想像つかなかった。

 

「オーブが大西洋連邦と同盟を締結する直前のことです。ラクスが、何者かに襲撃されました」

「は? ラクスが?」

「最終的にMSを用いたらしいのですが、その機体はアッシュというものだったらしくて」

「な、んだと……⁉」

 

 アッシュ。当然だが、シリウェルも知っている機体だ。まだロールアウトして日が浅い機体であり、それほど多くの数は出回っていない。それがラクスを襲ったという。それもオーブが混乱しているこのタイミングで。

 

「隊長……」

「……情報を整理したい。同盟締結前、といったな?」

「はい。襲撃された翌日に彼女と会いましたが、屋敷は破壊されていて、ラクスたちは無事でしたが……」

「……」

 

 無事だったのは朗報だ。しかし、アッシュが使われたのならばそのパイロットはコーディネーターということになる。まだ正規軍にしかないと考えていい。シリウェルは地球へ降下させた覚えがない。まだ配備する部隊も構成中であり、ヤキン・ドゥーエ近郊でしか稼働していないMSだ。

 思いも寄らない情報にシリウェルは頭を抑えた。何かが起きている。それを知らせにアスランは来たのだろう。思い起こされるのは、前大戦でのラウの動きだった。

 ラウは大西洋連邦にも情報を流し、同じようにザフトにも内容を渡して戦場を広げた。その為に、大西洋連邦のブルーコスモス盟主であるアズラエルを利用していたことはわかっている。同じような相手が大西洋連邦にもいるということか。いやそれ以上に気になるのは……。

 

「プラントに、別の目的をもって暗躍している人物がいる、ということか……」

 

 つまりはそういうことだ。その目的が何かはわからないが、少なくともその狙いがラクスだったことからシリウェルも無関係ではいられない。

 

「まさか、そんなことが……?」

「ここプラントにおいて、そんな風に立ち回れる人物となると限られてくる。ましてや、MSさえ用意出来るともなれば上層部に絞られるだろうな。第一候補は俺だろうが、その次ともなれば……」

 

 とある人物を思い浮かべてシリウェルはアスランを見た。彼はその眼差しを受けて頷く。

 

「俺たちもそう思ったからこそ、ここに来ました。それが事実だった場合、最も危険なのはファンヴァルト隊長ですから」

「……だがそれではアスラン、君は」

「何も出来ずに、ただ見ていることはもう出来ません。俺にも出来ることがある。貴方を守ることは、きっとカガリも望んでいることだと思いますから」

「カガリは、オーブの鳥かごの中だろう?」

「カガリのことはキラに任せました。このまま、あの場所に置いていくことは出来ないからと」

 

 つまりそれは、あの場所からカガリを連れ出すということだろうか。既に結婚式は決められており、カガリにそれを覆す力はない。あるとすれば、強引に奪う事くらいだが。

 

「おい、まさか――」

「えぇ、そのまさかです」

「……国家反逆罪になるぞ」

「それでも、カガリはオーブに残された意志。今は弱くとも、彼女までも奪われてしまえば本当の意味でオーブは大西洋連邦に屈することになります。そうすれば、世界は再び二分される」

「……そこまであいつを信頼しているのか? あいつの弱さが今のオーブを招いた。それは知っているはずだ」

 

 年齢も経験のなさも理由にはならない。アスランはカガリよりもわかっていた。カガリの置かれた状況も、オーブの実態も。それでもなお、カガリを信じているというのか。

 

「信じています。彼女ならば必ず」

「……たとえカガリがいなくとも、国としての方向性は変わらない。既に締結されたものを亡くすこともできない。結果として、不用意な混乱を招くだけになるかもしれない」

「承知の上です。俺も、キラも。そしてラクスも」

 

 世界から非難の目で見られることも全て覚悟の上だというアスランは、ミネルバで顔を合わせた時よりも芯が通った顔つきになっていた。そこまでの覚悟を持っていると。

 

「……」

「……」

「わかった。お前の覚悟、いやお前たちの覚悟、俺が確かに受け取った」

「隊長、しかしそれでは我々は――」

「あいつが黒幕だとすれば厄介以外の何者でもない。その為にはこちらも欺く必要がある。何より、ラクスに手を出したことは許せることじゃない」

 

 握った拳に力が入る。シリウェルにとって幼少期から知っている妹であり幼馴染。家族も同然だ。その彼女に手を出そうなどと、どれだけシリウェルを信望していようとも許せるものじゃなかった。

 

「アスラン」

「はっ」

「お前に国防本部直属特務隊所属の地位を与える。かつてお前が持っていたものと同じだ」

「え……」

 

 アスラン・ザラは元々特務隊所属。その功績も実力も申し分ない。シリウェルの言葉にアスランは目を瞬かせた。

 

「俺の直属だ。俺以外の指示には従うな。それが最高評議会であっても、その議長であってもだ」

「……ありがとうございます。ファンヴァルト隊長」

「レンブラント」

「はっ」

「アスランに例の機体を渡せ。あと、俺がいない場合はアスランがMS部隊の指揮を取れるように連絡を」

「承知しました」 

 

 これは保険だ。万が一、シリウェルが動けないような時があった場合のための。アスランの実力ならば問題ないだろう。

 

「あとは、何とかアークエンジェルと連絡を取ってラクスをこちらに寄越すように伝えろ」

「隊長それは⁉」

「こっちにはミーアがいる。その代わりにラクスを堂々と連れ歩けばいい。ミーアはカーリアンスに乗せておけばいいだろう?」

「あの、隊長それはまた……」

「異論は認めない。直ぐに動け。アスランは俺に付いて来い」

「はっ」

 

 指示を飛ばすだけ飛ばして、シリウェルはアスランを伴ってカーリアンスを後にした。

 

 

 


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