こっちも年に一度になってますね……
アスラン視点になります。
ファンヴァルト隊母艦カーリアンス。アスランがレンブラントへシリウェルからの指令を伝えると、彼は怒りをにじませながらも今回の任務を了承してくれた。レンブラントが不満なのはアスランとて理解できる。アスランがプラントへ来た理由を彼も知っているのだから。もちろんアスランも気は進まない。シリウェルの傍にいるために来たのに、シリウェルの傍を離れるだけでなくミーアまで連れて地球へ降りろというのだから。
「アスラン」
「艦長?」
「君の腕は我々も理解している。MS部隊の指揮については君に一任する」
「はい」
シリウェルがいない場合、アスランがMS部隊の指揮をする。前もって告げられていたのでアスランも断るつもりはない。ただ、出戻ったばかりの自分がいいのかという部分はあるけれども。
「そろそろ地球へ降下する」
「わかりました」
地球の引力圏内に入った。アスランは席に座ることなく、ただその様子をブリッジで見届ける。その中にあって、CICに座る女性の一人が目に入った。どこか具合が悪そうにも見える様子に、その席へと浮遊する。その女性は癖のある緑色の髪をしていた。
「あの、大丈夫ですか?」
「っ⁉ あ、はい……すみません、アスランさん」
「貴女はニコルの……」
顔を上げたその女性には見覚えがある。オーブで対面したニコルの姉。そしてシリウェルの婚約者だ。軍に在籍していることは知っていたが、まさかCICとしてまだ乗っているとは思わなかった。
「気分でも悪いんですか? あまり顔色も優れないようですし」
「……ありがとうございます。大丈夫、ですから」
「でも……」
大丈夫には見えない。アスランはちらりと艦長席へと視線を向け、レンブラントに判断を委ねる。降下シークエンスに入っている状況だ。この艦のCICは二人。一人抜けてもフォローは可能だった。
「アマルフィ、君は一旦医務室に行け。閣下が不在の上に、君にまで何かあれば申し開きもできない」
「艦長……わかりました」
「アスラン、悪いが彼女を医務室まで連れて行ってもらえるか?」
「はい」
ユリシアの手を引く形でアスランは先導した。されるがままになっているユリシアの様子から、決して放置していい状態ではないとアスランは判断した。すぐに医務室へ連れていき、ベッドに横たわらせる。ここの主である医師はどこか呆れたように溜息を吐いていた。
「先生、ごめんなさい」
「……無理は禁物だと言ったはずです」
診察をする前から二人の間で会話が成立している。もしや、ユリシアの状況を医師は知っていたのだろうか。
「閣下には?」
「いえ……お忙しくてまだきちんと話はできなくて」
「そうですか」
「あの……彼女は大丈夫なのですか?」
腑に落ちない会話が繰り返されることに、アスランが口を挟む。すると、医師は困ったようにユリシアへと視線を向けた。
「構いません。彼は、弟の戦友だった人ですし、シリウェル様も信頼している人ですから」
「そうですか……他言は無用なことなのです。まだ閣下にさえ報告できていませんので」
「ファンヴァルト隊長に関わることなのですか?」
「はい。彼女の身体は、今は一人だけのものではないのです」
それだけでアスランは察し、驚く。ユリシアがどういう状況なのかを。ニコルと同じ、ユリシアは第二世代コーディネーターだ。自然にそういうことが起きるとは考えにくい。だが、シリウェルはハーフコーディネーターである。第一世代と大きな差はないらしい。だからこそそういうことがあり得るのだと。
「……このこと、他に誰が知っていますか?」
「私と艦長だけです。閣下に知らせる前に、あちこちに触れ回ることはできませんから」
「絶対に知らせないでください」
「アスランさん?」
これは絶対に知られてはならないことだ。特に最高評議会議長の耳になど入れば、ユリシアも狙われてしまう。想像したくもないが、人質として扱われる可能性とてある。誰が信頼できるのかわからない以上、知っている人間を不用意に増やすことはできない。
「今はこれしか言えません。ですがファンヴァルト隊長のためにも、これ以上広めないようにお願いします。それがどれだけ親しい間柄であっても」
「……わかりました」
「私も承知しました」
理由はわからずともアスランから鬼気迫るものを感じたのか、ユリシアも医師も口を閉ざすことを約束してくれた。折を見て、シリウェルには伝える必要はあるだろう。だがそれを第三者に知られることのないようにしなければならない。そのためにも、アスランは一刻も早くアークエンジェルに接触する必要があった。ミネルバにも悟られないように。
地球へ降下したカーリアンスは、カーペンタリア基地へと到着する。レンブラントは表向きの任務として情報収集へ。そしてアスランはミーアを伴いつつ、カーペンタリアの基地内にあるショッピングモールを訪れていた。
「あの、アスランさんここで何を?」
「伝手を使って知り合いに会う算段を付けました。今はそれ以上の連絡手段を使うわけにはいかないので」
その相手、ミリアリアがいることを見つけたアスランはミーアに別の用事を頼み、一人となった。誰かに後をつけられた形跡はない。だがミーアは良くも悪くも目立つ。シリウェルの補佐をしていると言う点から見ても、その明るい髪色からも。万が一、誰かに見られていたとしても不自然にならないようにとアスランはカフェへと入った。そこで端末を操作していると、タイミングを見計らってミリアリアが近づいてくる。何も言わずに、後ろの席に座った。
アスランは顔を上げることなく、ただ端末を操作している。反対にミリアリアは店員を呼びつけて色々と注文をし、それが終わると首から下げていたカメラを下ろして作業をしているかのように見せていた。
「連絡は取れたわ。一応、移動する算段もつけた」
「助かる」
「彼女だけでいいのよね?」
「あぁ」
アークエンジェルがどこにいるのかは知らなくていい。ただラクスを迎えに来た。それを終えた後、ミネルバが寄港する予定だというマルマラ港へと向かう。そこで機体をミネルバへと渡せば今回の指令は終了だ。
「状況は?」
「俺たちの考えていた通りだった。ほぼ彼女が黒と見て間違いない」
「彼は大丈夫なの? 貴方がここにいるってことは」
「……そう願うしかない」
「貴方ねぇ」
その彼を守るために行ったではないのか。そういう非難の意が込められているのはわかっていた。そのようなことわかっている。だが今回はラクスを迎えに行くことが最優先だった。議長に知られずに、その居場所を把握される前に保護する。その上で、ラクスにも動いてもらうつもりだろう。傍を離れたことも意味があることだ。
「任務が終われば戻る。あの人だって、そんな簡単に策にハマったりはしない」
「それはそうでしょうけど……それにしても身内に敵がいるなんてこと、わかっていてもかなりのストレスよ。疑心暗鬼にならざるを得ない。信頼している艦を引き離したってことは、それも意味があるのでしょうけど」
「……艦長たちに知られないようにか、知られたくない何かをしようとしている。そう取ることもできるな」
軍人であってもシリウェルは政務にも通じている。ユニウスセブン落下の影響が大きく、自由に動けてはいないものの、それでも放置はしないはずだ。問題は議長の方である。彼女は未だ地球にいる。ディオキアに移動したという話は聞いていた。その後どう動くのか。カーペンタリアに寄港しているカーリアンスに顔を出さないとは言い切れない。
アスランはザフト軍に復隊するという手続きを取った。正式に軍属として動いている。議長に会ったとしても、見とがめれらることはないだろう。オーブが大西洋連邦に組したということで、ザフトに戻ってきた。カガリが世話になっていたから、その繋がりもあってシリウェルの傍に来たという体になっている。最高評議会直属ではなく、国防本部直属だ。いくら議長であってもアスランに指図はできない。
「まぁそっちの状況が芳しくないってことはわかった。あと何か伝えることはある?」
「ない」
「そう、わかったわ。あとカガリさんから……十分に気を付けてくれって」
誰に対しての言葉かなど確認するまでもない。アスランにも、そしてシリウェルにも向けられているのだろう。カガリは無事にアークエンジェルに保護された。オーブは代表首長が不在となり、ますますセイラン家らのいいようにされてしまうだろう。どれだけ悔しさを感じていることか。会うまでもなくわかる。それでも今は耐える時だ。
「伝えておく」
そうして背中合わせの会話を終えたところで、ちょうどアスランはコーヒーを飲み終えた。長居は無用だ。ミリアリアの方を一度も振り向くことなく、アスランはミーアとの待ち合わせ場所へと向かうのだった。