シン視点になります。
これ、本編でも色々と思うところがあったのでそれを基に捏造してみました。
一方その頃――
大西洋連邦との意図しない戦闘を終えたシンたちは、補給のためマルマラ港に寄港していた。ミネルバにおいてシンはレイと同室だ。だが今はそこにはシン一人しかいなかった。一人にしてくれとシンが頼んだからだ。
「っ……俺は」
先の戦闘では、ディオキアで合流した先輩軍人一人が戦死した。大西洋連邦との戦いになぜかアークエンジェルという戦艦が乱入し、ザフトも大西洋連邦も、どちらに味方することもなく戦場をかき乱したのだ。くわえて、そこにはオーブにいるはずのカガリまでもが出てきたことで、更に戦場は困惑した。
大西洋連邦に組することをきめたオーブ。その決断をしたはずの代表首長がなぜその動きを止めるのか。全く意図がわからない。その介入がなければ、ハイネだって死なずに済んだはずだ。戦場を混乱させられ、集中力を欠かされたことで背後から討たれた。あれがなければ、背後を取られることもなかったはずなのに。
『それは言い訳に過ぎない』
『けどレイっ!』
『不覚を取ったとしても、戦場では一つの油断、怠慢が命取りになる。あのシェルでさえ、先の大戦では重傷を負った』
それとて今でも状況はわかっていないという。複数の集団に襲われたということしかわかっていない。それをただ相手が悪かったと責めるのは簡単だ。だが、戦争とはいつだって正々堂々と行われるばかりではない。あらゆる場面において、その状況にあった判断をしなければならないのだ。それができるとしてハイネはフェイスの称号を与えられていた。そのハイネが討たれたのは、あの時にそれができなかっただけだと。
『あれらが現れようと現れまいと、そんなことはどうだっていい。結果として、ハイネは背後を取られ討たれた。それが全てだ』
『でも……でもっ』
『シェルならばそう言うはずだ。誰かを責めて終わるならばそれでいい。だが……それができないのが戦争というものなのだからな』
レイのその言葉にシンは何も言えなくなった。それが戦争。わかっていたはずだった。シリウェルからも何度も言われた。だが、本当の意味でシンはわかっていなかったのかもしれない。目の前で誰かを失うということが、憎しみに繋がるその理由を。
今だってシンの中に燻っている思い。あの時、彼らが現れなければというもしも。それを考えること自体が間違っている。だって、
『シリウェルさんは、思うことはないんですか?』
『思う? 何を?』
『相手が憎いっとか。仇を取ってやるとか……』
アカデミーに入学してしばらくしたシンが、たまたま会ったシリウェルに問いかけたものだ。シリウェルはあの時の戦争で両親を亡くしている。父親は血のバレンタインで、母親をオーブでの戦闘で。どちらも撃ってきたのは大西洋連邦だ。それを討とうとは思わないのかと。そんなシンの問いかけに、シリウェルは首を横に振った。つまりは否だということだ。
『何故ですか?』
『……そうだな。そんなことをしても意味はないから、だな』
『意味はない?』
『俺も戦争を行っている側だ。俺を殺したいと思っている連中も沢山いる。それは俺も同じだからだ』
『同じ……』
銃を取り誰かを殺してきた。それは同じだと。そんなことない。シリウェルは殺したくて殺しているわけではないはずだ。平和を取り戻したくて、守りたくて銃を取った。だから大西洋連邦とは違う。
『シン、俺と同じ理由で銃を取り、大西洋連邦で戦っている連中もいたはずだ』
『けど――』
『自軍の大義を信じていなければ、戦争なんてできない。相手も同じなんだ。ザフトを、プラントをって』
戦争が起きた原因を突き詰めるのは難しいことではない。けれど、一度火蓋を切った戦いの連鎖を止めることは簡単じゃない。
『でも……俺も信じてみたいんだ。どれだけ馬鹿なことを考える連中がいたとしても、どれだけの争いを繰り返しても、手を取りあえる者たちがいるということを』
そう話すシリウェルはどこか寂しそうにも見えた。もしかしたらあの時既にわかっていたのだろうか。その馬鹿な連中が再び戦争を始めるということを。そうしてまた多くの人たちが犠牲になるということも。
『難しいことなのはわかっている。人間は感情という厄介なものがあるから。だがなシン、戦場での生死の責任を取るのは上官だけだ。それ以外の誰もが責任を取ることも負うことも許されない。それが敵軍であったとしても。それだけは覚えておけ』
戦争という流れの中にあって、自軍の者が死ねばその責任を取るのは上官。つまりシリウェルだ。敵軍でもない。つまりは大西洋連邦でもオーブでも、カガリでもない。軍に組して戦うというのはそういうことだと。
わかっていてもシンは悔しさを堪えられない。ハイネを討った奴が憎い。乱入してきたアークエンジェルにだって怒りを感じている。でもーー。
「シン、いる?」
「っ……」
そこへ入ってきたのはアーシェだった。鍵を閉めてなかったからか、普通に入ってきたのだ。まずいとシンはアーシェから顔を逸らす。今の顔を見られたくなかったから。だがアーシェは何も言わずに黙ってシンが座るベッドの上、その隣に腰を下ろした。かと思うとその身体を抱き寄せてくる。
「ア、アーシェ⁉」
「ハイネさんのことでしょ。考えているの」
「……」
頷けなかった。そうだとわかっていても、いつまでも吹っ切れないままでいる未熟な自分を知られたくないから。特にアーシェには。
「私、パイロットじゃないし、シンたちの想いを本当の意味で理解してあげられることはないと思う」
「アーシェ?」
「戦場に出たら、生きて返れることは絶対じゃない。わかってる……ただね、誰が悪いとか、弱いとかそういうことじゃなくて……ただ悲しむことは許されると思うんだ」
「悲しむ?」
「うん……ハイネさんにもう会えない。それが悲しい。こんなことを考えたら、軍人らしくないって言われるかもしれない。でも、私は誰かを憎むよりも、そうしたいって思う」
何も言っていない。けれどアーシェには知られていた。シンの想いを。悔しさも憎しみも。それをわかった上で言ってくれている。
悲しい。その言葉がストンとシンの胸の中に落ちてきた。色々なことを考えていても、結局はそういうことだ。ハイネがいなくなったことが寂しいし悲しい。自分が守れなかったことも、守れるなんて思い上がっていたことも含めて悲しかった、悔しかった。
「アーシェ、おれ……」
「うん。いいんだよ、シン。泣いてもいいの……悲しいって叫んでもいいんだよ」
「うぅっ」
その言葉に堰を切ったかのように涙がこぼれだした。意地を張って強がっても無駄だった。そのままアーシェに縋りつくようにして、シンは声をあげて泣いた。