プラントのアプリリウスにある国防本部。そこにある私室にシリウェルは詰めていた。最高評議会に応じることもあるが、それもすべてはウルスレイが不在であるため。当人はユニウスセブン落下の後処理のためだとしているが、どこまでそれが真実なのかが読めない。
「閣下……失礼いたします」
「⁉ マリクか」
「はい、申し訳ありません。応答がなかったものですから」
「いやいい。すまない、考え事をしていた」
呼び出しが鳴っていたことにも気づかなかった。それだけ思考に耽っていたということだろう。
「何かあったのですか?」
「……」
マリクは信頼できる。わかっているが、ギルバートの件で色々と動いていたことで、ウルスレイに警戒されている可能性もなくはない。かといって黙っているわけにもいかないだろう。シリウェルは話せる範囲でマリクに現状を伝えた。徐々に眉間に皺が寄っているマリクに、シリウェルは苦笑する。
「隊長」
「悪い。そこまでお前が顔に出すとは思わなかったんだ」
「当たり前です。そもそもその状況であれば、既に各部に内通者がいても不思議ではありません。貴方のためだ、貴方を担ぎ上げるためだというのであれば、喜んで力を貸す者たちがこのプラントにどれだけいるとお思いですか?」
そのようなこと考えたくもない。シリウェルとて理解している。己の状況を。立場を。ラクスが身を隠している今、その期待がシリウェルに向けられているということも。だからこそラクスを戻すわけにはいかない。本当ならば、この状況を見せたくもなかったのだ。勘のいいラクスならば、傍にいることで気づくことも多い。それでも、ラクスを傍に置かなければならないという矛盾。不本意だった。
「オーブのこともそうです。貴方がアスハ家の人間であることは周知の事実ですが、それが足かせになっていると捉えている可能性もあります。そうなれば、オーブとて何が起こるかわかりません」
「あぁ……信頼できる氏家には声を掛けている。今はセイラン家が牛耳っている状況だが、下手に動きを見せることはしない。まだその時期ではないからな」
とはいえ、オーブは大西洋連邦に組する組織として従軍を命令されている。ザフトと敵対していることも事実だ。敵対国となった以上は、オーブを討てという命令を下される可能性はゼロではない。シリウェルがいる以上、滅多なことではその命令を下すつもりはない。だが、もしその状況にいなければ……。
「隊長」
「何だ?」
「しばらくプラントを出るのはいかがでしょう?」
「そういうわけにはいかない。議長がいない状況で俺まで不在にすることなどできるわけがないだろう」
「ですが、悪意ではなく善意で隊長を拘束するようなことがあることがないとは限りません」
善意だからこそ気づかれない。議長の名を出し、シリウェルを呼ぶことは当たり前にあることだ。それが罠なのか、それともただの呼び出しなのかの判断がつかない。それは極めて危険だ。マリクはそう言いたいのだろう。
「わかっている。だが逆に言えば、俺が害されることはない」
「そういう問題ではっ」
「そのためのラクスであり、アスランだ。カガリとて黙ってお飾りでいるつもりもないだろう。お前を初めとして、レンブラントも動いてくれる。レイもシンも、アーシェたちもいる。俺が動けなくなった時でも、動ける者たちが」
ルーキーたちはまだ未熟ではある。けれど、その中にアーシェがいる。エリートではないなどと悲観していたが、あれでもアーシェはファンヴァルト家の人間だ。戦争がどういうものかも、シリウェルの立場も理解している。アーシェが傍にいるのだ。レイもシンも大丈夫だろう。そのための力もミネルバには渡した。タリアもおそらく理解はする。とはいえ、軍属である以上表立って議長に意見するわけにはいかない。その辺りは難しい采配が迫られることだろう。
「今、世界は二分されている。ウルスレイとて大西洋連邦をそのままにしておくはずがない。そのために動いているのだろうが、それが読めないのがきついところだな」
「そうですね」
政務と軍。権限を持ちすぎるのはよくないと、シリウェルは一線を引いて関わってきた。それが間違いだったとは思っていないが、ここにきてそれが仇となるとは思わなかった。
「ん?」
「通信、ですか?」
「あぁ……地球、ミネルバからだ」
そこへ通信が入った。直接ここにつなぐということは、何かしら起きたということだろう。シリウェルはボタンを押し、ミネルバからの通信を受け取った。
『ファンヴァルト閣下、お時間宜しいでしょうか?』
「グラディス、何かあったのか?」
『はい』
タリアからの報告は衝撃的なものだった。大西洋連邦が残したと思われる研究施設。そこで倒れたというレイは異常はなかったものの、発作を起こしたらしい。理由は不明だ。加えて研究内容を聞かされた。
『閣下ご自身のこととはいえ、ご存じないと思いまして』
「……」
「大丈夫ですか、隊長?」
『閣下?』
シリウェルのデータを使った研究。そして作られた強化人間。シリウェルは無意識に胸に触れた。あの時、ボギーワンを追っていた時に抱いた不快感。それはもしかするとその影響だというのか。
「……すまない、大丈夫だ。それでグラディス、拘束したという者は?」
『ひどく暴れましたが、今は強制的に眠らせています。ただ……このままでは衰弱が激しく、助けることは難しいかと』
バラメータも通常の人間ではありえない数値を叩きだしているという。脳波にも異常が見られる。その脳自身にも異常が多々見られる。どのみち長生きはできない。放置すれば、死ぬことは避けられないと。
『気は進みませんが、その後でもよければ……』
「まさかグラディスからそういう言葉を聞くとは思わなかった」
『……不本意ではあります。憤りを感じないわけではありません。ですが、彼女は我が軍にとって敵です。多くの者たちを手に掛けたという意味でも』
「戦争という場において、それは意味のないことだ。ただ命令に従っただけだろう」
『その通りではありますが……』
タリアのいうこともわからないでもない。先の戦闘ではミネルバ乗員にも死者が出た。だからこそ感情というのは厄介なのだ。
「ミネルバはカーリアンスと合流するはずだな」
『そのように連絡を受けています』
「……カーリアンスに彼女を乗せ、連れてくるように手配してくれ」
『⁉』
「隊長⁉」
「それまで絶対に死なせないように頼む」