意外とアスラン視点が多い……
カーリアンスは無事にミネルバと合流を果たした。先日はオーブ側の人間だったアスランがザフトの赤服、それもフェイスの徽章をつけていることにミネルバ乗員たちの視線が痛い。その中において艦長のタリアはそんな様子は見せずに、きりりとした敬礼で出迎えてくれた。
「お話は聞いています、アスラン・ザラ。まさか同じ陣営として出迎えることになるとは、あの時は思いもよりませんでしたけれど」
「お互い様です。すべてファンヴァルト隊長、いえファンヴァルト閣下の采配とお伝えしておきます」
「……なるほど、承知しました」
カーリアンスから引き渡される機体、その説明を終えたアスランはふと鋭い視線を感じ、そちらの方へと向いた。そこにはカガリの義従妹であるアーシェと共にいたという少年、シンの姿があった。
「また会ったな」
「……あの時、戻らないって言ってたと思いますけど?」
「色々と事情があるんだ。それに、今の俺たちにとってオーブはな」
内部の事情はどうあれ、オーブは大西洋連邦と同盟を組んだ。大西洋連邦が敵とみなしているのはプラントだが、要するにコーディネーターということになる。その場所にアスランたちはいられない。そう告げれば、シンもハッとして顔をそむけてしまった。
「すみませんでした」
「いやいいんだ。俺もできればオーブにいたかったし、ここに戻るつもりもなかったから」
「でもいいんですか? その、あの人は拉致されたって聞きましたけど。まぁこの間邪魔もされたんで、不愉快なのは同じですけどね」
「ちょっとシン!」
フリーダム、キラがカガリを拉致した。そして大西洋連邦との闘いに姿を現した。ザフトとしては不満も言いたくなるのは理解できる。それでもカガリがそう行動した理由もわかるがゆえに、アスランは否定も肯定もできない。
「必死なんだ、あいつも。どうしていいかわからなくて、それでも守りたくて……」
「アスランさん……」
「戦場をかき乱しているのは理解している。陣営を定めた以上、オーブ軍が止まることなどできない。それがわかっていても、後悔する前にやれることはないかと足掻いている。そんなカガリを、俺は間違っていると責めることはできない」
こんなことを言っても、シンたちザフト側の人間には意味のないことだ。わかっている。けれど言わずにはいられない。互いが互いを討つ。そのことに心を痛める者もいるのだと。
「わかっています、アスランさん。私は」
「君はファンヴァルト隊長の妹の……」
「アーシェです」
そこに姿を現したのは緑色の一般兵の制服を来たアーシェだった。
「オーブの意志がカガリお姉様の意志ではなかった。今でもお姉様は抗おうとしている。オーブの理念を守ろうと戦ってくれている。それがわかっただけで……私は嬉しいです」
「アーシェ」
「そうじゃないと信じたいと思っていました。それが間違いじゃなかった。私も、お兄様もオーブという国を信じていいのですね」
アーシェの目には涙が溜まっていた。オーブが大西洋連邦との同盟を結んだ時、ミネルバはオーブにいた。急ぎ出航したものの、攻撃を受けたという。アーシェからすれば裏切りにも感じたのだろう。シリウェルはそのようなこと考えていないだろうが、それでも違うとわかっただけで十分だと。
そのアーシェの姿に、アスランは安堵したように笑みを見せた。
「君は、ファンヴァルト隊長の妹なんだな」
「え?」
何を今さらというあっけにとられたような表情を見せたアーシェに、アスランは首を横に振った。
「オーブを責めるでも怒るでもなくただその事実に悲しむ。相手を憎むことの方がよほど楽なのに、君はそうしなかった。その在り方がファンヴァルト隊長によく似ているよ」
「似ています、か? 私がお兄様に」
「あぁ……」
シリウェルと似ている。そう告げればアーシェは嬉しそうに笑い、傍にいるシンへと駆け寄っていった。血の繋がりはないと聞いているが、それでもアーシェは紛れもなくシリウェルの妹だ。彼女がいるならば大丈夫かもしれない。この先、大きな混沌が待ち構えて居ようとも。
医務室で眠っていたステラという少女。起こせば再び暴れる可能性もあるため、強制的に眠らせているのだという。これ以上の処置はここではできない。おそらくプラントに行っても無駄だろうと。
「それでも閣下は構わないと」
「そうですか」
「死なせないようにと頼まれましたが、閣下との合流までもつかどうかは正直わからないということです」
顔色は悪く体温も低い。生きているというよりも生かされていると称した方がいいのかもしれない。これが大西洋連邦がザフトと渡り合うためにと行ってきた所業。戦災孤児などを集め、表向きは善意として引き取り、裏ではこういう処置を施して子どもたちを実験道具のように見ていた。アスランは拳を強く握りしめる。
ブルーコスモス。ここまでする必要があるのか。そこまでして戦争がしたいのか。コーディネーターを滅ぼしたいのかと。感情があらぶりそうになるのを息を吐いて落ち着かせる。戦争がもたらした闇の部分。きっとこれは一部に過ぎない。ここで取り乱すわけにはいかない。もうアスランは何も知らないルーキーではないのだから。
「わかりました。必ずファンヴァルト隊長の下に連れて行きます」
「お願いします」