第8話 新エネルギー
プラント本国に戻った後、シリウェルは部下たちに待機を命じるとそのまま国防委員長であるパトリックの元へと向かった。
「シリウェル様! 戻られたのですね、お疲れ様です」
「えぇ、ついさっきですが。ザラ閣下は?」
「中に居られます。どうぞ」
「お願いします」
パトリックの執務室を警備していた兵に案内され中にはいれば、大きい画面の前で思案顔の姿があった。シリウェルに気がつくと、更に眉を寄せる。
「来たか……」
「呼んでおいてそれはないのではないですか、閣下」
机の前まで歩を進めると、パトリックの見ていた画面がシリウェルの視界にも入ってくる。
映像データだったそれは、連合のMSとの戦闘のものだった。ザフト側の隊はクルーゼ隊だろう。奪取したMSを使用しているのだから。
内容的にザフト側が押している様に見えるが、パトリックは納得がいかないようだった。
「この戦闘は?」
「アルテミスでの戦闘だ。たった一機相手に、撃ち落とすことができんとはな……」
「ですが、これでアルテミスは墜ち、連合は要塞を失ったことになります。成果としては悪くないのでは?」
「ふん。それは結果論に過ぎん」
「……戦争には結果が求められる。ならば、これもその一つです。全てを求めるのは酷というもの。理解しているはずでは?」
「……」
パトリックは口を閉ざす。連合の要塞を墜としたことは評価できるものだと、わかっているのだろう。しかし、彼には焦りが見えた。恐らくそれは、近く行われる評議会議長選へのアピールを狙ってのことだ。
最有力とは言われても、確実なものにしたい。そのためには、あの連合の艦とMSを一刻も早く排除したいのだ。
「はぁ……それはともかく、私に設計してほしいMSがあると聞きましたが、何か注文があるのではないですか?」
「……相変わらず話が速い。そうだ、新造MSには核エネルギーを用いたい」
「……は?」
早く仕事の話をしたくて話題を切り替えたのだが、もたらされたのは思いもしないものだった。
核エネルギー。動力を核とするということだ。
シリウェルは思わず机に両手をバンっと叩きつけた。
「パトリックっ!! 何をいっているのかわかっているのか!?」
「無論だ」
「核は、あれは兵器として使ってはならない‼わかっているだろうっ! あれで、父やレノア女史はっ……」
コーディネーターにとって、いやプラントに住まう人にとって忘れられない、忘れられない出来事であるユニウスセブンの悲劇。それをもたらしたのが連合の核ミサイルだ。報復として地球にNジャマーを与えたことで、核エネルギーは使用不可になった。
連合もプラントも核を放棄する。そういった意味だと皆が思ったはずだ。いや、それ以前に多くの命を奪った核など使いたくはない。あれは忌むべきもので、兵器利用してはいけないものだ。
「わかっている……だが、勝つためには必要だ!」
「パトリック……」
「許されないことだとわかっている。しかし、それほど猶予はない。お前もわかっているはずだ」
「くっ……」
戦争が長引けは長引くほど、プラント側には不利。人員もだが、物量的にも連合と比較すればそれは明らかだった。
「踏み切るしかないのだ。既にNジャマーキャンセラーの開発は進んでいる。時期に目処もつくと報告もある」
「……断ると言ったら?」
「お前は断らん。国家機密にも相当するものだ。その責任を踏まえても、知った以上は全うする。違うか?」
「……」
シリウェルは目を閉じ、沈黙する。
ここでシリウェルが断ったとしても、MS開発が止まるわけではない。しかし、どの技術者でも核エネルギー搭載のMSの設計など負担でしかないだろう。技術的にも難しいのだ。機密扱いのものでも精神的にキツいものがある。この二重苦に耐えられるか、潰されるかと言えば、潰れる方が可能性は高い。
「……相変わらず卑怯な手を遣う。拒否権は始めからないということですか……」
「悪く思うな……」
「……研究データもらえますか?」
「いいんだな?」
「……俺とて望むものがあります。そのために、負けるわけにはいかないことくらいわかっている。今回だけ、貴方の思惑に乗ります」
「そうか」
パトリックは口元を緩めると、引き出しのなかかから一枚のディスクを取り出す。それが研究データのようだ。
「データはこれしかない。意味はわかるな?」
「誰に言っているんですか……しかと、承りました」
ディスクを手に取り、シリウェルは力を入れた。
父を殺した力。それをまさか自分が使う側になることに、不快感を露にしつつポケットに仕舞う。
たった一枚のディスクなのに、それはずっしりと重みを感じた。