ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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第89話 宣告

 甲斐甲斐しくシリウェルの手首に巻かれた包帯を変えるユリシア。まだ血は止まっていなかった。止血をしているユリシアの手は震えている。それでもなんとか包帯を巻き終えると、ユリシアは安堵したように息を吐いた。そんなユリシアをシリウェルは抱きしめる。

 

「シリウェル様⁉」

「ありがとう……それと、暫く振りだな」

「っ……はい」

 

 ユニウスセブン落下から色々とあり、ゆっくりと話す時間は結局取れなかった。申し訳ないと思いつつも、それでもユリシアを優先できない事情もあったのだ。その頬にキスを贈れば、ユリシアは目を閉じた。その仕草に苦笑しつつ、シリウェルは望むままに唇にもキスを贈る。触れるだけのそれだが、それだけでも随分と久しぶりだ。

 

「私、シリウェル様にお伝えしなければいけないことがあるんです」

「話?」

「はい。まだ、艦長とアスランさんにしか知りません」

 

 何故そこにアスランの名前が出てくるのかは気になったが、まずはユリシアの話を聞くのが先だろう。口を閉ざし、ユリシアの言葉を待つ。そこでもたらされたのは予想外の言葉だった。

 

「……それは、本当か?」

「はい。間違いないだろうと。私は第二世代ですから、その……この先どうなるかは保証出来ないとは言われましたが」

「……」

 

 ユリシアの告白。それを聞き、シリウェルは複雑な気分だった。

 ハーフコーディネーターであるシリウェルは限りなく第一世代に近いコーディネーターだ。だから可能性はゼロではない。しかしユリシアは第二世代のコーディネーター。その未来が限りなく低いとされている世代である。未来、それはつまり子どもだ。だからこそ第二世代は婚姻統制をおこない、未来を作ろうとしている。現時点においてそれは成功してはいないけれど。その中にあって、シリウェルの子が出来ることはプラントからすれば喜ばしいことに違いない。今の状況でなければシリウェルとてすぐに次の行動に出ただろう。

 

「今後はシリウェル様と相談をしなさいと言われました。私はこの子を失いたくありません。でも私では……」

「ユリシア……」

 

 子どもが出来たならば、直ぐでもプラントに行き、遺伝子情報を確認する。その上で無事に生まれるようにとコーディネートすることもできる。一度人工子宮に移し、母体に戻す。それが今のプラントでの主流だった。無事に産むのであればそうした方がいい。そのようなことはシリウェルとてわかっている。だが……。

 

「すまない、ユリシア」

「え?」

「今の状況では……君に俺の子がいることを知られるわけにはいかないんだ。だから子の処置をさせることはできない」

「それは、どういうことですか?」

 

 知られれば確実にユリシアは狙われる。プラントで処置をしようものならば奪われるだろう。それは可能性の話ではない。絶対だと断言できた。第二世代の母体では不確定要素が大きすぎるし、育つ可能性とて低い。子どもを失いたくないというユリシアの気持ちもわかる。けれど、それでもプラントに預けることはおろか、知らせることもできない。

 

「今の君にこれを教えることは、君に絶望を与えるかもしれない。それでも俺は……君を失うわけにはいかない」

「シリウェル様……」

「恨んでくれてもいい。見殺しにすると同意だ。すまない……」

 

 そのままユリシアの中で育てばいい。限りなく不可能に近いことだとわかっていても。それを選択することしかできないのだと。宿ること自体が奇跡に近いというのに、その選択をさせてしまう。ユリシアを抱きしめながらシリウェルは謝ることしかできなかった。

 

「……わかりました。では私は、可能な限りこの子のために頑張ります」

「ユリシア?」

「失う可能性があるとわかっています。でも、この子を道具にされるのはもっと嫌です。それが誰であっても。私はプラントのためにこの子を守りたいわけではありません。シリウェル様との子だから守りたいのです」

 

 分の悪い賭けになる。現実になれば悲しむのはユリシアだ。そっと身体を離し、シリウェルはユリシアの顔を見る。

 

「この子を守るためといって、思うがままに動けなくなる方が不安です。シリウェル様はプラントに、世界に必要なお方ですから。その足かせにさせるわけにはいきません」

「……だが」

「シリウェル様の子です。きっと強い子だと思いますから」

 

 強いから大丈夫だ。そう話しながらもユリシアの瞳には涙が溜められていた。不安、恐怖、心配。様々な感情がユリシアの中にあるのだろう。失う可能性が高いと、ユリシアもわかっているのだ。

 

「すまない……」

「大丈夫、です。私はシリウェル様と一緒なら」

 

 もう一度シリウェルはユリシアを抱きしめた。背中に回される腕、制服を掴む指は震えている。シリウェルはただ黙って抱きしめることしかできなかった。

 

 

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