オリ主人公のお話ですけれど、実はキラが一番好きなんです。。。本当、すよw
オーブが大西洋連邦との同盟を組む。それを聞いた時のキラの感情はただ一つ、怒りだった。セイラン家に向けてでも、選択をしたカガリに向けてでもない。ここまで何もしなかった、ただ見ているだけだった自分自身への怒りだ。
キラは決断した。再び剣を取ることを。戦場に戻ることを。アスランがシリウェルの下に向かうとして別れた後、キラたちはカガリを結婚式場から拉致し、アークエンジェルで身を隠しながらも情勢を伺った。その中で起きたザフトと大西洋連邦との戦闘への介入。カガリの意志を優先し、アークエンジェルとフリーダムの立場と意志を示した。ザフトにも大西洋連邦にも同意しない。そしてオーブの意志はあくまで中立であると示すために。
『だから私はプラントを見てこようと思います』
『でも、ラクスっ』
『大丈夫です。私ももう大丈夫ですから』
『っ……』
そうしてタイミングよくミリアリアから受け取ったメッセージ。シリウェルからラクスをよこしてほしいという依頼だった。これを利用することでラクスは宇宙に上がれる。その先、シリウェルがどう考えているのかを聞き、その上でラクスは判断すると決めた。そうだと決めたラクスを止めることはキラにはできない。それでいて、傍にいて守れないという事実を受け入れなければいけないのだ。出来ないと言うのは簡単だ。だが、キラとて知っている。今、最も優先するべきことがなんなのか。それが個人の感情ではないということを。
アークエンジェルの展望室からキラは上を見た。海底にあるそこからは空を見ることはできない。今頃、ラクスは無事であるだろうか。それを知るすべも、今はそう簡単ではなかった。アークエンジェルは身を隠しているのだから。
「ここにいたのか、キラ」
「カガリ?」
呼びかけられ振り返れば、そこにはオーブ軍服に身を包んだカガリがいた。そのままキラの隣に並ぶ。
「こんなところまで、どうしたの?」
「いや……お前がどうしているかなって探してたんだ」
「そう」
先ほどまでキラがそうしていたように、カガリも外へと視線を向けた。見えないはずの空へと向けられているのだろう。
「あいつ、ラクスも、無事だよな……?」
「うん」
「そうだよな……うん、離れていても、アスランもラクスも、同じだもんな」
そう告げたカガリは俯く。陰りを見せたその心には、悲しみが宿っている。先の戦闘では、オーブ側にも犠牲者が出た。その事実が、未だカガリを打ちのめしている。
オーブの理念を信じたからこそ志願したという者がオーブ軍には多い。理念を提唱しているのがウズミだったこともあって、彼らのアスハ家に対する敬愛の念は強かった。それでも彼らは軍人だ。国として道を定めた以上、それがカガリの言葉であっても従うことなどできない。わかっていても止められない。わかっているから止められない。そういう世界なのだ。戦場というものは。
「私は……一人で頑張っているつもりになっていた」
「カガリ?」
「私がやらなければならない。お父様の娘として、アスハの者として、もう二度と失わせないためにと。シェルお兄様が、ちゃんと警告してくれたのに……それでも私はユウナやウナトの声に反論できるほどの意志がなかった……私が弱かったから、トダカも、皆も死なせてしまった……」
「……それは違うよ、カガリ」
キラは静かに、カガリの言葉を否定する。シリウェルが何を告げたのかは知らない。彼が何を考えているのかも、キラにはわからない。キラはただの一般人だ。カガリの双子の姉弟であっても、どれだけカガリが偉くても関係がない。けれど、カガリがどういう場所で戦ってきたのかはわかっている。雁字搦めにされた中で、カガリは足掻いてきた。その姿を見てきた者たちは沢山いるのだ。
「キラ……?」
「カガリはずっと僕たちを守ってくれていた。だから、今僕はここにいる。君が守ってくれたから……カガリが強かったから」
「キラ」
「オーブは合議制を取っているんだ。他の多数の意見を無視できないのは当然だよ。どれだけカガリの意志が強くても、それを全員に強制させるのは違う。そうでしょ?」
「それは……でも……」
それをしていたら結果は同じではないか。その通りだ。けれど、それでもオーブがあの時選択できるものはそう多くない。
「オーブの首長の中に、ブルーコスモス寄りの人がいるのは事実だ。でもそれを排除することはできない。彼らも、みんなオーブの人たちであることは変わらない。誰であろうと、理念と法を守ればオーブは受け入れる。そういう国だから」
差別というのはナチュラルやコーディネーターだけではない。他の思想を持っていても、どのような宗教を信じていても、オーブの理念と法を守るのならば受け入れると言っている。ブルーコスモスであろうとも同じだ。だからこそそういう考えがいる者たちが首長にいても不思議ではない。
「カガリは戦った。でも相手の方が上手だった。それだけだよ……だから僕たちも悪あがきみたいにして君をさらった。オーブという国は、君がいなければ本当の意味で国を為さない。きっとオーブ軍の人たちも同じだ。あの時、フリーダムにもアークエンジェルにも砲弾は向けられなかったから」
「キラ……」
「できること、すべきことはまだある……まだすべて終わったわけじゃない。カガリも、僕たちも、オーブも」
「うんっ……」
涙を流しながらカガリが勢いよく抱き着いてきた。キラは抱きとめて、背中に手を回し撫でた。カガリは己を鼓舞し、立ち上がらなければならない。上に立つ人だ。でもせめてキラの前だけはただの女の子でいてほしい。そんな思いを込めて。
「ありがと、キラ」
ひとしきり泣いてスッキリしたのか、カガリの表情から陰りが消えた。もう大丈夫だろう。いつものカガリだ。
「そういえば、ここで何を考えていたんだ?」
「え?」
「ずっとここにいただろ?」
キラとてひとりになって考えたいときくらいある。いつもなら格納庫に行くことも多いが、オーブの軍人たちとムラサメを迎えた今、あちらは少し騒がしい。だからこそここにいた。いつもラクスと語らっていた場所に。キラは窓の方へ背を向けるようにして寄りかかった。
「この二年、あの大戦は本当の意味で終わってなかった。だからシリウェルさんは準備していたし、きっと大西洋連邦側も同じだ。必ず戦火は上がる。そう確信していたんだと思う」
「それは……そう、かもしれないが」
「ミーア・キャンベル」
「え?」
「あの子の存在こそ、再び何かをするという予兆だったのかもしれない。ラクスの代わりを求められ、ラクスを使って何かをしようとしていた。今はあの子もシリウェルさんのところにいるけど、そもそも何をしようとしていたのか……」
あの時、シリウェルから聞かされた情報はミーアがラクスとして利用されようとしていたこと。遺伝子でもって未来を決めることで、世界から争いを失くそうとしていた人物がいたということだ。その人物は拘束されていると聞いている。
ギルバート・デュランダルという遺伝子工学を学んでいた研究者。キラたちの実の両親と同じく、メンデルにもいたことがあると。彼が表にいるならば、本物のラクスを亡き者にしてミーアを本物として表舞台に立たせるというのは考え付く。だがそのデュランダルは拘束中。であるならば、何故ラクスが狙われたのか。アスランの読みでは、シリウェルの身近な存在であり、その影響力も強いから狙われたのだろうと言っていた。キラもそれには同意している。だが本当にそれだけだろうか。
「最高評議会議長のことを僕は知らない。確かにシリウェルさんはすごい人なんだろうって思う。でもあの人からすべてを奪って、それでどうするつもりなんだろう。ウルスレイ議長は何を考えているのか」
「あの人はシェルお兄様を慕っている。ある意味では危ういかもしれない」
「……」
「けどお兄様を害しようなどということは考えられない。悪い人ではない、と感じた。けど……」
「けど、何?」
珍しく言い淀むカガリにキラはその先を催促する。するとカガリは言いにくそうに顔を逸らした。
「メンデル……」
「え?」
「お兄様が私たちを知ったのはそこだって言ってたよな。でも、何故お兄様はそこにいたんだろうって。そこはコーディネーターの研究をしていたところだよな?」
またコロニーメンデル。何かといわくつきの場所だが、それだけ後ろ暗いことが多いということなのかもしれない。
『君は忘れたのか⁉』
ふとヤキン・ドゥーエでの戦いの記憶がキラの脳裏によみがえる。ラウと戦っていた時のシリウェルとの間で交わされた会話だ。その後、オーブで会った時、シリウェルは悲しそうな目をして話してくれた。
『俺は覚えているんだ』
『たかが二歳そこらの子どもだけど』
そんな小さい頃からの記憶を覚えている。それだけでも特異だ。キラでもそこまでの記憶力はない。けれど……。
『キラ……君も、もしかしたら
『え?』
『ただ忘れないでほしい。何があろうとも、君は君だということを』
あの時別れ際にキラだけに伝えられた言葉。もしかすると、あれは重要な意味を持つものだったのかもしれない。
「キラ?」
「カガリ……もしかしたら」
『カガリさん、キラくんブリッジへ! すぐに来て』
マリューからの放送だ。カガリと顔を見合わせてキラは急ぎブリッジへ向かった。