ガンダムSEED 天(そら)の英雄    作:加賀りょう

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シン視点です。


第92話 歪な世界

 クレタ沖での戦い。そこでミネルバは再び大西洋連邦とオーブ軍との戦闘になった。乱入してきたアークエンジェルとフリーダム。三陣営が交戦する三つ巴のような状況にあって、乱入してきたカガリは、オーブ軍に再三戦闘を止めるように叫んだ。そんな声は届かず、オーブ軍は強いては叫ぶカガリに向けて砲撃の矛先を向ける。守るようについていたフリーダムによって攻撃は防がれたものの、それでも留まるカガリにシンは内心で苛立ちを覚えていた。

 苛ついていた。先の戦闘でも、カガリはただ叫ぶだけだ。やめろと、オーブは戦っては駄目なのだと。だが大西洋連邦についたオーブ軍はカガリには従わない。そしてミネルバへと攻撃も仕掛けてくる。状況を見守っただけでいるならば、ただ死ぬだけだ。

 

『アーシェ』

『わかってる……シンはシンが思うままに戦って。その結果がどうなろうと、私は受け止める覚悟はある。きっと兄様もそうだと思うから』

 

 出撃前にアーシェに言われた。オーブ軍を討つことを躊躇っては駄目だと。ここは戦場で、一瞬の躊躇い油断が命取りになる。それはシリウェルもアーシェも望まない。シンとてルナマリアやレイが墜ちるのは嫌だ。もうあのような想いはしたくない。MSのパイロットとしてここにいる自分。そのシンがやることは戦うこと。

 

「っ⁉」

 

 ミネルバの自室で、シンは己の拳を握りしめた。わかってたはずだった。知っていたはずだった。

 オーブはアーシェの家族がいる国で、シリウェルにとってはかけがえのない国だ。アスハの名を持つシリウェル。そしてシンが育った国。その相手を、シンは討った。討たなければ討たれる。レイもルナマリアも躊躇うことはなかった。躊躇っていたのはシンだけだ。割り切るしかない。無心にただ戦えばいい。それからは無我夢中だった。

 帰艦してから手が震えた。オーブの軍人を、この手で討ったという事実に。先の大戦でプラントに避難をした時に世話になったのはオーブ軍だった。もしかしたら、関わっていた人もいたかもしれない。そんな相手をシンは……。

 

「シン、まだ落ち込んでいるのか」

「レイ……」

「オーブは大西洋連邦の同盟国としてこちらに攻撃をしてきた。明確に敵対した相手だ。気にすることはない」

「けどっ! オーブは……シリウェルさんにとっては特別だろう! もしかしたら俺はっ」

「シン!」

 

 立ち上がりそう叫んだシンをレイは同じ声量でもって叫んで止める。

 

「それが、戦争なんだ」

「っ……」

「俺とてシェルに言われたことはある。顔も知らない、名も知らない相手ならば躊躇うことはないかもしれない。だが、それでも必ずそこには相手がいる。そこには紛れもない命があるんだと」

 

 知らない相手だとしても、それは命だ。戦場では安く脆い扱いを受けるが、それでも紛れもない一つの命なのだと。

 

「それでもやらなければやられる。それもまた事実だ」

「わかってる、わかってるけど」

「本当の意味で戦争をなくすには、ギルのような考えが合理的なのだと俺は思う。だが……俺は俺自身の意志で軍に志願した。それを、誰かに……ましてや俺を作った者に決められるのは嫌だからな。だから戦うしかない。得たいものを得ようとするならば」

「レイ……」

「相手が誰であろうと、ましてやオーブであろうとも、俺は俺が守りたいものを守るために戦う。その結果、相手を討つことになろうとも構わない。戦争は綺麗ごとで終わらないからな」

 

 ギルとは誰なのか、と尋ねることはできなかった。話をするレイがとても辛そうに見えたから。構わないといいながらも、どこか迷っているようにも見える。レイとて感じないわけではないのだろう。

 

「……こんな……なんで、あいつらはそんなに戦争がしたいんだ」

「そうだな。俺もそれが一番知りたい」

 

 ユニウスセブン落下が起因だとしても、プラント側は必至に支援や援助を行っている。好意的に受け入れてくれている地域だってたくさんある。地球の国家だというのであれば、まずは被害地域のために動くのが人道的なものではないのか。プラントを、コーディネーターを攻撃する意味がどこにあるのか。あれがプラントの意志ではなかったことは議長が宣言している。言葉だけでなく行動でも示してきている。なのに、どうして大西洋連邦はそこまで戦おうとするのか。

 

「……ステラも、戦争をするために……なんでそこまでコーディネーターを」

「ブルーコスモス、だろう。だが、俺にはコーディネーターが滅びたところで、そいつらが戦争という場を失くすとは思えない」

「え? それはどういうことだよ」

「……なくならない。いつの時代も戦争は。人が、そこに生き続ける限り」

 

 そう告げるレイの瞳は酷く冷たかった。

 

 

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