ターミナルの要請もあり、ベルリン侵攻に介入したアークエンジェル。そこで予想外のことが起きた。大西洋連邦所属のパイロットをマリューが連れてきたのだ。彼を見たアークエンジェルのクルーは驚きで言葉を発することが出来ないほどの衝撃を受ける。仮面を被っていたというその人の顔は、あの大戦で、ヤキン・ドゥーエでの戦いで戦死したはずのムウのものだったから。
格納庫でフリーダムの顔を見上げながら、キラは動揺を隠せずにいた。
「キラ様、どうされたのですか?」
「アマギさん」
彼はクレタ沖で合流したオーブ軍人の一人だ。カガリの姉弟だということを知っているのか、キラのことをそう呼ぶ。否、合流したオーブ軍の人たちは全員がキラのことをそう呼んでいた。やめてくれと何度も言ったのだが、彼らも頑固で折れることはなく、結局彼らが呼びたいように呼んでもらっている。
「なんでもないんです。ただ……どうしてなのかなって」
「キラ様」
彼がムウだとすれば、記憶喪失か何かだった状態の彼に偽りの記憶を植え付けたということになる。確かにムウはナチュラルだけれど、凄腕のパイロットだ。拾った側が利用しようとしても不思議はない。でも、それでもやりきれない。
今回のベルリンの侵攻もそうだ。たくさんの人たちが犠牲になってしまった戦い。新しいMSを投入してきた大西洋連邦。街を破壊するだけではなく、逃げまどう人たちに向けられた銃口。あのような真似をすることをどうしてもキラには理解できない。したくもない。
「戦わせようとする人たちがいて、戦える人たちがいる。そうして戦いは広がっていく。それを本当の意味で止めることなんてできないかもしれない」
ラクスからもたらされた情報はアークエンジェルにも共有された。直に全世界に公開されるだろう情報を。己の利のために、この戦争すら利用する人たち。大西洋連邦はそういう人たちが牛耳っているという。ブルーコスモスもだ。ユニウスセブン落下も彼らにとってはちょうどいい口実になった。
「すみません、こんなことを言っても困りますよね」
「そんなことはありません。カガリ様もキラ様も悩みながら進んでおられる。それは私たちも同じですから」
大儀があるわけではない。ただあるのは、戦争を止めたい。平和が欲しい。それだけなのに、どうすればいいのか道が見えない。この先、オーブがどうなるかもまだわからない。でも……。
「キラ!」
「カガリ?」
「カガリ様」
「アマギもいたのか。ともかくキラ、来てくれ。ミリアリアが不審なメッセージが届いたって言っていて。けどよくわからないんだ。キラならわかるかもしれないって」
プログラム関連でいえば、キラの右に出るものはいない。少なくともアークエンジェルにおいては。心得たとキラはカガリと共にブリッジへと急いだ。
「キラ、これなんだけど」
「……」
見せられたメッセージは暗号化されているものだった。送り主さえも暗号化されていてわからない。すぐに解析はできなさそうだと、キラはミリアリアの横でキーボードを打つ。
「相変わらずすごいな、お前」
「……」
横でカガリが感嘆の声を漏らしているが、キラは気に留めることなく集中する。暗号化とはいっても、見覚えがないわけではなかった。相手もキラならば解析できると判断して送っているはずだ。
「まさか……シリウェルさんか」
「え? シェルお兄様?」
キラの技量を信じて尚且つ暗号化しなければならないほどの秘匿情報。ターミナルからならば別の暗号を使っている。オーブからでもない。彼がアークエンジェルに対してメッセージを送ってくるなんて、普通は考えられないが。
「できた」
「さすがキラ」
「……でも、あまり悠長に構えてはいられないみたい、だねこれ」
解析したメッセージの内容にキラは影を落とす。それは宣告に近いものだった。
『先の戦闘に介入したアークエンジェル、およびフリーダムをテロリストと断定。武力を持って討伐するものとする』
今、テレビではちょうどプラントの議長であるウルスレイがロゴスに対する宣言を行っているところだった。この状況に紛れるようにして、アークエンジェルを討つつもりなのだろう。おそらくその先にあるオーブの討つつもりなのは間違いない。ロゴス関係者にはオーブの人間も含まれている。
『カガリとオーブを頼む、キラ』
最後に記されたメッセージ。キラに宛てられたそれは、シリウェルが出来る最大限の激励だ。他にも手は打っているだろうが、危険を冒してまで情報を渡してくれた彼の好意を無下にはできない。
「マリューさん、カガリ、すぐにオーブに向おう」
「えぇ」
「わかった」
「途中、ザフトの攻撃があったなら僕が出る。カガリとムラサメ隊は待機してて」
「え? けどキラ!」
「大丈夫」
どれだけのザフトが討伐に参加するかはわからない。ミネルバが来るのであれば、苦戦するかもしれない。そうなればアークエンジェルを守りながらカガリも守ることは至難の業だ。ムラサメも同様である。守る相手は少ない方がキラも動きの制限が減る。いずれにしてもアークエンジェルは守らなければならない。絶対に。
「キラ……今度は、ちゃんと帰ってきて」
「ミリアリア……」
「じゃないとトールに言いつけるんだからね」
覚悟を決めたミリアリアの声に、キラは思い出す。あの時アークエンジェルを追ってきたザフトと戦い、そして戻ってこなかったキラとトール。ミリアリアとてわかっているだろう。キラの実力を。それでも絶対はない。
「わかってる。ちゃんと戻るから……」
「こっちも出来る限り援護するから、無茶はしないでよ」
「うん、ありがとうミリアリア」
ロゴスとの戦いが宣言された以上、アークエンジェルは見つかり次第追われるかもしれない。キラはすぐに格納庫へと急いだ。