※補足
あくまでも百合百合したい、という主人公の願望です。
実際に百合百合できるとは限りません。
あくまでも百合百合したい、という主人公の願望です。
実際に百合百合できるとは限りません。
突然だが、俺は転生者だ。
気がつけば生まれ変わっていた……それも、ポケモンに。
初めは混乱したし、今だって完全に割り切れたわけではない。
ただ、なってしまったものは仕方ないので、第二のポケ生として楽しもうと思う。
というわけで、目下俺がやりたい事は──ずばり、美少女トレーナーと百合百合したい。
ポケモンとトレーナーがどうやって百合百合するのか。普通ならできないだろう。しかし、そこは俺の転生した種族で解決できるのだ。
俺がなったポケモンは、へんしんポケモンであるメタモン……つまり、俺が美少女に変身して、美少女トレーナーと百合百合すればいいという事なのである。
「ふんふふーん」
目標を再確認していると、茂みに隠れた俺の近くを一人のトレーナーが通り過ぎる。
彼女はミニスカートを履いている美少女で、太陽の光を反射する白い足がセクシーだ。
この場所はオツキミヤマに行く通り道で、この辺でトレーナーがいるのは珍しくない。
今回のトレーナーも、ポケモンの特訓を兼ねてここを通りかかったのだろう。
さて、早速チャンスがやってきたわけだが。
意識が目覚めたのが数時間前だったため、実際に“へんしん”するのは今回が始めてだ。
ポケモンから人間に変身できるのか、という根本的な疑問もあるが、俺に人間としての知識があるためか、いけそうという漠然とした確信を抱いている。
仮に失敗しても減るものはないし、せっかくのこの瞬間を逃すのは惜しい。
というわけで、メタモンの真骨頂をお見せしよう。
「へ?」
茂みから飛び出した俺を見て、美少女トレーナーは目を丸くした。
しかし、やはり慣れているのか、直ぐにトレーナーとしての眼差しに変わると、モンスターボールを取り出して投げ放つ。
中から現れたのは、俺と同じピンク色をした丸いポケモン──プリン。
「初めて見るポケモンね。プリン、気をつけて!」
その声を聞き、プリンはほっぺたに空気を入れて戦意を見せた。
どうやら相手はやる気満々らしいが、あいにく俺が用があるのはトレーナーの方なのだ。
今のところ、バトル展開に興味はない。
前世で見たスライムのように揺れる身体に指示を出し、トレーナーを見ながら“へんしん”と心の中で唱える。
瞬間、自分の身体が組み替えられていくのを感じる。遺伝子の根本が動くというのだろうか、今まで感じた事のない不思議な感覚を覚えながら、俺は確かな手応えを感じていた。
「っ……先手必勝よ! プリン、“はたく”!」
トレーナーは数瞬怯んでいたが、気を持ち直したようでプリンに指示を放つ。
しかし、残念ながら行動に移すのが少し遅かった。プリンがこちらに駆けだすのを見た俺は、大きくなっていく身体で地を蹴って飛び退く。
同時に
「──成功だ」
試しに声を発してみれば、聞こえたのは美少女トレーナーと同じ声。
視線を巡らせると、手足や人間の身体がしっかりとある。
思わず笑みを深めながら、勢いよくガッツポーズ。
成功するか一抹の不安があったが、上手くいったようで良かった。
これで、俺は美少女トレーナー。きめ細やかな肌や、胸部に感じるお胸様もばっちり模倣している。
第一関門は突破した。あとは、このまま目の前で頬を引き攣らせている彼女と──
「あ、あたしの身体なのに、顔がプリン……」
その言葉を聞き、嫌な予感が膨れ上がっていく。
顔がプリン……彼女が告げた内容が正しければ、同じようにドン引きしているプリンと、同じ顔をしているということなのだろう。
もしかして、“へんしん”を試みた時に、プリンが視界に入っていたから、俺の変身がおかしくなってしまったのだろうか。
「……」
一歩近づけば、トレーナー達は揃って一歩後ずさる。更にもう一歩踏み込めば、引き気味に三歩遠ざかる。
……明らかに、俺の存在を警戒していた。これでは、美少女と百合百合できそうにない。
半ば諦めながら足を止め、精一杯の満面の笑みを浮かべて口を開く。
「俺と良いことしようぜ!」
「イヤアアアアアアッ!?」
プリンを抱えた美少女トレーナーは、驚くべき早さで逃げだしていった。
あまりの機敏な動作に、思わず黙って見送ってしまう。
しばらくして我に返ったあと、逃亡された事に気がつき四つん這い。
「ちくしょぉ!」
なにがいけなかったのか……いや、改めて考えるまでもない。
トレーナーの前に出て“へんしん”したのがいけなかったのだ。あらかじめ隠れて変身をしておけば、余計なポケモンを見る事もなく、完璧に変身ができていたはずだ。
「よっし。そうと決まれば、リベンジだ!」
気合いを入れ直した俺は、“へんしん”の修行をしながら次の美少女を待つのだった。
♦♦♦
「──よし」
草むらに隠れつつ、俺はある建物の近くで身を潜めていた。
場所は先ほどから変わり、現在地はハナダシティだ。
オツキミヤマで野生のポケモンと戦ったり、ついでに“へんしん”の練習にしたり。
そんな風に数日間、俺は独自に特訓をしていた。
最初は例のミニスカート美少女に会いに行こうかと思っていたのだが、あれから彼女はこちらの方にまったく来なくなっていた。
どう考えても、あの時の俺の姿がトラウマになっている。非常に残念な気持ちだった反面、別の場所に行く決心ができたのは良かったのだろう。
では次は誰に変身するかと悩んでいた時、ハナダシティの存在を思い出す。
たしか、あそこには美人が沢山がいるとの噂を小耳に挟んだ。オツキミヤマにいた山男達が、そんな内容を話していた。
前世の記憶でも、ハナダシティには美少女がいた覚えがある。という経緯があり、現在の俺はハナダジムの近くにいるのだ。
「変身はばっちりなはず」
小さな右手を握りしめ、手のひらの感触を確かめる。
今はニビシティにいた女の子の姿を真似てあり、顔も鏡で大丈夫な事を確認済みだ。
この姿でハナダジムからでた美少女に抱きつき、そのまま百合百合の関係に持っていく。
我ながら、なんという完璧な作戦だろうか。これならば、子供ということで誰にも警戒されず、なおかつ自然に美少女とイチャイチャできる。
「ぐふふ……いや、待て」
しっかりと変身できているのなら、こんな回りくどい行動をする必要はない。
ハナダジムはプールがあるという話も聞く。むしろ、水着美少女達を見るために、ジムの中に突撃するべきではないだろうか。
よし、そうと決まれば善は急げ。いま行くぞ、ハナダジム!
草むらから飛び出した俺は、その勢いのままハナダジムの中に乗り込む。
瞬間、俺の視界に素晴らしい光景が広がった。
泳いでいるのは、ジムトレーナーだろうか。海パン野郎を始め、様々な美少女達が悠々とプールで漂っている。
競泳水着を着た美少女や、ビキニを身に纏うセクシーな美女。他にも、色んなタイプの美少女達が水泳を披露していた。
「どうかしたの? もしかして、迷子かな?」
眼福な光景に感動していた俺の元に、プールサイドで休んでいた美女が声をかけてきた。
子供の扱いには慣れているのか、身を屈めて俺と同じ目線になってくれている。
すると、自分の太ももによって圧迫され、その大きなおっぱいが窮屈そうに形を変えていく。
「やっべ、たまらん」
「うん?」
「あ、ううん! なんでもない!」
もう少し屈んでくれれば、その競泳水着の間から胸の谷間が見えそうだ。
あまりの絶景に本音が漏れかけたが、慌てて取り繕って幼女スマイル。
これには、目の前の水着美女もにっこり。優しく頭を撫でてくれ、思わず鼻の下が伸びそうになる。
落ち着け、落ち着け。
俺はメタモンではない、可愛い女の子だ。美少女達にちやほやされるような、愛らしい美幼女だ。
自己暗示をかけて気持ちを落ち着かせていると、再び一人の美少女がやってくる。
彼女は水泳帽を被っている目の前の美女とは違い、綺麗な黒髪を水滴で滴らせていた。
「どうしたのかしら?」
「それが、どうやらこの子迷子みたいで」
「この子が……」
モデル体型、とでも言うべきだろうか。すらっとした佇まいに、カモシカの如く綺麗な足。長い黒髪とも相まって、彼女はクールビューティといった雰囲気だ。
そんなとてつもない美少女に目を奪われていると、彼女は俺の顔を見て何故か目を細めた。
眉間に小さなシワを作り、ジロジロと無遠慮に眺めてくる。
「えっと、なんですか?」
その視線に観察の意を見つけたため、警戒しつつ笑顔を見せる。
俺の幼女スマイルなら、その疑心も瞬く間に解けるだろう。可愛いは正義なのだから。
しかし、そんな俺の対応を見て、美少女は明らかに子供を見るような目ではなく、侵入者を見つけたと言わんばかりの目で口を開く。
「あなた──人間じゃないわね?」
「えっ!?」
まずいまずいまずいまずい。
驚いた様子で目を丸くする水着美女をよそに、俺は冷や汗を流すのを必死に堪えていた。
どうやって気づかれたのかはわからないが、目の前の美少女は確信している。
少なくとも、適当に言ったわけではないはずだ。
俺の姿に不自然な点を見つけたため、こうして鋭い視線で射抜いてきているのだろう。
なんとか、誤魔化さなければ。
「にんげんって、なに?」
「そう。あくまでも、惚けるつもりなのね」
とりあえず小首を傾げてみたのだが、美少女の警戒心を上げるだけだった。
表情を冷たい色に染めながら、全身から敵意が漏れはじめている。
……正攻法では、目の前の彼女から逃れる事はできない、か。
ならば、水着美女の力を借りるまでだ。
瞳を潤ませた俺は、怯えた表情を浮かべて水着美女の方に抱きつく。
その際、胸の谷間に顔を埋める事も忘れない。
顔中に広がる柔らかさと弾力に、内心で大いに鼻の下を伸ばしまくりながら、表面上はあくまでも可愛いままを保つ。
「ひっぐ……あのお姉ちゃんこわい」
「えぇっと、よしよし。ほら、泣かないでー」
ふふふ、これでどうだ。
いくら俺を咎めたところで、女の子の涙を見られると冷静ではいられまい。
チラリと横目で様子を窺えば、冷めた眼差しでこちらを見ていた。
……なんで!?
「邪念がダダ漏れよ。それに、そっちがその気なら、私の方も考えがあるわ」
凄まじい迫力にガチでチビりそうになっていると、黒髪美少女は髪を掻きあげてため息をつく。
そして、右手を伸ばし、こちらの方に
「出てきなさい、ユンゲラー」
「ナツメさん!?」
いきなり現れたポケモンに、水着美女は唖然とした声を上げた。
また、俺は彼女のセリフを耳に入れ、口元が引き攣りそうになってしまう。
出てきた強そうなエスパーポケモンに、前世で聞き覚えのある名前、そして特徴的な黒髪美少女。
もしかしなくても、彼女はヤマブキジムリーダーのナツメだ。
ナツメを語る上で、重要な要素が一つある。
それは、彼女がリアルエスパー少女ということだ。つまり、彼女の超能力にかかれば、俺の邪な心を見抜くなんて朝飯前だろう。
実際に、俺の下心を読まれてピンチになっているのだから。
なんて、考えている場合ではなかった。
このままでは、俺はユンゲラーの“ねんりき”でボコボコにされかねない。
慌てて水着美女から離れて飛び退いた直後、水着美女に当たらない絶妙な位置取りで、先ほどまで俺がいた場所に水が高速で落ちてきた。
「意外と素早いわね」
「な、なにするんだよ!」
「あら、さっきまでの可愛らしい口調はどうしたの?」
「はっ!」
冷笑を浮かべて告げるナツメの言葉に、口元を押さえるも時すでに遅し。
横目でそっと水着美女を見れば、目を見開いてこちらを凝視している。
くそ、油断した。
まさか、こんなところにナツメがいるとは思っていなかった。というか、こんな早く俺の変身がバレるとは考えてもいなかった。
これ以上演技するのも無駄だと悟り、変身を解いて元の姿に戻る。
お馴染みのふよふよ状の身体になると、ナツメが感嘆した様子で眉尻を上げた。
「なるほど。あなたはメタモンだったのね。相手がポケモンだったのなら、話は早いわ。ユンゲラー、ちょっと懲らしめてやりなさい」
ナツメがそう言うが否や、“へんしん”しようとしていた俺は身体が動けなくなってしまう。
ジタバタと暴れるのだが、この見えない拘束が外れる様子はない。
これは、ユンゲラーの“ねんりき”だろう。
仮にもジムリーダーのポケモンだ。たかだかオツキミヤマで特訓していたくらいでは、この強固なエスパー技を跳ね返す力があるわけなかった。
だからと言って、このままむざむざとやられるつもりはないが。
「もうおしまい? 上手く変身していたから期待していたのだけど、残念だわ」
「ちょっと、ナツメ! なにプールでポケモンを出してるのよ! 出すなら水ポケモンにしなさい!」
失望した様子で髪を耳にかけたナツメの元に、新たな美少女がやってきた。
彼女の側にはスターミーがおり、恐らく彼女はハナダジムリーダーのカスミだろう。
カスミが怒ったように近寄ってきたためか、ナツメの注意が俺から微かに逸れる。
今が、チャンス!
釣られて意識を揺らしたユンゲラーに気づいた俺は、渾身の力を振り絞り“ねんりき”から脱出。
直ぐにみっともなく転がり、少しでも相手からの距離を開ける。
「なにしてるの! もう一度捕まえなさい!」
その様子を捉えたナツメが指示を出すが、もう遅い。
俺は既に“へんしん”の準備が完了し、その身体を変えていく。
不定形だった姿を、ヒトデ型のスターミーへと。
「あれは……わたしのスターミー!?」
「あれはメタモンの変身よ。あなたが声をかけるから、面倒な事になったじゃない。まあいいわ。相手がスターミーになったとしても、それを倒せばいいだけ。蹴散らしなさい、ユンゲラー」
ナツメの声を聞き、スプーンを持つ手を突きだすユンゲラー。
相変わらずのエスパー技だが、俺を先ほどと同じだと舐めない方がいい。
メタモン時とは違い、圧倒的に素早く動く身体を駆使して、感じ取れる波動を回避。
スターミーが持っている、エスパータイプのおかげだろうか。なんとなく、ユンゲラーが使う“ねんりき”の軌道を読み取れるのだ。
これならば、ナツメのユンゲラーも倒せるかもしれない。
余裕を持って躱した俺は、プールに飛び込み水面から“みずでっぽう”を放つ。
そんな俺達の始まった戦闘を見て、ジムトレーナー達は悲鳴を上げて離れていく。
「ユンゲラー、逸らしなさい!」
ナツメの指示通り、ユンゲラーに向けて飛ぶ水が横に流れた。
同時に、ユンゲラーの瞳が光り、こちらの方へと虹色の光線を撃ってくる。
慌ててプールの中に潜って避けたあと、再び水面から“みずでっぽう”。
しかし、何故か“みずでっぽう”は発動しなかった。
「ユンゲラー、今のうちよ」
ユンゲラーは混乱している俺を“ねんりき”で掴み、プールサイドへと投げ飛ばす。
そして、無防備な俺めがけ、“サイケこうせん”で攻撃。
逃げる場所が空中でないため当たってしまい、身体中に激痛がほとばしる。
「──」
今は人間ではないので声が出ないが、本当だったら叫び声を上げたい。
前世では絶対に喰らわないような、心の中にまで入り込む恐ろしい痛み。
身体はまだ戦えるが、今の鋭い攻撃で精神が折れかけていた。
「……どうやら、これまでのようね」
ナツメの声が、遠くから聞こえる気がする。
薄れゆく意識の中、俺の心は二つの想いで占められていた。
こんな理不尽な目に合わなければいけない怒りと、手も足もでなかった自分の情けなさで。
自業自得だとはわかっている。
そもそも、百合百合したいと思わなければ良かったのだし、こんな人がいる場所に行くのは、いまだにポケモンになりたての弱い自分では自殺行為だ。
大人しく修行を重ね、強くなってから野望を果たせば良かったのだろう。
しかし、そんなのはただの逃げだ。男ならば、できる時にやり、少しでも早く己の欲望を満たすべきではないのか。
美少女と百合百合したいけど、バレてボコボコにされるのが怖い?
逆に考えろ、美少女からの攻撃はご褒美だと。
なんだか、身体が楽になった気がする。
これもナツメからの愛のムチだと思えば、まだ頑張れるかもしれない。
震える身体を動かして立ち上がり、真ん中の部分をピコピコ光らせる。
「ふぅん。思ったより、根性はあるみたいね」
「それで、どうするの?」
「もちろん、倒すわよ。やりなさい、ユンゲラー!」
スターミーが覚えている技は、変身してから本能でわかっている。
身体から“スピードスター”を撃ち放ち、ユンゲラーへの牽制に使う。
直ぐに“サイケこうせん”で落とされてしまったが、その間に俺は“こうそくスピン”で縦横無尽に駆けていく。
ユンゲラーの周囲を回り、狙いを絞らせないように惑わせる。
「落ち着いて対処しなさい。あなたならできるわ」
ナツメがそう告げるも、ユンゲラーは忙しなく顔を動かしていた。
たしか、ユンゲラーは物理に弱かったはず。だから、狙うならば近距離攻撃──
「っ! ユンゲラー、後ろよ!」
ユンゲラーが完全に見失った瞬間、俺は囮に“スピードスター”をばら撒く。
同時に、今なら使えると確信した“みずでっぽう”を後ろに放ち、即席の推進剤に変える。
そして、ナツメの声で振り向いたユンゲラーの腹へと、“こうそくスピン”。
俺の攻撃は初めてまともに当たり、ユンゲラーを勢いよく吹っ飛ばした。
「ユンゲラー!」
慌てた足取りでナツメが駆け寄ると、ユンゲラーは頭を振って立ち上がる。
しかし、微かにふらついているので、急所にでも入ったようだ。
とはいえ、いまだに戦況はこちらが不利。
今の攻撃で削れた体力は、良くて四割ほどだろう。
先ほどの手はもう使えなさそうだし、これは下手すれば詰んだかもしれない。
まあ、諦めて大人しくやられるつもりは微塵もないが。
いつでも動けるよう警戒していると、こちらを見たナツメが口角を上げた。
その表情は先ほどまでの落胆した色はなく、どこか熱が篭った赤色に包まれている。
「ふふっ、いいわ。さっきの言葉は訂正してあげる。トレーナーの指示もなく、そんな戦い方するあなたは面白い。あなたに興味が出てきたわね」
色気が含まれているが、それ以上に恐ろしい笑顔に身の毛がよだつ。
思わず一歩下がった俺を見て、ナツメは笑みを深めていく。
「ユンゲラー」
そう告げた瞬間、阿吽の呼吸……いや、意志の疎通なしでユンゲラーが動く。
瞳を光らせて手を突きだし、“ねんりき”で俺をがっちりと包み込む。
そして、目の前まで引き寄せると、至近距離から“サイケこうせん”を放つ。
当然避けられはずもなく、俺は呆気なく戦闘不能となり身体がメタモンに戻ってしまう。
「ふぅ……」
「うわぁ、本当にメタモンだわ。それで、この子をどうするの?」
暗くなっていく意識の中、遠くの方でカスミとナツメの声が聞こえる。
このまま、俺はどうなってしまうのだろうか。
前世であった保健所のような場所に連れられ、殺処分されてしまうのだろうか。
逃げたいけど、もう身体は動かない。
「ふふっ。この子は私に任せて」
最後にナツメがそう言ったのを最後に、俺の意識は深く沈み込むのだった。
♦♦♦
「起きなさい」
ナツメの声を聞き、意識が戻っていく。
目を開いて辺りを見回すと、そこは先ほどまでとは違う見知らぬ部屋だった。
椅子に座って頬杖を着いているナツメを見て、視線でここがどこなのか尋ねる。
「ここは私の家よ。なんで、ここにあなたがいるのかって? それは……これ」
微笑を零してテーブルの上にある物を持ち、指の上でくるくると回す。
特徴的な赤と白のそれは、どこからどう見てもモンスターボールだ。
なんとはなしに見ていたのだが、不意に嫌な予感を覚えてしまう。
メタモンである俺と、ナツメが持つモンスターボール。
別の表現では、ポケモンとトレーナー。
つまり──
「その様子だと理解したみたいね。そういうわけで、あなたは今日から私のポケモンだから」
嘘だろ……。
ナツメの言葉を聞いた俺は、全身をふにゃふにゃにさせて崩れ落ちた。
美少女トレーナーと百合百合したいと思っていた。思っていたのだが、よりにもよってエスパー少女であるナツメだとはまったく予想してなかった。
というか、先ほどの戦闘の影響で、彼女には結構な苦手意識がある。
あの時のやり取りから、ナツメが俺の野望を知ったらお仕置きしてきそうだ。
私のポケモンになったのに、そんなバカらしい事を考えているのかしら、と。
このままでは、美少女と百合百合できないままになってしまう。
絶望して倒れている俺を見て、ナツメは優雅に足を組んで微笑む。
「あなたの戦い方は磨けば光りそうなのよ。その変身能力を生かして、様々な対応をできるように鍛えてみたいのよね。ついでに私のユンゲラー等に変身して貰って、挑戦トレーナーと戦わせるのも面白いかしら」
顎に指を添えて今後の予定を話すナツメを尻目に、俺は密かに決意を固めていた。
どうにかしてナツメのモンスターボールを壊し、再び自由の身になってやる、と。
それに、現状は悪いことばかりではない。美少女トレーナーと百合百合は叶わないが、ナツメだって美少女だ。むしろ、そこらの美少女より綺麗な、凄まじい美少女である。
そんな彼女のポケモンになれたのだから、見方によっては運がいいとも言えるだろう。
ナツメの姿になって百合百合するのも良し、他の美少女になってナツメと百合百合するのも良し。
そう考えると、なんだか気が楽になってきた気がしなくもない。
何事もボジティブに考えれば、意外となんとかなるものだ。
ナツメの方を見上げると、黒ストッキングに包まれた足が視界に入る。
プールで見た生足も良かったが、ストッキング姿も素晴らしい。
つま先をゆらゆらと揺らしているその動きは、もしかしなくても俺を誘っているのではないか。
足を組み替えた今も、俺を誘惑しているのではないだろうか。
その素敵な足に飛び込むか悩んでいると、身体に鋭い痛みが走った。
思わず倒れて痙攣する俺に、呆れた様子のナツメが声をかける。
「あの時も言ったでしょ。あなたからは、邪念が漏れているって」
そんな事を言われても、これは俺の本能なので仕方がない。
むしろ、そうやって誘っているナツメの方が、いけないのだと思う。
開き直ってドヤ顔になれば、そんな俺の変化を雰囲気で感じたのか。
額に手を当ててため息をついたナツメが、口元にSっ気を滲ませた笑みを作った。
「一度、その性根を叩き直す必要がありそうね」
いらない。
俺は一人の男として忠実なだけで、叩き直す性根とかまったくない。
だから、大丈夫。ナツメはただ、俺を解放してくれればいいから。
「とりあえず、ジムトレーナーのサンドバ……組手に付き合って貰おうかしら」
本能が危険だと悟ったのか、いつの間にか身体が勝手に動いていた。
今までで一番速く“へんしん”を発動し、オツキミヤマの麓で戦ったコラッタに変身。
四足歩行特有の動きで地を蹴り、ナツメの足元を通って前方にあるドアに向けて走る。
先ほどの言葉は、前言撤回だ。
今すぐこんなところから逃げて、俺は自由になる。
なにが悲しくて、トレーナー達にボコられなければいけないのか。
汗臭い青春は、いりません。
「逃げられると思ってるの?」
しかし、俺の動きはナツメに読まれていたようで、呆気なく超能力で捕まってしまった。
ボールから出てきたユンゲラーにも睨まれ、渋々元の場所に戻る。
お座りして項垂れている俺を見て、ナツメは楽しげに呟く。
「あなたは今まで見たポケモンにもなれるのね。これはますます鍛えがいがありそうだわ」
墓穴を掘った。
コラッタになってしまったせいで、この後の訓練が更に過酷になりそうだ。
これ以上辛くならないため、大人しくしていよう。
それから、俺はナツメに素直に従い、ジムトレーナーがいる場所に行くのだった。
相手のポケモンとなってミラーマッチを繰り広げたり、戦闘中に色々なポケモンになって対応力をつけたり、ひたすら“へんしん”して変身精度を上げたり。
強くなった実感を持てて嬉しい反面、きつい扱きにひーひー言うのだった。
♦♦♦
こうして、俺は自分の野望を果たす事なく、ドSなエスパー美少女のポケモンになった。
ジムトレーナーの可愛い子と話せて嬉しいが、やはり俺は野生のポケモンとして気ままに百合百合したい。
とはいえ、ナツメに捕獲されてしまった以上、今は牙を研いで潜伏する時だ。
いつの日かナツメを出し抜いて、自由の身になってみせる。
ついでに、今までのお礼にお返しもたっぷりとしてやろう。
「ふぅん。邪念を感じたから来てみたら、なにやら良からぬ事を考えていそうね。これはお仕置きね」
あ、やばい。
冷たい笑みを浮かべるナツメを見て、瞬時にケーシィに変身。
慌てて“テレポート”しようとしたが、あえなく捕まってしまう。
そんな俺達のやり取りに、ジムトレーナー達は微笑ましそうな様子だ。
みんな黙って見ていないで、俺を助けてくれ!
人に変身するのはナツメに禁止されているため、ジェスチャーで伝えるしかない。
まあそれも、ナツメに捕まったせいで、まともにできないのだが。
結局、いつも通り俺の懇願は伝わらず、ナツメに扱かれるのだった。
そんなこんなで、俺の新たな日常は過ぎていく。
これはこれで刺激的で楽しいが、もう少し潤いが欲しいのが正直なところ。
とはいえ、充実しているので、ある意味では良かったのかもしれない。
これは、そんな風に思う前世人間の俺と、俺の百合百合野望を阻止するナツメとの物語。
「あら、まだまだ余裕がありそうね。だったら、今日の組手は更に追加ね」
いつか、こんな鬼畜な場所から抜け出してやる!