【完結】魔法少女リリカルなのは ーThe Ace Chronicleー 作:春風駘蕩
ちなみに、私が手がけたライダー少女としては最も先輩に当たります。
0.ある物語の結末
頬を叩く雨粒がこれほどまでにありがたいと思ったのは初めてだった。
数分前から降り始めた豪雨はまさにバケツをひっくり返したという表現がぴったりなほどの規模を誇っていて、何の備えもしていなかった自分はあっという間にずぶ濡れになってしまった。癖が強くボリュームがあり、獅子のようだと自他共に言っていた金色の髪は雫を滴らせ、自然と重く顔を俯かせる。制服は上も下も水が染みて重く肩にのしかかり、内側のシャツはベッチャリと肌に張り付いて気持ち悪くこの場で何もかも脱ぎ捨ててしまいたくなるような衝動に駆られる。
いや、実際に解放されたかった。この身の内で渦巻くある者達への嫌悪の感情から、両肩にのしかかった重責から。持っている全てを何もかも捨てて、生まれたままの姿でここから逃げてしまいたかった。
ズシリと心が重い、胃がムカムカして吐き気がする。課せられた使命が枷のように自分を縛り、目指す場所へ向かって踏み出す足を鈍いものに変える。雨音に混じって嫌な音が聞こえる、何かが軋みをあげ壊れかけているような耳障りな音が聞こえる。
だが、もうその音の正体も出所はわかっている。この軋みは、自分の心があげ続けている悲鳴だ。自分の中の悲しみが、怒りが、あらゆる感情が怒涛の勢いを以って荒れ狂い内側から膨れ上がり自分の心を強く圧迫しているのだ。
すると、それとは別に耳障りなノイズが自分の耳に届き、顔をしかめながらそういえば自分で念話を拒否していたなと思い出してジャミングを外す。
『━━━アイン‼︎ 応答して、アイン‼︎』
聞こえてきた親友の悲鳴じみた声に、アインと呼ばれた幼さの残る顔立ちをした若い女性は眉間の皺を深くする。冷めきっていた脳に直接甲高い大音声を叩きつけられ、先ほどから抱いていた自分への苛立ちが嫌でも増長させられる。
しかしアインはその感情を押し殺し、焦燥しているであろう親友に無愛想に応えた。
「…………デカイ声で騒ぐな。通じているよ、リンディ。……すまないな、私の我儘に付き合わせて」
『っ…………、謝るのは私の方よ。結局私にできたことといえば、少しの時間稼ぎだけ……でももうこっちは保たない。“奴ら”はもう私達の…………人間の手に負える相手じゃないわ…………‼︎』
「……十分さ。おかげで━━━こっちもようやく覚悟ができた」
アインの呟きに、念話の向こうからぐっと息を飲む声が聞こえた。きっと向こうで彼女はお人好しにも真剣に親友のために深く悩み、表情を歪めているのだろう。非情な決断を迫られる組織の歯車の一部となるにはまだ彼女は若すぎ、真正面から責任を重く受け止めてしまっている。
嗚咽を漏らしながら、リンディは念話越しに涙声で何度も謝罪の言葉を繰り返す。
『………ごめんなさい、アイン……。貴女の気持ちはわかっているはずなのに、私は……私は…………‼︎』
「……泣くな、友よ。お前はもう十分私に時間をくれた。……十分、共に戦ってくれた」
まるで我が事のように泣く親友に呆れたように苦笑しつつ、アインは決してつられまいとぐっと唇を引き結び決壊しそうな感情を必死に覆い隠す。
もう、これ以上彼女に迷惑はかけられない。これ以上彼女に背負わせようものなら、きっと彼女は限界を迎えて心身ともに壊れてしまうだろう。自分のために親友がそんなことになることだけは、耐えられなかった。
そんなことになるなら、いっそ自分が傷ついた方がいい。
「…………ありがとう」
短く答えるとアインは一方的に念話を切って天を仰ぎ、長く深いため息をつく。何度彼女には迷惑と心配をかけたことか、もはや数え切れない。その半分以上が自分の無茶の尻拭いであることを考えると、彼女には申し訳なくて思わず苦笑が漏れる。
いつも自分はこうだ。一人で戦うと決めたはずなのに孤独には耐えきれず、行く先々で人を巻き込んで危険な目に合わせて、挙句何度も大切なものを失わせて。人が自分を死神と呼ぶのも納得だ。ただ存在するだけで人に不幸を、周りに悲しみを呼び寄せる、近づきたくない人間。
これで、終わりでいい。もうあの子を巻き込む必要はない。
こんな女には、一人がお似合いだ。
その時だった。ギチギチと牙を鳴らして、怖気を呼ぶ唸り声を上げる黒い蟲の異形が通りの角から何十体も姿を現したのは。
長い触角に薄く大きな羽、緑の複眼に節くれだった四肢と外殻を持つその異形は、一般家庭のどこにでも出没しそうな黒い昆虫に似た姿をしていた。外殻は戦士の鎧にも似た見た目であり、腕も二本だけであるものの、気味の悪い昆虫が二足歩行で蠢くその様はより嫌悪感を沸き立たせる。数の多さも、並の女性の嫌悪感を沸き立たせる要因の一つとなっていた。
ダークローチと呼ばれるその異形━━━世界を終焉に導くべく生み出された破壊の使徒は、先だけが緑色の手を蠢かしてアインにジリジリと迫って行く。目の前にいる一匹の「餌」を喰らおうと牙を剥き、鋭く研ぎ澄ました牙と爪を見せびらかして少女を脅していた。
だがアインは、微塵も表情を変えずその異形たちを見やった。悲鳴をあげてもおかしくはない状況で、氷のような無表情で異形の集団を見つめている。
異形たちに向けられたその口が、ハッと嘲笑の形に歪んだ。
「……………………もう、涙も枯れたな」
アインは気だるげにそう呟くと、懐に手を差し入れて内ポケットから何かを掴み取り、だらりと手を下げて取り出す。鋼鉄製の箱のようなそれを豪雨の中に晒しながら、次いでスカートのポケットに手を突っ込んで一枚のトランプカードに似た札を抜き出し、箱の前面のスリットに挿入して箱を自身の腰の前面に当てる。
すると、箱の片方から赤いカードのようなものが何枚も連なって噴き出し、アインの腰を一周して箱の反対側へとつながり一本のベルトへと変貌する。
アインは左手をベルトに添え、右手を自身の左前方に伸ばすとスッと目を閉じる。黒い異形を前にしながら豪雨の中佇むアインは、カッと目を開いて伸ばした掌を反転させた。
「━━━変身」
【
ベルトに添えた手がレバーに似た部分を引っ掛けて、野太い声が響くと同時にベルトの全面が展開し、カード部分がひっくり返ってスペードの紋章が現れ、アインの目の前にベルトから放たれた青い半透明の壁が展開する。中心に大きく一本角の甲虫の全身像が描かれた角が丸い長方形━━━先ほどベルトに挿入したトランプのような形状の壁が、青色を揺らめかせながらアインの前に浮かんでいた。
アインが唇を噛み、生じた傷口からジワリと血を滲ませながら一歩足を踏み出して浮遊する壁に身を重ねると、ぐにゃりと粘土のように壁が歪んでアインに纏わりつき、形を変えて融合する。奇怪な壁は一瞬で形どころか材質まで変わり、通り抜けたアインの体を覆う甲冑と戦闘服を生み出した。
身に纏う藍色のスーツは首のチョーカーから広がり大胆に肩と背中を晒す形状で、足の付け根までだけを申し訳程度に覆い、同じ色の指が抜かれたロンググローブとハイソックスが残る肌を隠す。さらにその上に何かの革製のジャケットが纏われる。胸と腰を覆い、スカートのように下に伸び、白いラインの入ったそれは前面が邪魔にならないように切り取られている。
胸を覆う銀色の鋼鉄のプレートアーマーは分厚くアインの胸を締め付け、両手両脚を覆う装甲はトランプを重ねたデザイン。鳩尾の装甲には、カードと同じ甲虫のエンブレムが刻まれている。
顔には縦方向に伸びた菱形の面頬が装着され、両の頬にも防具が備わる。目の下を覆うそれには、まるで涙を流すかのような模様が描かれている。
白銀と群青の鎧に身を包んだアインの目が赤く光り、豪雨の中に灯る。 ゆっくりと上がって行くアインの顔。その目は、静かな怒りに燃えていた。
「…………失せろ、畜生共」
バリィッ、と青い稲妻が彼女の金色の髪に迸る。
自然の雷と同等の威力を誇る雷の魔力が唸りを上げた瞬間、本能的に危機を察知した黒蟲兵はすぐさま殺気を放って走り出した。
ここにいるのは餌ではない、敵だと認識したのだ。
「キシャアアアアアアアアア‼︎」
「ゴァアアアアア‼︎」
咆哮とともに、黒蟲兵はアインに襲いかかる。
幾体もの異形が各々の凶器を振りかざして向かってくるにも関わらず、アインは緊張も狼狽もしない。おもむろに腰に下げた剣の柄に手をかけ、銀の刃に金の荘厳な装飾が施された刀身を露わにしていく。
切っ先を下げたアインは異形たちを見据え、ゆっくりと足を踏み出した。バチバチと刀身にも青い稲妻が走り、電灯のようにあたりを青く染め上げる。
「━━━ウェエエエエエエイ‼︎」
咆哮とともに放たれた、残像を刻むほど凄まじい一閃。
それは一瞬で、アインに迫っていた黒蟲兵の数体をまとめて真っ二つに切り裂いてしまう。まさに雷速の剣技で、異形の集団を次々に屠ってしまった。
上下に、左右に切り裂かれた黒蟲兵はぼとぼとと苦しみ悶えながら落下し、悲鳴をあげてアインを睨みつけるも、傷口からほとばしった雷撃によって断末魔の絶叫へと変わった。高エネルギーの一撃を全身に受けた異形は黒く焼けていき、端からボロ炭となって崩れ消滅していく。
だがそれで終わりではない。きっと目を鋭く尖らせたアインはまだ残っている異形たちを睨みつけ、剣により大きな雷電を走らせる。
異形たちもこれには耐えられないと察したのか、もはや敵どころか敵う相手ではないと脇目も振らずに逃走を開始する。
「サンダー……レイジ‼︎」
アインはそれを決して逃さない。纏わせた雷を剣の形へと変え、逃げ去っていく黒蟲兵の背中に向かって振り下ろす。
放たれた刃は巨大に膨れ上がり、強烈な熱と光を持って異形たちを飲み込み完全に消し飛ばしていく。曇天が昼間の日向のように照らし出され、降り注いでいた雨粒が余波を受けて蒸発させられる。
後に残ったのは、地面に黒く残った電撃の跡としゅうしゅうと湧き立つ煙、黒蟲兵がいたとわかる僅かに白く残った部分だけだった。文字通り跡形もなく、アインに襲いかかろうとした異形たちは容赦なく消し飛ばされてしまった。
「…………」
アインは剣を振り下ろした体勢のままじっと虚空を見つめ、やがてブンと得物を振ってから地面に突き立てた。
すると視界の端で、僅かに物音がした。みれば片足が吹き飛ばされたダークローチが物陰に隠れていて、アインからなんとか逃れようと身を潜めている。はっきり言って丸見えだったが、パニックになっているらしい手負いのダークローチはまるで気づかない。見てくれなど関係なく、ただただ必死に逃げようとしていた。
アインはその情けない様を見やると目を細め、剣を抜いて近づいていく。異形は諦め悪く、片足で必死に体を引きずり敵から距離を稼ごうと這うようにして逃げ続ける。
その姿に、抱く感情など微塵もない。恨むなら恨めばいい、憎むなら憎めばいい。もうここへは、何をしてでもあいつの元へと向かう覚悟を決めて来たのだ。
「逃げるな。……手元が狂う」
アインは残った敵を斬り捨てようと、剣を高く掲げてゆっくりと歩み寄っていく。せめて痛みがないよう一太刀で決めてやろう、といっそ慈悲深く刃を振り上げる。
だが、唐突にその必要は無くなった。
逃げていた異形が何者かに貫かれ、背中から一本の刃が生えたからだ。一瞬のことに異形は対応できず、ビクンと体を震わせて動きを止めてそのまま項垂れる。
ずるりと異形の体が崩れ落ちるとそのまま塵となって消滅し、雨粒の中に紛れていってしまう。
異形がいなくなったことで露わになった何者かにアインは一瞬だけ目を見開くも、やがてその何者かの正体を特定し皮肉げな笑みを浮かべた。
もう少し、奴らの相手をしていたかった。そうすれば、決着を長引かせる言い訳も、結末から今しばし目をそらす言い訳もできたというのに。
「…………探す手間が省けたよ、始」
アインは内心悔しげに表情を歪め、目の前に現れた存在に向かってそう呟いた。
現れたのは、真っ黒な鎧に身を包んだ異形だった。ダークローチに似た姿であるようにも見えるが、明らかに格が違う。
長い触角はより太く、右の肩のみが異常に伸びた鎧はさらに固く鋭い。緑色の肉体はさらに毒々しく、胸の中心で輝く光は不穏に脈動している。顔は骸骨のように恐ろしげな風貌であり、その上には体と同じ色の透明な仮面のようなものがかぶさっている。両腕に生えた鋭い鎌からは、黒蟲兵の血液らしき緑色の液体が滴っている。
「…………やはり、お前が来たか。ケンザキ」
カミキリムシに似た異形、何者の祖でもない
人間の喉からは出せるはずのない、無数の声が混じったようの不気味な声でアインに語りかける。だが、不思議と目の前の異形からは恐怖は感じなかった。見るのもおぞましい凶悪な外見であるはずなのに、アインの中に異形に対する恐怖心は微塵もなかった。
「……始」
女騎士は初めて表情を歪ませる。悲しげに、苦しげに眉を寄せ、異形を凝視する。
ギシッと歯を食いしばり、必死の表情を浮かべてアインを凝視する。
「こんな未来に繋がる前に……、こんな結末を迎える前に……他になかったのか⁉︎ 私たちにはっ……もっと、選べる未来があったはずじゃないのか…………⁉︎」
「……それは、あまりに傲慢な問いだぞ。ケンザキ」
ジョーカーアンデッドは厳しい口調で、しかしどこか哀れむような声でアインに語る。
「俺たちは所詮、ゲームの駒だ。俺という存在がここにいるだけで、人類の敗北は決定してしまっている。……それを防ぐためには、俺を封印する他にない」
「ッ…………」
アインは唇を噛み締め、俯く。
わかっていた。そんなことは。
わかっていて、これまでずっと見ないふりをしていた。この優しい異形を失いたくなくて、奪わせたくなくて、ずっと戦うことをためらってきた。
そんなことに周りの者たちが納得するはずもなく、なんども仲間たちとぶつかった。彼を傷つけさせまいと、自らが仲間たちの敵に回ったことさえあった。傷つけたくない者たちだったはずなのに、自分で全て壊す寸前まで至ってしまった。
結果を見れば、誰も失わずに済んだ。だがその決断ののちに至った今のこの状況は、最悪というにふさわしかった。
そうだ。こんな状況になったのは、全部自分の弱さが原因だ。
「ケンザキ、これは
「…………嫌だ嫌だと駄々をこね、問題を先送りにしていた罰か、今のこのザマは」
雨雲を仰ぎ、アインは両目を手のひらで覆ってため息をつく。この惨状は他の誰でもない、自分自身が引き起こしたものだということだ。情けなくて涙が出る。
「…………うまくいかないな、何事も」
「…………そうだな」
力なく笑うと、頬を何か熱いものが伝っていく。何度目だろうか、この豪雨に感謝しそうになるのは。
今ならきっと、どんなに涙を流したって誰も気付きはしないだろう。たとえそれが、目の前にいるかの男であっても。
「━━━決着をつけよう、始……いや、ジョーカーアンデッド」
そう言い、アインは左腕に新たなデバイスを装着した。剣のホルダーを展開してカードの中から一枚━━━二頭の山羊が円環を描くQと♠︎のマークが入ったカードを抜き取ると、左腕のデバイスにセットする。
【
ベルトと同じ低い男性の電子音声が響き、デバイスが起動する。アインはついでもう一枚の━━━三本角の甲虫が描かれたKのマークが入ったカードをデバイスに刻まれた溝に切り裂くように読み込ませた。
直後、彼女のデバイスが青電を走らせ、眩い光を放った。
【
アインの体を、金色の光が包んでいく。ベルトから13枚の光が飛び出し、彼女の両肩、二の腕、足、そして胸に重なって新たな鎧を構成する。体の各所に13体の獣のレリーフが飾られた鎧を纏い、腰からは黒い生地に金の刺繍の入った腰布がはためく。インナーもバリアジャケットも黒く染まり、高貴な金のラインが入ったものへと変わる。
不意に横に伸ばした彼女の手に、一筋の光が灯る。大きな刃に、赤いラインの入った彼女の身の丈すら越えるほどの巨大な剣。明らかに女性の力では持ち上げることすら困難なはずのそれを、アインはまるで木の枝でも振り回すようにして持ち上げ、地面に深々と突き立てる。
これこそが彼女の持つ、王の力。
目の前の全ての敵を滅ぼす最強の力。
本気だった。本気でアインは、目の前の男を殺す気でいた。
「うおおおおおおおおお‼︎」
まるで獣のような雄叫びと共に、アインは巨大な金色の剣を振り回し、ジョーカーアンデッドに斬りかかる。足を踏みしめると同時に、コンクリートの地面は爆発でも起きたかのように陥没し、破片が木の葉のように吹き飛んでいく。
しかしジョーカーアンデッドも右腕の鎌を振るい、アインの剣撃を受け止める。渾身の力で振るわれた斬撃はジョーカーアンデッドをわずかに後退させるだけで止められ、二人の間で生じた衝撃が雨粒を吹き飛ばして空間を作り出す。
全ての音が、消える。
騎士と異形。二つの存在しかいない世界で、鋭い刃が互いに軋みを上げてぶつかり合う。互いの力は完全に互角、完全に拮抗したまま刃が火花を散らし、嫌な金属音が響き渡る。
金属音の余韻が響き、次いで巻き上げられていた雨粒が一気に両者の頭上に降り注ぐ。アインとジョーカーアンデッドは一瞬で水浸しになり、轟音の中に包まれる。
「━━━ァアアアアア‼︎」
アインは全力で大剣を振るい、ジョーカーアンデッドの鎌を振り払う。そして再び剣を振るい、バランスを崩したジョーカーアンデッドの首を狙う。
ジョーカーアンデッドは左腕の鎌を振るって弾き、反対にアインの懐に入って右腕で斬りつける。アインは籠手でそれを防ぎ、上から押さえつけてジョーカーアンデッドの動きを制限させると振り上げた大剣を振り下ろす。
一瞬の不意をつき、ジョーカーアンデッドはアインの腹に向かって蹴りを放ち、女騎士の斬撃を躱す。アインは水たまりの中に転ばされるも、飛沫を上げて転がるようにして立ち上がる。
時間にしてわずか数秒。その間に、何度も致命傷となりうる一撃が加えられ、何度も防がれていた。
豪雨の中、異形と騎士の振るう刃が火花を散らし、曇天の中を明るく照らし出す。守り続けた想い、望んだ願い、抱いた祈り、自らが望んだそれら全てを無にする戦いを続け、アインの心はもうボロボロに傷つき疲弊しきっていた。
「うっ…………うああああああああ‼︎」
泣き叫んだアインは右腕で大剣を振り上げ、左手の中に5枚のカードを召喚する。金色に彩られたそれらを、一枚ずつ大剣の柄部分についたギミックの中に挿入していく。
【
5枚のカードが大剣の中に取り込まれ、「役」が揃う。切っ先を頭上に向けて大剣を掲げたアインは、柄を両手で持って構える。その途端、鎧のレリーフが金色の光を放ち、大剣の刃に吸収されるように重なって収束していく。
【
数々の敵を屠ってきた、黄金の騎士の最強の奥義。
その全てを、アインは目の前の異形へと向ける。
「ジョォォォォォカァァァァァァァアアアアアアア‼︎」
「ガァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアア‼︎」
眩い金色の光沢を放つ13の異形の力と一体化した王の鎧を纏った少女と、何者とも交わらぬ唯一の存在たる黒く醜い怪物。出会った時から、道が交わった時から戦う
究極の破壊の力、金と黒の光を纏った二つの刃が激突し、焔が爆ぜ、混ざり合いそして。
あらゆるものが、金色の光に包まれていった。