【完結】魔法少女リリカルなのは ーThe Ace Chronicleー 作:春風駘蕩
1.かけがえのないもの
「い―――かげんにしなさいよっ⁉︎」
生徒たちが登校し始めたばかりの朝の教室に、たまりにたまった怒りを弾けさせた少女の声が響き渡った。
誰もがびくっと肩を揺らし、声の主であるクラスの華の方を凝視する。多少気の強い発言はたびたび耳にしたことはあるが、ここまで本気で怒った彼女の声を聴いたことのある生徒はこのクラスにはいなかった。
しかしその怒号を真正面から受けた少女は、ただ驚いただけで、なぜそんな土器を受けているのか全く分からないというような様子だった。
「え、えっと……」
「ア、アリサちゃん……?」
言葉を失うなのはのすぐそばで、アリサとともになのはに話しかけていたすずかも戸惑い、眉間にしわを寄せてなのはを睨みつけているアリサを躊躇いながら呼ぶ。
「えっとじゃないわよ! ここ最近、何を話しても上の空でぼーっとして……!」
アリサの指摘になのははハッとする。
最近、例の少女に対抗できるようになるために魔法の練習量を増やし始めたのだが、夜は遅くまで、朝は兄たちが起きる少しあとぐらいにと時間を確保し、フラフラになるほどに練習を続けていた。そのせいで日中についつい意識が手元を離れるようになってしまっていたのだ。
ユーノやアインには止められていたが、自分がやりたいと決めたことだからと強行し疲労や寝不足が重なってしまっていた。
しかしそんな事情は知らないアリサは、友達にないがしろにされているような寂しさと悔しさを感じていたらしく、それが募り積もった結果爆発してしまったらしい。
「ご、ごめんねアリサちゃん」
「ごめんじゃない! あたしたちと話してるのがそんなに退屈なら……一人でいくらでもぼーっとしてなさいよ‼︎」
さすがにまずいと思ったなのはが謝ろうとするが、言い訳にしか聞こえないアリサは涙目でなのはの前から歩き去っていく。おろおろと戸惑っているすずかを置いて、溢れ出る涙をぬぐいながら教室の外へ飛び出して行ってしまった。
「行くよ、すずか!」
「アリサちゃん……!」
呼ばれたすずかはどうしようかと迷うが、同じ思いを抱いていたのは確かなようでなのはとアリサが走っていったほうを見比べる。
なのはは伸ばしかけた手を下ろし、すずかを落ち着かせるために微笑を浮かべる。無理矢理感情を押し殺した、悲痛な笑みになってしまったが、この痛みは甘んじて受けなければいけない、と。
「なのはちゃん……」
「……ん、大丈夫。アリサちゃんのところに行って。今のは、なのはが悪かったから」
「……少し、アリサちゃんと話してくるね」
なのはに促されたすずかは一瞬迷うも、なのはがうなずくときゅっと唇を引き絞ってうつむく。
そして迷いを振り払うように首を振ると、遠くなってしまったアリサを追って自分も駆け足で教室を後にする。
「アリサちゃん、待って……!」
ぱたぱたと遠くなっていく足音を聞き届け、なのはは自分の席に座りなおす。
すっかり静かになり、巻き添えを恐れて離れてしまったほかのクラスメイトの気まずげな視線に囲まれながら、なのはは小さなため息とともに肩を落とした。
「…………怒らせちゃったな、ごめんね、アリサちゃん……」
巻き込みたくないから黙って頑張っていたのに、それが原因で怒らせてしまった。
ジレンマに苛まれる少女は何とか平静を保とうとするも、胸の痛みでゆがんだ表情は言うことを聞いてはくれなかった。
一度生じてしまった歪みは、なかなか治ることはない。
少女たちの仲もこじれたまま、そして話す機会を得られないままずるずると放課後にまで引きずってしまっていた。
「今日は塾はないし、おけいこの時間まで余裕あるけど……なのはちゃん、今日も駄目なんだよね?」
「あ…うん、ごめんね」
眉尻を下げた申し訳なさそうな表情でなのはは謝る。すずかは困ったように笑いながらも何も聞かずにいてくれたが、アリサはムッとした表情のまま視線をそらし、カバンを背負って歩き出してしまった。
「別にいいわよ……大事な用なんでしょ?」
「……ごめん」
「謝るくらいなら事情くらい聞かせてほしいわよ」
「アリサちゃんってば……」
アリサのきつい言い方にすずかは呆れ、なのははより悲し気に表情を曇らせる。いつもは面と向かって話をしていたのに、少し目を向けられただけであとはずっとそっぽを向いたままなのがなのはにはつらかった。
「……ごめんね」
今にも泣きそうな声で紡がれた声に、アリサはぐっと何かを吐き出しそうになるのに耐える。怒りよりも、悔しさのほうが感情を占めているような、そんな苦しげな顔をなのはから隠すと、アリサはすずかの手を引いてさっさと歩きだしてしまった。ずんずんと過剰に力がこもった歩き方に、彼女の行き場を失った感情が現れていて余計に申し訳なく思う。
「じゃあね! 行くわよ、すずか!」
「ごめんね、なのはちゃん……また明日!」
「……うん、すずかちゃん……アリサちゃん。また明日」
別れの挨拶はあまりにか細く、ちゃんと届いたかどうか自信がなかった。
一人残されたなのはは無理やり笑みを取り繕うと、片づけたカバンを背負って自分も教室を後にする。
「…………喧嘩したのって、いつ以来だったかな」
それがいつのことだったかわからないほど激しい喧嘩をしていない仲良しだったのに、いつの間にか心が遠く離れていってしまった気がする。このままきずなが途切れてしまうのではないだろうか、そんな想像をすると怖くて怖くて仕方がなかった。
「ちょっと、寄り道して帰ろう」
まっすぐ帰ることを避け、少しでも落ち着く時間を稼ぐために考える。
父や母、兄や姉に今の自分の顔など、見られたくはないから。
〔……ユーノ、なのはの訓練のことだが〕
日暮れ間近の商店街を歩きながら、アインが念話でユーノを呼ぶ。背中から陽光に照らし出されたその表情は硬く、眉間によった皴が内心の苛立ちを表している。
そんな感情が伝わってしまったのか、ユーノから返ってきたのは少し暗く沈んだ声だった。
〔……僕も心配してたんです。なのは……少し、根を詰めすぎなんじゃないか、って……〕
〔以前から背負い込む癖があったとは思っていたが、今のあの子は何かしらの強迫観念に追い立てられているようにしか思えん〕
険しい顔で、なのはの危うさを思って言葉を漏らす。
その一言が気にかかったユーノは、念話越しに首をかしげた。
〔アインさん、なのはと以前会ったことあるんですか?〕
〔……少し、縁があってな〕
言いづらそうなアインの様子に、これ以上は踏み込まないほうがよさそうだと判断したあユーノは口を閉ざす。高町家とアインの間には何か深い関係があるらしいが、アインが恥か何かに思っているような雰囲気を感じるために問うことはできなかった。
〔なのはは、僕が巻き込んでしまっただけなのに……どうしてあそこまで〕
〔ユーノ。それはお前のせいではないといったはずだ。責任があるとすれば、肝心な時にまともに動けない私の方だ。……巻き込んだのは、私だ〕
それは、魔法の使用許可が下りていないことか、なのはに対して強く言うことができない自分自身に対してか。もしくはどちらもか。
〔あの子の動向に気を張っておこう。……まさかとは思うが、いつか自分で自分を追い詰めて暴走する可能性もある。いいな〕
〔……はい〕
それだけ伝えると、アインは念話を終えてため息をつく。
なのはの持つ危うさ、日常が崩壊するような異常な事態に遭遇しても動ける胆力、魔法を使いこなすために日夜を問わず鍛錬を続けられる精神力、そして、自分の日常を犠牲にしてでも立ち向かおうとする自己犠牲の精神。すべてが9歳の少女にしては異常である。
少女を子供でいられなくさせるほどの精神状態に陥っていると思うと、不甲斐なさで自分自身に対する怒りが募ってくる。
(自分が頑張らなければ、何とかしなければならない……あの日以来、そういう風に思うようになってしまったのかもしれん。……私があの時、士郎を巻き込まなければ)
ぎしぎしと掌に爪が食い込みそうになるのを必死にこらえ、アインはどこにもぶつけられない感情を持てあますのだった。
「……! 鮫島、ちょっと止めて!」
執事の運転する車の中で不機嫌そうに窓の外を眺めていたアリサは、不意にはっと目を見開いたかと思うと鮫島の座る運転席に縋りついた。驚くすずかやすぐさま止めた鮫島を他所に、アリサは歩行路に飛び出すや否や走り出した。
「ちょっと……!そこのアンタ‼︎」
その先にいたのは、ちょうどユーノとの念話を終えたアインだった。
背後から近寄ってきた少女に訝しげな眼を向ける彼女だったが、すぐに何度か顔を見たことがある相手だと思い出す。同時になぜ彼女が話しかけてくるのかと疑問に思うが、それにも心当たりがあることに気づいた。
「……君は……確かなのはの友達の……?」
聞く必要もなかったが、答え合わせのつもりで尋ねる。アリサが答えようとした時、タイミングよくすずかが息を切らせながら駆け寄ってきたため、隣に並んでアインを見つめた。
「アリサよ。アリサ・バニングス……こっちはすずか」
「つ、月村すずかです……」
「そうか。私はアインだ。……それで、何か用かね?」
先ほどまでの苛立ちを隠し、アインは二人に向き直る。鋭い視線にすずかはひるみそうになるが、アリサは気丈にもそれに耐え、キッと自ら身睨みつけるように見上げる。
「……最近、あんたと会ってからなのはの様子がおかしくなった。あんた、何か知ってるんじゃないの?」
「…………」
半ば予想していた質問にアインは目を細め、どう答えたものかと少し考える。
なのはが魔法の練習に集中するあまり他がおろそかになってしまっているのは、彼女の気質によるものでほかに原因があるわけではない。しかし事件に巻き込んでしまったのは自分の不甲斐なさによるものだし、それ以上関わらないよう説得できなかったのも痛い。さらに言えば、自分の存在が過去の彼女の自己形成に関わっているのも確かなので、無関係とは口が裂けても言えない。
道端で彼女たちを諭すには難しい、言葉を選ぶ必要があった。
「アリサちゃん……」
「何か知ってるなら、教えてよ。お願いだから」
じっと見つめてくる、アリサの真摯な目にアインは黙り込む。自分の苛立ちをだれかにぶつけようとか、だれかの責任を追及しようという意志ではない、純粋に大切な友達を思い、すがるような、そんな強いまなざしだった。
アインはどこか苦し気に顔を歪め、次いで大きなため息をついて目を伏せた。
「…………場所を変えよう。ここでは無駄に目立つぞ」
いつだって彼女は、子供の純粋な願いには甘く、弱いのだ。
「君たちは、なのはと随分深い仲のようだな」
アリサの執事に許可を取ってから、アインは二人を連れて手ごろな場所にあった喫茶店のテラスに向かい、向かい合うように席に着いた。
アリサはじっと見極めるように、すずかは警戒するようにアインを見つめる。アインが気を使って注文されたココアが二人の前に差し出されるが、微妙に距離を取って一口も手を付けなかった。
「ええ、そうよ。……出会いは、あんまり胸を張れるものじゃなかったけど」
「……そうか」
アインからやや視線をそらしながら、アリサはかつての光景を思い出す。
裕福な家庭で、他の生徒とはかけ離れた容姿をしていたアリサはなかなかクラスになじめず、孤独にさいなまれることが多かった。
そんな時、同じようにクラスから孤立していたすずかを見つけ、気を惹きたかったのか注目してほしかったのか、彼女が大切にしていたカチューシャを取り上げるという暴挙に出てしまったのだ。無論泣きながら抵抗されたが、精神的にも未熟だったアリサは自分の突飛な行動も感情も抑えられず、そしてすずかの気持ちも察することができなかった。
そんなとき、突然アリサの頬にパチンッと乾いた音は響き、次いでじんじんとした痛みが広がってきたのだ。
呆然としていたアリサは、ようやく自分の目の前で平手を振りぬいて立ちふさがっている、そして涙をこらえながら睨みつけているなのはの姿に気づいたのだ。
そのあとはもう無茶苦茶だった。頭に血が上ったアリサがなのはにつかみかかり、二人して泥だらけになるような乱闘にまで発展してしまった。後にも先にもここまで暴れたことは双方初めてで、周りの生徒もどうすればいいのかわからずに立ち尽くすばかりだった。
その後、これまで大人しい子と思われていたすずかが予想外の大声で制したことで二人はやっと止まり、だれかが知らせてきたのだろう、教師が大慌てでやってきて、三人まとめて叱られてしまった。
殴り合い、つかみ合いの大ゲンカから始まった、ようやく本音をぶつけ合える相手を見つけた彼女らの親交は、その時から始まったのだ。
「でも、あたしたちはあの子のおかげで友達になれた。あの子がいたから……ひとりぼっちじゃなくなったのよ」
「……うん。気弱で内気だった私は、あの時から変わることができました」
懐かしそうにつぶやくアリサとすずかを、アインはただ黙って見つめる。微笑を浮かべたその顔には、どこか羨ましそうな切なげな様子が見て取れる。
それも、狂おしそうなほどに。
「だからっ……何も言ってくれないのがムカつくの! 友達の役に立ちたいのに……どんなことだっていいのに……」
アリサがなのはに対して怒ったのは、それが原因だった。
無視されたことや、放置されたことが不満なのではない。我を忘れるほど大変なことに関わっているのなら、少しぐらい自分たちを頼ってほしかった。何もできなくても、役に立てなくても、話を聞くことぐらいはできるはずなのに。
しかしなのはは、それさえもしなかった、してくれなかった。
「何にもできないかもしれないけど……せめて一緒に悩むことぐらいしてあげられるじゃない……!」
その態度が、本当は自分たちを信用してくれていないのではないかと思い、不安になってしまったのだ。
悔し気に、悲し気に表情をゆがませてうつむくアリサとすずかをじっと見つめ、アインはふっと微笑んだ。
「……君たちは、なのはのことが大好きなんだな」
「そんなのあっっったりまえじゃないの‼︎」
予想以上に強い肯定が返ってきたことに、アインはくすくすと思わず笑い声をこぼす。
必要以上に力がこもっていたことがいまさらになって恥ずかしくなったのか、顔を赤くしたアリサはアインから目をそらす。友達が悩んでいる原因かもしれない女に笑われるのは、なんだか癪だった。
「……確かに私は、彼女のある秘密を知っている」
アインは真剣な表情で、アリサの疑問を肯定する。詳しいことは話さないが、嘘だけは言わない。
友達に心配をかけたくないというなのはの意思を尊重し、同時に彼女の決意と行動がその友達のためであるということを確かに伝える。
「それは時に君たちを守り、……時に君たちを傷つけてしまうかもしれないものだ。彼女は、そんな危険なものから君たちを守ろうとしている。……そんな義務など、どこにもないのにな」
「……やっぱり、ね」
思った通りだ、とアリサは肩を落とす。力になりたくても、それに値しないという事実を突きつけられてしまい、アリサの中の悔しさがより一層膨れ上がった。
「隠し事なんて……あの子が一番苦手なことだもん。あたしたちじゃ力になれないってことだもんね」
「……でも、待っててあげることしかできないなんて、やっぱり辛いよ」
アリサと同じ思いを抱くすずかも、力になれない自分を恥じて苦しげな顔をする。
友達が信じてくれないことも、信じてもらえるだけの力を持っていないことも、すべてが悲しくて悔しくて仕方がなかった。
だが二人をじっと見つめていたアインはやがて、その目に慈愛の心を見せながら口を開いた。
「……〝もし君が悩む友を持っているなら、君は彼の悩みに対して安息の場所となれ。だが、いうならば、堅い寝床、戦陣用の寝床となれ。そうであってこそ君は彼に最も役立つものとなるだろう〟……ある哲学者の言葉だ」
突然の言葉に、アリサとすずかは訝しげな顔で首をかしげる。アインは問われる前に微笑み、少し澪乗り出して二人の瞳を覗き込む。
「何もできないなんてことはないよ。君たちが無事でいる……それだけであの子も救われるんだ」
もし、戦地に向かう男とそれを待つ女がいるとしよう。
過酷な戦地で戦い続ける、いつ死ぬともしれない男を女はただ待ち続けるしかない。戦うすべのない女は日々、男が物言わぬ冷たい体で戻ってくるかもしれないという恐怖におびえ、枕を涙で濡らし続けることだろう。何もできない不甲斐なさに、そしてそばにいられない寂しさに胸を痛め続けることだろう。
だが男は、自分の帰る場所に女がいることで戦い続けられるのだ。命の危機にあろうとも、傷つこうとも、自分の帰りを待ってくれている相手がいる、その事実が男に必ず生きて帰るという活力を与えるのだ。
そういうことを、アインは二人に伝えようとしていた。
しかしそう言われても、アリサとすずかには納得できなかった。
「本当に……それしかないの? そんなことしか、私たちにはできないの?」
「違う。
なのはが努力し続けているのは、家族が、そして友達がいるこの街を守るためだ。彼らに変わりはおらず、それを失うことはなのはにはきっと耐えられないことだろう。
だから彼女は背負う。自らが帰る場所を守るため、そこで無事で待っていてほしいため、そして笑顔で迎えてほしいために。その身を犠牲にしようとも、立ち向かうのだ。
その事実に、アインはようやく気付いた。
「信じて待ってやってくれ。彼女もそれを望んでいるはずだ」
「…………」
アリサとすずかはアインの顔をじっと見つめ続け、沈黙が続く。アインの言葉を、自分なりに受け止めようとしているのだろう。納得できないことばかりかもしれないが、聞き入れるべき部分もあるのかもしれない。そう思い、なのはの様子と照らし合わせて考え込む。
しばらくして、ふいっとそらされた二人の表情に見えたのは、いまだに納得しきれない複雑なものだった。
「……あんたの言葉だけじゃ、納得しない。やっぱり、なのは自身からそれを聞かなきゃ、納得できない」
「ああ。わかっている」
望んでいた答えに近い回答に、アインは満足げにうなずいた。
ここで引き下がっていたならば、アインは彼女たちをその程度の存在と見放していただろう。他者の言葉で揺れ動くような友情など、砂城のごとき脆さしか持ち合わせてはいまい。
最初から最後までアインの掌に載せられていたような気がして、アリサは苛立たし気に眉を顰めるが、この女に文句を言っても仕方がないと自分自身を押さえつける。アリサの葛藤に気づいたすずかは苦笑し、自分も複雑そうな微笑みを浮かべてため息をついた。
アリサとすずかは立ち上がり、アリサが鮫島のほうを向いて帰宅の意を示した。
「……じゃあ今日は、それで引き下がってあげるわ。呼び止めて悪かったわね」
「なに、大した問題ではないさ」
気にしない、と余裕そうな微笑みを浮かべているアインに不機嫌さを隠さず、アリサは内心で下を見せるぐらいの反発を見せる。癪だが、今のなのはの状況を知っていて力になれるのはこいつだけだと無理矢理納得することにしたらしい。ずんずんと荒々しくその場から立ち去っていった。
「じゃあなのはのこと、任せたわよ!」
「アリサちゃん……えっと、お願いします!」
すずかはアリサの無茶苦茶なセリフに苦笑しながらも、自分も強いまなざしを送ってからぺこりと頭を下げる。
アインはひらひらと手を振って二人を見送り、その背中が見えなくなるまでその場に佇んだ。そして、二人を乗せた車が走り去っていくのを見届けてから、椅子の背もたれに背中を預けてため息をついた。
「…………本当に、羨ましいな」
漏れ出た声は、今にも泣きだしそうなほど渇いていた。
友達って、いいな……。
感想、待ってます。