【完結】魔法少女リリカルなのは ーThe Ace Chronicleー 作:春風駘蕩
ですがどうぞお好きな声優の吹き替えでお楽しみください。
「……将来かぁ」
弁当箱の蓋を開き、箸を持ったままなのはは虚空を見上げて呟いた。
「ん? どうしたのよ藪から棒に」
「もしかして、今日の授業で先生が言ってたこと?」
アリサとすずかがおかずを口にしながらなんのことかと振り向くも、なのはは「んー」とぼんやりしたまま一人考え込んでいる。
学校の屋上で昼食中の彼女が考えているのは、今日学校の授業で担任教師から渡された問い。その内容は、「将来何になりたいか?」というありふれたもの。
他のクラスメイトは色々と考えていた。野球選手や画家やミュージシャンなど夢にあふれたものや、医者に弁護士にキャビンアテンダントなど妙に現実じみたものまで幅広く、9歳の少年少女たちは夢見ていた。担任教師はその答えに一つ一つ嬉しそうに頷き、微笑ましげに聞いていた。
だがなのはは、それに答えを出すことができないでいた。何の仕事をしたいかと尋ねられても、はっきりコレといったイメージが湧かなかったのだ。
「そう深く考えなくてもいいんじゃない? いまの私たちでしっかり考えてる子ってそんなにいないでしょうし」
「私も、そう思うよ?」
「うーん……」
アリサ達はそう言ってくれるが、なのはにはどうにも看過できないようだった。
悩んでいるなのはに、二人も改めて自分の将来に思いを馳せてみる。
「そうねぇ……強いて言うなら私は、両親の会社を継ぐからまず経営の勉強かしらね」
「私は……機械に興味があるから工学系かなぁ?」
同じ課題を受けたなのはの友人たちは少し悩みながらそう答える。夢を思いつくというよりも、将来の姿をどう言い表すか手間取っただけのようだ。
…正直、もっと子供らしい夢を持てよと言われそうだが、それを言及するものはこの場に誰もいなかった。
なのははその答えを聴きながら、やはり自分には思いつかないと肩を落とす。アリサたちはその様子に、かなり本気で悩んでいるようだと察して真剣に聴きに回った。
「アンタの場合、翠屋の二代目じゃないの?」
「うん。よくお家の手伝いとかしてるでしょ?」
「ん〜そうなんだけど、もっと他に私のできることはあるんじゃないかなって……」
弁当の中の白い米を箸ではしたなくつつきながら、なのはは考える。だが、次第にその表情がどんよりと暗く沈み始めた。何か嫌な想像でもしているらしい。
「……私って取り柄とかあんまりないし、運動だって苦手だし、あんまりできることないのかもだけど……」
「このバカチンが!」
「うにゃ⁉︎」
ネガティブになってどんどん小さくなっていくなのはに、アリサが自分の弁当に入っていたレモンの輪切りを投げつけた。
「アンタ私より理系の成績良いでしょうが! どの口がそんなこと言ってんのよ!」
「にゃぁ〜引っ張らないでぇぇぇ」
そのままアリサに頬を左右からつねられ、絶妙な力加減でいじられるなのはに、すずかは苦笑する。
悩める少女のそんな迷走は、放課後帰宅の時間になるまで続いたのだった。
「……うーん。難しいなぁ〜」
「アンタ、まだ迷ってたの?」
授業を終えたなのははアリサとすずかと一緒に自宅帰り道に就く。友達との会話を楽しむために、帰りは行きとは違い徒歩での帰宅なのだ。
だが、なのはは会話に花を咲かせることなく、なおも昼間の悩みを引きずっていた。
「だって……なんか気になっちゃったんだもん」
唇を尖らせて言い返すもアリサは呆れたまま、すずかは苦笑するままだ。
するとふと、アリサがどこか意地悪な笑み度浮かべてなのはにジト目を向けてきた。
「ははーん。あんたさてはまたあの人の夢見たわね?」
「うにゃ⁉︎」
図星だったようで、なのははビクッと体を震わせて立ち止まった。どう言う原理か、ただのツインテールがフーッと猫のように逆立っていた。
「な、何でわかっ……⁉︎」
「あんたがそうネガティブになるのって、例の夢が関係してるって相場が決まってるのよ」
「なのはちゃん、分かりやすいもんね」
友人たちの指摘に、なのははボフンと顔を真っ赤にして俯く。しばらく「あー」だの「ウー」だの意味不明なうめき声を漏らしていたかと思うと、ちらりと二人に視線を向けた。
「……そんなに分かりやすい?」
「ええ、割と」
「顔に出ちゃってるもんね」
なのはの顔がもう一段階深く染まる。自分の感情が他人にバレバレというのはなかなか恥ずかしいものだ。
どうにか火照った頬を冷ますと、なのはは虚空を見上げながら夢の中の人を思い出す。どうして何度も夢に見るのかわからないが、その人に自分が抱いてる感情は何と無くだがわかっている気がした。
「……憧れてるから、かな。よく覚えてないけど、すごく綺麗な人で、夢の中で勇気をもらった気がするの……できるかどうかはわからないけど、ああなれたらなって」
「ふーん……」
「憧れかー」
わかったようなわからないような、そんな曖昧な感覚でアリサとすずかはなのはの抱いている想いを反芻する。
だがアリサは、なぜかニヤニヤといやらしい笑みを向けてなのはの顔を覗き込んできた。
「……お嬢様、恋する乙女の顔になってますわよ?」
「ええっ⁉︎」
「にゃっ⁉︎ ち、ちがうよ‼︎ そんなんじゃないよ‼︎」
「なのはちゃん……そっちだったんだ」
「すずかちゃん⁉︎ そっちでもどっちでもないよ‼︎ わたしは女の人が好きとかそういうことじゃないよ⁉︎」
「ゴメンねなのは。あたし、アンタとは仲の良い友達でいたいから……」
「アリサちゃん‼︎ 距離を取らないでよ‼︎ 狙ってないからね⁉︎」
ケケケ、と淑女にあるまじき笑い声をあげるアリサと悪ノリするすずかにいじられ、また真っ赤になったなのはが必死に弁解する。おかげで悩んで沈んでいた気分が吹っ飛んだが、代償がこの羞恥では釣り合わない気がした。
憤慨し、両手を上げて抗議するなのは。アリサとすずかはそんななのはに謝りながらヨシヨシと頭を撫でてやる。完全に年下の子ども扱いだった。
もー、と恨めしげに睨むなのはをなだめ歩いていると、いつしか着いていた空き地から騒がしい少年たちの声が聞こえてくる。草野球をしているらしく、威勢のいい掛け声や甲高い打撃音が聞こえてきている。いつも通る道でよく耳にしているため、なのは達は尺的にすることもなく談笑しながら通り過ぎようとしていた。
だが、不意に一つの打撃音ののちに悲鳴に似た怒号が聞こえた。つられて横目を向けたアリサは、暴投したのかあらぬ方向━━━ちょうどなのはに直撃するコースへと飛んでくる硬式ボールに気づいた。
「⁉︎ なのは、危ない‼︎」
「えっ……」
慌てて注意するも、すでにボールはなのはの目前にまで迫っていた。気づいたなのははあっと声を上げて立ち止まり、とっさに両手を前に出して顔をかばった。
すずかやアリサがなのはに手を伸ばすも間に合わず、なのはは
バシン、と空気が破裂するような音が響いたかと思うと、ふわりと小さな風がなのはの前髪を揺らした。
呆然と凝視する先にあったのは、自分の顔面のすぐ前で止められた野球のボールとそれを止めているグローブの嵌められた手。視線を横にずらせば、大きく手を伸ばしているひとりの女性の姿が目に入った。
「…………!」
ボールを受け止めてくれたのは、背の高い、あまりにも美しい女性だった。
髪は金糸のように艶やかで、獅子の鬣のように粗雑に纏められているが、それが逆に野生的な魅力を放っている。瞳の色はルビーのように深い光を放つ赤で、長い睫毛の下から煌めきを放っている。
身にまとっている群青色のライダースーツとジャケットは内側からはち切れんばかりに胸元や臀部が膨らんでいて、同性であっても視線を引き寄せて止まなかった。
何よりも、鋭い視線や凛とした表情、身にまとっている雰囲気がまるで劔のようで、近寄りがたい感覚を与えていた。
「すみませーん! 大丈夫でしたかー?」
「Be carefull!」
女性は謝りにきた少年たちに軽く注意をすると、ボールを投げ渡す。見事なコントロールでボールは少年のミットの中に収まり、少年はペコペコと頭を下げてから仲間達の元に戻って行った。
なのははそんな彼女の姿にポーッと見とれていたが、ややあってからようやく覚醒する。つい見とれてしまったが、助けてもらったのにお礼も言えていない。
「……あっ、ありがとう、ございます!」
「Don‘t worry about it」
どもりながら頭を下げると、すぐに凛とした耳に心地のいい声が返ってくる。
「Excuse me?」
金髪の女性は、朗らかな笑みを浮かべながらなのはに向かって尋ねてきた。銀のように澄んでいて、涼しいアルトボイスを用いて、少女たちを安心させるように話しかける。
だが、慣れない英語で話しかけられたなのはは咄嗟に反応することができなかった。ビクッと驚かされて飛び上がった猫のように肩をはね上げ、その場に硬直して女性を凝視してしまう。
「Do you know where Midoriya is ? I have lost the map that is written where it is」
「ふぇ⁉︎ えっえっ、えっ、ええっと……⁉︎」
女性のかけた質問は、冷静になれば対応できるくらいの簡単なものだったが、完全にテンパっているなのはは完全に気圧されていた。
「なのは、アンタ落ち着きなさい」
アリサに背中を軽く叩かれ、なのははようやく我に帰る。
そうだ、落ち着かなければ。話しかけている女性はじっとなのはが質問に答えてくれることを待っている。ここは、最近必須科目になった英語の授業で学んだ知識をフル活用して答えなければ。
隣では日本語も英語もすらすら話せるバイリンガルなアリサが助け舟を出そうかとスタンバイしているが、なのはは自分なりのプライドを守るためにそれを拒否する。
まだ不慣れな知識を必死に記憶の中から引き出し、なのはは若干おののきながら女性にまっすぐ向き直った。
「えっ、えっと……みっ、みどりやいず━━━」
「━━━ああ、すまない。話しかけるときはつい母国語が出てしまってな」
「日本語喋れるんかい‼︎」
無駄に気を張っていたなのはは思わず、その場でコケそうになった。
しれっと流暢に話し始めた女に思わずアリサは初対面だということも忘れて声をあげてしまう。失礼にも思えたが、意外にも女はキラキラと目を輝かせて興味深そうにアリサを見つめてきていた。
「おお……これがジャパニーズツッコミ。いいものを見せてもらったぞ、少女よ。……できればもう一度やってみては」
「絶・対・嫌よ‼︎」
「そうか」
ピキピキとこめかみに血管を浮き立たせながらアリサは拒否する。誰が好き好んで見ず知らずの人間に芸人扱いされなければならないのか、と憤慨する。
女性はカラカラと笑うとアリサをなだめるようにポンポンと頭を撫でる。
「すまないね。可愛い子を見るといじりたくなる私の悪いくせなんだ。許してくれ」
「あう……」
美人に面と向かって可愛いと言われ、なのはの頬が照れで赤く染まり、同時にいじられていたということがわかって羞恥が湧き上がってくる。
「……で? 結局何の用なのよ? 冷やかし?」
「さっき尋ねただろう。翠屋に行きたいんだが、つい地図をなくしてしまってな。場所を知らないか?」
「はっ、そ、そうだったの! みどりやいず、まいほーむ!」
「もう英語はいいよ……って、君の家?」
不意に耳にした言葉に、女性の目がわずかに見開かれた。
「……ってことは、君は」
「ふぇ? それがどうかし…………っ!」
硬直した女性に訝しげな表情を向けるなのはの肩が、不意にピクリと震えた。バッと背後を振り返り、眉を寄せて辺りを見渡し始めた。
なのはの奇行に気づいたアリサが、片眉を下げてなのはを凝視する。
「……? どうしたのよ」
「…いま、何か聞こえなかった?」
「え? 何かって……何よ?」
「何だろう……声、みたいな?」
「声?」
何か聞こえただろうか、とアリサとすずかが首を傾げていると、だんだんと不安げな表情になってきたなのはがだっと脇目も振らずに走りだした。
アリサとすずかは一瞬呆気に取られていたが、しばらくしてからハッと我に帰り、慌ててなのはの後を追っていった。
「あっ⁉︎ ちょっとなのは! どこ行くのよ⁉︎」
「な、なのはちゃん! 待ってぇ‼︎」
道には女性だけが取り残され、どうしたものかと頭をかく。ようやく目的の場所を知っている者を見つけたのに、詳しく聞く間も無くいってしまったのだから当然とはいえ当然だが、その女性の様子はどこか違っていた。
どこか懐かしげで、どこか満足げで、一言では言い表せられない複雑な表情になった女性が、少女達の背中を見つめていた。
「…………そうか。大きくなったな、なのは」
走り去っていく少女の背中を見つめながら、感慨深げな表情になった女性は、そんな小さな呟きをこぼした。
「うわっ……これはひどいわね」
警察が境界線を張り、隔離している現場を見てアリサが思わずこぼした。
普段ならばボート遊びやデートに興じる人々が集う静かな公園が、今や見るも無残に荒らされている。ボートは砕かれ、木々はへし折られ、美しい景観は滅茶苦茶にされている。
まるで巨大な獣が荒らしたようで、なのは達は思わず背筋をぶるりと震わせた。
「何だろう、こんな風になるなんて……」
「…ふむ、これは確かにひどいな」
「うわっ⁉︎」
背後からいきなり聞こえて来た声に、アリサは慌てて振り向いて距離をとった。いつの間に追いついて来たのか、先ほど出会った女性が興味深そうに事件現場を眺めていたのだ。
「あんたいつからそこにいたのよ⁉︎」
「いまさっき来たところだ。何だか気になってな」
悪びれることなく腕を組む女性に、アリサは思わず呆れた表情になる。
「別にあんたが来る必要なんて……ってなのは⁉︎ あんたまた……!」
「待ってってば!」
話しているうちに、再びなのはが何かに引き寄せられるように走り出してしまった。もう、と頬を膨らませるもアリサは急いでなのはの後を追っていき、すずかもその後に続いていった。
「……忙しい子だな」
休む間も無くいってしまった少女たちにくすりと笑うと、女性は不意に表情を変え、鋭い目で事件現場を見据え始めた。
そんな女性を一人放置し、アリサとすずかは全力で駆けて行くなのはを追いかけ、林の奥へと入り込んでいった。なのははどちらかといえば運動は苦手なはずなのだが、そうとは思えないほどの俊足で歩きづらい道を抜けていくため、ついていくのが大変であった。
「ちょっと、さっきから何なのよ⁉︎ ……って本当に何よそれ?」
そんな先で不意に立ち止まったなのはにアリサは不満をぶつけようとするも、振り返った彼女の腕の中にあった存在に訝しげな表情になった。
なのはが抱えていたのは、一匹の細長い体を持つ小動物だった。淡い黄土色の体に短い手足、小さな耳とふさふさとした尻尾を持ったイタチ科に似たその生き物は、ぐったりとしたままなのはの腕の中に包まっていた。
「ここに倒れてて……どうしよう、怪我してるみたい!」
よく見れば、イタチの体にはどす黒く固まった血の跡が残っていて、息も絶え絶えになっている。何かの要因で負傷し、弱っていることは確かだった。
一瞬あっけに取られていたアリサだったが、すぐに落ち着くと狼狽しているなのはの肩を押さえた。
「と、とにかく落ち着きなさい! すずか、近くに動物病院あったわよね?」
「う、うん。今日は確か開院してるはずだよ……?」
すずかも狼狽しているのかどもりながらも、自分がいつだったか利用した病院があることを同意し、詳細な場所を思い出す。
「じゃあ急ぎましょう。なのは、あんたちゃんとその子抱いてなさいよ!」
「う、うん!」
アリサに叱咤され、なのははようやく冷静さを取り戻す。腕に抱いた命を決して離すまいと強く抱きしめ、なのは達はすずかの案内で林を抜け、専門家の元へ急ぐのだった。
「……この残滓、やはり魔法…………しかもこの濃度はかなり高位のもの……」
なのはたちが走り去って数分後、事件現場から少し離れた池のほとりに膝をついた女性が、厳しい目で周囲を観察していた。
赤い瞳は爛々と輝き、瞳孔は大きく開いて全てのものを捉えるかのように蠢いている。風は凪いでいるが、彼女の髪はまるで粘つく風に吹かれているかのようにざわざわと揺れていた。
先ほど見せていた雰囲気とはまるで別人の、抜身の刃のような触れることを憚るほどの気迫がいまの彼女からは放たれていた。
「厄介なことにならなければいいが……それにしても」
立ち上がり、ため息をつく。すぐに鋭い気配は身を潜め、女性はどこか気だるげに辺りを見渡した。
「……あの子達を見失ってしまったな」
「……フェレットに似てるけど、見たことがない種類ね。ちなみに男の子だわ」
なのはたちの見つけて来た生物を診察した獣医はそう言いつつも、その生き物の負傷が大したことがないことに安堵しなのは達に頷いて見せた。
「うん。命に関わるほどじゃなくてよかった。このまま安静にしていればすぐに元気になるわ」
「良かったぁ」
獣医の診断結果になのはたちはようやく安堵する。あの生き物のか細い呼吸がいつ途切れるか、気が気でならなかったのだ。
「だから言ったじゃないの。慌てすぎだって」
「一番オロオロしてたのはアリサちゃんだと思うよ?」
「バッ、バカにしないでよね⁉︎」
頬を染めたアリサに、なのはとすずかはクスクスと笑みをこぼす。きつい口調で誤解されがちだが、彼女は誰よりも優しいのだ。落ち着き払っているようだが、内心は同じだけ慌てていたことだろう。
「ふふ……それで、どの子が引き取るのかしら? うちではずっと預かるのは無理よ?」
その言葉にハッとする。後先何も考えずに来てしまったが、このままあの生き物を放置するわけにはいかない。病院としても治療費が必要であるし、一度関わったのに途中で放り出すことも許されない。
だが、なのはたちは今すぐに手をあげることはできなかった。
「う、う〜ん。うちには大きい子たちがたくさんいるし…」
「私のうちもかな。…むしろ危険かもしれないし」
「えっと、うちも飲食店だから……でも相談して見たらもしかして……?」
最後になのはが言ったことで、二人の視線が集中する。
比較してみると、なのはの方が受け入れてもらえる可能性が高いように思えてくる。
ニッコリと笑ったアリサは、ポンとなのはの肩を叩いて見せた。
「決まりね。この子の命運はあんたに預けたわよ」
「ふぇ⁉︎ いきなりそんな責任重大みたいなこと言われても⁉︎」
急にアワアワと狼狽し始めるなのはに、アリサは意地悪く、すずかは苦笑してみせる。消去法になって申し訳ないが、考えてみれば最初に見つけたのはなのはなのだ。責任は取ってもらわねばなるまい。
そんな会話をしていると、獣医がふと起き上がった存在に気がついた。
「あら、起きたみたいね」
獣医の声で、なのはたちは診察台の上に寝かされていた生き物の方へ注目した。
黄土色の細長い体を持つ、フェレットに似たその動物の目の色は緑。痛々しく包帯が巻かれたその生き物の首には、赤い宝石のようなものが身につけられていることが初めてわかった。
フェレットもどきは体を起こし、クリクリとした目でじっとなのはの方を見つめていた。
「……ねぇ、この子。なのはの方を見てない?」
「え? ほ、ほんとだ……」
好奇心を刺激されたなのはは思わず、フェレットに向けて手を伸ばす。差し出された指先にフェレットもどきはすんすんと鼻先を近づけると、白く小さな指先をペロリと舐めた。
「わぁ……!」
くすぐったくも暖かい感触になのはの目が輝く。胸の奥がキュンキュンと高鳴り、暖かい感情が溢れ出すような感覚を覚えた。
「にゃぅ……なんかすごくキュンキュンして来たよ!」
「じゃ、決まりね。しっかり説得するのよ?」
「ふふ。なのはちゃん、頑張ってね」
アリサとすずかに激励され、なのははポワポワとした表情のまま頷く。家族への説明が大変に思えたが、小さな命と触れ合った少女は彼をなんとしてでも迎え入れたいと思うようになっていた。