【完結】魔法少女リリカルなのは ーThe Ace Chronicleー   作:春風駘蕩

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何食わぬ顔をして投稿……マジですみません。

あ、これお土産です。

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第Ⅷ章 仮面の裏に涙を隠して
1.石板(モノリス)


 どこまでも長く続く暗い石造りの通路を、コツコツと靴音を反響させながら歩く。

 そこは道の隅に配置された光源でかろうじて足元は見えるが、手に持った電灯がなければ互いの顔も見えないほど密閉された、息苦しい空間。ただ通ることのみを考えて直角にまっすぐ掘られたその道を、ケインズの案内の元にアインやサクソ、リンディがやや緊迫した面持ちで進んでいく。

 

「……この場所を知っているのは、元BOARDの職員の中でも一握りしかいない。幹部しか知らない、最重要資料の保管庫だ」

 

 先頭を歩くケインズが、後ろの三人に振り向くことなく口を開く。小さな声だったが、四方の壁に反響して十分アインたちに伝わり、より神経を張り詰めさせたアインたちは、睨むような険しい表情を浮かべた。

 

「マンダリン陸尉…君は以前私に問うたな、アンデッドはどこから来たのかと。……その答えの一部が、この先にある」

 

 問われたサクソが険しい視線をケインズに向けた時、一同の目の前に金属の扉が現れ、思わず足を止める。

 これまで続いていた石造りの壁とは明らかに様相のことなる扉で、外側からでもかなりの分厚さと頑丈さを伝えてくる。その先にあるものがどれほど重要で貴重なものなのか、一見するだけでうかがい知れた。

 

「真実を知る覚悟はあるか?」

 

 後についてきた三人の覚悟を試すように問い、ケインズはようやくアインたちの方に振り向く。

 アインとサクソは最初から嘘偽りなどを許さない、といった鋭い視線で。リンディは不安気ながら、ここまできたのだから全部聞かねば気が済まないといった表情で頷き、ケインズに続きを話すことを促す。

 ケインズはそれをじっと見つめると、小さく頷いて扉の傍に移動する。そして埃をかぶっていた蓋を開き、中のナンバーキーを押して指紋認証機に手をかざす。

 厳重な身分証明を終えるとようやく、扉から甲高い電子音が鳴り、軋むような音を立ててゆっくりと左右に開いていった。

 振動により積もっていた埃がパラパラとこぼれ落ち、黴臭い独特の匂いが舞い込んでくる。そして、続いて見えてきた内部にあったそれに、アインたちは一瞬で目を奪われていた。

 

「……これは」

「……これが一体いつの時代、どの世界で作られたものかは私にもわからない。だがこの石板はあらゆる世界、あらゆる時代の節目に出現し、ある一つの遊戯(ゲーム)を執り行ってきた」

 

 そこにあったものは、とても一言では言い表せない強烈な存在感を有していた。

 広い暗闇の中で無数のライトに照らされ、硬い岩石の中からそびえ立つように鎮座しているのは、メビウスの輪のようにねじれた分厚い石板(モノリス)。傷一つないその表面からは奇妙な威圧感を感じさせる光沢があり、これが決して人工物などではないことを本能的に悟らせる。

 それが一体何なのか検討もつかなかったが、アインとサクソは即座にそれが、()()()()()()()()()()()()()()()()ということを感じ取った。

 

「全52種の種族が頂点をかけて争い合う〝バトルファイト〟……それが今この世界で起きている異常現象の正体だ」

 

 唖然としたままのアインたちをよそに、石板のそばに近づいたケインズが語る。何も語らずただそこにあるだけの石版に向けられるのは、畏怖とも嫌悪とも取れる険しい眼差しだった。

 

「バトルファイトに勝利した戦士の眷属…つまり惑星上に存在する種族にはその後1万年間繁栄が約束され、惑星の支配者の資格を得ることができる。……この石板(モノリス)は、それを取り仕切る黒幕が使用する端末といったところか」

「黒幕…?」

「それについてはまだわからない……ただ言えるのは、それは尋常ではない力を持った〝神〟に近い何かだということだ」

 

 荒唐無稽な話に、リンディの理解は追いつかず頭痛を感じる。生物の支配権を巡る戦いだの、1万年の繁栄だの、それを取り仕切る黒幕だの、語られる内容はもはや神話の域に達している。

 アインもサクソも同じ感想なのか、ケインズに懐疑的な視線を向けて立ち尽くしている。すぐに信じろという方が無茶な話だ。

 

「敗北した種は石板の中に封印されているラウズカードの中に封じられ、バトルファイトに参加する資格を失う……そうして生き残った最後の一体が、唯一の勝者となるわけだ」

 

 だが、ケインズの表情に誇張や嘘は一切含まれてはいないように見える。彼自身も疑い、しかし何度も検証を行った結果たどり着いた真実なのだと、その横顔は語っていた。

 するとますますアインたちは、石板に戦慄の視線を集めて言葉をなくす。一体なぜ、こんなものが出現してしまったのかと。

 

「一体何故、このような代物が……」

「この石板が、そしてラウズカードが発見されたのは、今から3年前……新暦38年、アンデッドが解放される少し前だ」

 

 鋭い眼差しで尋ねるアインに、ケインズは石板に注目したまま語り始める。その表情にはいつしか、かつての行いに対する悔恨のようなものが混ざり始めていた。

 

「過去に起こったバトルファイトは、有史以前の出来事であるため情報が紛失しているが……ルールについては他ならぬ|石板に刻まれていた。我々はそれを解析し、あらゆる世界における人類の繁栄の真相を知った」

「…バトルファイトに勝利したことで、人類はこの世界にて支配者の資格を得たと、そういうことですか」

「次元世界中のあらゆる管理世界を調査し、照らし合わせることで得た確かな事実だ……そうそう信じられないとは思うがな」

 

 耳にした事実に、リンディの背筋にぞくりと寒気が走る。

 ケインズの語る内容が真実なのだとしたら、これまで信じられてきた通説が全て否定されることになる。己が努力と偶然によって成り立ってきた人類の進化の歴史が、実際は何らかの意思による作為的なものだったということになるのだ。

 もしその意思が存在しなければ、人類はおろか他の次元世界における支配種の繁栄もなかったかもしれない。そう告げられているようで、大きな恐怖心が胸の内を埋め尽くしていく。

 リンディは今更ながら、開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったような心地になっていた。

 

「この事態は、いずれ起きることが確定していたということか……傍迷惑な石ころだな」

「まったくだ」

 

 忌々しそうに石板を睨みつけるアインに、サクソもなんども深く頷いて同意する。

 これがなければ人類の発展はなかったというが、自分たちがこれほど苦労させられているのだから、そもそもなかったほうがよかったかもしれない。

 ケインズは二人の様子を無言で見つめ、再び石板に物憂げな視線を戻した。

 

「……だがここで予想外のことが起きた。石板(モノリス)が本来よりも早く覚醒し、バトルファイトが起こってしまったのだ」

「どういうことだ?」

「バトルファイトの開催は、石板が現れる世界毎に決まった周期があった。……バトルファイトが終了すると1万年の眠りに就き、時が来ればまた別の世界に転移し、新たな戦いを引き起こすはずだった」

「……本来かかっているはずの封印が解け、再びバトルファイトが開催されたと?」

 

 リンディの確認に、ケインズは小さく頷いて肯定を示す。

 まだ先にあるはずだった、世界の支配者の代替わりを決める戦。まだ猶予があったはずのそれが、なんらかの不足の事態によって時期を早められた。

 アインたちが作為的な何かを疑ってしまうのは、仕方のないことだった。

 

「それに気づいたヘヴンズロードは、急遽ラウズカードを解析し、その能力を利用したライダーシステムを開発。今度は正規の遊戯(ゲーム)としてではなく、人間の存続のためのアンデッドの再封印を決定した。あとは、私が語るまでもないだろう…」

 

 言われずとも、アインたちの脳裏には今日この日に至るまでの記憶が蘇る。

 資格を見出され、戦士として異形の封印を担うことになった始まりの日から、突然のアンデッドの襲撃により拠点を壊滅させられた屈辱の日。

 再起を望んで新たな拠点を見つければ、次々に敵や謎の存在が現れ翻弄され続け、かと思えば信じていた者からの裏切りの目に遭い、危うく命を落としかけることもあった。

 そのどれもこれもが、目の前に鎮座する石の塊、それを操る何かによって引き起こされたことなのだと知らされてしまえば、もはや閉口する他にない。

 

「……私が話せるのはこれだけだ」

 

 ずっと石板に視線を固定したまま語り続けたケインズは、それ以降口を固く閉ざしてしまう。

 まだまだ話したいことがあったが、ケインズの背中はそれ以上の質問を許す雰囲気を放っておらず、あまりのスケールの大きさに適切な質問も思いつかなかった。

 重苦しい沈黙が降りる中、アインが深くため息をついた。

 

「なんとも…胸糞悪い話だ」

「人間の進化が、他の誰かが糸を引いていたからだ、なんて聞かされたらね…」

 

 リンディとしては、自分には手に負えない内容に感じたらしく、疲れ切った表情で腰を下ろしている。納得しようとは努めているものの、衝撃の事実を受け入れるのにかなり時間を要しているようだ。

 しばらく無言で佇んでいると、アインがぎろりと鋭い視線をケインズに向けて口を開いた。

 

「話すことは他にもあるのでしょう?」

「…話が早くて助かるよ」

 

 急かされているように感じたのか、ケインズはかすかに苦笑を浮かべて肩をすくめる。せっかちな子供を諭すような態度だったが、アインはそれほど気にすることなく、ケインズに話の続きを促した。

 

「君達も知っているとは思うが、ヘヴンズロードが製作したライダーシステムはもう一つ存在する」

「ああ、適合者がまだ見つかっていないということだったな」

「……それが、見つかったのだ」

「なんだと⁉︎」

 

 ケインズからの情報に、サクソが寝耳に水といった形相で振り向く。

 現状においてアンデッドと渡り合い、そして封印できる唯一の武装ライダーシステム。それを使えるのは数少ない適合者だけで、現時点において纏うことができる人間はアインとサクソのみ。もう一人は最凶のアンデッドの容疑をかけられている正体不明の男だけである。

 そんな状況で、新たに適合者が見つかったというのは吉報に間違いない。単純に戦力が増えるだけでなく、今後の方針もいくつか増やせるからだ。

 だが、知らせたケインズの表情に浮かんでいるのは、何処と無く言いにくそうな複雑な様子だった。

 

「ムーヴ・カムシン、ミッドチルダ在住の学生…いや、元学生だ。以前より個人情報を入手し、こちら側に引き込むために接触する予定だった」

「…なぜ、そうしなかった」

「……それは」

 

 きつく問い詰めるサクソから目をそらし、ケインズがなぜか間言い淀む。

 言わねばならぬのに言えない、言いたくないと表すような煮え切らない態度に、苛立ったサクソが再度問いかけようとした時だった。

 リンディの持つデバイスから、けたたましいアラームが鳴り響いた。あらかじめ有事の際にセットしておいた、アンデッドの出現を知らせるための警報システムだ。

 

「アイン!」

「話の続きは後回しだ。私は先に行く」

 

 リンディが駆け出そうとした時には、すでにアインは一言だけを残し風のように走り去っていた。

 数日前の負傷など微塵も思い出させない、万全といった様子の素早さに、リンディは一瞬固まって目を瞬かせ、次第にプルプルと肩を震わせ始めた。

 

「…! あぁもう! 私のオペレートなしでどこいく気なのよ⁉︎」

 

 考えるよりも先に体が動く厄介な性格の友人を追い、リンディはアインの戦闘を全力でサポートするために、大量の専用の設備が置かれた自宅へ急ぐ。

 かしましい女性たちの声が聞こえなくなり、しんと寂しげな沈黙に包まれる地下の秘密の空間。そこに残されたサクソは、石板の前で立ち尽くしているケインズに鋭い視線を向けた。

 

「……まだ何か聞きたいことがあるのか?」

「ああ…聞きたいことはほぼ聞き終えた。だがそれは、アンデッドにまつわることのみだ」

 

 ギン、とサクソの刃のような視線がケインズの背を射抜く。

 彼の言葉に嘘はない、語ってみせた情報に嘘偽りは一切ないだろう。この場でアインとサクソを騙すような愚行を犯すほど、この男は愚かではないはずだ。

 だがサクソは、なおも真実を求める。虚構ではなく、秘匿の鎧によって隠されたケインズの中の本心を。

 

「お前はまだ、アインに隠していることがある……違うか?」

 

 確信をもって投げかけられたサクソの質問に、ケインズはじっと石板を凝視したまま、無言を貫いていた。

ただそこに、否定の言葉はなかった。

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