【完結】魔法少女リリカルなのは ーThe Ace Chronicleー 作:春風駘蕩
「■■■■■■‼︎」
「■■■■■■■■!」
「■■■■■■■‼︎」
リンディの誘導で、アインがアンデッドの出現した現場へ急行した時、そこはすでに凄まじい有様になっていた。
木々はへし折られ、公園の物らしき人工物は瓦礫や破片と成り果て、その陰には人の骸が積み重なって転がっている。大人だけではない、小さな子供までもが倒れ臥している光景は、騎士に強烈な後悔を味わわせた。
だがアインが絶句した大きな要因はそれだけではなかった。
そんな地獄を作り出したであろう異形が複数、互いに食い合うようなおぞましい戦闘を繰り広げていたからだ。
山羊と、黄金虫と、猛牛。そのほか数体の異形達が傷口から緑色の鮮血を吹き出しながら、狂ったように暴れている光景は、歴戦の戦士であるアインでさえも絶句させられた。
「アンデッド同士で…⁉︎ ……いや、これが本来の仕様か…バトルロイヤルだったな」
ブルースペイダーから降り、相棒をデバイス携帯に戻すと、もう一つのデバイスにラウズカードを挿入し、腰にベルトとして巻きつける。
アンデッドたちは自分が相手にしている異形にしか注目していないようで、アインが駆け足で近づいていっても全く振り向くそぶりを見せなかった。
「仕置の時間だ…! ただで済むと思うなよ……! 変身!」
【TURN UP】
バックルの前面が反転し、現れたスクリーンを突っ切ってアインがもう一度鎧を纏い、腰に佩いた剣を引き抜く。
そのまま不意打ちで一撃食らわせてやろうと、鋭く敵を見据えたまま突進を開始した、その時だった。
「■■■■■■■■■‼︎」
一際大きな獣の咆哮が響き渡ったと思った瞬間、取っ組み合っていた異形たちの何体かがまとめて、何かに激突されて吹き飛ばされる。
鋭い爪に、橙色の体毛を生やした新たな異形は、グルルと唸り声をあげながら残った異形たちを睥睨し、刃のような眼光を突き刺す。その異様な威圧感に、アインには既視感を覚えた。
「……堅気に迷惑かけてんじゃねぇよ」
虎に似た異形の口から出たのは、威厳に満ちた女性の声だった。
腕っ節で兵士をまとめる女傑のように勇ましいその声に、アインは一瞬目を丸くし、続いてどうしたものかと眉間にしわを寄せた。
「…口をきけるということは、上位のアンデッドか」
「……お前は」
思わずつぶやきをこぼしたアインに、
不敵な笑みを浮かべ、剣を肩に担いで佇むアインを凝視していたタイガーアンデッドは、しばらく何かを確かめるように無言になり、やがて放っていた雰囲気を変化させる。
先ほどまでのどこか苛立った様子のそれから、欲しかったものを見つけて歓喜するような、そんな気配だった。
「気配でわかるよ……お前、この時代で一番強いやつだね」
突き刺さってくる、タイガーアンデッドの放つ殺気と闘志に、アインは両手で剣を構えて対峙する。
以前に相手をしたイーグルアンデッドと同等の威圧感に、いつしか高揚と震えを覚えていた。
「我が名はティグラ。
「アイン・K・アルデブラント。時空管理局所属の騎士だ」
見た目は完全に意思疎通の不可能でありそうな異形であるのに、タイガーアンデッドは武人らしい振る舞いを以って名乗ってくる。つられてアインも相応の挨拶を口にし、剣を握る手に力を込める。
自身に負けない殺気を見せてくる女騎士と相対し、タイガーアンデッドは口元をニヤリと嬉しそうに歪めた。
「無理矢理引き摺り出された戦場だが、お前みたいなやつと戦えるんなら話は別さ……存分に死合おうよ」
「…この間のイグニスといい、シーマといい、見た目と性格にギャップがありすぎるやつが多いな。…イストは別として」
「あぁ、あいつらに会ったのかい。楽しかったよ、あいつらとの戦も……」
はるか昔、前回のバトルファイトのことを思い出しているのか、タイガーアンデッドは遠い目で虚空を見つめて呟く。
そしてすぐに、アインを完全な敵と見定めて、鉤爪を振りかざして突っ込んできた。
「お前も、私を楽しませてくれよ!」
「さて…どこまで付き合えるかね!」
凄まじい衝撃波を辺りに撒き散らし、騎士と異形の戦士が全力で激突する。
それぞれの足元を深く陥没させ、地面に大きな亀裂を走らせながら、各々の持つ得物が食らいつき火花を散らす。耳障りな嫌な音が、その場に広く響き渡っていた。
「ふん!」
「おおおおお‼︎」
互いの渾身の力で相手を弾き、また全力で激突する。甲高い音と火花が何度もあたりに飛び散り、ビリビリと衝撃が互いの腕から全身に走る。
その感触に、女戦士たちはよく似た好戦的な笑みを浮かべ、得物越しに相手を鋭く見据えていた。
(重いね……人間のくせに!)
(やはり格が違うな……長引くと不利か!)
「ウェイ‼︎」
ゴギン、とアインがティアラを利用して自分の剣に頭突きをかますと、反動でタイガーアンデッドが後ずさる。
すぐにタイガーアンデッドは最接近し爪を振るうが、アインはそれを紙一重で躱し、鋭く素早く急所のみを絶え間無く狙う戦法に切り替えた。
「妙な奴だな! バトルファイトとやらは異なる種族同士での覇権争い……世界の支配権をかけて争うものだと聞いたが⁉︎」
「ああそうさ…! 私も長だ、子孫のためにこの星の頂点に立つという意思は他の挑戦者と変わらない! ……だがな‼︎」
常人では反応も叶わない高速の連続突きを躱しながら、タイガーアンデッドは頭蓋骨の仮面の下で獰猛な笑みを浮かべる。
放たれる剣撃や爪撃は徐々に速度を増し、次第にそれぞれ受け流すこともできなくなっていく。増えていく裂傷の痛みを、アインもタイガーアンデッドも愉しそうに受け入れていた。
「それ以上に………強い奴らと戦って、己自身をさらなる高みへと至らせたい! そんな想いがあるのさ‼︎」
「なら……私も全力で応じなければ失礼に当たるな!」
渾身の力でタイガーアンデッドを振り払ったアインは、剣の柄を展開させラウズカードを開く。そのうちの三枚を抜き取り、素早く読み込ませることで、異形たちの能力を自身に付与させた。
【THUNDER, BEAT, METAL.
「ウェエエイ‼︎」
雷の力と鋼の硬度、拳撃の能力がアインに付与されると、アインは剣を地面に突き立てて拳を握りしめ、タイガーアンデッドに向けて遠慮なく振るう。
腹に強い一発を食らったタイガーアンデッドは一瞬呻き、すぐに態勢を立て直して同じく拳を握り、アインに向けて思い切り振るった。
「ぐっ…⁉︎」
顔面にきつい一撃をくらい、たたらを踏むアインは、すぐに頭を振って正気に戻るとまた拳をタイガーアンデッドに叩き込む。
何度も何度も、女戦士たちは華麗さとは無縁の殴り合いに没頭し、赤と緑の血反吐を吐きながら相手に全力をぶつけ合った。
「■■■■■■■■■■■■■‼︎」
「おおおおおおおおおおおおお‼︎」
対等な戦いに歓喜する二体の獣の咆哮がこだまし、同時に拳が構えられ、渾身の一撃が振るわれる。
だがそれが直撃する直前、無数の瓦礫があちこちから飛来し、アインとタイガーアンデッドは思わずその場から飛び退く羽目になった。
「…誰だ…! 神聖な決闘の邪魔をしやがる奴は…‼︎」
望んでいた戦いの邪魔をされたタイガーアンデッドは忌々しげに瓦礫が飛んできた方をにらみ、低い雷のような唸り声を轟かせる。
同じく興が乗ってきていたアインも不満げに振り向き、瓦礫の向こう側を睨む。そこに見えた、先ほど吹き飛ばされたアンデッドや、カードとバックルを持って駆け込んでくる青年の姿に、顔をしかめさせた。
「ククッ……やっとまた暴れられるぜ。変身‼︎」
【
女戦士たちの戦いに乱入してきた青年、ムーヴは邪悪に満ちたどう猛な笑みを浮かべ、バックルにカードを挿して腰に巻き、バックルの紋章を左右に展開させる。
途端に、アインのものと同じような、蜘蛛の絵柄が描かれた紫色のスクリーンが出現し、ムーヴを飲み込んで無骨な意匠の鎧を纏わせた。
「ひゃはははは‼︎」
「…! カムシン…」
緑色のスーツにクラブのマークを模した金色の装甲、蜘蛛を連想させる仮面を被った甲冑を纏い、ムーヴはアインに向かって突進してくる。
だがその前に、ちっと舌打ちしたタイガーアンデッドが、アインを押しのけるように割って入った。
「邪魔すんじゃねぇ…‼︎ こいつは俺の獲物だ‼︎」
【
舌打ちしたムーヴが、コブラアンデッドの力を槍に付与し、タイガーアンデッドに咬撃の薙をお見舞いする、が。
「邪魔なのはお前だよ、小僧が」
「ぐはっ…‼︎」
蚊でも払うかのように流され、反対に鋭い鉤爪の一撃を食らわされて吹き飛ばされる。激しい火花を散らせながら青年は宙を舞い、瓦礫の中に突っ込まされた。
大きく土煙が立ち、ガシャンと崩れ落ちるムーヴを見下ろし、タイガーアンデッドはつまらなそうに鼻で笑った。
「未熟……あまりに未熟。付け焼き刃の狂気でこの戦場に足を踏み入れようとは、笑止千万。疾くと失せろ」
「…! 俺を、なめるんじゃ…ねぇ……‼︎」
見下されていることに激昂し、ムーヴは怒りを糧に無理矢理立ち上がり、すでに足に震えが走る創痍の体で再び槍を構える。
再び斬りかかろうと槍を振りかざすムーヴだったが、どれは突如横から襲いかかってきた異形達によって妨げられた。
「■■■■■■■■‼︎」
「■■■■■■■■■‼︎」
先ほどまでムーヴの戦闘を見守るように立っていたアンデッド達が、軽くあしらわれたムーヴに落胆したように一斉に彼に襲いかかっていく。
自分に敵意がないことを悟ったタイガーアンデッドは、振り下ろす標的をなくした己の爪を見下ろし、残念そうに視線を逸らした。
「……白けちまったね」
タイガーアンデッドは緑色の光に自身を包み、人間の女性の姿に変わると、ムーヴを見つめて悲しげに立ち尽くすアインの方を叩いてその場から立ち去っていく。
一人残されたアインは、戦いを望む本能に抗いきれなかった青年が、無数のアンデッド達に襲われている光景を前に、憐れみで言葉をなくしていた。
「く、くそっ! どけ! 離れやがれ!」
「……本格的にバトルロイヤルが始まったか」
なんとか応戦するムーヴが、徐々に追い詰められていく姿に、アインは眉間にしわを寄せながら走り出す。
標的を、いまムーヴに最も近く迫っているアンデッド達に絞り、アインは剣のスリットに三昧のラウズカードを挿して読み込ませた。
【THUNDER, TACKLE, MACH.
雷の力を纏い、突進力を強化したアインが高速で駆け抜け、
鈍く大きな音が響き渡り、ムーヴに凶牙が突き立てられる寸前にアンデッド達はまとめて吹っ飛ばされ、瓦礫の中に頭から突っ込んでいった。
アインはすかさず倒れたバイソンアンデッドに向けて、反応を示すラウズカードを投擲し封印を施す。
【METAL, MAGNET, SLASH.
アインは一度も休ませることなく、剣に別のカードの組み合わせを読み込ませ、切っ先を地面に突き立てる。
新たに手に入れた磁力の力を使い地中の岩石を掘り起こし、鋼鉄化させ鋭く尖った切っ先をアンデッド達の真下から襲いかからせる。まるで巨大な牙に喰らい付かれたように、アンデッド達は血反吐を吐いて倒れていく。
だが、それが炸裂したのは全体の一部だけ、残るアンデッドはいまだに無傷のまま、アインとムーヴを取り囲んでいた。
「クソっ…‼︎ これは、かなりキツイな…!」
「アルデブラント!」
苦戦を強いられそうだと歯噛みしていた時、アインの耳にサクソの声が届く。
振り向いたアインは、自分に向けて投げ渡されてきた物体に気づき、慌てて片手で受け止める。
金属製で箱状のそれには、ブレイラウザーと同じスリットやスペードの形をしたホルダーが取り付けられていて、体の一部に取り付ける仕組みになっていることがわかった。
「これは………」
「カテゴリーQを封印し、それに挿せ‼︎ カテゴリーJを使えば、未知の力が手に入るはずだ‼︎」
アンデッド達の包囲の上、崩れた建物のの屋根の上から声を張り上げるサクソに、アインは訝しげな視線を向ける。
何をさせるつもりなのかと眉を寄せるが、考える暇など与えないというようにアンデッド達は迫り来る。アインは言われた通り、手持ちの空のラウズカードが反応しているアンデッドを探し、次なる標的に定めた。
【KICK, MACH. MACH BLAST】
「ウェエエエイ‼︎」
高速で放たれたアインの蹴りが、
二枚の空のカードを投擲し、その体に突き立てると、カードに封印されたアンデッドはくるくるとアインの手元に飛び、その絵柄を示した。
時を示す黄金虫と、融合の力を秘めた二頭の山羊の絵姿を。
「……
【
詳しい使い方を聞いている暇はない。左腕に件の機械を装着し、サクソが告げたようにカテゴリーQのカードを機械の中に挿す。
そしてブレイラウザーを展開し、前回封印したJのカード、フュージョンイーグルのラウズカードを抜き出した。
「よく見ておけ……ジョーカー‼︎ これが、お前が弱いと吐き捨てた人間の強さ……諦めの悪い意志の力というものだ‼︎」
いまだにこの場に現れないハジメに向けて、アインはJのカードを握りしめ、機械のスリットに挿して勢いよくスライドさせる。
【
電子音声が鳴り響き、ホルダーの表面に金色の紋章が張り付く。大きな鷲が翼を広げ、スペードを形作っているそれが次の瞬間、眩い黄金の光を放つ。
光は大きな鷲の姿となり、アインの周囲を旋回しその背中にとまる。やがてゆっくりと光はアインと同化し、アインの背中に三対の真紅の翼が生える。
鎧の一部とティアラも黄金に染まり、ブレイラウザーにも新たな刃が追加されて一層の切れ味を増す。
力の全てが一段階上昇したアインは、警戒するように唸り声を上げているアンデッド達を睥睨し、ブレイラウザーから四枚のカードを抜き、スリットに通した。
【THUNDER, SLASH, METAL, MACH.
「ウェエエエエエエイ‼︎」
基礎能力の上昇に加え、飛行能力まで会得したアインは天高く宙を舞い、目にも留まらぬ速さでアンデッド達に接近し、雷撃の剣撃を叩き込む。
まるで石を持つ嵐のような凄まじさで振るわれたアインの一撃は到底躱せず、アンデッド達は苦悶の声をあげて吹き飛ばされて行った。
「よくやった…!」
そのうちの何体かが倒れると、建物の上で立つサクソがすかさず反応を示すラウズカードを投げ、次々に封印を行う。
アインは翼を羽ばたかせてゆっくりと降り立つ、がその直前に慣れない飛行でバランスを崩したのか、少しだけ足をもつれさせてよろめく。
だがすぐに立ち直り、切った数と封印された数が合わないことに気づき、眉間にしわを寄せた。
「……何体かは逃してしまったな。だがこれで、スペードのスートのカードは残り一枚となったわけか」
ブレイライザーのホルダーに並ぶ、12体の異形達の絵柄を眺め、特に理由はないがアインは達成感を抱く。
まだアンデッド達は多くミッドチルダ中に蔓延っている。いつの間にかムーヴもいなくなっているし、やるべきことは数えきれない。
だがひとまずの目安のようなものが果たされそうで、なんとなく感慨深いものを抱いていた。
「峠を越えた、とでも思うべきか…」
「楽しそうなことやってるね……僕も混ぜてよ」
もう一踏ん張り、とそう意気込もうとしたアインは、不意に聞こえてきた声にピタリと立ち尽くす。
すぐ近くから聞こえてきたその声に、言い表しようのない寒気を覚えた。
「お前は…!」
振り向いたアインの目に映ったのは、目と鼻の先からアインを見つめてくる幼い少年。なんの変哲もない普通の格好をした彼の顔は笑顔で、ニコニコと人好きの思想な柔らかいものだった。
だがアインには、幾度も視線を超えてきたアインの第六感のようなものは叫んでいた。
こいつは危険な存在だと。
その勘は当たっていた。
何がおかしいのか、ずっと笑みを浮かべていた少年の輪郭が不意に緑色の光によってぼやけ、あっという間に少年の姿が変貌して行ったからだ。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■‼︎」
黄金の鎧に長く天に向かって伸びた三本の角。
幅広の剣にどす黒く光る眼を持ったその異形が、目を見開き硬直するアインに向けて、
凄まじい咆哮を放った。