【完結】魔法少女リリカルなのは ーThe Ace Chronicleー 作:春風駘蕩
春風が吹き抜ける、心地よい休日の午後。
ミッドチルダ市街のショッピングモールには、大勢の家族連れの客が集まっていた。
婦人服売り場では女性客が談笑しながら商品を眺め、遊具がおかれた広場では子供達の元気な声と、それに付き合う父親達の疲れたため息が響き渡る。
笑顔に溢れ、平和そのものを表したようなそんな場所で、その男は一人、立ち尽くしていた。
「…私が間違っていた」
無表情で佇む男、ヘヴンズロードは周囲の喧騒に一切の興味を示すことなく、虚空を見つめて小さく呟く。
その手に握られた一枚のカードに、初老の男は視線を落とす。己の全てをかけて生み出したそれが迎えた最期を思い出し、サングラスの向こう側の表情がぐっとしかめられる。
「どれだけ優れた能力と、比類なき剛力を兼ね備えた種族を作り出したところで……思慮深き頭脳を有していなければそれはただの怪物」
三つ首の狂犬の絵が描かれたカードを見下ろし、消え入りそうな声で呟く男は、後悔の感情をにじませてこぼし続ける。
客には到底思えない異様な雰囲気を醸し出す男を、周りの人々は遠巻きに眺め、そして関わり合いを避けようと距離を取っていく。好奇心旺盛な子供達でさえ、不気味さを感じたのか逃げるようなそぶりを見せている。
「欲深で醜悪な現在の人類を絶滅させたところで、同じ道を辿ってしまえば何の意味もない……同じことを繰り返し、またしても世界は醜く穢されていく」
周囲の困惑の視線も気にならないほどに、ヘヴンズロードはラウズカードを見つめ、顔を俯かせる。
やがて肩が小刻みに震え出したかと思うと、徐々に体が揺れ始める。ギチギチとラウズカードが握り締められ、食いしばられた歯が軋む音を立て出す。
それを見て、心配そうに近づいた一人の子供が、どうしたのかと下から顔を覗き込んだ。
「そうだ……こんな簡単なことになぜ気がつかなかった」
だが、男が浮かべていた醜悪な笑顔に、子供はハッと目を見開くとその場から後ずさり、慌てて逃げ出し両親の元へと向かう。
ヘヴンズロードは咎めるような厳しい視線を無視し、狂気に満ちた笑顔で天を仰ぎ、ラウズカードを掲げてみせた。カードの中に封じられていた、さらなる可能性を見出したように。
「新たな種の創造者に、神になどなる意味はない………私こそが、支配者とならねば意味がないではないか」
ふと、横目を向ければ、誰かが通報したのか、警備員らしき制服を纏った男達が、客に案内されながら近づいてくるのが見える。
ヘヴンズロードはそれを一瞥すると、またさらに凶悪な笑みを浮かべてラウズカードを見やる。それはまるで、実験にちょうどいい相手が現れた、そんな醜悪な考えが助けて見える笑顔だった。
ヘヴンズロードは駆け寄ってくる警備員の前で、左腕に巻いたガントレットを晒し、その上に開いた口にラウズカードを挿入した。
「変身……!」
カードがガントレットに飲み込まれた直後、緑色の液体のような光に包まれ、ヘヴンズロードの姿が一変する。
刺々しい鎧を纏い、三つの首を肩と首の上に生やした異形ケルベロス。以前の個体と異なるのは、胸から生えた上半分の人の頭部、ヘヴンズロードの顔と目が覗いていることだった。
ケルベロスⅡと名付けられたその異形が、多くの人々の前でその醜悪な姿を露わにしたのだ。
『ふん!』
ケルベロスⅡと化したヘヴンズロードが両腕を左右に振るうと、高熱を帯びた光が迸り周囲に撒き散らされる。光は障害物に衝突すると、途端に強烈な爆発を引き起こし、建物の壁をたやすく破壊していった。
突如起きた爆発に、一瞬呆けていた人々だったが、ガラガラと崩れ落ちる瓦礫やガラスの破片の音で我に返り、すぐさまその顔を恐怖で真っ青に染め上げていった。
「■■■■■■■■■■■■■■■‼︎」
「ば、化け物だぁぁぁぁ‼︎」
「きゃあああああ‼︎」
一瞬にして惨状を作り出した三つ首の、いや四つ首の異形を凝視し、人々は悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
何者なのか、何が起きているのかなど考える余裕などない。すぐ目の前に現れた怪物から一刻も早く逃れなければという事だけを考え、無我夢中で走り出していた。
ヘヴンズロードは逃げる人々を追おうとはしなかった。腰を抜かし、邪魔になっているような者だけを殴り飛ばし、その力を見せつけるように闊歩していた。
「ぐげぁっ⁉︎」
『そうだ! 畏れよ! 崇めよ! この私こそが、全ての生命の支配者だ‼︎ ははははははは…‼︎』
情けなく、恐怖に顔を引きつらせて遠ざかっていく人々を眺め、ヘヴンズロードは嘲りの声を上げる。もはや建前としていた平和を口にする気もなくなり、生み出した力の全てを見せつける事だけを望むようになっていた。
ひとたび腕を振るえば建物は粉々に砕け、それに巻き込まれた人々が骸となり果てる。軽く力を振るうだけで生み出される破壊の光景が心地よく、ヘヴンズロードはただただその状況に溺れつつあった。
その進撃が、ふいに止まる。
異形の背後からエンジン音が聞こえてきたかと思うと、その横を四台のバイクがあっという間に抜き去っていったからだ。
『……来たか。だが今更何の用だ? まさか…わざわざライダーシステムを返却しに来たわけではあるまいな』
四台のバイクはヘヴンズロードの前方数メートルの位置で停止し、旗手たちはヘルメットを被ったまま首だけを振り向かせる。
ドルンドルンとエンジンが響かせる音だけが聞こえる中、旗手たちが備えたイヤホンから戦慄したような声が聞こえてきた。
[この反応…! まさか、あのアンデッドはヘヴンズロード氏本人…⁉︎]
[……とうとう、人の心さえ捨てたか。いや、元からか]
聞こえてくるリンディとケインズの会話から、アインは背後で仁王立ちしている異形の正体を悟り眉間にしわを寄せる。
先ほど聞こえてきた声は聞き間違いではなかった、そしてどこからか遠隔操作しているわけでもなかった。人としての心も体も、この男は自ら手放してしまったのだと。
星の支配者になりたい、そんなくだらない野望のために。
「……ヘヴンズロード、お前にとって俺達は、何だったんだ」
背を向けたまま、アインの隣でバイクを駆るサクソが問いかける。
この四人の中で最も長く組織に仕え、戦士として戦い続けてきた男は、そうなることを運命づけた男を睨みつける。言い訳も命乞いも聞きたくない、そう言いたげな感情の昂りを声に表し、サクソは続けて問いかけた。
「何故BOARDを作った⁉︎ 答えろ‼︎」
『全ては計画通り……解放されたアンデッドを君達が封印し、実に効率よくデータを採集してくれた。そして………ケルベロスは完成した! 感謝しているよ、偽善者達よ!』
異形と化した今、ヘヴンズロードがどんな表情を浮かべているかは分からない。
しかし、人間の姿でなくてもわかるような醜悪な声で告げられ、四人全員がその顔を容易に想像できていた。見るに堪えない、欲望と狂気に満ちた禄でもない顔なのだと。
サクソが最初に抱いた怒りは、四人全員の胸にも同じだけ激しい炎として燃え上がっていた。
「僕達は…あんたの身勝手な欲望に利用されて、振り回されて…!」
「そして世界滅亡の片棒を担がされた……舐められたものだな」
縁もゆかりもない戦いの場へ駆り出されたムーヴも、永い眠りから呼び覚まされたハジメも、その事実に悔しげに歯をくいしばる。
過去の記録からすれば、いずれまた戦いは起こるはずだったかもしれない。しかしそれは決して今ではなく、そしていまのような犠牲が出ることもなかったかもしれない。
そんな、今更考えても仕方がない可能性を考えずには、いられなかった。
「俺達が信じた希望は……正義は………!」
『全て幻…最初からなかったのだよ。……はは、はははは、はははははははは……‼︎』
騎士達の思いを踏みにじり、ヘヴンズロードは高らかに嗤う。
異形となった狂人の思考にあるのは、己の野望のみ。そのためには自分を含めた全てを犠牲にすることなど、一切の躊躇いを覚えない。
狂人の演説の最中、閉ざされていたアインの目が、やがてゆっくりと開かれた。
[アイン……マンダリン陸尉……]
「―――任務を開始する」
アインが告げると同時に、四人の騎士達は一斉にデバイスを取り出し、自身の腰に巻きつけていく。
そしてアクセルを回し、エンジンを蒸してその場から疾走を開始し、ヘヴンズロードから離れていく。そして十分に距離を取ってから反転し、猛スピードで異形に向かって突っ込んでいった。
「「「「変身‼︎」」」」
【
【
【
横に並んだバイクの上で、騎士達はデバイスを起動させ、同時に鎧を纏っていく。♤・♢・♧・♡と、トランプカードを基にした騎士が勢ぞろいした光景はまさに圧巻で、紛れも無い戦士の姿を見せつける。
ヘヴンズロードは迫り来る騎士達に光弾を放ち、凄まじい爆炎で包み込む。しかし業火は一瞬で切り裂かれ、女騎士と槍使いがまっすぐに飛び出してきた。
「でやあああ!」
「おおおお!」
ヘヴンズロードに向けてサクソが発砲し、接近したムーヴが槍を振り下ろす。そしてアインが突きを放ち、ハジメが後方から狙い撃つ。
容易く受け止められ、防がれるが構わずアインとムーヴは突っ込み、サクソとハジメの援護とともに怒涛の勢いで攻め続けた。
「この屈辱は……! この手で払う‼︎」
「覚悟しろ! ヘヴンズロード!」
これまでの怒り、憎しみ、悲しみの全てをぶつける覚悟で、アインとムーヴが四つ首の異形に斬撃を浴びせかける。
異形はそれらを受け止め、多少後ずさる程度の反応しか見せず、反対に凶悪に研ぎ澄まされた爪を振るって騎士を迎撃する。激しい火花が飛び散り、騎士達の体が空中に舞い上がった。
【FIRE, DROP. BURNING SMASH】
【BLLIZARD, BITE. BLLIZARD CRUSH】
だがサクソとムーヴは衝撃に耐え、それぞれで二枚ずつラウズカードを抜き出し、デバイスに読み込ませる。
そして空中で豪華と吹雪の力を自身の蹴撃に付与し、左右から異形の体に襲いかかった。
『ぬぅああああ‼︎』
しかしヘヴンズロードは、並のアンデッドなら吹き飛ぶ威力の必殺の力をそれぞれ片手で受け止め、逆に衝撃波とともに跳ね返す。
予想以上の膂力にサクソとムーヴは目を見開き、痛みを感じる間も無く吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたことでようやく我に返らされた。
「ごはっ!」
「ぐああっ⁉︎」
『はははははは‼︎ この程度で、ケルベロスに傷一つつけられるはずが……‼︎』
二人の騎士を自身の手で圧倒したことで、ヘヴンズロードはさらなる高揚を覚えて歓喜する。
最大の障害であった騎士が、管理局の戦士がなすすべなく塵芥のように吹き飛ばされる。その光景はまさに爽快で、笑いが溢れて仕方がなかった。
だが、それ故にヘヴンズロードは油断する。戦士ではないヘヴンズロードは、戦いの場で気を抜くという最大の隙を晒してしまっていた。
【THUNDER, FIRE, BLLIZARD, TORNADE. EXTREME SHOT】
「おおおおおおおおお‼︎」
サクソとムーヴの持つ、元素の力を持つラウズカードを受け取ったアインが、剣に他の二枚とともに読み込ませ、その力を纏わせ突っ込んでくる。
気付いた時には、四つの元素の力を帯びた剣がヘヴンズロードに食らいつき、凄まじい爆発をもって異形の体を叩き伏せていた。
「■■■■■■■■…⁉︎」
【EVOLUTION】
耳障りな声で喚く四つ首の異形の前で、ハジメがカテゴリーKのカードをベルトに挿し、手持ちのアンデッドの力を全て身に宿す。
紅く変色した鎧を纏ったハジメは、両腰に備えた鎌を抜き、同時に手元現れたラウズカードをベルトのスリットに挿した。
【WILD】
「おおおおおおお‼︎」
二振りの鎌がまばゆい光を放ち、刃が鋭く研ぎ澄まされていく。
ハジメは蟷螂のような構えを取ると、苛立たしげに地面を叩きながら立ち上がった異形に向かって突進を始める。寸前で腕の刃を盾にする異形に構わず、ハジメは渾身の斬撃を異形に向けて放った。
鋭い一撃は異形の刃をバターのように容易く両断し、異形本体の体にまで深い裂傷を刻み、膝を突かせた。
「■■■■■■■‼︎」
【ABSORB QUEEN, EVOLUTION KING】
痛みに絶叫する異形を見下ろし、アインが左腕のデバイスに二枚のラウズカードを読み込ませ、13体の異形達との融合を果たす。
陽光に輝く黄金の鎧を纏った女騎士は、重く巨大な剣を振りかざし、雄叫びとともに仇敵に向かって躍り掛かっていった。
「ウェエエエエイ‼︎」
「■■■■■■‼︎」
アインの大剣が四つ首の異形の胸部、ヘヴンズロードの顔の上半分に食らいつき、夥しい量の緑の鮮血が噴き出す。
彼の現在の肉体の感覚がどのような状態なのかはわからない。しかし深く傷を負い、激痛に苛まれている今のヘヴンズロードが苦しんでいるのは明らかで、剣を食い込ませるアインの手がさらに強められた。
『ぐ…! おのれ……ただの人間の分際でぇ…! 私は…! 私が神なのだぞぉ‼︎』
「お前のような神がいてたまるか‼」
口汚く悪態を吐く異形に、アインは大剣を横薙ぎに振るって吹き飛ばす。一振りで爆風が起きるほどの衝撃が襲いかかり、異形は鮮血を撒き散らしながら地面を転がっていった。
起き上がろうともがく異形を見下ろし、アインは大剣を地面に突き立てる。そして天に手を伸ばし、集った黄金のカードを異形に見せつけた。
「決めろ! アイン!」
【SPADE 10, SPADE JACK, SPADE QUEEN, SPADE KING, SPADE ACE】
黄金の大剣が五枚のラウズカードを飲み込み、空中にその絵柄を映し出す。ポーカーにおける最強の手札と同じ並びが、アインの剣に強大な力を纏わせる。
それに加えて、アインが持つ膨大な魔力が足され、黄金の大剣はさらに眩く巨大な光を迸らせる。まるで黒雲から降り注ぐ雷光を全てまとめて収束させたかのような輝きに照らされ、異形だけではなくハジメ達までもが絶句していた。
「これで……終わりだァァァァァァァァァァ‼︎」
【ROYAL STRAIGHT FLASH】
怒号のような雄叫びとともに、アインが大剣とともに異形に突進し、刃を頭上から振り下ろす。
咄嗟に突き出された両腕もを両断し、光の激流のような勢いの破壊の力が、まっすぐに四つ首の異形の肩に食らいついた。
「■■■■■■■■■■■■■‼︎」
「あああああああああああああ‼︎」
剣が放つ衝撃が、異形の体だけではなく周囲にまで及ぶ。弾けた雷撃が周囲に飛び散り、建物に突き刺さってあっという間に粉砕し瓦礫の山に変えていく。
アインは獣のような咆哮をあげ、大剣の刃を異形のさらに奥へと喰らわせようと力を込め続ける。雷撃が自身にまで及び、鎧や肌を焼き焦がし始めても、その手を止めようとはしなかった。
その時、異形の半ばから切られた手が持ち上げられ、剣にかかる。かろうじて再生していく腕を伸ばしながら、異形がアインを凝視していた。
『わ、わかっているのか…⁉︎ 私を殺す意味が…‼︎』
剣に体の半分近くまでを絶たれつつも、異形は、ヘヴンズロードはすがるような目でアインに呼びかける。
あまりの閃光の強さに視界はほとんど塗りつぶされていたが、それでも諦めの悪い狂人は生にすがり続け、見苦しい様をあらわにしていた。
『忘れたのか…⁉︎ そこにいる男はジョーカーアンデッド………全てを滅ぼす最悪の存在‼︎ 私が、ケルベロスが消えたとき……残ったアンデッドはその男とハートのキングだけになるのだぞ⁉︎』
無言のまま顔を伏せるアインに構わず、生き汚く醜態を晒し続けるヘヴンズロードは気付かない。
大剣のつかを握りしめるアインの手に血管が浮かび、顔の影に入った両の目が怪しく光を放っていることに。そしてその目が、異様なほどの覚悟を秘めていることに。
『人類の絶滅は免れない…! お前達はその独りよがりな正義で、世界を滅ぼすことになるのだぞ‼︎』
「…………だからなんだというのだ」
良心に問いかけるようにすがりつくヘヴンズロードに返ってきたのは、汚物を見るような目と、氷のように冷え切った眼差しだった。
途端に言葉を失うヘヴンズロードに向けて、アインはニヤリと笑みを浮かべる。高潔な騎士とはとても思えない、己が願望に満ちた危険な表情で、彼女は口を開いた。
「ミッドチルダに住まう全ての人間の命とハジメ……端から天秤にかけられるわけがないだろうが」
『……⁉︎ お前、何を…⁉︎』
「お前に言われるまでもなくな…………私の両手は、血塗れなんだよ」
そう吐き捨てると、アインは片足を振り上げ、自身が持つ大剣に向けて踵を振り下ろす。異形の体に食い込んだ刃がさらに奥へと進み、甲高い音を響かせながら、一瞬にして鎧と体を真っ二つに両断してみせた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」
黄金の光が辺りに四散し、視界の全てが埋め尽くされていく。その中でヘヴンズロードは最後の悲鳴をあげ、全身にほとばしる強烈な痛みに悶え苦しむ。
突き立てられた破壊の力がみるみるうちに不死の体を焦がし、燃やし尽くし、跡形もなく消滅させていく。最後には異形の体がひときわ強く光を放ち、とてつもない爆発を起こして粉々に吹き飛び、消し飛ばされた。
辺りに響き渡る悲鳴と爆音の余韻だけが、異形が確かにそこに存在していたことを表していた。
「やった…ケルベロスを……倒した……!」
閃光に目が眩んでいたムーヴが、薄れていく炎と焦げ跡を見て、その顔に喜色を浮かべ、興奮した声を発する。
だが、喜ばしげな反応を見せていたのは彼だけで、他のもの達は何も言えず、ただその場に立ち尽くすばかり。そしてその視線は、爆発の後の前で佇む黄金の女騎士に向けられていた。
「アルデブラント……」
[アイン…?]
何も言わず、黒く染まった地面を見下ろしているアインに、サクソやハジメ、通信の向こう側にいるリンディやケインズはかける言葉を見失う。
彼女が最後に残したつぶやきが、耳から離れなかったからだ。
「アイン……お前、何を考えているんだ………?」
呆然とその場に立ち尽くしたまま、アインを凝視するハジメが思わずこぼす。
問われたアインは何も答えることなく、重厚な鎧に包まれた己が手を見下ろし続けていた。