【完結】魔法少女リリカルなのは ーThe Ace Chronicleー   作:春風駘蕩

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7.弓士の帰還

 暗い暗い、深い海の底のような空間に、アインは一人漂っていた。

 全身にまとわりつく思い感触、水圧のように圧迫し押し潰そうとしてくるそれが、肌を抜けて心臓にまで迫って来る気がする。

 

 ―――ここは、どこだ。

 

 ゆっくりと瞼を開けようとしても、まるで錘を縫い付けられているかのように重く、体のすべての自由が効かない。

 なぜか、と考えようとしても、うまく頭も働いてくれなかった。

 

 ぼんやりとしたまま時の流れに身を任せていると、徐々に脳裏に記憶が蘇ってくる。

 対峙した敵、変貌した巨大な怪物、狙われる少女、そして、圧倒的な力を受けて倒れて行く自分。何が起こったのかを少しずつ思い出し、焦燥が生じる。

 

 ―――私は…そうだ、あいつらは。

    あいつが呼び出したあの化け物は一体どうなって…。

 

 無理矢理にでも瞼を開け、自分が守ろうとした少女たちの元へ向かおうとするアイン。だが、彼女の身体はもう、本人の意思を全く聞いてくれない。

 神経の全てが焼き切れてしまったのか、文字通り糸の切れた人形のように横たわるだけで、指先一本動かすことも叶わない。

 

 何度も挑戦し、起き上がろうとするアインだったが、やがて脱力する。

 役に立たない自分の体に、諦めを抱いてしまっていた。

 

 ―――…駄目だな。

    全身が鉛のように重い……起き上がることも、出来んのか。

 

 底に穴の空いた器に、ひたすら水を注いでいるような気分に陥り、アインは激しい無力感に苛まれる。自分の行い全てが全否定されているような気がして、余計に意思が削り取られていく。

 

 最も大切だった者との時間を棄ててまで背負った責務、自分で選び、苦しみながらも、守りたいものを守り続けてきた自負が、多少なりともあった自分の生。

 その全てが、別の誰かの思惑によって全て水泡に帰したような、そんな遣る瀬無さで、アインは虚しさに苦しんでいた。

 

 ―――結局私は……何のために存在していたんだろうな。

    運命などと言う曖昧なものに踊らされ、せっかくできた大切なものを何もかも奪われ壊され、この手に残ったものなど何もない。

    この潰れた腕では、何も掴むことなどできはしない。

 

    ただ……だれかと一緒に生きていたかっただけなのに。

 

 こうなった以上、もう自分には何もできない。

 我儘で世界を引っ掻き回した責任を、あの場にいた誰かに押し付け、戦うこともせずにこんなところで自嘲することしかできない、ただの木偶の坊でしかない。

 虚しさに嘆息し、思考さえも放棄しようとした、その時だ。

 

 覚えのある気配に気づき、闇に沈みかけた彼女の意識が、一瞬で覚醒を果たした。

 

 ―――…この、気配は…⁉︎

 

 ずっと感じていたかった、しかしもう二度と感じてはならないはずのその気配に、アインは緊急治療室のベッドの上で、愕然と目を見開いた。

 

 

 

 ドッ!と強烈な四大元素の砲撃が放たれ、アースラの外壁すれすれを通過する。

 僅かに掠った部分が瞬く間に蒸発し、シュウシュウと白い煙を上げる。その直後、遥か後方に向かっていった砲撃が何かに炸裂し、爆発して凄まじい衝撃波を放ち、アースラ全体を揺らした。

 

 空気そのものさえ熱するようなその一撃に、瞬時に上下左右に展開し回避したなのは達は総じて目を見張り、冷や汗を流しながら息を呑んだ。

 

『あはははははは! ちっぽけなあなた達に何ができるというのですか⁉︎』

 

 呆ける暇もなく、フォーティーンとそれと一体化したアルビノジョーカーが哄笑を上げて襲い掛かってくる。

 巨大な四本の腕、その手に握られた巨大な武器を振り回し、少女達を木端微塵にしようと凄まじい質量をぶつけてくる。

 

 それだけではない、邪神と異形にだけ集中していると、邪神の腕から飛び出した白い蟲兵達が、唸り声と共に襲いかかって来るのだ。迂闊に近付くことは、即座に死を示す。

 

『せっかくあなた達は見逃してあげてもいいと思っていたのに……リンディ提督の気持ちを無下にするなんて、悪い子達ですねっ‼︎』

「下がれ‼︎」

 

 頭上から迫る剣の刃を前に、頭上から迫る蟲兵の大群に、サクソが鋭く叫びなのは達に促す。なのは達は即座に応じ、左右に分かれて振り下ろされる刃から逃れる。

 たった一度、剣が振るわれただけで凄まじい強風が吹き荒れ、辛うじて回避したなのは達を吹き飛ばす。

 

 どうにか体勢を整え、反撃に移ろうとするが、邪神は休むことなく次なる一撃を向けてきていて、目で追い反応することで一杯一杯になってしまっていた。

 

『あなた達に何ができますか⁉︎ そんなちっぽけな力で、僕の願いを阻めますか⁉︎ この力は全ての命を牛耳る力! 全てに対し正義を執行する絶対の力だと、最初に言ったはずですがねぇ‼︎』

 

 邪神の猛攻の合間を飛び、何とか反撃の機会を見出し、構えたレイジングハートから一発の砲撃を放つなのは。

 桜色の閃光は蟲兵達をまとめて呑み込み、瞬く間に蒸発させ消滅させる。そのまま閃光は、蟲兵達の親玉である邪神のど真ん中に炸裂した。

 

 しかし、邪神の顔面に直撃したそれは一辺の傷をつける事も叶わず、絶対的な力の差を目の当たりにさせられるだけに終わってしまう。悔し気に歯を食い縛りながら、なのはは振るわれる邪神の拳を躱し、頭上に跳び上がった。

 

「くっ…来ておいてなんだけど、今すぐ逃げちまいたいよ!」

「そうできるならそうしていたさ! だが…あいつの力からは逃げられるとは思えない」

【Sonic move.】

【BLIZZARD IMPACT】

 

 ぼやくアルフがアルビローチを殴り飛ばしながら呟き、光の鎖で拘束を試みるユーノも同じく冷や汗を流して呟く。

 その横を、雷光となったフェイトが飛翔し、氷結の力を槍に纏わせたムーヴと共に至近距離からの一撃を叩き込む。

 

 甲高い音と鈍い音が重なり、耳障りな不協和音が辺りに響き渡る。だが邪神はその程度の一撃ではものともせず、鬱陶しそうに二人に片腕を振るい跳ねのける。

 何とか直撃を避けた二人は今一度距離をとり、傷ひとつない邪神の体表を見据えて歯を食い縛っていた。

 

「諦めちゃ…だめだ!」

「たとえ限りなく0に近い可能性だったとしても……俺達が諦めるわけにはいかんだろうが!」

 

 消極的な思考ばかりを口にする使い魔達に、サクソとムーヴが強く否定の言葉を告げる。その目は真っすぐに邪神を見せたまま、相変わらず一切退く気を感じさせない。

 

 その身の全てを犠牲にしてでも、戦い続けると覚悟を決めた男達の勇姿に、邪神はけらけらと悍ましい嗤い声をあげた。

 

『あははははは…! 限りなく0に近い? いいえ! 完全な0ですよ‼︎』

 

 叶うはずもない、夢物語を語り続けるサクソとムーヴに向けて、アルビノジョーカーは引導を渡そうと思ってか、四代元素の力を四本の腕それぞれの武器に纏わせていく。

 その威力の高さは、最初に放たれた砲撃とほぼ同じ。しかしそれよりも強く圧縮された強烈な一撃となって、サクソ達を消し飛ばしてしまおうと迫る行く。

 

 一瞬にして、この世から消滅する。

 そう確信するほどに絶望的なエネルギーの奔流が、二人の騎士に向かっていく。

 

 

 その時だった。

 

 ビュゥッ!と強烈な竜巻が発生し、蔓延っていたアルビローチ達をあっという間に呑み込み、ズタズタに斬り刻んで粉微塵にしたかと思うと。

 ザシュッ!と背筋が凍るような嫌な音が響き、邪神の頬部分に突如、深く広い裂傷が刻まれたのは。

 

 

「■■■■■■■■■■■■⁉︎」

 

 鼓膜をつんざくような凄まじい絶叫が、邪神の口とアルビノジョーカーの口から同時に放たれる。

 響き渡るその声に耳を抑え、顔をしかめたなのは達は、邪神に起きた異変に目を見開き、中でもサクソとムーヴが絶句し息を飲む。

 

 ひゅうひゅうと渦巻く風の足場に乗り、邪神の目前に立ちはだかる、弓を持った黒い弓士の姿を目にして。

 

「…! お前は…」

「―――俺がいない間に、ずいぶんな事態になっているな」

 

 絞り出されたサクソの呟きに答えるように、弓士がため息混じりに告げる。ハートの形をした目で邪神を、写真の中心に融合する異形を見つめたまま、自嘲するように低い声をこぼす。

 

 邪神もまた、突如目の前に現れた黒い弓士を凝視し、言葉を失くす。

 だが次第に、彼女は大きく目を見開いたまま、口を耳まで裂けて見えるほどに歪めていく。ビキビキと軋む口が、獰猛な悪魔の形相を作っていく。

 彼女の黒い目に表れるのは、狂喜であり、激しい憎悪と憤怒であった。

 

「忘れ物を片付けに来たつもりが……とんでもない連中と再会する羽目になったな、なぁ……我が娘よ」

『…あは、あはははははは! まさか…まさかまさか、僕もあなたと会えるとは思いませんでしたよ…!』

 

 動きを止めていた邪神の全ての腕が、弓士に向けて迫る。四大元素の力を掌に集め、力尽くで握り潰さんとするために、鋭い爪が大きく開かれる。

 アルビノジョーカー は悪鬼のごときその顔で嗤い、怒号のような、悲鳴のような、歓声のような、様々な感情が入り混じった声で大きく吠えた。

 

『アイゴ・ハジメぇぇぇええええ‼︎』

 

 ドンッ、と合わさった四つの掌の中で、弾けた四大元素の力がぶつかり激しい衝撃波が生じる。

 熱が、振動が、圧が撒き散らされ、アースラやサクソ達に襲い掛かり、吹き飛ばそうとする。どうにかその場に留まるだけで、人間達は精一杯になっていた。

 

 そんな彼らを尻目に、弓士は―――ハジメは風を操り力の奔流の中を飛びぬけ、再び邪神の目の前にまで迫る。

 そして巨大な顔面に、鋭い刃を振りかぶってみせた。

 

「アイゴ・ハジメって…じゃあ」

 

 衝撃に顔を覆い、吹き飛ばされぬよう耐えていたなのはが、聞こえてきた名前にハッと息を呑む。

 仇敵を捕えようと動く、巨大な邪神の腕を掻い潜り、縦横無尽に空間を舞うハートの騎士。素顔の見えないその戦士を目で追いながら、なのはは脳裏に蘇る、恩人の胸が締め付けられるような悲しい過去を思い出していた。

 

「…あれが、アインさんの…!」

「ハートの弓士カリス……そして、ジョーカーアンデッド……!」

 

 唖然としたまま呟くなのはに合わせるように、ユーノも半ば呆然とした様子で呟く。もう半分の彼の感情は、弓士に対する激しい怒りが占めているようだ。

 

 凄まじい暴風が吹き抜け、頭上を邪神の腕が通り過ぎる。

 危うく直撃しかけたところを回避し、背中の翼を羽搏かせたサクソは、自分のすぐ目の前に留まったハジメを、仮面の奥から凄まじい形相で睨みつける。

 

「お前…なぜここにいる⁉︎」

「不穏な気配を感知してな……流石に俺も驚いている。まさか、あのような存在が生まれているとは思わなかった」

 

 ふぅ、と小さくため息をつき、ハジメはもう一つ、自分に向けられている凄まじい殺気の持ち主に目を向ける。

 

 すると、巨体を誇るその異形が、憂鬱そうに佇むハートの弓士に手を伸ばし、鋭く尖った指先を突き出す。

 ボッ、と空気が爆ぜると音と共に向かってくる刺突を、ハジメは風を操り躱し、また小さく呟いた。

 

「そうか…俺は、また別の罪を犯していたんだな」

「■■■■■■■■■‼︎」

 

 ハジメの目と、怒りに燃える異形の目が合い、邪神の口から強烈な咆哮が上がる。そこには、異形と化した少女の声も混じっていた。

 

 フォーティーンは怒りに振り回されるように、幾度も武器を持った手を振り回しハジメを襲う。

 それをハジメが紙一重で躱し、傷一つ負わないまま空ばかり切られ続けると、アルビノジョーカーは悪魔じみた顔をより凶悪に歪め、大きく吠えた。

 

『アイゴ・ハジメぇぇ…! お前は…お前だけはああああ‼︎』

「強い恨みの念だ…それはそうだな。そうなって当然なほど、俺の犯した罪は重い」

 

 鋭く突き出された剣を受け流し、刃に乗る。

 自身をうっすらと映す、鈍く輝くその上を駆けだし、フォーティーンの腕を登り本体のもとまで駆け上がっていく。

 

 途中、別の腕がまるで蝿や蚊を潰そうとするように伸ばされるも、目にも止まらぬ速さで加速したハジメを捕らえる事は叶わない。

 忌々しげに目を光らせるアルビノジョーカーを見据えながら、はじめは一枚のラウズカードを取り出す。

 

「お前は俺が生み出した闇だ……俺が抱いた情で、あいつに孕ませた災厄の胤だ。俺の軽率な行動で生み出してしまった……悪意によって育まれた悲しき怪物だ」

【EVOLUTION】

「俺を恨むのは当然…死ねと言うなら死ぬ。そうしなければならない罪を俺は犯した……だが」

 

 ベルトのスリットに、カテゴリーKのカードをスライドさせ、その力を自らの身体に取り込む。

 直後、彼の持つ13枚のラウズカード全てが空中に飛び出し、肉体に融合しその姿を変貌させていく。

 

 人の血の色に似た深紅のスーツに黒い鎧、胸にアンデッドの血の色をしたハート型の結晶を輝かせ、ハジメが鋭く突貫する。

 

「そのためにお前は……あいつを傷つけた。あいつの守ろうとしたものを屠ろうとした、踏み潰そうとした。それだけは見過ごすことはできない」

 

 ジャキッ、と腰に備えた鎌を両手に装備し、振りかざし構える。

 自身に流れる色と同じ、緑色のハートの目を輝かせ、弓士はアルビノジョーカーを―――自分と愛する女の間にできた命を、完全な敵と見定めた。

 

「俺が生み出してしまった大罪の証……故にお前は、俺の手で始末をつける」

『どの口が吠えているんだァァァァァァ‼︎』

 

 激昂したアルビノジョーカーとフォーティーンが咆哮し、ハジメが駆ける腕を滅茶苦茶に振り回す。同時に別の腕も引き戻し、目前にまで迫った彼を叩き潰そうと武器を差し向ける。

 

 足場が大きく揺さぶられるよりも前に、ハジメは大きく跳躍し別の腕に映る。それを何度も繰り返し、邪神の中心に融合する異形のもとまで向かっていく。

 

【WILD】

「おおおおおおおおおおおお‼︎」

 

 13枚のラウズカードが合わさり生まれた、真なる力を秘めたカードを、鎌と弓を重ねた得物に纏わせ、大きく振りかぶる。

 横一文字に放たれた一閃が、アルビノジョーカーの首を両断しようと勢いよく迫る。

 

 だが、直撃するよりも先にフォーティーンが動き、頭から伸びる長い角が剣筋に割り込み、受け止める。

 凄まじい、甲高い音が鳴り響き、ハジメとフォーティーンの間で激しい火花が飛び散った。

 

『この偽善者がァァァ! お前のせいだ! お前のせいであの人はァァァ!』

「ぐっ…おおおお!」

 

 アルビノジョーカーが吠えると、怒りに呼応したフォーティーンがハジメを力尽くで弾き飛ばす。

 空中に撥ね上げられたハジメは、どうにか体勢を整えようともがくが、異形はそれすら許さず、邪神の巨大な腕を振り下ろし、激突させる。ハジメは凄まじい速度で落下し、時の庭園の大地に叩きつけられる。

 

『何が始末をつけるだ! 何が見過ごせないだ! 全部全部……お前が残した責任だろうが! 見た目だけ反省して、自分のやったことを棚にあげているんじゃない!』

「ごはっ⁉︎」

『お前の存在が全ての元凶だ! あの人はその全てを押し付けられたんだ! お前さえいなければ……あの人はあんなに苦しまずに済んだんだァァァァ‼︎』

 

 地面にめり込んだハジメに、アルビノジョーカーはフォーティーンを操り、四大元素の力を宿した武器を何度も何度も振り下ろし、炸裂させる。

 轟音と衝撃波が発生し、庭園がもう跡形もなくなるほど破壊されるも、それでもフォーティーンの動きは止まらない。ハジメの存在そのものを全て否定しようとするように、暴虐の手を止める事はない。

 

 だが、その手は不意に停止させられる。

 真横から伸びた、桜色と金色の砲撃を顔面に受け、邪神の巨体がわずかに横に押しのけられたからだ。

 

『…! お前ぇぇ…!』

 

 邪神の顔から立ち昇る黒煙を見上げ、ぎろりと恐ろしい目を向けるアルビノジョーカー。

 

 常人ならば確実に失神しているであろうその視線を受けながら、ハジメと彼女の間に割り込んだ白と黒の二人の少女とその仲間、そして二人の騎士達。

 庇うように背中を向けている彼女達を、崩壊した地面にめり込まされたハジメは、呆然とした顔で凝視する。

 

「…お前達は」

 

 思わずこぼれたハートの休止の声に、白い少女―――なのはがキッと鋭く横目を向けてくる。

 そこには、ハジメを気遣う気持ちは一切ない。むしろ、嫌いな相手に向ける刺々しい感情がこれでもかと伝わってくる、厳しい表情があった。

 

「とりあえずあなたがアインさんの……一番大変なときに一緒にいてくれなかった女の敵ってことはよくわかりましたから、後で覚えておいてください」

 

 ふんっ、と鼻を鳴らし、なのははまたハジメに背を向ける。同じくフェイトも、無言のまま厳しい視線を向け、背中から怒りの感情をにじませる。

 

 彼女達の隣に立つユーノとアルフも同じく険しい表情であり、じっとハジメを見定めるような目を向ける。

 強い圧を放つ視線を向けながら、不意にアルフが口を開いた。

 

「詳しい事情はよくわかんないけど、あいつの言い分が正しいんなら……あんたがあいつにとっての大事なやつなんだろ」

「…そうだ」

「…なら、あんたのこともぶっ飛ばしてやりたいけど、今あんたに倒れられても困りそうだ。手を貸してやるよ」

 

 言い訳一つせず、頷くハジメにニヤリと獰猛な獣のような笑みを見せ、アルフも邪神と異形に向き直る。

 ぐっ、と仮面の奥で息を詰まらせるハジメを見て、なのはも同じく笑みを見せる。

 

 ガシャン、と砲撃形態に移行させた相棒を構え直し、なのはは鼻息荒く告げる。

 

「まずはあの人を止めて、それからじっくりお話を聞かせてもらいます!」

 

 勇ましい姿を見せる少女達に、その左右に立ったサクソとムーヴは、仮面の奥で感心の笑みを浮かべる。

 幼い少女達に一方的に言い負かされている不死の怪物。中身こそ恐るべき存在であるのに、見た目は年端もいかない子供に言い負かされる情けない大人の姿でしかない。

 

 その姿にどうしても笑いを隠すことができず、サクソとムーヴは肩を揺らしながらハジメに目をやった。

 

「そうだな…今は庇ってくれるだろうアインはいない。逃げられると思うな」

「ええ…いろんな人から色々言われるでしょうから、大人しくしていることです」

「…そうだな」

 

 自分よりもはるかに若い者達に諭されたことで、ハジメも苦笑を禁じ得ない。

 窪んだ庭園の地面から抜け出し、弓を構え直した彼は、仮面の下で不敵な笑みを取り戻し、気だるげに敵を見据えて呟く。

 

「ならばせめて、俺にできることは全て終わらせておくとしようか」

 

 大気を震わせ、凄まじい威圧感を放ち見下ろしてくる邪神を前に、なのは達は一片の恐怖も見せず、デバイスを構え宙に浮き上がる。

 たとえ、死そのものが目の前にあるような、そんな絶体絶命の状況下にあろうとも決して退く気配を見せず、大切なものを守るために立ち向かう。

 

 彼女達の見せる目は、まるで夜闇に輝く星の光のように、強く眩しい輝きを放っていた。

 

『あは…あははは…! どいつもこいつも……ふざけているのか人間共ォォォォォォ‼︎』

 

 フォーティーンとアルビノジョーカー の怒りはさらに燃え盛り、強烈な破壊の光が、辺りに飛び交った。

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