【完結】魔法少女リリカルなのは ーThe Ace Chronicleー 作:春風駘蕩
激しい爆発音が響き、黒煙が空中に生まれる。
すると次の瞬間、黒煙の中から勢いよく小さな人影が飛び出し、アースラの外壁に激突し、轟音が鳴り響く。
煤だらけ、傷だらけになった時空航行船の外壁にさらに大きなへこみを作り、機体を少しだけ揺らした人影―――なのはは、額から血を流し、小さく呻き声を漏らした。
「う……く…」
「なのは!」
上着は失われ、身体の各所を守る装甲も砕け跡形もない。スカートもずたずたになり、裂傷を幾つも受けた素足を晒す彼女の姿は、痛々しいという他にない。
レイジングハートにも大きな罅を刻ませた彼女の元に、フェイトがすぐさま駆けつける。
白い装いが黒焦げになったなのはを抱き上げるフェイトだが、彼女の方も満身創痍の状態である。
レオタードのようなスーツは裂けて血が滲み、マントも既に失われている。バルディッシュも罅が入り、再び砕けてしまいそうなほどに損傷している。
なのはもフェイトも、今にも倒れそうなほどに痛めつけられていた。
『いい加減鬱陶しいんですよ……払っても払ってもわらわらわらわらと。大人しくしていてくださいよ、僕はあなた達を殺したくない』
動くこともできなくなった二人の少女達に、ゆっくりと近づく巨大な邪神、そして、見下すように冷ややかに告げる異形。
アルビノジョーカーはそう言って、自らの傷一つない体を見せうつけるように、四本の腕を掲げ、武器を構える。四つの元素による光を灯し、すぐにでも彼女達の命を奪えることを示す。
きつく歯を食い縛るなのはとフェイト。二人の前に、彼女達の相棒達が駆け寄り、盾となるように立ちはだかる。
その様を、邪神はただ嘲笑う。
何の意味もない行為を、次の瞬間には無に帰すような存在が立ち向かってくる姿を、可笑しげに見下ろし続けていた。
『でもしょうがないから……手足の一本や二本ぐらいは我慢してくださいよね』
身動きの取れない四人に向けて、群れる蟻を踏み潰すかのように、邪神の片腕が振り下ろされる。
逃げる余裕はもはやない、呆気なく、アースラと共に時空の藻屑と化すであろう巨大な質量を前に、少女達と使い魔達は諦めで、きつく瞼を閉じる。
それを見た騎士達が、彼女達を守ろうと宙を舞い駆け寄ろうとするも、それが間に合わない事は明らか。
目の前で、幼い命たちが叩き潰されようとした、その時だった。
嗜虐的に歪んだ笑みを浮かべていた異形が目を見開き、邪神がピタリと動きを止めたのだ。
『…! まだ立ち上がるのですか⁉︎』
ぎろり、とアルビノジョーカーとフォーティーンの目が、少女達から離される。同時に、邪神の武器に宿っていたエネルギーが霧散し、異形から狼狽に似た雰囲気が醸し出される。
訝しみ、眉を寄せたなのは達は、邪神と異形が見ている方へ自分達も視線を移す。
そして、彼女達と同じく、驚愕で大きく目を見開き、絶句することとなる。
「……生憎、私は死ねないからな」
彼女達の目に映ったのは、アースラの搬入口からカツン、カツンと音を立て、剣を杖にして少しずつ前へ進む、一人の女騎士。
全身を包帯に巻かれたアインが、必死の形相でなのは達の元へ、そして邪神の方へと進んでいる姿だった。
それも、まだ完全に復活していない。指先や足先はまだ不完全で、骨や肉が覗いて見えている。
見ているだけで痛みを覚えるほどに悲惨な姿で、アインは邪神に立ち向かおうとしていた。
その様に、一人の騎士が最も悲痛な声を上げる。
「アルデブラント…!」
「なぜ…なぜ来たんだ、ハジメ…!」
思わずこぼれたハートの弓士、ハジメの声に、アインがギリッと歯を食い縛りながら答える。
自らの身体に走る激痛だけではない、胸の奥に突き刺さる痛みで、女騎士の顔はくしゃくしゃに歪み、涙が溢れる。
十数年という年月を越えて再会し合った、決して愛し合ってはいけなかった二人は、互いに対し責めるような、焦がれるような、悲し気な眼差しを送り合っていた。
「私は…! お前が生きてさえいてくれれば、それでよかった! どんな目に遭ったって、死んだってよかった! なのに……なのに何故来たんだ、アイゴ・ハジメ‼︎」
泣き叫ぶ女騎士の口から溢れるのは、どこまでも弓士を想う言葉。自分のことなど微塵も考えていない、ただ一人愛する男の事だけを案じる言葉であった。
自分の存在そのものを投げ捨てるような悲痛叫びに、なのはやフェイトは目を潤ませ、口を手で覆う。体温ある女性がそんな悲しい言葉を吐くことが、つらくて仕方がない様子だった。
ハジメはそんなアインに、仮面の奥から悲痛げな視線を送る。
そしてやがて、アインを見つめたまま肩を竦めてみせた。
「……惚れた女を苦しめ続ける男が、いてたまるか」
深い愛を伴って響くその言葉に、アインはハッと息を呑み、目を見開く。
その時彼女は、仮面越しでもはっきりとわかる、愛する男の優しい笑顔を目撃する。
自らを痛めつける、悲しい運命に翻弄され続けた女に向けた、心の底から彼女を想う気持ちが、溢れんばかりに伝わってくる。
その態度を目撃したアインは呆け、そしてすぐに嫌な予感を覚え、瞬く間に顔色を悪くさせていった。
「もう十分だ、十分多くのものを俺はお前からもらった。人が一生のうちに得るような宝を、俺はお前から貰ってきた―――だからもう、いいんだ」
「……お前、何をするつもりだ」
まるでこの先に何もないかのようなハジメの物言いに、アインはその場に立ち尽くし、徐々に肩を震わせ始める。
そして考える、なぜ彼はこの場に現われたのか。
圧倒的な破壊力を持つ邪神に対し、足りない戦力しか伴わずに、立ち向かいに来たのか。そんな無謀な戦いを始めるために、逃げる事を止めてアインの前に再び現れたのか。
疑問が次から次にあふれ、激痛もあり、アインの脳はうまく働いてくれなくなる。
戸惑いの表情のまま固まる女騎士に向けて、ハートの弓士は小さな声で語りかけた。
「―――アイン、お前を愛してる」
唐突に告げられた愛の告白に、十数年前もついぞ聞くことのなかった思わぬ言葉に、アインは今度こそ混乱で固まる。
大きく目を見開き、剣を杖にした不安定な体勢のまま立ち尽くす彼女を見つめたハジメは、不意に邪神に向かって振り向き、風を操り突っ込んでいく。
誰もが唖然とし、動く事を忘れた中、人の姿をした不死身の怪物は真っすぐに邪神の中心に飛び込んでいき、弓の刃を突き出していく。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■‼︎」
「ぐあああああああああああああああああああ‼︎』
その直後、カッ!と眩い光が辺りに迸り、次元空間を照らし出した。
直後、胸の中心に刃を突き立てられたフォーティーンとアルビノジョーカーが絶叫し、びりびりと凄まじい音で鼓膜が震える。
あまりの眩しさに、悲鳴の煩さに、なのは達もサクソ達も、そしてアースラの中にいた面々も皆目を覆い、苦痛に呻き声をあげる。
ただ一人、異変の原因を探ろうと、眩しさを堪えたフェイトが光の奥を覗き込もうとする。
すると彼女は、真っ白な光の中に見つけた影に気付き、瞠目する。
まるで邪神の中から吐き出されるように、ぐったりと項垂れた母が抜け出してくる姿が見えたからだ。
「か…母さん!」
ハッと我に返ったフェイトは、自身の身体の痛みも忘れ、落下していくプレシアの元に急降下する。
重い体を受け止め、ふらふらと飛行を不安定にさせるフェイトだが、そこへアルフが助けに入り、二人でやっとプレシアの身体を抱き上げる事に成功する。
ホッと安堵し、ボロボロと涙を流して喜ぶフェイトから目を離し、アルフはもがき苦しむ邪神を見上げた。
「あ、あいつがあの化け物の中に入って……プレシアが弾き出されたのかい⁉︎」
プレシアと入れ替わるように、邪神の中に姿を消したハートの弓士、アイゴ・ハジメ。状況を見るに、彼が何かをしたことで、劣勢だったアルフ達の状態が変わったのだと確信する。
これまでほとんど弱った姿を見せた事のないフォーティーンが、凄まじい咆哮を上げて、四本の腕を滅茶苦茶に振り回す。
巨体さえ無視すれば、まるで道端で死にかけた小さな虫けらのような、生き汚く見苦しい様相を見せていた。
『何を…何をして……があああ⁉︎』
そして、邪神の中心で融合するアルビノジョーカーも、自身に起きる異変によって激しく苦しみ、悶え続ける。
口から緑の血を吐き、ばたばたと上半身を暴れさせながら、混乱と苦悶と怨嗟の声を上げる。優位に立ち続けていた異形は、完全に立場を逆転させられていた。
まるで奇跡のようなその光景を前に、アースラの中では一つ二つと、希望を宿したざわめきが上がり出す。
目に光を取り戻し、血の気を戻しつつある彼らをよそに、リンディだけは真っ青な顔のまま息を呑む。
彼女の脳裏には、つい数分前まで続いていたある男との対話の内容が、蘇っていた。
―――バトルファイトの勝者。
全生態系の頂点に君臨する一種が最後に手に入れることができる、絶対的な破壊の力を持った邪神……それがフォーティーン。
息を殺し、モニターに映る男の言葉を一字一句聞き逃すものかと身を硬くするリンディに、ケインズは淡々と語った。
これから行われる残酷な行為に表情一つ動かさず、何度も苦しそうに咳き込みながら、冷酷な魔差しをモニター越しに見せつけていた。
―――邪神フォーティーンは本来、勝者の証である四枚のカテゴリーキングのラウズカードと、核とする生贄を一つ捧げることで降臨する……
しかし、今のフォーティーンはその限りではない。
バグにより召喚条件が曖昧となり、ラウズカードと同規模のエネルギー源を捧げることで、その力をこちら側に引き出すことができるようになった。
……ならば、さらなるバグを起こせばどうなる?
ハッと息を呑むリンディ。ケインズが言わんとしている事を察し、わなわなと唇を震わせてその場に立ち尽くす。
しかし同時に、その作戦が必要とする犠牲にも気づき、リンディの顔から見る見るうちに血の気が引いていく。
構わずケインズは、自分が弱り切った身体を押して探し当てた打開策を、躊躇うことなく口にした。
―――生贄の一人を引きずり出し、生き残った勝者がその器に収まる……。
どんなことになるかは未知数だが、少なくとも邪神はバグで強く苦しむこととなろう。
それだけで、破壊神は止まる―――最後にそれを討つことで、フォーティーンは完全に破壊することが可能となる。
筋の通った、納得のいく策。細かい差異はあるだろうが、確かにその方法なら、誰も止められないと思っていたあの怪物を弱体化、さらには討つ事も叶うかもしれない。
しかし、そのために見過ごすことのできない問題に、リンディは尚も強張った表情を戻せずにいた。
―――……でも、それでは。
―――そう……器に入った生贄も死ぬこととなる。
だが―――奴は、それを覚悟の上だ。
そう告げた老人の、覚悟と狂気に満ちた顔を、リンディは忘れられずにいた。
自分の信じた正義の為、そして求めた結末の為ならば、如何なる犠牲をも辞さない。
たった一人の女騎士が異形に身を落とし、一体の怪物がその身を犠牲にしようとも、一切心を痛めることなく、冷静に指示を下す。
その在り方が、リンディにはたまらなく恐ろしく見えていた。
そしてその覚悟は、犠牲となろうとしている怪物の男にも言える事だった。
邪神の中に潜り込み、その血からの全てを阻害している彼は、自らが消滅することを受け入れようとしている。
己の遺伝子を受け継いだ、同じ怪物である少女を道連れに。
『アイゴ・ハジメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎』
「暴れるな……これが俺に、お前に父ができる唯一のことだ。最期まで……付き合ってもらうぞ」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■‼︎」
アルビノジョーカーの、インシグニアの怒号とフォーティーンの悲鳴が混ざり、辺りに広く響き渡る。
自らの胸を掻きむしり、混じり込んだ異物を取り出そうとする邪神だが、その行為も自らを苦しめるだけで、苦痛から解放される事はない。
邪神の胸で悶えるインシグニアは、自身から力を削ぎ続ける怪物の男に憎悪と憤怒の感情を向け、緑の血の涙を流し吠える。
なのはやサクソ達、怪物同士の戦いの現場に居合わせた誰もが、その光景に瞠目し、息を殺して事の成り行きを見守る、その時だった。
棒立ちになる彼らの元に、邪神の胸の奥から微かな声が届けられた。
「今だ……やれ」
その言葉が示す意図に、なのはとフェイトはひゅっと喉を鳴らし、ユーノとアルフは目を見開く。
同じくサクソとムーヴも仮面の奥で言葉を失い、残酷な願いを口にしたハジメが消えた方向を、食い入るように凝視する。アースラの面々も、大きな騒めきを漏らし始める。
動揺で固まる彼らに、ハジメは邪神の奥底に潜り込みながら、フッと自嘲気味に笑みをこぼした。
「俺にできることはこんなことでしかない……世界を引っ掻き回してきた怪人の片割れとして、責任を果たすことぐらいしかな」
「ハジメさん…!」
「許せ、名も知らぬ少女よ……何発でも殴られる覚悟はあったが、受け止められそうにない」
アインをずっと一人ぼっちにして、苦しみに満ちた運命に翻弄させた張本人に怒りを抱いていたなのはは、悔しさと悲しみでごちゃ混ぜになった顔を見せる。
この気持ちを、たった一度でもぶつけるつもりだったのに、という想いで、白い少女はきつく拳を握りしめる。
するとその時、フォーティーンの鋭い爪が自身の胸に突き立てられ、体液のような何かが噴出する。
悶え苦しむフォーティーンのその動きは、自身の中に潜り込んだ異物を、無理矢理力尽くで引きずり出そうとしているようだった。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■‼」
「ハジメさん!」
「アイゴ!」
ザクッ、ザクッと自らを傷つけ、体液を辺り一面にぶちまける邪神の姿に、なのは達が思わず声を上げる。
迷っている暇はない、邪神の体内がどのようになっているかはまるでわからないが、このままではハジメの身に何か影響が起こるかもしれない。命を懸けて生み出した決定的な隙が、これによって永遠に失われてしまうかもしれない。
だが、そう考えても、なのは達の足は動いてくれなかった。
自分の手で、味方の命を奪わなければならないという事実に押し潰され、武器を構える事ができなくなっていた。
無論それは、アインにとっても同じ事だった。
「…殺せと言うのか、私に…お前を。自分も自分以外の何もかもを犠牲にして、生きていて欲しいと思ったお前を……私自身の手で殺せと言うのか」
ボロボロと涙を流し、ぶるぶると剣を握る手を震わせ、アインは嘆きの声を上げる。
自分の想いの、これまでの苦しみの全てを否定するかのような願い。守り続けてきた大切な何かを、自らの手で木端微塵に砕かせるような頼み事に、アインはひたすらに戦慄き、泣きじゃくる。
例え、愛する男からの願いであっても、彼女は頷くことはできなかった。
「馬鹿…馬鹿野郎! それじゃあ…それじゃあ私は、なんのために…!」
「…頼む」
邪神の絶叫、異形の悲鳴、肉体が破壊される音、女騎士の慟哭が混じり合う中、ハジメが再び語り掛ける。
その穏やかな声に、アインは邪神の中に消えたはずの彼の。
優しく微笑みかける、もう一度見たいと思っていた顔を見た気がした。
「アイン…お前の手で俺を、俺達を終わらせてくれ―――」
それ以降、ハジメの声は聞こえなくなってしまう。同時に、邪神の絶叫がより強く大きくなり、強烈な波となってアースラに襲い掛かる。
揺れに襲われた局員達の焦燥の声や、なのは達の苦悶の声が聞こえてくる中、女騎士はきつく唇を噛み締め、俯き黙り込む。ズズン、と余波を受けたアースラの機関部から、聞き逃せない爆発音が響いた瞬間。
女騎士の目が、雷光の如き鋭い光を放った。
【ABSORB QUEEN, EVOLUTION KING】
「おおおおおおおおおおお‼︎」
血反吐を吐きそうなほどに激しく轟く咆哮を上げ、剣を振り抜き立ち上がるアイン。
その叫びに呼応するように、13枚のラウズカードが浮遊し彼女の身体に融合していく。ばさりと腰布を翻し、黄金の大剣の切先をズン、とアースラの外壁に突き立てる。
滝のように涙を流し、鬼のようにすさまじい形相になりながら、アイン・K・アルデブラントは、悲鳴をあげる巨大な敵を見据え、気炎を吐いた。
「ぐっ…がふっ!」
だが、突如アインは大量に吐血し、黄金の鎧を緑色に汚してしまう。
溜まりに溜まった痛みと疲労、ボロボロになった肉体が悲鳴をあげ、これ以上敵に立ち向かう事を拒否してくる。
しかしそれでも、ぐらりと体を傾がせても、アインは決して膝を突こうとしなかった。
ギギギ、と骨が軋む音を響かせ、肉が裂け、内臓が押し潰される感覚に苛まれながらも、二本の足でしかと断ち続ける。まるで一度でも屈してしまえば、もう二度と立ち上がる事ができなくなると、自分に言い聞かせるかのように。
そんな不退転の覚悟を決めた女騎士の姿を、白と黒の少女達は瞬き一つせずに凝視し、やがてキッと表情を改める。
彼女達の目にも、女騎士と同じく、固く重い覚悟の光が灯った。
「アインさん!」
「アイン!」
なのはとフェイトが叫び、壊れかけた相棒たちを差し向ける。すると、二つのデバイスにそれぞれ備わった宝玉が光を放ち、一筋の光となって空中を走る。
桜色と金色の魔力の光は、仁王立ちする女騎士の身体に重なり、彼女の体内に染み渡っていく。傷付いた身体に、ほんの少しではあるが活力を与え、ふらついていた体に芯が戻る。
前へ進む力が体に広がっていく様に、アインは目を見開き息を呑む。
そして視界に映る、弱々しくも、しかし不敵な笑みを浮かべるなのはと、心の底から案じる眼差しを向けるフェイトを凝視した。
「私の分も……あの人をぶん殴ってあげてください」
ぐっ、と拳を突き出すなのはに、フェイトが頷く。
もう一切の余力も残っていない、全てを託した二人の少女達の隣で、ユーノとアルフも、サクソとムーヴも覚悟を決めた様子で頷く。
そこにいないリンディやエイミィ、多くの局員たちも、アインに向けて強く祈っていた。
自身に伝わってくる、多くの者達の願いと希望。
その熱さを感じながら、アインはグッと唇を噛み締め、上空に向けて弾丸のような勢いで跳躍した。
【SPADE 10, SPADE JACK, SPADE QUEEN, SPADE KING, SPADE ACE.】
アインの両腕が握る大剣に、5枚のラウズカードが飲み込まれ、宿った力を解放していく。
黄金の刃に大量の魔力が纏わりつき、何倍も、何十倍も大きな刃に変化していく。あっという間に、邪神の体長とそう変わらない大きさの剣に変貌し、辺り一面を黄金色に染め上げていく。
歯を食い縛り、討つべき敵を見据えたアインの両目から、眩い金色の閃光が迸った。
【ROYAL STRAIGHT FLASH】
「ウェエエエエエエエエエエイ‼︎」
凄まじい熱、凄まじい重さを有した黄金の剣を掲げ、アインがフォーティーンの頭上に向けて落下していく。
ハートの弓士の邪魔で、悶え苦しんだままだったフォーティーンも気づき、迎撃のために全ての腕を伸ばし、咆哮する。だが、迫り来る刃はそれらを一瞬のうちに焼き切り、邪神の防御を完全に無意味なものにしていく。
邪神と異形の目が大きく見開かれた直後、巨大な黄金の刃が、邪神の眉間に深々と食らいついた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■‼︎」
誰もが耳を塞ぐほどの絶叫が、フォーティーンの口から放たれる。人の魂まで侵すような、感覚の全てを狂わせるような声が、辺りに広がっていく。
眉間から顔、頭、首、上半身と黄金の刃は突き進み、巨体を真っ二つに両断していく。ギャリギャリと甲高い音を鳴らし、激しい火花を散らしながら、邪神を切り裂いていく。
その刃は、やがて邪神と共に苦しむ白い異形の元にまで届こうとしていた。
『ウソだ……こんな! この力が、フォーティーンが破れるなんて…ああ、あああああ‼︎』
フォーティーンの巨体を斬られる痛みと苦しみが、アルビノジョーカーの身体にも伝わる。一瞬で終わらない、いつまでもいつまでも続く苦痛が、異形を苦しめ続ける。
格下と、取るに足らない存在だと見下していた者達による、自らの命を奪う凶行に、アルビノジョーカーは―――インシグニアは何度も首を横に振り、現実を否定しようとしていた。
そしてやがて、黄金の刃が、剣を振り下ろす女騎士が、彼女の目の前に迫る。
まるで太陽のように眩しく、強く、熱い光の中にいる女騎士は、目を剥いて叫ぶ異形を見つめながら、ポツリと小さく呟いた。
「……ごめんね―――」
か細く、消え入りそうな声で紡がれたその言葉に、インシグニアはハッと目を見開く。痛みも忘れて、光の中にいる女騎士を―――母を凝視する。
視界に映った彼女の目に、悲しい光を見つけたその瞬間、インシグニアはフッと脱力し、ゆっくりと瞼を閉じていく。
そして彼女達のいる空間は、真っ白な光に塗りつぶされ、全ての音が消え去ったのだった。