【完結】魔法少女リリカルなのは ーThe Ace Chronicleー   作:春風駘蕩

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第Ⅻ章 明日を選んだ蒼き剣聖
1.ありがとう


「今回の事件解決について大きな功績があったものとして…ここに、略式ではありますが…その功績をたたえ、表彰いたします」

 

 表彰状を両手に持ち、リンディが優しい笑みと共に内容を読み上げる。

 前に立つリンディに見つめられ、そしてアースラクルー達に見守られ、なのはとユーノが頬を赤らめる。

 

 学校で、ボランティア活動で地域に貢献して与えられるものとは比べ物にならない。一歩間違えば、本当に世界が滅んでいたかもしれないような事件に立ち向かい、解決に貢献したのだ。

 その賞賛が自分に向けられていることにまだ実感が持てず、どうしても浮き足立つのが止められなかった。

 

「高町なのはさん、ユーノ・スクライアくん……ありがとう」

 

 最後にそう伝え、リンディが二人に順番に表彰状を手渡す。受け取った二人には、クルー達から盛大な拍手が贈られ、ますます気恥ずかしそうに頬を染めた。

 

 思えば随分遠くまで来た気がする。

 ユーノは自分が起こした失態の尻拭いのために、なのはは遠い世界にたった一人降り立ち、戦おうとしていたユーノを手伝うために、ここまでの大事件にまで発展するとは夢にも思わず、責任感や善意で首を突っ込んた。

 

 しかし、時が経つにつれて二人の心境には変化が表れだした。

 失態の責任を取るつもりだった少年は、命がけで手伝ってくれている少女を自分も助けたいと思うようになり。

 軽い気持ちで挑んでいた少女は、悲壮な覚悟を決めて立ちふさがった少女と出会い、彼女を救いたいと言う強い想いを抱き、最初よりも強い覚悟を抱くようになっていった。

 

 一ヶ月近い争奪戦を経て、少女と少年は一周りも二周りも成長していた。

 自覚のないなのは達は、そう大人達に見られることが非常に気恥ずかしく思えてしまうのだった。

 

「次元震の余波はもうすぐ収まるわ…ここからなのはさんがいた地球になら、明日には戻れると思う」

「……よかった…」

 

 リンディの知らせに、なのははホッと安堵の息をつく。

 生まれて初めてかも知れない、家族にぶつけた大きなわがまま。ここ最近心配ばかりかけてきた、故郷に残した家族や友達の顔が浮かんでくる。

 一度思い出すと、今すぐにでも帰還して顔を見せたいという気持ちが強くなり、体が勝手に動き出しそうだった。

 

 喜ぶなのはだが、視線をユーノに向けたリンディの表情がやや曇っていることに気がついた。

 

「ただ、ユーノくんの故郷…ミッドチルダ方面の航路はまだ空間が安定しないの…しばらく時間がかかるみたい」

「え…」

「数ヶ月か半年か…安全な航海ができるまでそれくらいはかかりそうね」

 

 申し訳なさそうに眉尻を下げるリンディの言葉で、なのははハッと息を呑み、ユーノに視線を向ける。

 

 なのはのいる世界よりも、ずっと遠い世界に住んでいたユーノは、そう気軽に故郷に戻れない。次元震の影響が強い現在ならなおさらなのだ。

 道場の視線を送るなのはの前で、ユーノは困ったように頭をかきながら、苦笑をこぼしていた。

 

「そうですか……その…まあうちの部族は遺跡を探して放浪してる人ばっかりですから、急いで帰る必要はないといえばないんですが…」

 

 帰れないことに関しては、ユーノはあまり気にしていないらしい。

 もともと故郷というものに愛着がなく、場所を移って暮らしている習慣が強いため、住む場所に特にこだわりはないようだ。

 

 しかしそれでも、ユーノの表情には悩みが混じっている。

 家族に会えないこと、故郷に戻れないこと以上に考えあぐねている事によって、リンディに申し訳なさそうな目を向けていた。

 

「…でもその間、まさかここにずっとお世話になるわけにもいかないし…」

「じゃあうちにいればいいよ! 今まで通りに!」

 

 はい!と手を挙げ、提案の声をあげるなのは。

 フェレット姿が基本だと思い込み、人間の姿になった瞬間の驚きはあったものの、友達であることは変わりない。彼が姿を変えている間、色々と恥ずかしい思い出が出来上がってしまったが、そこはさして問題ではない。

 そんな友達が困っているのなら助けてあげたいという気持ちで、なのはは迷いなく手を差し伸べていた。

 

「なのは…いいの⁉︎」

「うん! ユーノくんさえよければ」

 

 まだしばらく、大切な友達が自分のそばにいてくれる。

 そんな温かい気持ちを向けてくれるなのはに、ユーノはホッと安堵し、笑みを返す。

 

 子供達の優しいやり取りを、リンディやクロノ、エイミィ達は穏やかな表情で見守っていたのだった。

 

 そうしてしばらくの間、ユーノと見つめあっていたなのはだが、不意に思い出したように目を見開く。

 リンディ達の方に振り向いた彼女は、最近常に自分の頭の中にあった心配事を口にした。

 

「……あの、フェイトちゃんとアルフさんは?」

「心配しなくとも、二人には一緒にある役目を任せている……まあ、あとで色々言われるかもしれないが、彼女達の望む役割を与えてある」

 

 なのはがクロノに問うと、青年は若干顔をしかめながら答え、肩をすくめる。

 

 何か、ジュエルシード事件とは異なる激戦を終えた後のような、心底疲れ切ったような彼の表情に、なのは訝しげに首をかしげる。

 その隣ではユーノが、クロノのそばではリンディとエイミィが、クロノの苦労を察して苦笑をこぼしていた。

 

「…申し訳ないが、しばらく隔離になる。面会は許可できない」

「そんな…!」

「今回の事件は、一歩間違えれば次元断層さえ引き起こしかねなかった重大な事件だ。時空管理局としては、関係者の処遇には慎重にならざるを得ない……それはわかるな?」

「とりあえずずっとそのままってことはないから、もうちょっと待って、ね」

「……はい」

 

 クロノの説明で、なのはは渋々、そして無理矢理自分を納得させる。

 ジュエルシードをめぐる事件で、最も苦しんだ被害者であるフェイトが、まるで危険人物であるかのように扱われていることには、一言も二言も文句を言いたい。

 その上、事件の解決には、彼女の協力もあってのことなのだから。

 

 しかし、フェイトが危険を冒し、その影響が街に現れたことも事実。命じられていたとはいえ、何もお咎めなしで済む話ではないのだと、なのはは暗い顔で俯いた。

 すると彼女は不意にハッと目を見開くと、辺りを見渡し始めた。

 

「あの…えっと……ア、アインさんは今…?」

「…っ」

 

 再び上がった問いの声に、クロノはなのはに聞こえないほどの小さな声量で息を飲む。彼女に見えないよう、グッと歯を食いしばり、枠上がった激情をどうにか抑え込む。

 

 突如沈黙し、鋭い視線を虚空に向けていたクロノに、なのはは不思議そうに首をかしげる。

 しばらくの間、少女が彼の横顔を見つめていると、やがてクロノは深い息を吐き、なのはに向き直り口を開いた。

 

「彼女にも、ある罰を受けてもらっている。…事件解決の功労者とはいえ、命令に違反し好き勝手暴れたからな。それは見過ごせん」

「アインさん……」

「心配しなくとも、ベッドでおとなしくしてもらっているだけだ……もっとも」

 

 多くの傷や痛みと引き換えに、なのはの世界や一つの家族を救って見せた女騎士が、どうして責められなければならないのか。

 そう思うが、フェイトと同じく、命令違反や暴走、独断専行と色々とやらかしていた彼女の所業を考えると、理不尽とは言い切れない気がしてくる。

 

 不老不死の怪物であることを理由に、凶悪な敵であろうと邪神であろうと一切臆せず、たった一本の剣を振りかざして暴れまわった強者にして狂人。

 自分もクロノ達と同じく、女騎士が傷つくたびに悲鳴をあげ、ヒヤヒヤとさせられた経験を思い出し、フェイトの時よりも深く納得する。どこかで閉じ込められているのなら、その辺を反省してもらいたいものだ。

 

 なのはが溜飲を下げたことに気づくと、クロノはまた深いため息をつき、大きく肩を落としてみせた。

 

「隣の人物と仲良くできているかどうかまでは不明だがな」

「いい考えだと思ったんだけどなー?」

「エイミィ…」

 

 困ったような顔で首を傾げ、ぽりぽりと頭をかくエイミィに、クロノは心底呆れた様子で頭を抱え、リンディもまた苦笑する。

 何やら悩み、困っている様子の彼らに、なのはとユーノは首を傾げるばかりであった。

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