【完結】ToLOVEるダークネス 黒天の魔皇女帝《ヴァンパイア・エンプレス》 作:春風駘蕩
デビルークの騎士と、ファンガイアの王が去った後の結城家のリビングには、重苦しい沈黙が降りていた。
自分から口を開くこともはばかられるほど居心地悪い空気の中、ララが口を開いた。
「……リト、本当に帰ってくるよね?」
不安な気持ちを隠しきれていない、普段の彼女からは考えられないほど沈んだ声に、少女たちは目をそらしてしまう。聞かされた話では、今もなおリトは危機にさらされているというのだから。
安易な慰めや下手な励ましは逆効果になる気がした。
「私たちは、足手まといのようですしね」
ララにも劣らない実力者であるヤミも、今度ばかりは気まずげに目を向けられずにいた。宇宙に名の知れた殺し屋も、あの異常な力を目の当たりにした今は軽々しく言うことはできない。
「ま、まぁザスティンたちが行ったし、父上や母上が力を貸してくれるんなら問題ないって!」
「……そう、だよね」
ナナが暗い雰囲気を払拭しようと明るい声で言うが、ララの表情は晴れない。むしろ先ほどよりも空気が落ち込み、余計に気まずくなってしまう。
「まぅ〜…」
セリーヌさえも心配そうにララたちの顔を見上げる中、それまで静かに少女たちの方を見ていたメアが口を開いた。
「……本当にそれでいいの?」
「えっ?」
「ナナちゃんもヤミお姉ちゃんも、先輩のおかげで自分の本心を行動で表してきたのに……こんなところで我慢して、先輩のこと手放しちゃうの?」
「メア……」
メアに言われて、ナナは思い出す。
メアの正体が
(結城くん……)
西園寺は彼の顔を思い出し、胸の奥がきゅうっと切なくなるのを感じる。ウブでドジなところはあるが、時折見せる男らしさとひたむきさが格好いい、大好きな男の子を。
(結城リト……)
兵器として生まれ、兵器として生きてきた自分に違う生き方を教えてくれた彼のことを、ヤミは失いたくなかった。
(リト……)
窮屈な王宮での暮らしが嫌で、飛び出した先で初めて出会った男の子。窮地を一生懸命に助けてくれた、優しくて大好きな彼の顔が、ララの幸せな思い出をいっぱいにする。
いろんな幸せを見出させてくれた少年の笑顔が脳裏に浮かんだ瞬間、恋する少女たちの想いは決まった。
「……私、リトのこと、助けたい」
強い決意を感じさせるララのつぶやきに、モモは驚いたように目を見張りながら、やがて笑みを浮かべた。半ば予想していた言葉であったというように。
「お姉様……そうですね、ここで待ってるだけなんて、私たちじゃありませんね」
「では、行きましょうか。メア、手伝ってくれますか?」
「そうこなくっちゃね〜♪」
覚悟を決めたデビルークの姫たちに付き従うように、ヤミとメアが腕まくりをしながらソファから立ち上がる。
ナナも同じ気持ちであったが、まさか今からすぐに出発するような展開になるとは思ってもいなかったようで、慌てて立ち上がって姉たちを呼び止めた。
「お、おい本気で行く気なのかよ⁉︎ これまでとは比べ物にならないくらい危ないだろ⁉︎」
「あら、じゃあナナはここでお留守番なの? じゃ、きちんと戸締りしておいてね」
「なっ……! い、行くに決まってんだろ‼︎ あいつがいなくなったら、その……静かになりすぎるし……」
尻窄みになりながら、顔を赤くして同行を望むナナにララもモモも笑みをこぼす。
「美柑と春奈はここで待っていてください。……守りきれるとは限りませんから」
「ヤミさん……」
真剣な表情のヤミの忠告に、美柑も春菜もためらいの表情を見せる。
ついていきたいのは山々だが、危険な旅になることは明らかであり、自分たちでは足手まといになることは間違いない。しかしそれ以上に、友達がそんなところに行くことを止めたいという気持ちも大きかった。
しかし二人は、そんな気持ちを必死に押さえつけ、ヤミと向かい合った。
「……! ぜ、絶対! 絶対結城くんと一緒に帰ってきてね⁉︎ 約束だからね‼︎」
「ええ、必ず守ります」
「ついでに、こんなに心配かけてくれちゃってるあいつに思いっきりお仕置きしてあげてね!」
「無論です」
「あ、あの……お手柔らかにね」
不穏な注文を加える美柑と、それを了承するヤミに頬を引きつらせながら、春菜は願う。
(……結城くん、私は力になれないけど、でも、信じてるよ。きっと帰ってきてくれるって……!)
大好きな彼と、大好きな友達がみんな無事で帰ってきてくれることを。またあの騒がしくも楽しい日々が戻ってくることを。
「無茶なことを考えるものだ……」
ネメシスは何のためらいもなく危険に向かっていく少女たちの無謀な姿に、呆れを通り越して感心の念を抱く。
同時に、それを決断させた少年への思いの強さに驚嘆していた。
「あいも変わらずよくわからん連中だな、この
ため息交じりの彼女の声には、どこか羨ましそうな声音が混じっていた。
「ーーー話は聞いたわ。大変なことになっているみたいね」
腕を組んで大きな胸を強調しながら、彩南高校の保健教師・ドクターミカゲは素直に驚きの声を上げる。アークのこともだが、少女たちの思い切った行動力にもだ。
「突然訪ねてきたから驚いたわ。……本気で行くつもりなの?」
「うん! 私たちの手で、リトのところに行きたいから!」
「ご心配をおかけしてすみません……ですが」
「わかってるわ。デビルーク王には伝えないから安心して」
宇宙でも伝説となっている存在に挑むため、知識のあるミカゲに助力を乞うたことは正しいだろう。少なくとも何も知らないよりはマシだからだ。
ミカゲは自分にできる力添えは十分にしながら、決して十分とは言えない準備でも向かおうとしている少女たちをまぶしそうに見つめていた。
「……若いわねぇ」
「や、ヤミちゃん! 気をつけてね⁉︎ 怪我しないでね⁉︎ この間みたいな無茶はもうしないでね⁉︎」
「ティア……わかりましたから離してください」
その横ではかつてヤミに人間としての生き方をしてほしいと、母親のように接していたティアーユが、まるで今生の別れのように滂沱の涙を流しながらヤミに抱きついている。
リトのことが心配なのはもちろんだが、またヤミと離れ離れになることを過剰に恐れていた。
「…もう、あなたの前からいなくなったりしませんから」
ヤミはその抱擁にしかめっ面になりながら、恥ずかしそうにティアーユの体を優しく抱きしめ返すのだった。
「とりあえず、こっちから貸せるものは用意しておいたから好きに使って」
「み、皆さんどうかお気をつけて‼︎」
「か、帰ってきてね! 約束だからね⁉︎」
「ティア、いい加減離してください……」
流石に鬱陶しくなってきたヤミが豊満なティアーユの乳房の間から脱出し、上空に待機させていた自前の宇宙船を呼び寄せる。
殺し屋時代からともに宇宙をかけてきた相棒、ルナティーク号だ。
「ルナ、出番ですよ」
『よしきたお嬢! 全速力で飛ばして行くぜ!』
ややガラの悪い、しかし忠実な彼に乗り込む。
その前に、見送りにきた春菜が真剣な表情でララを呼び止めた。
「ら……ララさん!」
振り返るララに、春菜は一瞬自分が言いたいことが多すぎて言葉につまるのを感じる。
少しの間黙り込み、覚悟を決めた春菜は、今一番伝えたい思いを口にした。
「……必ず、戻って来てね」
「うん! まっかせて!」
グッと頷き、ララはルナティーク号の発した光に包まれ、船内に乗り込む。船内に入った少女たちは、前方の窓だけに注目し、発射に備える。
「……リト、待っててね」
胸の前で手を結び、ララは愛しい彼のことを思う。
助けてもらってばかりの自分が、今度は彼を助けにいく番だ。
「行こう! リトを助けに‼︎」
リトとララたちの無事を祈る少女たち。
その窮地を知らない友人たち。
街に宇宙人がいることなど知りもしない住人たち。
数多の人々の視線を受けながら、黒い