【完結】ToLOVEるダークネス 黒天の魔皇女帝《ヴァンパイア・エンプレス》   作:春風駘蕩

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4.Awakening of the devil 〜魔王の覚醒〜

「リトを渡してたまるか! いっけぇギーちゃん‼︎」

 

 頭に来たとばかりに、ナナがデダイヤルを使用して友達を呼び出す。そして現れたのは、自動車並みに大きな体をした角の生えたイノシシ、超危険種に指定されるギガイノシシだ。

 ダンプカー並みの突進力を有する彼が、剣を手に暴れまわる琴音に突撃する。

 

「力!」

「ドッガハンマー‼︎」

 

 次狼を手放した琴音は、今度は紫色の笛をキバットに噛ませる。

 次狼が元の人狼の姿に戻り、笛からホルンのような重低音が響き渡ると、力が彫像へと変化して琴音の手の中に納まる。

 彫像は長い柄を持つ槌へと形を変え、琴音の両腕と胸に鎖が巻き付いて、拳を模した分厚い胸当と籠手へと変貌する。

 

「ふんっ!」

 

 瞳と髪留めを紫色に染めた琴音は巨鎚を勢いよく振り回すと、真正面から突っ込んでくるギガイノシシの横っ腹に容赦無く叩きつけた。

 横からのとてつもない威力の衝撃に、ギガイノシシは涙目で天高く吹っ飛ばされていった。

 

「ギーちゃ―――ん‼︎」

 

 キラーンと星のように輝いて消えて行く友達に虚しく手を伸ばし、ナナが叫ぶ。

 ズシンと巨鎚を下ろすと、琴音は呼吸を荒くしながらララたちを睨みつけた。血を流しながら、幾人もの猛者を相手にする姿からは、痛々しさしか感じられない。

 

「どうした…もう終わりか…!」

「どうしてそこまで…」

 

 リトを取り戻そうと、ララやヤミたちが何度も攻撃を仕掛けていったが、いずれも鬼の形相の琴音によって妨げられ近づくこともできない。

 リトのもとに行くには彼女を倒すことが必須のようになってしまっていた。

 だからこそ、彼女たちは琴音の背後の騒ぎに反応するのが遅れてしまった。

 

「うわっ⁉」

 

 短い悲鳴をあげ、少年が空中に引きずりあげられる。

 リトの襟をつかんでいるのは、先ほどまで琴音と戦っていたはずのレイであった。

 

「リト⁉」

 

 慌ててララが向かおうと悪魔の翼を模したユニットを起動させるが、飛び立とうとした彼女を取り囲むように何体ものファンガイアが立ちふさがった。

 その戦意はララだけではなく、レイ以外の全員に向けられていた。

 

「貴様ら‼ いったい何のつもりだ⁉」

「レイ殿……これは一体どういうことか⁉︎」

 

 予想だにしない事態に、ザスティンや名護が怒りをあらわにしながら吠える。

 それに対してレイは、リトを足元に押さえつけたまま鼻で笑うだけだった。

 

「結城リトを離しなさい‼︎」

「ヤミお姉ちゃん⁉︎」

 

 ファンガイアの妨害をくぐり抜け、翼を生やしたヤミが一直線にリトのもとに急ぐ。

 暗殺者の冷たい目でレイを睨みつけ、右腕を刃に変えて斬り倒そうと振りかぶった時だった。

 

「ちょーっと大人しくしてもらえるかしら?」

「っ⁉︎」

 

 死角から届いた声に、不意を衝かれたヤミは大きく目を見開く。

 咄嗟に空中で反転し、声のした方向に身構えた直後、ヤミの全身にいくつもの痛みが走る。

 長く細く伸びた、蛇の髪を持つ異形に噛みつかれたのだと気付いた時には、その小さな牙から何かが打ち込まれた後だった。

 

「うぁ…‼︎」

 

 途端に体に走る熱に、ヤミは瞠目し硬直してしまう。経験的に命の危機に係わるものではないと判断したが、火照りだす身体に別の危機感を抱いた。

 変身(トランス)も解けてしまい、着地した瞬間力が抜けてその場に膝をついてしまった。

 

「うっ……くっ…⁉︎ こ、この毒は……‼︎」

「辛いでしょぉ…? それは感覚器官に作用してぇ、受けた感覚を全て快楽に変えてしまうのぉ……我慢しないでぇ、弄ってもいいのよぉ?」

「この……程度で‼︎」

 

 疲労しているわけでもないのに膝が震え、汗や唾液、様々な体液が次々に噴出してくる。

 いうことを聞かない体を無理矢理立ち上がらせ、ヤミは目の前に立ちふさがったメデューサのような異形を睨みつけた。

 

「その反抗的な目いいわね……気高い心、へし折ってあげたくなっちゃう♡」

「かはっ……!」

「ヤミちゃん‼︎」

 

 爬虫類の顔に嗜虐的な笑みを浮かべた異形は、まともに動くこともできないヤミを蹴り飛ばす。

 地面を転がっていくヤミに悲痛な悲鳴を上げたララが、剣の刃を生やした万能ツールを手に立ち向かう。

 しかし、渾身の力で振り下ろした一撃は、メデューサが気だるげに腕を振るったことで砕かれてしまった。

 

「うそぉ⁉︎ 万能ツールがまた壊れちゃった……⁉︎」 

 

 呆然となるララに、メデューサが再び蛇の髪を伸ばし、牙を剥き出させる。

 毒がララを狙った瞬間、険しい表情で琴音が動いた。

 

「ラモン!」

「バッシャーマグナム‼︎」

 

 緑の笛をキバットが吹き、今度はラモンが彫像に、そして一丁の銃へと変わる。

 琴音がそれを掴むと、琴音の右腕と胸の鎧が鱗やヒレを模した形状に変化し、瞳と髪留めが緑色に染まる。

 銃口がメデューサに向けられると、そこから水の弾丸が発射されてメデューサに襲い掛かった。

 

「うわわわわ⁉︎」

 

 ララが慌てて飛びのいたために水の弾丸は当たることなく、メデューサも舌打ちをしながらその場を離れた。

 背中を向けたメデューサを、デダイヤルを操作したモモとナナが見据えた。

 

「お願いします! キャノンフラワーさん‼︎」

「ドラ助! ギーちゃんの代わりに頑張ってくれ‼︎」

 

 拳大の種子を砲弾として発射するという危険種植物と、小さな羽根を持ったティラノサウルスのような生物が、メデューサに向かって挑む。

 高速で飛ぶ種子の弾丸と、竜の強靭な牙が食らいつこうとした瞬間、メデューサの前に灰色の悪魔のような異形が立ちふさがった。

 砲弾も牙も、異形の石像のような硬い皮膚によって防がれ、反対に破損しながら弾かれてしまった。

 

「ォオオオオ……‼︎」

「ウソだろオイ…⁉︎」

「オオオオオオオオオ‼︎」

 

 驚愕するモモとナナに、石像の異形が咆哮を上げて襲い掛かる。

 慌てて別れて逃げる二人だったが、その背後から別の異形が襲い掛かる。

 

「うわっ⁉︎」

「きゃあっ⁉︎」

 

 木乃伊のような包帯を巻いた異形が、うめき声をあげながら襲い掛かる。

 気味の悪さから悲鳴を上げるモモであったが、木乃伊の異形の背後に見えた集団を見て顔色を青く染める。

 それは確かに、ザスティンたちに味方していたはずのファンガイアたち。しかし今の彼らは体のところどころに包帯が巻き付き、不気味な仮面を張り付け、虚ろな目でモモたちを見据えて近づいて来ていた。

 

「…⁉︎ あれは……まさか⁉︎」

 

 近づいてくる異常なファンガイアを蹴り飛ばしていたネメシスが、記憶のひっかかりを覚えて顔色を変えた。

 

「離れろ‼︎ そいつらとまともにやりあおうとするな‼︎」

「え⁉︎」

 

 正気を保っていたファンガイアの一人が、ネメシスの忠告に訝しげな声を上げる。

 その瞬間、そのファンガイアの体に仮面が貼りつき、包帯が出現して巻き付いていく。

 

「うぐっ……‼︎」

「うわぁっ!」

 

 すぐそばにいたファンガイアにも仮面と包帯がまとわりつき、彼らは必死に抵抗の声を上げる。

 しかししばらくするとぴたりと動きを止め、他のファンガイアたちと同じようの虚ろな目でネメシスたちに襲い掛かり始めた。

 

「図に乗るなよ、慮外者共」

 

 近づいてくるファンガイアたちを、ネメシスは容赦なくダークマターを発生させて吹き飛ばす。

 しかしファンガイアたちは幽鬼のようにゆっくりと立ち上がり、再びネメシスたちに向かって襲い掛かった。

 

「なにあれ⁉︎」

「寄生……いや、洗脳されたか。相当危険な奴らなのは間違いないようだな」

 

 メアが驚きの声を上げると、ネメシスは興味深そうに、同時に不機嫌そうにつぶやく。

 ひっかかっていた記憶が何なのか思い出したようで、妙に納得した様子で頷いていた。

 

「間違いない……奴らはレジェンドルガ族だ」

「レジェンドルガ……だと⁉︎」

 

 ネメシスのつぶやきを聞いた名護が、信じられないといった様子でネメシスの方を向いた。

 ナナもまた、うげっといやなことを聞いた様子でネメシスに振り向いた。

 

「ウソだろ……最凶最悪の魔族じゃんか⁉︎ なんでそいつらがここにいるんだよ⁉︎」

 

 生き物好きのナナでも嫌悪感を抱くほどの存在ということに、ザスティンは警戒心を強める。

 困惑と焦燥が渦巻くその場で、ただ一人琴音だけが冷静に視線を固定していた。

 

「……全てはお前の計算通りというわけだ、レイ」

 

 琴音が敵意を向けていたのは、最初から最後までこの男だけであった。

 リトを連れて逃げる邪魔をするザスティンたちに殺意を向けていても実際には追い払うだけのつもりであり、確かな殺意を見せていたのはレイだけであった。

 それは彼を排除しなければならない相手だと認識していたからだ。

 

「臣下として王に近づいたのは、この時を待っていたからか」

「ええ、先祖代々ずっとこの時を待ち望んでおりました……私の代でその悲願が果たせるという喜びで、震えが止まりませんよ」

 

 レイはもはや、仮面の下からでもわかるほど醜悪な笑みを浮かべていた。

 タイガに見せていた紳士然とした態度は消え失せ、己が野望を達成するために本性をむき出しにしていた。

 

「離…せ……! みんなに…手を…出すな……‼︎」」

 

 レイの足元で抑えつけられているリトが声を上げると、レイはどこか愛おしそうな眼差しを送る。

 正確にはリトではなく、リトの中に見える存在に対して。

 

「君には一度眠ってもらおう……安心したまえ、次に目覚める時には、全てが終わっている」

 

 レイが片手をあげると、その背後からまた新たな異形が現れる。

 緑と紫の植物のような異形はリトのすぐ近くに立つと、触手を伸ばしてリトの首筋に突き立てる。

 目を見開き、ビクンと大きく痙攣したリトは、顔中に脂汗を噴き出させて悶え苦しみ始めた。

 

「リト‼︎ リトになにしたの⁉︎」

「う……あ……」

「ちょっとした栄養剤を足してあげただけですよ。我が王が目覚めやすくなるためのね」

 

 リトの異変に焦るララに、レイは満足げに答える。

 するともう一体、銀色の卑屈そうな顔をした蝙蝠が現れ、リトの投げ出された手の甲に舞い降りた。

 

「さぁ、仕上げです」

「はぃ〜いきますよぉ〜どろんどろん…」

 

 気の抜けそうな声で答えた蝙蝠は、リトの手に自分の牙を突き立てる。

 牙が突き刺さった部分から、ステンドグラスのような模様が現れ、徐々にリトの体の方へ広がっていく。

 

 その直後、リトの中の存在が、一気に力を増した。

 

「リト‼︎」

「うわああああああああ―――‼︎」

 

 悲鳴を上げたリトの体が空中に浮かび上がる。

 黄金の光を放ち、空中に磔にされたような格好の彼の前に、湾曲した角の生えた悪魔のような紋章が浮かび上がる。

 それがリトと重なった瞬間―――そこに、魔王が現れた。

 山羊のように湾曲した二本の角、牙を模した黄金の目、胸には巨大な口のような装飾が鎖で封じられている。

 なんといっても驚くべきは、その巨大さ。黒い体は3メートルを超える巨人であった。

 巨体から放たれる異様な覇気にララたちが言葉を失っている前で、巨人はゴキゴキと首を鳴らし始めた。

 

「『―――ふむ、また随分と時間がかかったな』」

 

 リトの声と、それとは全く異なる低い男性の声が重なって聞こえてくる。

 己の体をしげしげと見下ろし、巨人―――アークは感慨深げにつぶやいた。

 そんな彼のすぐ前に、レイと四人の異形が跪く。

 

「おはようございます、我らが王よ。臣下一同、ここに揃っております」

「『ん…?』」

 

 己に首を垂れる見覚えのない戦士に、アークは小さく首をかしげる。

 ギラリと目を光らせ、アークはレイに問いかけた。

 

「『目覚めの手助けには礼を言うが……我は貴様とは会った覚えがないはずだが?』」

「無論、我が王と私はこれが初対面でございます……ですが我が一族は、はるか昔より貴方の覚醒をお待ちしておりました」

 

 アークは最上級の敬意を示す臣下を名乗るものから、確かに己が同族の気配を感じ取る。

 自身が敗北し、封じられてからも細々と生き残ってきた血筋が助力したことだと、アークはこの場をもって信用したようだった。

 

「とはいえ、まだ完全にはお力を取り戻してはおられぬご様子。まずは我らが城へお越しいただき、お力を取り戻していただきたいのです。……そのお身体の調整も同時に」

「『…そうだな。そうさせてもらおう』」

 

 いまだにぎこちない自分の体を確かめ、ズシンズシンと足音を響かせながら歩き出そうとする。

 真下にある有象無象のことは、もはや眼中にない。わざわざ力を発揮するまでもないと判断し、放置しようとしていた。

 

「待…て……!」

 

 しかし、いち早く圧力(プレッシャー)から抜け出した琴音が、銃口をアークに向けて威嚇する。

 このまま黙ってリトを連れて行かれてたまるものかと、背中を見せた巨人を止めようとしたのだ。

 

「むぅん‼︎」

「きゃあああ⁉」

「うあっ‼」

 

 だがそれは、アークがおもむろに片腕を振るったことによってかなわなかった。

 同時に放たれた魔力の奔流によって、ララたちはおろか洗脳されたファンガイアたちまでもが吹き飛ばされてしまう。民家や木々が粉砕され、瓦礫となってララたちを飲み込んでいってしまった。

 次々に上がる琴音やララたちの悲鳴に気分をよくしながら、アークは自分の手を見下ろした。

 

「『これはいい……地球人にしては随分と頑丈だ。だが…全力を振るうにはまだいささか不安が残るな』」

 

 粗悪な器であれば、力を取り入れた時点で壊れてもおかしくはないが、この器は多少の力を振るっただけでは異常が起きない。

 いい拾い物をしたと喜ぶ一方で、思ったよりも威力が出なかったことに驚きを抱いていた。

 

「『しかし……驚いた、まだ抵抗するのか』」

 

 器の本来の持ち主が自分の邪魔をしたのだと気付くと、アークはその精神力の強さに感嘆する。

 完全にものにするにはまだ時間がかかるようだが、それだけ屈服させる楽しみが増えるのだと喜びも抱いていた。

 

「『気に入った。この体は隅々まで使わせてもらうとしよう……我と共に暗黒の時代の再来を楽しみにしているがいい、ユウキ・リトよ』」

 

 勝手に納得すると、アークは再び背を向ける。

 力の一端を発揮しただけで吹き飛ばされた有象無象にはもう目もくれず、アークは異形たちに案内されながら己の拠点へと向かっていった。

 

「それでは皆様……御機嫌よう」

 

 最後に残ったレイが丁寧なお辞儀を見せると、いずれその姿も見えなくなっていく。

 瓦礫を押しのけ、ララが追いかけようとした時には、アークの巨大な背中ははるか遠くに消えていってしまっていた。

 

「リト…リト―――――‼︎」

 

 破壊しつくされた凄惨な現場に、少女の悲痛な悲鳴だけが残されたのだった。

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