【完結】ToLOVEるダークネス 黒天の魔皇女帝《ヴァンパイア・エンプレス》   作:春風駘蕩

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2.Angel and devil 〜ヤミとララ〜

 ビリビリと城全体が振動し、積もっていた埃や塵がパラパラと頭上から降り注ぐ。

 不快な臭いに顔をしかめたアークが薄目を開けると、レイが立礼しながら状況を報告した。

 

「王よ。どうやらまた性懲りも無く邪魔な虫どもがやってきたようです。……いかがいたしますか?」

 

 アークは気だるげに片手を上げ、ほとんど違和感のない使い心地を確かめる。同時に、両の頬にステンドグラスのような模様を浮かび上がらせた。

 力を一度引き出すことで、肉体の主導権は完全に奪ったが次の段階へ移行するにはまだ用意が足りていないことを察した。

 

「『体は馴染んできたとはいえ、まだその()ではない…か。まぁそれでもいいだろう』」

 

 精神世界の奥底に、まだ抵抗を続けている少年の存在を確認し、アークはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「『……向こうから向かってきたのなら都合がいい。本命の前の準備運動といこうではないか』」

「承知いたしました。では、配下全員に向かわせます」

「『…いや、どうやら伝える必要はなさそうだ』」

 

 自分が筆頭として向かおうとしていたレイを止め、アークは足を組んでゆるりと待つ体勢に入る。

 配下のレジェンドルガ達のうち、数体がいなくなっていることに気づいた彼は、冷たい微笑を浮かべた。

 

「『我慢できずに飛び出した愚か者がいるらしい』」

 

 

 闇の中から次々に現れ、少女達に襲いかかっていく同じ仮面をつけた異形達。

 操り人形のように不気味な動きで、苦悶の声を上げながら向かってくる彼らに、ララはちょっと申し訳なさそうに片足を振りかざした。

 

「てぇい‼︎」

 

 デビルークの血筋が発揮する怪力によって、操られたファンガイア達が数体まとめて吹き飛ばされていく。

 しかしいくら強力な一撃でも、相手は人間よりも強靭な体を持つ種族。地球人を基準とした加減が仇となって、すぐに復活して向かってきてしまっていた。

 

「あぁもう! しつこいよぉ‼︎」

 

 倒しても倒しても向かってくる敵に、ララは思わず泣き言を挟みながら懸命に抵抗する。

 うっかり本気で殴りそうになるが、相手は操られているだけだと精神的なブレーキがかかってしまい、上手く立ち回れなくなっていた。

 

「こうなったら行くしかないわね‼︎」

「あぁもう‼︎ 行っけぇみんな‼︎」

 

 なかなか前に進めないことにしびれを切らせたナナとモモが、デダイヤルから宇宙中の友達を召喚しまくる。

 戦闘能力のないものばかりだったが、数を、あるいはその巨体を利用して押しのけ、姫達のための道を作り出した。

 

「ゴメンみんな! あと頼む!」

 

 ファンガイア達の体に絡みつき、のしかかり、助力してくれた友達に声をかけると、ナナはララ達の後に続いて奥の通路へと突っ込んで行く。

 彼らなりの声援を受け、ナナはキッと表情を引き締めて走り出した。

 

「プリンセス琴音! 結城リトの居場所はわかりますか?」

「……上だ。城の最上階の大きな空間に大小二つの音が聞こえる」

「じゃあ、そこにリトがいるんだね!」

 

 異様に広く暗い、気味の悪い通路を走りながら、琴音の特殊な聴力を頼りに先を急ぐ一行。

 階段のある場所まで一気に突っ切ろうとした時、少女達の前にいきなりキバットが飛び出した。

 

「…待ってくれ、お嬢さん方」

「え? ……!」

 

 この状況で引き止める彼に非難の視線が集中するが、キバットは構わず向かうはずであった螺旋階段のあるホールを睨みつけた。

 その階段の頂上に姿を現した存在に、ヤミが静かに目を細めた。

 

魔王(ラスボス)の元にたどり着く前に、四天王(中ボス)がお出ましのようだぜ」

 

 赤黒い絨毯が引かれた床の上を、メデューサレジェンドルガが女主人か何かのように堂々とした態度で歩み寄る。

 敵意のこもった眼差しで見上げてくる少女達に目を向けると、耳まで裂けた口元を醜悪に歪めて笑ってみせた。

 

「あらぁ…? また懲りずにやられに来たのかしらぁ? かわいいお嬢ちゃん」

 

 あからさまな挑発に、ヤミは答えるつもりなどなかった。

 しかしメデューサはヤミが内心では怒りを燃やしていることを察し、他のものが見ても腹が立つほどわざとらしい仕草で体を引いた。

 

「まぁ怖いわ。そんな気に強い目で睨んで……力尽くで屈服させたらどんないい声で啼いてくれるのかしらぁ」

「ぬしに構っている暇は……ない‼︎」

「あっ⁉︎ お、おい!」

 

 険しい表情でメデューサを睨みつけるヤミよりも先に、無駄な時間に焦れた琴音が単独で突撃した。

 しかしメデューサは無数の蛇の髪を従え、琴音に向かって襲いかからせる。すかさず腕を払って毒牙を避けた琴音は、忌々しげに顔をしかめて後退した。

 

「そううまくはいかないわよねぇ?」

「琴音!」

 

 そばに駆け寄るキバットと琴音を嘲笑うように、メデューサはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、次いで他の少女達にも目を向けた。

 

「どいつもこいつも可愛くて憎ったらしい顔してるわねぇ……そのムダに育った身体を引き裂いて、痛みと快楽でぐちゃぐちゃにしてやったらどれだけイケるかしら♡」

「うぇ……気持ちワルぅ」

 

 自分よりも遥かに綺麗な顔立ちの少女達に対する嫉妬か、あるいは美しいものを壊したくなる醜悪な性癖か。

 嗜虐趣味の対象に見られていることに、メアもナナも思わず腕をこすって鳥肌が立つほどの寒気をごまかした。

 

「そうそう特に金髪のあなたの声、とっても素敵だったわよぉ♡あんなに良い声で啼いてくれて、これまでにないくらいゾクゾクしてたまらなかったわぁ♡」

 

 一度メデューサの毒をくらい、羞恥と屈辱に苦しむヤミの姿を思い出したのか、怪物は醜悪な笑みに恍惚とした感情を混ぜる。

 すると、それまで黙っていたヤミが無言で前に出て、ザワリと髪を騒めかせた。

 

「……プリンセス、ここは私に任せてください」

「ヤミちゃん!」

「どうやら向こうの1番の標的は私のようですし……私自身もこの機会を逃すつもりはありません」

 

 極めて冷静な態度を貫いているように見えるが、ララ達にははっきり見えている。彼女の背中から湧き上がる、怒りのオーラが。

 もし前か横に誰かいたなら、彼女の目の奥で燃えている真っ赤な炎にも気づいていたであろう。

 

「先日の屈辱……晴らさせて頂きます」

 

 ざわざわとまとまった髪が変形し、無数の刃や鈍器に変わっていく。

 久々に見せる殺し屋としての殺気にゾクゾクしかけたメアだったが、メデューサにしか目のいっていない彼女にため息をつくと、困ったようにヤミの隣に立った。

 

「お姉ちゃんたら、そんなに露骨にフラグ建てたらあっという間にこの前の二の舞だよ〜?」

「……余計なお世話です」

 

 自分でも冷静になり切れていない自覚はあるのか、微妙に視線を逸らしてヤミは答える。

 これは目が離せないと思ったメアは、その場でナナに振り向いて手を振った。

 

「ナナちゃん、このオバさんは私とお姉ちゃんで足止めしとくから、先に先輩のところに行ってなよ」

「だ、大丈夫なのか?」

「ダイジョウブダイジョウブ♪ ほらはやく行って行って」

 

 いつも通りのイタズラっぽい笑顔でナナを見つめるメア。

 相手がどれほど恐ろしい相手か見たばかりのナナだったが、親友が笑顔で送り出そうとしている気持ちを察し、やがて力強く頷いた。

 

「……リトと待ってるからな!」

「ヤミちゃん、後でね!」

 

 ホールの中心に陣取っているメデューサに注意しながら、ララと琴音達は急いで螺旋階段に向かって走る。

 ヤミとメアに睨まれているメデューサはなぜか動かず、城の奥へと進んでいく彼女達に一切手を出さなかった。

 気になったメアは、胡乱げな表情でメデューサに問いかけた。

 

「私が言うのもなんだけど、行かせちゃってよかったの?」

「あっちはいいのよぉ…どうせ跡も残らないもの。私はちゃんと生身の女の子で遊びたいわぁ♡」

「……本当に趣味が悪いですね」

 

 主人の力を信用しての言葉に聞こえるが、要は自分のお気に入りのオモチャを独占して遊びたいという歪んだ欲望による放置らしい。

 完全に舐められていると気づいた二人は、ゾッとするような綺麗な目に冷たい光を宿し始めた。

 

「せっかくヤミお姉ちゃんが素直になって、私もご褒美に先輩に好きなだけぺろぺろしてもらえるかもしれないっていうのに……こんなオバサンや亡霊なんかに邪魔されるとか、すっごいムカつくんだもん」

「…だから一言多いです」

 

 リトと触れ合ったときのことを思い出しながら、瑞々しい若い体を見せつけるように自分で触れるメアに、ヤミの冷たい指摘が入る。

 一方で、年齢差について侮辱されたことで憎しみを募らせたメデューサは、ビキビキと太い血管を浮き立たせながらヤミとメアを睨みつけた。

 

「―――いい度胸ねぇ。二人揃ってぐちゃぐちゃに壊してあげるわ」

 

 立ち昇る、視認できそうなほどに凄まじい殺気を前に、ヤミもメアも一歩も引かずにいる。

 宇宙にその名を轟かせた暗殺者達にとって、この程度の修羅場は取り乱すほどのことではなかった。

 

「あいにく、あなたの倒錯した趣味に付き合う気はありませんから」

「そのお下品なお化粧落としてあげるよ、オバさん?」

 

 奇しくも最初から一緒に戦うのは初めてである二人は、無数の武器を携えながら蛇の怪物を見据えるのだった。

 

 

「……ふむ、どうやら私は図らずもしんがりを務めることになってしまったようだな」

 

 ララ達が通過した後の、キャッスルドランが顔を突っ込んでいた場所に一人残り、ネメシスが困ったように呟いた。

 城の奥への道を背に立ちはだかる彼女の前には、別の通路から湧き出てきたファンガイア達の姿と、マンドレイクレジェンドルガの姿が見える。

 

「アークがまた宇宙を戦乱に引き戻すと言うのなら、それはそれで興味はないわけではない」

 

 かつてはそのために暗躍していたネメシスだが、自ら呟いた言葉にそれほど真剣な様子はなかった。

 それはなぜか、その未来には足りないものがあるからだ。

 

「……だがまぁ、そこにあの男がいないのであれば考えものだな」

 

 ズブズブとネメシスの体を闇が覆っていく。

 存在そのものがダークマターである彼女が、ギドを相手にしたとき以来の本気を出そうとしていた。

 

「失せろ。アレは私の下僕だ」

 

 殺到する操り人形達に向けて、ネメシスの闇が襲いかかった。

 

 

 異様に長い螺旋階段を抜け、異様に広い廊下を抜け、ララ達は琴音の案内で走り続ける。

 やがて到達した最上階、最も大きな広間につながる巨大な扉を見つけると、琴音の目が鋭い光を放った。

 

「あの部屋だ!」

「わかった! たーっ‼︎」

 

 重く分厚い、不気味な意匠の扉に向けて、ララが渾身の拳を振るう。

 バゴンッ!と吹き飛ばす勢いで扉が開かれ、奥の玉座に座っていた少年の姿を捉えると、ララの表情がパァッと明るくなった。

 

「リト〜! 迎えにきたよ! みんなで帰ろう!」

 

 大好きな彼に再び会えたことの喜びで、ララは一瞬状況も忘れてはしゃいだ声を上げる。

 ナナも一瞬嬉しそうに目を輝かせたが、すぐ我に返って真面目な表情を保った。

 

「アークをどうするかは後回しだ! さっさと帰るぞ、リト!」

「リトさん…! お辛いとは思いますがもう少しの辛抱です! 大丈夫です…必ず助けますから!」

「…………」

 

 三姉妹の歓喜の声を受けるリトだが、彼は俯いたまま反応を示さない。

 リトが城に来てからの変化を知らないララは、笑顔を見せてくれないリトに心配そうな目を向ると、ゆっくりと歩み寄った。

 

「リト…? どうしちゃったの? 苦しいの?」

「……‼︎」

 

 答えてくれないことに不安を覚えるララを横目で見ていた琴音は、不意に大きく目を見開いて走り出した。

 

「引け‼︎」

 

 言うが早いか、琴音の手がララの肩を掴んで思い切り引き寄せる。

 驚愕で呆けた表情になった彼女は、今まさに自分が立っていた場所に、突然亀裂が走ったことで言葉を失った。

 

「…リ、ト?」

 

 間一髪のところを救われたララだが、そのことに礼を言う暇がないほどに動揺していた。

 ナナもモモも、ララに襲いかかろうとしていた現象と、それを為したであろう、玉座の上で手を向けている少年を凝視して硬直していた。

 

「『リト……それは』」

 

 彼の口から、少年の声と先ほど聞いた声が重なって聞こえてくる。

 凍りついたように動けずにいる少女達と、憎悪に燃える目で睨みつける琴音の前で、リトは―――アークは薄く冷酷な笑みを浮かべた。

 

「『我のことを言っているのか?』」

 

 アークの体に濁った金色の光がまとわりつき、そのシルエットをみるみるうちに変えていく。

 細く、やや貧相であったはずの平均的な体は、ふた回りは大きく逞しい大人の体に。平凡ながら優しそうだった顔は、鷹のように鋭い目が特徴的なシャープな線を持つ。

 呆然と立ち尽くす少女達の前で、魔王の目がギラリと黄金色に輝いた。

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