【完結】ToLOVEるダークネス 黒天の魔皇女帝《ヴァンパイア・エンプレス》   作:春風駘蕩

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3.Monster’s blood 〜怪物の力〜

「『この体にもずいぶん馴染んだ……ようやく自由に使いこなせるようになったわ』」

 

 玉座に腰を下ろした切れ長の目の男ーーーうっすらとリトの面影を残したその人物は、長く伸びた自分の指先や腕の感触を確かめるように透かして見ている。

 いきなり目の前で姿を変えた想い人に、ララもモモも大きく目を見開いていた。

 

「リ…リトさんが⁉︎」

「なんか冷たい系のイケメンになった⁉︎」

 

 温和、というか頼りなさげだった少年がクールな印象を与える美青年に変わったことで、ナナも驚愕のあまり変なことを口走ってしまう。

 ペケもリトの変貌に仰天し、メカの身ながら冷や汗を流して固まっていた。

 

『変身能力…⁉︎ いや、変身(トランス)のようにリト殿の体を一次的に作り変えたということでしょうか⁉︎』

「『童の姿のままではなかなか動きづらいのでな。少々いじらせてもらっただけのこと……』」

「貴様……‼︎」

 

 リトをまるで都合のいい道具のように語るアークに、琴音の目に殺意が募っていく。

 いまにも突撃しそうなほどに憎悪をたぎらせている琴音と同じく、ララも怒りを爆発させていた。

 

「リトに変なことしないで! すぐに元に戻して返してよ‼︎」

 

 両手を振り上げて感情をあらわにするデビルークの姫に、アークは玉座の上で足を組んだままフンッと鼻で笑った。

 

「『せっかく手に入れた大事な器を簡単に手放すわけがないだろう……これは我が計画を完遂する時まで使わせてもらう。返すつもりは毛頭ない』」

「リトは物じゃない! 私の…春奈の、みんなの大好きなリトなんだから‼︎」

 

 激情のままに、ララはデダイヤルを取り出して自分の発明品を召喚しまくる。

 争いごとが嫌いな性分ゆえに、直接戦闘能力を持った機体はないが、それでも喚び出した数は凄まじく、ララの発明品たちが大軍となってアークに押し寄せていった。

 

「『そんなこと……我の知ったことではないわ‼︎』」

 

 アークは迫り来る動物型のメカの軍勢に向けて、黄金の光を纏った腕を振るう。

 途端に凄まじい衝撃波が生じ、ララの発明品たちは一瞬でバラバラにされて吹き飛ばされてしまった。

 

「ハァアア‼」

 

 あちこちに飛び散るメカたちの残骸から悲しげに目をそらしながら、ララは琴音と同時に天高く跳躍する。

 そして億劫そうに玉座から立ち上がるアークに向けて、ララはさらにもう一つの発明品を召喚した。

 

「くるくるロープくん‼︎」

 

 見た目は変わってしまったとはいえ、リトに怪我をさせたくないララはまず伸縮自在のロープで拘束を試みる。

 しかしくるくるロープくんがアークの腕に巻きついた瞬間、それは黄金のオーラに飲み込まれ、一瞬で焼き尽くされてしまった。

 

「『フン!』」

「きゃんっ‼︎」

「ぐあっ⁉︎」

 

 跳躍の勢いを止められず、そのまま飛びかかっていったララと琴音に、アークは真正面から黄金の波動を浴びせかけた。

 どうにか急所などへの直撃は防げたが、全身に襲いかかった衝撃波凄まじく、二人は大きくはね返されてしまう。

 

「姉上‼︎ ってうわっ⁉︎」

「琴音さ…きゃぅっ‼︎」

 

 不安になるぐらいの勢いで吹き飛ばされた二人に注意を向けた瞬間、ナナとモモにもアークからの攻撃が襲いかかった。

 軽い少女たちの体は木の葉のように巻き上げられるも、なんとか体制を立て直して着地して見せた。

 

「ウォオオオオオン‼︎」

「プッ‼︎」

「ヌゥ‼︎」

 

 主人や少女たちの仇を取らんと、本来の姿に戻った三体の従者たちが三方向からアークに挑む。

 頭上から次狼が鋭い爪で、右側からラモンが水の弾丸で、左側から力が剛腕の槌でそれぞれの攻撃を放つ。

 

「『鬱陶しいわ、雑魚が‼︎』」

「ごはぁっ⁉︎」

 

 しかしいずれも、アークの苛立ち混じりのオーラで掻き消され、逆に傷を負ってしまう結果となった。

 床を砕きながら叩きつけられる従者たちの間をすり抜け、琴音は再び跳躍すると鋭く伸びた爪を振りかざした。

 

「ハァッ‼︎」

 

 知覚することすら難しい速度で、正確に急所を狙った爪が突き出される。

 だがアークは涼しい顔でそれを掴み取り、琴音を振り回して投げ飛ばすと、床に思い切り叩きつけた。

 

「ぐはっ…‼︎」

 

 単独で非常に高い戦闘能力を有するララや琴音、従者たちが手も足も出せずにいる光景に、ナナは開いた口が塞がらなかった。

 その光景を作り出しているのが、いつもは情けない姿ばかり見せている少年の面影を残した男性なのだから余計に驚きだった。

 

「見た目リトっぽいくせに強すぎだろあいつ…!」

「完全に体を支配しているってことなの……⁉︎」

 

 ナナは単純に信じられないといった様子で目を見開いているが、モモはただ不安げな表情でアークに乗っ取られている想い人のことを案じる。

 

「返してったら‼︎」

 

 身体中を汚しながらも、果敢にアークに挑み続ける姫たちに、苦悶の声をこぼしていた琴音は歯をくいしばる。

 一瞬の逡巡ののち、ベルトから赤い笛を取り出してキバットに咥えさせた。

 

「一か八かだ!」

「ウェイク・アップ‼︎」

 

 ズン、と琴音が床を踏みつけた直後、琴音の右脚の封印が甲高い音を立てて解放される。

 真紅の翼を備えた右脚を振り上げ、琴音は再び高く跳躍すると、アークに向かって鋭く異形の足を突き出した。

 

「ハァアアア‼︎」

 

 並みのファンガイアであれば、一撃で粉砕できる奥義が矢のようにアークに迫る。

 しかしその一撃は、アークの振るったただの拳によって相殺され、琴音は逆に弾き飛ばされてしまった。

 

「『小賢しいわ‼︎』」

「ぐぁっ‼︎」

 

 鎧から火花が散り、琴音は壁に激しく体を叩きつけられて地面に落下する。

 苦悶の表情を見せるファンガイアの姫に、アークは嘲笑を浮かべた。

 

「『どうした…? それがファンガイアを統べる王の血筋の力か? 宇宙に覇を唱えた者の娘の力か? 笑わせる!』」

 

 触れることすらもできずにいる少女達をあざ笑い、アークは冷たく見下ろす。

 圧倒的な力を前に、ベルトから離れたキバットの目に焦燥が浮かび始めた。

 

「ヤベェぜ……止めるどころか近づくこともできやしねぇ‼︎ どうすりゃいいんだよオイ‼︎」

 

 狼狽する相棒をなだめるように、琴音は無言でゆっくりと体を起こし、アークの方を睨みつける。

 もはや興味も失っているのか、アークの注意が向いていないことをいいことに、キバットに小さく耳打ちした。

 

「キバット……アレを使うぞ」

「⁉︎ オイ、アレってまさか⁉︎」

 

 琴音の決断に、キバットは驚愕をあらわにしながら振り向いた。

 琴音の目に宿っている決死の覚悟に、キバットは慌てて止めに入った。

 

「ダメだ! アレは琴音の体に負担がかかりすぎる‼︎」

「それはあやつも同じこと。やたらと頑丈とはいえ、リトの体は人間のもの……あれだけ暴れて負担がかからぬはずがない」

 

 視界のうちでアークが衝撃波を放ち、死角から迫った攻撃を消し飛ばす。

 その顔に疲弊した様子はなく、己の力を誇示するように暴れまわっていた。

 

「いずれにせよ…無茶をする以外にこの場を挽回できる手段はない。……止めるにせよ、倒すにせよ」

「……ああもう! どうにでもなりやがれ‼︎」

 

 やや投げやりになったキバットが、琴音の策をしぶしぶ了承する。

 琴音は頷くと、ベルトから三色の笛を取り出し、順番にキバットに咥えさせた。

 

「ガルルセイバー! バッシャーマグナム! ドッガハンマー!」

 

 三種の笛の音が、場内に響き渡る。

 途端に三体の従者が動きを止め、それぞれが武器の姿に変わって琴音の元に飛んで行った。

 三つの武器が琴音の両手に収まった瞬間、鎖が巻きついて琴音の鎧の形状を変化させていった。

 

「あああああああああああ‼︎」

 

 左腕は青い毛並みの人狼の腕に、右腕はヒレと鱗の生えた半魚人の腕に、胸は鋼鉄の拳を模した鎧に変化し、凄まじい覇気を放ち始める。

 かつて見せた三つの姿が混ざり合ったような歪な姿に、気づいたアークはさもつまらなそうに目を細めていた。

 

「『フン…何か策でもあるのかと思えば、ただ従者を三体分重ね合わせただけか。つまらんな』」

「ハァアアアアア‼︎」

 

 激しい落胆を顔に出すアークに構わず、琴音は三つの武器を両手と口に携えて突撃した。

 左腕に持った人狼の剣の刃に、キバットに噛みつかせ、秘められた力を解放する。

 

「ガルルバイト!」

「ガァッ‼︎」

 

 獣のような唸り声をあげ、琴音が人狼の剣を咥えて飛びかかる。そのまま自ら回転し、勢いを威力に変えた斬撃をアークに食らいつかせる。

 アークは涼しい顔でそれをオーラで防ぐが、琴音の攻めはそれで終わらなかった。

 半魚人の銃と人造人間の槌にもキバットを噛みつかせ、左右の腕で構えたのだ。

 

「バッシャーバイト! ドッガバイト!」

 

 巨大な水球が不規則な軌道を描いてアークに炸裂し、続いて巨大な拳が叩き潰す。

 流石にオーラだけでは防ぎきれず、水浸しのまま大槌を腕で受け止める。アークを中心に地面に亀裂が走り、アークは眉間にしわを寄せた。

 

「ウェイク・アップ‼︎」

「ああああああああ‼︎」

 

 アークがわずかに隙を見せた瞬間、琴音は再び右脚の封印を解き、アークに向けて勢いよく突き出す。

 手加減なしの全力で、操られるリトを想って表情を険しくさせる琴音の一撃が、アークの胸に突き刺さる。

 だが、琴音の渾身の一撃を受けても、アークは微動だにしなかった。

 

「⁉︎」

「『義妹姫の方はとんだ期待はずれだな。それがファンガイアを統べたキバの鎧の力か…なんと脆い。フンッ‼︎』」

「ガフッ…‼︎」

 

 足を突き出したまま固まる琴音に、アークが放つ衝撃波が襲いかかった。

 たまらずファンガイアの姫は空中に投げ出され、吐血しながら地面をバウンドした。

 

「こ…琴音ぇ‼︎」

 

 攻撃を受けた際に地面に転がり、ベルトから引き離されたキバットが悲痛な叫びを上げる。

 鎧があっけなく消失し、融合した従者たちも力尽き、ボロボロのドレス姿となった琴音は力なく倒れる。

 

「ぐ……ァ…!」

 

 ガクガクと体を痙攣させ、琴音は這いつくばりながらアークを睨みつける。

 その目前に悠々と、アークが冷酷な笑みを浮かべながら近づいていった。

 

「『ほらどうした…お前の愛しい男が目の前にいるぞ。取り戻すのではなかったのか? ハハハハハ‼︎』」

「き…さ、ま…」

 

 支配した少年の面影を残しながら、下卑た笑い声を効かせるアークに琴音の目が怒りに震える。

 リトの顔で、声で、そんなふざけたことを言うな。そう言いたいのに、琴音の体はいうことを聞いてくれなかった。

 

「『まだ反抗的な目を向けるか……そうだ、少し面白い余興に付き合わせてやろう』」

 

 嗜虐的に歪んだ笑みが、琴音に嫌な予感を抱かせる。

 アークのオーラが巨大な両腕に変わり、琴音の両腕を掴んで吊り上げる。力なくぶら下げられる琴音は、困惑気味にアークを睨みつけた。

 

「何を……⁉︎ ひぎぅっ⁉︎」

 

 その時、琴音の首筋に強烈な痛みが走り、ララたちから痛々しい悲鳴が上がる。

 ララたちの目には、琴音の方と首の間に巨大な半透明の牙が突き刺さり、ズブズブとめり込んで行く光景が広がっていた。

 

「ぁ……が…‼︎ な、何を…す…⁉︎」

「『少しばかり我の力をお前の中に混ぜてやっただけだ……我の血を媒介にしてな』」

 

 激痛と異物が入り込む嫌悪感に、琴音の表情が歪む。

 もがこうとしても両腕をがっちりと掴まれているために、まともに動くこともできないでいる。

 拘束されたファンガイアの姫は次の瞬間、己の心臓がドクンと大きく脈動するのを感じた。

 

「が…ああぁあああ‼︎ 熱ぃ……身体が…燃える……‼︎」

 

 自分の体に突如生じた異常に、琴音は大きく目を見開いて悶絶する。

 アークに腕を離されても、体の奥でうごめく何かによって意識が朦朧とし、その場でのたうちまわるしかなかった。

 

「うぁ…あああああ‼︎」

 

 ドクンドクンとうるさく心臓が喚き、凄まじい苦痛が彼女を襲う。傍目からは一人でもがき苦しんでいるようにしか見えないが、汗だくになって体を丸めている様子から普通ではないことはわかった。

 明らかな緊急事態ではあったが、ララたちは心配そうに声をかけることしかできずにいた。

 

「琴音ちゃん⁉︎」

 

 そしてやがて、ララたちの目の前で琴音の姿に変化が生じていく。

 黒い靄のようなものが琴音にまとわりつき、琴音の姿を完全に隠してしまう。それはまるで繭のようで、その中で何かが誕生を待つかのように蠢くのが見えた。

 

「『……ほぅ、なかなか面白いものに化けたな』」

 

 アークが興味深そうにそう呟いた瞬間、靄の一部が裂けて金色の何かが突き出した。

 現れたのは、金属に覆われた太い腕に真紅の皮膜を持つ翼。神々しいまでの輝きを放つ黄金に包まれたそれは、靄の中からゆっくりと体を起こした。

 

「―――ァアアァアアアァアア‼︎」

 

 巨大なコウモリに似たその異形は、仮面のような真紅の頭部から甲高い咆哮を上げて翼を広げる。

 その咆哮は、歓喜のようにも苦悶の声のようにも受け取れる、歪な響きを持っていた。

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