【完結】ToLOVEるダークネス 黒天の魔皇女帝《ヴァンパイア・エンプレス》   作:春風駘蕩

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4.Wake up 〜目覚めよ〜

「ギィアアアアア‼︎」

 

 巨大な翼を持つコウモリの異形と化した琴音は、悲鳴のような咆哮を放ちながら大きく羽ばたき、勢いよく飛び立つ。

 しかしその動きはぎこちなく、何度も壁や天井に激突して瓦礫を辺りに飛び散らせた。

 

「お、おい琴音⁉︎」

「琴音ちゃん!」

「ギィアアアアア‼︎」

 

 ナナやララが制止させようと呼びかけるも、琴音にはその声が届いていないのか、めちゃくちゃに飛び回り続けている。

 

「『ハハッ! 王女といえどこれは少し強すぎる薬だったか?』」

 

 嘲笑の声を上げるアークが口にした言葉に、ナナはキッと鋭い目で睨みつけた。

 

「お前……! あいつに何したんだよ⁉︎」

「『見ればわかるだろう。少しばかりあの小娘で遊んでやっているところだ』」

 

 粉塵と破片が四散し、轟音が辺りにこだまする。

 絶叫する琴音のいまの姿は、自ら傷を負うことで、自分の中の何かごとかき消そうとしているかのような苦しみ方に見えた。

 ようやく意識を取り戻したキバットは、ふらふらと飛翔しながら牙を食いしばった。

 

「あの野郎…! 琴音の中のファンガイアの力を暴走させやがった!」

「ど、どうなるんだよ⁉︎」

「あのままじゃ自分の力に振り回されて……そのうち死んじまう‼︎」

 

 キバットらの凝視する先で、琴音は壁に頭から突っ込んでは、また悲鳴をあげて飛び立つということを繰り返している。

 次第に琴音は、体のあちこちから赤い滴りを見せ始めた。

 

「止まれ、琴音ぇ‼︎」

 

 ポタポタと辺りに飛び散る鮮血に、このままでは危ういと察知したキバットが必死に琴音に呼びかける。

 琴音はその声に一瞬振り向いたが、すぐに苦悶の咆哮を上げてまた暴れ狂い続けた。

 

「ダメだ…俺の声も届かねぇ…!」

 

 愕然とした様子で、力なく降りたキバットが項垂れる。

 ララやナナも言葉を失い、耳を塞ぎたくなるような悲鳴をあげる琴音を凝視していた。

 その時、ホールの壁が突然破壊され、二つのボロボロの黒い布の塊が飛び込んできた。

 

「カハッ…‼」

「うぁ…」

 

 よく見れば、それは満身創痍のヤミとメアだった。

 ボロボロに切り裂かれた衣服から、痛めつけられ変色した肌が覗き、思わず目を背けたくなる。

 荒い呼吸を繰り返す痛々しい姿と成り果てた二人に、ナナが慌てて駆け寄った。

 

「ヤミちゃん!」

「メア‼」

「あいたたた……大きな口叩いといてカッコ悪いとこ見せちゃったね」

 

 ナナに抱き起こされ、メアは二ヘラと笑みを見せる。

 プルプルと体を震わせ、親友に心配をかけさせまいと気丈に振る舞う彼女だが、その表情は明らかに苦痛に歪んでいた。

 その時二人の耳に、コツコツと妙に響く靴音が届いた。

 

「頑張るわねぇ……私が見たいのはそういう泥臭いのじゃなくて、悲鳴と絶叫で彩られた絶望の表情なんだけどぉ?」

「……だから、あなたの悪趣味な遊びに付き合う気はないと言っているでしょう」

 

 恍惚とした笑みを見せるメデューサに、メアと同じく全身傷だらけになりながらも、弱みを見せないためにヤミが無表情で答える。

 メデューサは盛大に舌打ちし、髪の毛の蛇を大きく伸ばして振りかざした。

 

「じゃ、さっさと死になさい!」

 

 苛だたしげな怒号とともに、無数の蛇の群れが一斉に二人に襲いかかる。

 ナナは一瞬体を強張らせ、しかしすぐに動けないメアのために自らが盾となって覆いかぶさる。

 目を見開くメアの目の前で、ナナに猛毒の牙が食らいつこうとした。

 

「ギィアアアアア‼︎」

 

 悲鳴をあげた琴音が、大きく翼を広げて地面すれすれを飛行する。

 危うく激突しかけたメデューサは慌ててその場から跳びのき、奇しくも邪魔をされたことで忌々しげに琴音を睨みつけた。

 

「琴音ちゃん!」

「オイ! 正気に戻れ! ほんとに死んじまうぞ…ってうおぉ⁉︎」

 

 ララやキバットが必死に呼びかけ続けるも、琴音がそれに反応した様子はない。

 

「ダメです…敵と味方の判断すらついてません…!」

 

 その悶えようが徐々に激しくなっていく様子に、モモは不安げに唇を噛む。このままではいけないとわかっていても、どうすればいいのかまるでわからなかった。

 どうにか立ち上がったヤミは、変わり果てた姿の琴音を見て言葉を失った。

 

「まさか……あれはプリンセス琴音ですか⁉︎」

「よそ見してる暇があるのかしらぁ?」

 

 呆然と立ち尽くしていたヤミは、メデューサの声にハッと我に返る。

 迫り来る蛇の体の鞭に気づくと、残った力を振り絞って体を伏せ、直前で攻撃をかわしてみせた。

 しかしその鞭は途中で向きを変え、メアを抱えたままのナナに襲いかかった。

 

「うぁっ‼︎」

「メア⁉︎」

 

 しかし鞭が直撃する寸前、ナナと体を入れ替えたメアがその一撃を受け、ナナもろともに倒れこむ。

 メアを抱きとめたナナは、メアの黒衣の背中部分が大きく剥ぎ取られ、痛々しい裂傷が刻み込まれている姿に表情を険しくした。

 

「メア……メア! しっかりしろ!」

「あ…あはは、油断しちゃった…」

「あぁん…残念。外しちゃったわぁ♡ けどまぁいいわぁ……次はどっちに当たるかしらねぇ?」

 

 ぶるぶると肩を震わせ、メデューサが倒れるメアを熱っぽく見つめる。

 ナナはぐったりとしたメアを見てから、ヒュンヒュンと宙でのたうつ毒蛇を睨みつけると、メアをきつく抱きしめた。

 その時、突如メデューサの体に無数の光弾が炸裂し、火花を散らしてその体を吹き飛ばした。

 

「くっ……!」

 

 咄嗟に防御の体勢に入ったメデューサは、砕けた壁から堂々と侵入する一人の男を忌々しげに睨みつけた。

 

「……勝手が過ぎるようですな、姫様方」

 

 瓦礫を蹴りどかし、メデューサに銃口を突きつけた白い鎧の男、名護がちらりと横目をララたちに向けた。

 咎めるような視線に、ララたちはバツの悪さよりも先に驚愕で固まった。

 

「あんた…!」

「名護……でしたか」

「おかげでここにたどり着くまでにかなり時間をロスしてしまった……だがそこの白いのの残した発信でようやく突き止められたことは、素直に褒めなければならないな」

 

 なぜここにいるのかというような視線を察し、名護はララを、正確にはその髪留めとなっているペケに目をやる。

 ナナはハッと目を見開き、ペケをじっと見つめて息をのんだ。

 

「ペケ……お前」

『申し訳ありません。万が一に備えて応援を呼べる用意だけはしていたんです』

 

 ララたちに申し訳なさそうに、ペケは重く沈んだ声で返答する。

 自分たちの手でリトを救うつもりであったララたちからしてみれば、自分のやったことは裏切りにあたるかもしれない。しかしペケは主人を守るための最善を尽くしたかったのだ。

 それを理解している名護は、すぐに視線を玉座に座るアークに向けた。

 

「時期にここは連合軍に包囲される……今のうちに己の罪を悔い改めなさい」

 

 仮面の下から鋭い眼光を向ける名護。

 しかし彼は一瞬ハッと顔を上げたかと思うと、即座にその場から大きく飛びのいた。

 その直後、彼が立っていた場所に分厚い包帯が鞭のように打ち付けた。

 

「……やはり、きたか」

 

 突然の襲撃にも慌てることなく、名護は包帯が戻っていく方を睨みつける。

 不気味な雰囲気を放つ包帯の間から、ギラリと妖しい光を見せるマミーレジェンドルガ。それを傍らに置いたレイが、腹立たしそうに名護を睨みつけていた。

 

「チィ……たかが人間の賞金稼ぎごときが‼」

「その曇った瞳によく焼き付けておくがいい。いつまでもお前達に奪われ続けるほど、人間という種族は弱くはないのだと」

 

 人間を見下し、激昂するレイに向けて、名護は諭すように告げる。

 宇宙の、世界の平和を願う組織の協力者を装い、その想いを踏みにじり、少年少女たちを悲しませたこの男を、名護は微塵も許すつもりはなかった。

 

「脆弱な人間がよく吠えますね…‼ 変身‼」

「ガブッ‼」

 

 レイの手の甲にレイキバットが食らいつき、その体を異形の戦士へと変えさせる。

 両腕の鎖が一瞬で巨大な爪へと変貌し、全身にあらゆるものを凍てつかせる冷気を纏った。

 

「一度肩を並べた相手と相対するのは心苦しいが…もはや是非もない」

【ラ・イ・ジ・ン・グ】

 

 名護は鎧の口元の装甲を外すと、携帯電話のように展開して操作する。

 コードが打ち込まれると、白い鎧は装甲の表面部分を弾き飛ばし、鮮やかな青い装甲へと変わる。仮面の十字架もその形を変え、クワガタのような角を生やしたものへと変形してみせた。

 

「…その命、神に返しなさい」

「生憎私は……神には祈らない‼︎」

 

 二丁の銃を構えた名護に向けて、レイはすさまじい殺気を伴って突進を開始する。

 邪魔な瓦礫をその爪で粉砕しながら、レイの強烈な一撃が名護に振るわれようとした、その時だった。

 

「『……邪魔だ』」

「ぐおっ⁉」

 

 レイを待ち構えていた名護が突如、金色の光を受けて吹き飛ばされる。

 城の外へと勢いよく吹き飛んでいく名護を目にし、標的を失ったレイは戸惑うように背後を振り返った。

 その目が見るのは、黄金の光を纏った片手を向けているアークだった。

 

「我が魔王…何を」

 

 困惑しながら、レイはアークに向けてそう尋ねる。

 ほかのレジェンドルガ達も、わざわざ手を出す必要のないアークの介入に訝し気に視線を向けていた。

 

「『お前たちを相手に準備運動をするのも、もう飽きてきたのでな……』」

 

 気だるげに玉座に背を預けながら、アークは下ろした手で頬杖をつく。

 名護が消えた方を少しの間見やっていたアークは、やがて面倒くさそうにため息をつき、ゆっくりと玉座から腰を上げて背筋を伸ばした。

 その周囲を、銀色の卑屈そうな顔をした蝙蝠、アークキバットが飛び回った。

 

「『仕方がない……計画を早めるとするか』」

「はぁ〜い…いきましょうね、ドロンドロン」

 

 アークキバットに手を差し出し、噛みつかせるとアークは全身に力を巡らせていく。

 頬に描かれていくステンドグラスのような模様は、いつの間にか以前よりも禍々しさを増しているように見えた。

 

「『―――変身』」

 

 呟いたアークの腰に、黒いベルトが出現し、アークキバットがそれにぶら下がる。

 するとアークが纏っていた黄金のオーラが収束し、リトを器とした確かな実体となって巨大な肉体を構築していった。

 黒く流々とした四肢、湾曲した悪魔の角、鋭く尖った爪先。神々しくも禍々しい黄金の光を纏った魔王が、再びララたちの前にその姿をあらわにしたのだ。

 

「『貴様らがどれほど兵を集めてこようと同じことだ……それよりも前に我はさらなる力を得る』」

 

 戦慄の表情で凍り付くララたちに、アークは舞台に立つ俳優のように悠々と語りかける。

 凄まじい威圧感で答えることもできない彼女たちを、アークは満足そうに見下ろし、ゴキゴキと首を鳴らして佇んだ。

 

「ギィアアアア‼」

 

 姿を変えたアークを新たな脅威と認識したのか、咆哮を上げた琴音が頭上から突っ込んでいく。

 鋭く尖った爪を振りかざしたとき、ちらりと視線を向けたアークが軽く腕を振った。

 

「ギィ⁉」

 

 大した力の入っていないように見えたそれが、琴音の巨体を軽く弾き飛ばす。

 殴り飛ばされた琴音はなすすべなく壁につっ込み、瓦礫の中に埋もれて動かなくなってしまった。

 アークはたいして気にするそぶりも見せず、少女たちに妖しい目の輝きを見せた。

 

「『さぁ…貴様らには見えるか? あの月の輝きが。我が力を最大限に高めるその時が刻一刻と近づいてきているのが…‼︎』」

 

 暴走した琴音をあっという間に無力化し、アークはおどろおどろしい声でララたちに告げる。

 その瞬間、アークの全身から強烈なオーラが迸った。

 アークの背後で膨れ上がる、見る見るうちに収束していくそれは、やがてアークの動きに合わせて波動となってあたりに撒き散らされた。

 

「『ぬぅあああ‼︎』」

「うわあああああああ⁉︎」

 

 至近距離で爆発が生じたように、とてつもないエネルギーが衝撃波となってあたりに及ぶ。

 ララたちは突如生じたその波動に耐えきることができず、辺りの瓦礫とともにまとめて吹き飛ばされてしまった。

 

「これは…‼ やはり凄まじい…」

 

 いち早く離脱したレイやレジェンドルガ達は、主の放った力に改めて慄き、その表情を青ざめさせる。

 アークの放った衝撃波は、城の正面の壁までもを破壊し大きな吹き抜けを作り出す。そこに見えたものに、アークは仮面の下でにやりと獰猛な笑みを浮かべた。

 

「『さぁ、来るがいい。王の凱旋を祝う派手な花火を打ち上げてくれようぞ』」

 

 満天の星空が望める、天空のど真ん中。

 それを覆うようにびっしりと配置された、無数の宇宙船の軍団を前にしながら、アークの闘争心は微塵も萎える様子を見せていなかった。

 そして次の瞬間、前に突き出された巨大な手から放たれた黄金のオーラが、アークを討つために集った宇宙人たちに襲い掛かった。

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