【完結】ToLOVEるダークネス 黒天の魔皇女帝《ヴァンパイア・エンプレス》 作:春風駘蕩
1.Every day 〜変わらない日常〜
『トリック・オア・トリートォ〜!』
今日の彩南町は、いつも以上に賑やかだ。家の中にいても、子供達の元気な声が聞こえてくる。
その騒がしさの原因のほとんどが自分や自分の周りであることを思い出して苦笑する少年・結城リトは、テレビのニュースに映っているカラフルに飾り付けられた商店街の通りに目を向けて、改めて思い返す。
今月は10月。元々は秋の収穫を祝って催されていたという西洋の祭り、その季節だ。
「……もうどこもハロウィン一色だな」
老若男女がお化けや怪物の仮装をし、悪霊を怖がらせて追い払うというコンセプトのこの祭りだが、最近はもっぱらコスチュームやお菓子に関連した企業が筆頭となり、ただただ楽しく騒ぐことが目的になりつつあるように思う。
高校生であるリトはもう街中で仮装するほど子供じみているつもりはないため、窓からはしゃぎまわっている子供たちを微笑ましげに見守るだけにとどめる。まぁ、普段がコスプレ以上にすごい格好になっているという自覚はあるが。
「リト〜! トリック・オア・トリート!」
そんな彼に向かって、ひときわ大きく興奮した少女の声がかけられた。
「ん? この声は……ララか? お前も参加してえええええ⁉︎」
結城家に居候しており、リトに好意を抱いているデビルーク星の第一王女、ララ・サタリン・デビルークの声に反応したリトが振り向く。するとそこに広がっていた光景に目を剥き、顔を真っ赤に染め上げた。
ララがまとっていたのはほとんど紐と言っていいほど肌の露出の多い小悪魔の衣装で、身じろぎするたびに豊かに実った膨らみがぷるんと揺れた。やたらとスタイルがいいために、ハラハラするほど際どい格好となっていて、リトのようなウブな少年には刺激が強すぎる光景となっていた。
「お、おまえ……‼︎ 予想以上の格好を……‼︎」
「あれぇ〜? 何か変だったかな?」
「おまっ……おまっ……そういうことじゃなくて……‼︎」
不思議そうな顔で自らの格好を見下ろすために衣装も動き、大事なところが零れそうになる。それなのに全く恥ずかしそうでなく、無自覚であるぶん質が悪く思えた。
「猿山がね、こういう格好をしたらリトが喜ぶよって言ってたの! どうかな、似合うかな!」
「あ、あの野郎……」
まず間違いなく半分以上は己の欲望のためだ。間違いない。
何も知らない美少女が恥ずかしがらないことをいいことに、オスの本能をむき出しにして女の子のえっちな格好を存分に眺めるつもりに違いない。リトの名もそのために使うつもりなのだろう。
『ワタシとしても、衣装のデータがたくさん集められそうなので、このお祭りは大変ありがたいのですけどね』
「お前はそれでいいのか?」
今は髪飾りとなっている、ララのコスチュームロボット・ペケのコメントにリトがぼやく。
忠臣といえば聞こえはいいが、やや扱いが雑に思えた。
「リトさん♡ そんなに驚いてたらもちませんよ?」
「! モモか⁉︎ ちょうどよかった、お前からもララに言ってやって……」
頼むから姉の暴走をなんとかしてくれ、とリトはララの妹であるモモに助けを求めようと、なんの準備もなく振り向く。
だが、その顔が再び真っ赤に染まった。
というのも、モモの格好はやたらと生地が薄く面積も狭い、肌を極限まで露出した際どい魔女の衣装であったのだ。
「わ―――っ⁉︎」
「
モモの衣装は中心が大きく開いて胸元とおへそがほぼ完全に露出し、少しのアクションで簡単にまろび出てしまいそうだ。しかも生地が薄いせいで体のラインがこれでもかと強調されてしまい、リトにまともに直視することなどできるはずもない。胸もやや大きくスタイルもいいモモがそれをまとえば、ララに負けず劣らずの危険性を放つのは当たり前だった。
彼は忘れていた。天然な姉とは違い、この妹姫は男心をくすぐるテクニックを天から授かった、根っからの小悪魔であることを。
今も、至近距離で異性の色っぽい格好を見てしまった少年が慌てふため姿を見てクスクスと笑っており、心から愉しんでいることがよくわかった。
「本当は……リトさんだけに見せたかったんですけどね。―――二人っきりで♡」
「おまっ……ちょっ……!」
ススス、と上目遣いで近寄ってくるモモにリトはタジタジである。胸の谷間の魅力も相まって目が離せない。
モモもそれがわかっていて、真っ赤になっているリトの反応を楽しんでいる。根っからのドSである彼女はそんなリトの反応を見るのが大好きなのであった。
「何してんだよお前らぁ‼︎」
突如、そんな怒号と共にモモと同じ背丈の少女が割り込んだ。
三姉妹で同じであるピンク色の髪をツインテールにした、つり目と八重歯が勝気な印象を与える少女、モモの双子の姉妹ナナだ。モモよりもある部分の発育が遅れているのが悩みだったりする。
「な、ナナ。お前も一緒だったのか」
「……姉上がなんか妙にウキウキしながら着替えてると思えば、またなんかハレンチなことを!」
「ご、誤解だって」
強気に向かってくるナナにリトは別の意味でタジタジとなる。
普段過ごしているだけで姉たちとハレンチな目にあっているリトに反発し、何かと突っかかってしまうのだった。勝気な性格と相まって、なかなか素直になれないのも理由の一つだった。
それが好意の裏返しだということは、本人は何がなんでも認めないだろう。
「ん……じ、ジロジロ見んなよ、ケダモノ」
リトがナナがしているコスプレを見れば、三角の耳とふさふさした尻尾から狼男なのだなとわかった。
シャツとズボンというボーイッシュな格好ながら、各所に備わったフェイクファーが可愛らしさを醸し出している。活発的なナナらしいコスチュームであった。
露出が少なくてなんとなく安堵してしまうリトであった。そんな考えがバレれば即ボコボコにされるだろうが。
「お、俺は別にそんなつもりは……‼︎」
「鼻の下伸ばしながら言っても説得力ないんだよ!」
「うっ……」
身に覚えがあるリトは二の句が継げなくなる。
フーッと猫のようにリトを睨みつけるナナだったが、彼女の耳元で意地悪な微笑みを浮かべたモモが囁いた。
「あらあらナナったら、せっかくリトさんに見てもらえてるのにそんな態度とっちゃっていいんですかぁ?」
「んなっ……⁉︎ あ、あたしは別に見て欲しいとか、そんなこと思ってないし……‼︎」
「またまたぁ♡」
「も〜。ナナってばもっとリトと仲良くすればいいのに!」
「あ、姉上までぇ!」
一人は純粋に、一人は小悪魔的に、一人は粗暴に。
一人の少年を中心に、三者三様に美少女たちが頬を染めながら連れ添う。初心な少年には刺激的な日常が繰り広げられていた。
「まぅ〜!」
「ん、ああ。セリーヌもコスプレしてたのか。似合ってるぞ」
顔を真っ赤にし戸惑うリトの足元から、元気な声が上がる。
身長数十センチほどの小さな体をした、植物型の地球外生命体であるセリーヌが、ジャック・オウ・ランランのコスプレをしてリトに挨拶をしていた。
リトは少しだけホッとした。
「みんな着替えてたんだな」
「うん! 前に見たときからやってみたいって思ってたの! ……ところでリト」
気をうっかり抜けば肌色が視界いっぱいに広がりそうになるのを必死に隠すリト。
全くと言っていいほど恥ずかしがる様子のないララは、ふと尋ねてきた。
「トリック・オア・トリートって何?」
「知らねーのかよ⁉︎」
コントのようにこけかけながら、何も知らずにコスプレしていたことに呆れる。
「みんなが楽しそうに着替えてたからわたしもやりたくなっちゃって」
「ララ……」
「……姉上」
「お姉様、知らずにやってらしたんですね……」
あははー、と気楽に笑っているララにリトも双子も言葉を失う。まぁ、もともとドレスなど着ていたプリンセスであるため、多少変わった格好でも忌避感など微塵もなかったのだろう。
「あー、トリック・オア・トリートってのは、『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』って言う、ハロウィンの合言葉?みたいなもので……えっと」
「お菓子がない者は、オバケにイタズラされてしまうんですよ……こんな風に」
知識があいまいであるため、しどろもどろなリトの説明に突如割り込み、モモがリトの胸元にしなだれかかった。
形良く膨らんだ柔らかい双山がむにゅりとリトの胸板に潰され、すべすべした長い足が絡みつく。
不意打ち気味な接触に、リトの顔は再びゆだったように真っ赤に染めあがった。
「ちょっ……モモ……!」
「リトさんたら、イタズラはさっきのでおしまいだと思ってたんですか? 私、まだまだ満足してませんよ♡」
「だからさっきから何してんだよお前ら‼」
全身に絡みつく幸せな感触を前に、彫像のように硬直したリトはまともに声も上げられない。ナナが真っ赤な顔で叫ぶも、モモの逆セクハラは止まらなかった。
「じゃあ私たちもリトにイタズラする―――!」
「あ、姉上まで⁉ ってかなんであたしも⁉」
婚約者と妹のスキンシップ(?)に触発されたのか、それとも単に楽しそうに見えたのか、満面の笑みをうかべたララまでもがナナを引き連れてリトに向かって突撃した。
が、すでにモモに抱き着かれ、不安定な姿勢になっているリトに向けてその勢いは強すぎた。
「うわっ」
「へっ?」
ずるっ、とリトの足が滑り、引っ付いていたモモも引きずられるようにして倒れていく。同じくとびつこうとしたララやそれに手を引かれていたナナまでもが、傾いていく
その結果、三姉妹は仲良くリトを押し倒すような姿勢で倒れこみ、彼を押しつぶしてしまった。
普通ならありえないような具合に衣服をはだけさせ、リトの両手に乳房を揉まれ、あるいは口に先端を含まれ、足の間にリトの膝が当たるという、奇妙な体勢。そのうえ、デビルーク人の弱点である尻尾を、それぞれリトに握られてしまうおまけ付きで。
当然リトはおろか、さすがの少女たちも顔を真っ赤にして一瞬固まってしまっていた。
「このケダモノ―――‼︎」
「誤解だ―――‼︎」
一拍遅れて、ナナの怒号のような叫び声が家中にこだまし、リトに過剰なまでの制裁が下される。
どういうわけか、女の子限定で起きてしまうラッキースケベによって、リトは何度も恥ずかしいシチュエーションに陥ってしまい、そのたびにきついお叱りを受けてしまうのだ。
やはりこの日も、例外ではなかった。
これが、結城リトという少年の日常の一コマだった。
その、はずだった。
「……リトったら、まぁ~たやっちゃったのか」
リトたちが騒いでいる間、結城家の庭先にて一人の少女が干していた洗濯物を取り込んでいた。
「ほっ、と。あんまり乾いてないけど、仕方ないよね」
ダークブラウンのロングヘアーをトップで束ね、快活な表情を見せる姿は小生意気そうだが可愛らしい。
彼女は結城美柑、結城家の長女であり自宅を留守にしがちな両親に変わってほとんどの家事を担当している、歳に似合わずしっかりした女の子だ。
「急に曇り出すんだもんなぁ。嫌になっちゃうよ」
黄土色の瞳を頭上に向け、美柑は黒々とした空を見上げる。
今朝方はよく晴れ、天気予報でも晴天を予報していたというのに、正午近くになって急に曇り始めてしまった。おかげでまだ若干湿っている洗濯物を回収する羽目になり、部屋干しする手間を憂うのだった。
その時不意に、ぬるりと湿った生暖かい風が美柑の頬を撫でた。一瞬顔をしかめた美柑は、その嫌な感触に不安げな表情を浮かべて再び空を見上げる。
「……なんだろう。この、嫌な風」
十月の風とは思えない、妙な湿り気というか不気味さを感じさせる空に、妙な寒気を感じてしまう美柑。
虫の知らせのような、ねっとりとしたその嫌な感覚は、その時からなかなか抜けてくれなかった。