∞.Raise up your flag
「……行ってしもうたな」
小舟を漕ぎ、遠く離れていく男と少女の背中を見送る住人たちの中から、そんな声が漏れた。
屈強な男たちに囲まれ、心から楽しそうに笑っている少女の横顔が、どんどん見えなくなっていってしまう。
男たちの生き方に影響されたのか、それともずっと前からその生き方を望んでいたのか、一度決めた彼女の行動は早かった。燃え尽きた家の中から使えそうなものをかき集め、ヒビキに土下座してまで同行を願い出たのだ。
誰も止めようとはしなかった、というよりもできなかった。
本人は仕方がなかったことだとは言っていたが、理不尽な罵倒を浴びせかけたことや、生贄にされかけたことに見て見ぬ振りをしようとした罪悪感から、彼女の行動に口を挟む気にはなれなかった。
散々傷つけたものたちに何の悪感情も抱いていない彼女の姿そのものに、己の小ささを自覚させられた気分になっていた。
「これが一番ええのかもしれん。アスカは……こんな島で一生を終えるような定めではなかったのかもなぁ」
「じゃが、あやつらだけで本当にやっていけるんかのぅ」
はしゃぎすぎたのか、小舟をグラグラと揺らしている様子が見えて、不安な気持ちが起きないわけではない。
それにたった数人、アスカを入れてもたった八人である。全国に蔓延っているという魔化魍を相手にするには、心もとない人数ではないだろうか。
そんな時だった。長が口を開いたのは。
「……組織を、作ろう」
振り向き見つめてくる住人たちの視線を受けながら、確固たる意志を込めた目で長はアスカの背中を見つめる。
最初に出会った時、彼女は母親の亡骸に抱かれ、弱々しい声で泣きじゃくっていた。
どこからきたのかも、何があったのかもわからない。小さな島で養う余裕のあるものはおらず途方に暮れていた時、彼が一人、名乗り出たのだ。
ーーー頼む、長よ。
こいつの命、俺に預けさせてくれ。
「彼ら鬼が人に理解されずとも、彼らが戦えるように手助けできる……そのための組織を我らで作ろう」
それが、自分たちにできる罪滅ぼし。
何も知らず、いや、知ろうとせずに見下し、戦う意思を無下にした愚か者たちにできる、最低限の恩返しだ。
「名は、もう決めてある。……奇しくも彼らのような、戦士にふさわしい名を持ったある男にあやかった名を」
きっとこの名が、それを助けてくれる。
島を愛し、人を愛し、小さな命を立派に育て抜いた彼の名が、自分たちを助けてくれる。
「その組織の名はーーー
深い深い、森の奥。
無数の鳥居が並ぶ通路の先に建てられた立派な造りの和風の建物の中で、いくつもの声が響く。
ここは鬼の総本山。全国の鬼を統括する組織の中心、その施設。
その奥の奥に、明日歌はいた。
綺麗な畳が敷き詰められた屋敷のその再奥に、綺麗な着物と髪飾りで着飾った明日歌が正座し、深く頭を垂れる。清掃で身を包んだ彼女は、周囲から向けられる様々な視線の中で、じっと沈黙していた。
その視線は、好意的なものはほとんどなかった。鬼でありながら死神の力を有し、その上魔化魍の血まで混ざっているなどという特異な存在。そして、裏切り者であった歌舞鬼の弟子。
なんの条件もなしに受け入れるなど、到底無理な話であった。
だが、明日歌は引かない。
「安達明日歌。2代目響鬼、襲名いたしまする」
ゆっくりと上げられるその眼差し。
その目には、一度は理不尽な悪意にかき消されながらも、再度蘇った熱い炎が燃え盛っていた。
この先も、彼女は自身の血に苦しめられることだろう。味方のいない世界で、孤独に戦い続けることになるだろう。
しかし彼女は、その生き方を改めるつもりはない。
守りたい大切なものが、この美しくも残酷な世界にはあるのだから。
たった一人、鬼神の力を得た少女の戦いは、ここから始まる。
BLEACH×仮面ライダー響鬼、無事完結いたしました。
過去編と現代編を同時に書くという無茶な試みに最後までお付き合いくださり、誠にありがとうございます。
当作品もまた、劇場版仮面ライダーの内容をモチーフに書いたものであるため、どうしても使う内容は過去を扱うものになってしまいました。かといって本来の主人公の一護を出さなければ意味がないので、よくある大昔にいたそっくりさんといった体で出させていただきました。
私個人の感想といたしましては、この劇場版響鬼は「差別」が大きく取り上げられていると思いました。自分と違うものを色眼鏡で見て、徒党を組んで排除しようとする人間の悪いところが強く出ている、現実でも何か感じさせられるものであったと。
明日歌はこの後も、理不尽な悪意にさらされながらも戦い続けることになります。
その理由は、「正義」のためなどという安いものではありません。「自分が自分らしくあるため」という当たり前の理由のためです。
しかし本作品、思った以上に難航しました。
BLEACHを読み足りなかったせいか(ほぼ原因は私の文才のなさのせいでしょうが)予想以上に反響が弱く、読者の皆さんもあまり楽しめていなかったように思えます。
ですがこの先も続けていく以上は、これを反省としてこの身に刻み、より良い作品をかけるように努力したいと思います。
最後になりましたがこれまで読んでくださった皆々様、そして毎回感想をくださった桂ヒナギク様、応援ありがとうございました。