血界戦線 −THE LAST HOPE−   作:春風駘蕩

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3.指輪の魔法使い

「しっ!」

 

 エヴァンジェリンの華奢な足から放たれた蹴りが、見た目には似合わぬ鋭さと重さで、少女よりはるかに巨大なミノタウロスの横腹に炸裂する。

 猛牛の異形は咄嗟に腕を盾にしたが、それでも止められぬほどに少女の一撃は強く、巨体が軽々と吹き飛ばされる。

 

「がぁああ!」

「鈍いわ、牛もどきめが」

 

 蹴りの勢いのまま、その場でくるりとターンしたエヴァンジェリンがため息交じりに吐き捨てる。

 カツン、と警戒に靴を鳴らし、コートの裾を靡かせた小さな魔女は、心底面倒くさそうに半目を向け、肩を竦めてみせる。

 

「せっかく愛しの彼の方がわっちの帰りを待ってくれていたというのに、空気の読めぬ無粋な輩めが……この罪、そうそう償えるとは思うでないわ」

 

 しかしすぐに、小さな魔女の目からは強烈な殺気が迸り始める。

 刃の様に突き刺さる気迫に、ミノタウロスはびくりと全身を震わせると、胸中に沸いたその感覚を振り払うように首を横に振り、再び猛然と突撃を行った。

 

「指輪の……魔法使いぃ‼︎」

「せぇああああ‼︎」

 

 戦斧を手に、真正面から襲い掛かる猛牛に、エヴァンジェリンの片足がまた唸りを上げる。

 高々と跳躍した小さな魔女は、まるで踊るように宙を走り、戦斧を振り上げたミノタウロスの側頭部に爪先を叩き込む。凄まじい衝撃がミノタウロスの頭部に走り、片方の角が勢い良く圧し折られてしまった。

 

「うっわ、強ぉ…!」

「よく見ておけよ、陰毛に魚類……あのババアはライブラ(うち)で、最強と言っても過言じゃねぇバケモンだ」

 

 その様子を伺う、瓦礫に身を潜めたままのレオナルドとザップ。

 組織内部でも実力者に相違ないはずの彼がこぼす台詞に、レオナルドは勿論ツェッドも戦慄の視線を向ける。

 少女を恐れる彼に呆れていたことも忘れ、戦いの様をただ凝視する他になかった。

 

「そら、どうした? この程度で息が切れんしたか?」

「ちっ…いけ!」

 

 ずしん、と倒れ込むミノタウロスに、エヴァンジェリンが冷笑と共に挑発の言葉を吐く。

 片角を折られたミノタウロスはそれを憎々しげに睨みつけ、やがて懐から小石のようなものを取り出し、辺りにばらまいていく。

 

「ォオオォォオ…‼」

 

 宝石のような何かが埋め込まれたそれらは、地面につくと同時にもこもこと形を変え、あっという間に人の形に変わっていく。

 岩に見える皮膚に、小鬼のような二本角、そして不気味な呻き声をあげるそれらはどこからともなく槍を取り出し、一斉に小さな魔女に向かって殺到していった。

 

「雑魚がわらわらと…面倒臭いでありんすな」

〈ルパッチマジックタッチゴー! ルパッチマジックタッチゴー!〉

 

 エヴァンジェリンは、迫り来る異形の兵(グール)達を鬱陶しそうに見やると、腰のベルトのつまみをいじり、先ほどとは異なる音を響かせる。

 軽快な歌と光が辺りに散る中、エヴァンジェリンは右の中指に指輪を通し、ベルトの中心にかざす。

 

〈コネクト・プリーズ!〉

 

 突如、彼女の真横に赤い陣が展開され、小さな魔女はその中に手を突っ込む。

 その手が抜かれた時には、エヴァンジェリンの手には一振りの剣が握られ、鈍い銀色の光を放ってグール達に突き付けられていた。

 それに構わず、数体のグールが手にした槍を振り下ろそうとした時。

 

 ギィン!

 

 と閃光が走り、鋭く甲高い音が鳴り響いたかと思うと、群がっていたグール達の身体に線が走る。

 一瞬の間の後、異形の身体は線を境にずれ、ぼとぼとと肉塊となって崩れ落ちていった。あとに残ったのは、剣を振り抜いた体勢で停止する小さな魔女の姿だけである。

 

「ゴキブリのように湧きおって、鬱陶しいわ」

〈バインド・プリーズ!〉

 

 残った異形の兵達が、それでも真正面から突っ込もうとしたその時、エヴァンジェリンはまた新たな指輪をはめ、ベルトの前にかざす。

 すると今度は、地中から幾本もの鎖が表れ、グールたちの身体に巻き付いてひとまとめにしていく。動きを止めた彼らを前に、エヴァンジェリンはまた別の指輪を用意してベルトにかざす。

 

〈ビッグ・プリーズ!〉

「ほれ、お仕置きじゃ」

 

 真正面に現れた大きな陣に、エヴァンジェリンが無造作に手を突っ込む。すると陣を抜けた彼女の手が巨大化し、まとめられていたグールたちを吹っ飛ばしてしまう。

 たった一人で、小さな魔女は異形達を一方的に蹂躙してしまっている。その光景に、レオナルドは瞠目しっぱなしだった。

 

「ちょっ…ちょっとザップさん、今回ほぼ出る幕なさそうなんすけど大丈夫なんスか?」

「言うんじゃねぇクソ陰毛頭…! あれに突っ込んだら死ぬだろ普通に‼︎」

 

 果たしてこの場に来た意味があるのだろうか、とレオナルドは驚くほどに役に立っていない自分や同僚の今の姿を嘆く。

 だがふと、彼の表情が変わる。一瞬、単独で暴れ回る小さな魔女から目を離した彼の視界に、奇妙な何かが映ったからだ。

 

「何だ……あの光は」

 

 彼の目に映ったもの。それは、瓦礫の間で蹲る一人の女性。

 瓦礫が散乱し、骸がいくつも転がる地獄の中、逃げる事もせず俯いたまま動かない彼女の姿に、そして彼女から溢れて見えるオーラに、レオナルドは目を奪われていた。

 

〈シャバドゥビタッチ・ヘンシーン! シャバドゥビタッチ・ヘンシーン!〉

 

 困惑の視線を向ける彼に構うことなく、エヴァンジェリンはまたベルトのつまみを動かし、鮮やかな光を迸らせる。

 今度は左手にはめた指輪を換え、青い輝きを備えてベルトにかざす。同時に、桜色の唇から歌うような祝詞を唱え、コートをたなびかせた。

 

「溢れ流れ果てなく揺蕩い、水面に映るは真の心。この身に宿すは千変万化の命の飛沫」

〈ウォーター・プリーズ! スイースイースイスイー!〉

 

 青い陣が頭上に出現し、覆いかぶさるようにエヴァンジェリンの方へと下がってくる。それを通り抜け、彼女の姿はまた少し変わっていく。

 サークレットの宝石は菱形に、コートの宝石も青色に変わり、水のような澄んだ輝きを放つ。

 

「ぶおおおお‼」

 

 ミノタウロスは戦斧を手に突進し、刃を振りかざすも、エヴァンジェリンは流れるように緩やかにそれを躱し、代わりに巨体に組み付き腕を絡めとる。

 ゴキッ、と異形の肩が鈍い音を鳴らし、苦悶の声を上げて戦斧を取り落とす。振り払うミノタウロスだが、その時には既に小さな魔女は別の指輪を備えていた。

 

「吹けよ揺らせよ永遠に荒ぶれ、烈風が払うは迷いの霧。この身に宿すは古今東西止まぬ追い風」

〈ハリケーン・プリーズ! フーフーフーフーフーフー!〉

 

 風が吹き、エヴァンジェリンの小さな体を浮かばせる。そして、足元に現れた陣が体を通り抜け、サークレットとコートの宝石を緑の三角の形に変える。

 鮮やかな緑に彩られた風に乗り、エヴァンジェリンは軽やかに宙を舞い、手にした剣でミノタウロスを斬りつける。その素早い動きに、異形は翻弄されるばかりだ。

 

「響き震えて無窮に積もり、砂塵が創るは守護の砦。この身に宿すは確乎不動の万物の素」

〈ランド・プリーズ! ドッドッドドドドン! ドッドッドドン!〉

 

 天を舞うエヴァンジェリンの背後に黄色い陣が出現し、それを通り抜けてまた宝石の形と色が変わる。

 四角い黄色の宝石を携えた小さな魔女は、遥か頭上から勢いよく落下し、ミノタウロスを思い切り踏みつけ、地面の中にめり込ませる。

 

「何と言う強さ…‼︎ あれだけの属性を一度に…それも一人で」

 

 一切危なげなく、一方的な猛攻を見せるその姿に、ツェッドは開いた口が塞がらないと言った様子を見せていた。

 単純な戦闘能力だけならば、彼の師に迫る強さを有しているのは間違いない。だが、使用されている技術の高さを見れば、師を越えているのではないかと思わざるを得ないのである。

 

「―――現代に失われた力……世において度々〝奇跡〟と称される()()()神秘」

 

 ビキビキッ…と氷の盾を出現させ、飛んでくる瓦礫の破片を防ぎながら、スティーブンが誰にともなく呟く。

 突然の声に振り向いたツェッドは、スティーブンの遠い目に思わず冷や汗を流す。奇跡など、人によれば戯言と切り捨てられそうな単語だが、そう思わせない圧が今の彼からは感じられていたのだ。

 

「己の内に宿した魔物の力を引き出し、一切の物理法則を無視した現象を無尽蔵に引き起こす。その威力は魔術の比ではなく、唯一人間の手によって世界に干渉し得る術……」

 

 再び、ツェッドは小さな魔女に視線を戻す。

 それは、もはや戦いなどではない。瓦礫の中を飛び回り、コートとスカートを翻し、笑顔を浮かべて剣を振り回すその姿は、異様という外にない。

 

「彼女こそ、我がライブラが誇る最優最良の魔法使い(ウィザード)だ」

 

 圧倒的な力をもって行われる遊戯の様に、その場にいた誰もがごくりと生唾を呑み込んでいた。

 そんな視線の最中に佇み、エヴァンジェリンはまた新たな指輪を指にはめ、ベルトにかざして笑みを浮かべた。

 

「ふぃなーれじゃ」

〈チョーイイネ! キック・ストライク サイコー!〉

 

 声が鳴り響くとともに、彼女の足元に大きな赤い炎の陣が出現する。

 轟々と燃え盛るそのうえでコートを翻し、エヴァンジェリンは体勢を低く落とし、右足を前に出して構えをとる。

 そして次の瞬間、彼女は新体操のように側転と跳躍を行い、空中に飛び出した。

 

 ソーマ流血晶魔導第1章第13節

 

 ボゥッ!と凄まじい業火を右脚に集め、華麗に宙を舞う小さな魔女。

 煌々と輝く赤を携えた彼女は、連撃による疲労と苦痛で後退る事しかできないミノタウロスに肉薄し、勢い良く右脚を突き出す。そして。

 

 紅き一条(ヴェラルブラン)

 

 ズンッ!と辺りに衝撃波を撒き散らしながら、小さな魔女の蹴撃がミノタウロスの胸の中心に炸裂する。

 業火で皮膚が焼かれ、重さで胸が陥没し、異形の肉体に無数の罅が入る。と思った次の瞬間、異形の身体から爆炎が噴き出し、木っ端微塵に弾け飛ぶ。

 最期にはヴォオオオ!という断末魔が、虚しく辺りに響き渡っていた。

 

「…んっとによぉ、あの化け物具合はいつ見ても恐ろしいわ」

 

 ぱらぱらと飛び散る異形の破片を仰ぎ、ザップが頬を引きつらせて呟く。

 異形が立っていた場所には、エヴァンジェリンただ一人が残り、足元に刻まれた焦げ跡が、彼女が放った一撃の凄まじさを物語っている。

 異臭と熱が立ち込める中、小さな魔女は気だるげな表情で佇んでいた。

 

「火・水・風・土の四大元素を使い分ける上に、()()()()()()()()()()()()使()()()とか悪夢以外の何物でもねぇよ」

「……彼女は、本当に人間ですか」

「さぁな…正直、俺にもわかんねぇよ」

 

 ツェッドが恐る恐る兄弟子に問いかけるが、ザップはそれに鬱陶しそうに返し、振り向くこともしない。

 敵ではなくとも、彼女が持つ力の凄まじさに戦慄を禁じえず、視線や意識を逸らす事ができなかったからだ。

 

「ふぃ~…さて、ようやく終わりかの」

 

 やがて、エヴァンジェリンの顔から殺気が薄れ、冷たい眼差しがレオナルド達、ライブラの面々に向けられる。

 エヴァンジェリンは彼らの顔を順々に眺め、自分が探していた一人を見つけ出すと、口元に笑みを浮かべて歩き出そうとした、その時だった。

 

「ソレイユ女史!」

「ん?」

 

 不意にスティーブンが上げた声に、エヴァンジェリンは胡乱気な、同時にいいところを邪魔されたような険しい視線を向ける。

 だが、冷静な参謀が浮かべている焦燥の顔に、彼女も顔色を変えて走り出す。

 スティーブンの傍に駆け寄ったエヴァンジェリンは、彼が抱える一人の女性に―――その手に刻まれた、紫色のひび割れを目にし、舌打ちをこぼした。

 

「こ、これは…」

「身体が……ヒビ割れて…⁉︎」

 

 同じく駆け寄ったレオナルドとツェッドも、女性に起きている異変に目を見開く。

 何かの病か、それとも特殊な外傷か。常識的にあり得ない現象も、この街では普通にありふれたものとなり得るため、彼らの間に緊張が走る。

 その中で、スティーブンがあるものを見つけ、エヴァンジェリンの前に差し出してみせた。

 

「ソレイユ女史……おそらくこれかと」

「いかんの……さっきのファントムにやられたか。相当大切なものだったようだの」

 

 スティーブンの掌の上にあったのは、砕けたチェーン付きのロケット。

 その中に納められた写真は、戦闘に巻き込まれたためか破れ、悲惨な状態に陥っている。それを目にした途端、女性に刻まれた罅が一層広がり、ビキリといやな音が響いた。

 

「なんすかこれ…どうなってんスか」

 

 常人から見ても異様の一言に尽きる光景に、レオナルドはさらに青い顔で立ち尽くす。

 彼の〝目〟には、罅の奥にある何かがはっきりと見えていた。

 まるで女性自身を卵の殻とし、それを無理矢理こじ開けて外に飛び出そうとしているような、そんな得体のしれない何かの姿が。

 

(何かがいる……この人の中で、何かが蠢いてる…⁉)

「どきなんし、小僧」

 

 ぞわっ、と罅の奥にある何かの気配に、背筋を震わせ棒立ちになるレオナルド。

 しかし、硬直する彼を横にのけ、気だるげに首を鳴らすエヴァンジェリンが割って入る。彼女は女性の手を取り、震える彼女の目を覗き込んだ。

 

「いや……いや…! 怖いよ……‼︎」

「任せなんし……わっちがぬしの、最後の希望でありんす」

 

 そう、優しい声で語りかけた小さな魔女は、女性の片手の中指に一つの指輪をはめる。

 美しい、橙色に輝くそれを備えさせ、エヴァンジェリンは自分のベルトにかざさせる。その瞬間、女性とエヴァンジェリンの間に大きな陣が出現した。

 

〈エンゲージ・プリーズ!〉

「ほっ…!」

 

 すると次の瞬間、エヴァンジェリンは軽い掛け声とともに跳び上がり、陣の中に飛び込んでしまう。

 一瞬で姿を消した彼女に、レオナルドはツェッドと共に目を剥き、オロオロと辺りを見渡して狼狽をあらわにした。

 

「な、何が…⁉︎」

 

 慌ててクラウスやザップ達の方を見やるも、皆真剣な表情で女性を見下ろすだけで、驚愕している様子はない。

 何が何やら、と呆気にとられるレオナルドの〝目〟に、その光景が映り込んだ。

 

 

 

 そこは、何処とも知れない遊園地の中だった。

 楽し気な子供達の声や、大人達が談笑する声が響く、淡い色彩の光景である。

 一見しただけで、現実とは異なるとわかる奇妙な景色の中、エヴァンジェリンは一人佇む。

 

「……ここが、あの子の心の中。あんだーわーるどかえ…」

 

 唯一鮮やかな色彩を有した彼女は、明るく優しいその風景を見渡し、どこか羨ましそうな眼差しを向けていた。

 だが、その景色の中に突如、巨大な紫色の亀裂が走る。

 バキバキと軋みを上げてこじ開けられたその奥から現れたのは、巨大な黄金の龍の頭だった。

 

「ギィイイイイ‼︎」

「むっ…!」

 

 龍は甲高い咆哮を上げ、目下に佇むエヴァンジェリンの姿を捉えると、辺りに罅を広げながらその姿をあらわにしていく。

 その姿は、只の龍ではない。本来尾がある部分にも、銀色の龍の顔がある異様な姿―――ウロボロスと呼ばれる異形が、小さな魔女に襲い掛かろうとしていた。

 

「出番じゃドラゴン! わっちに力を貸しなんし‼︎」

〈ドラゴライズ・プリーズ!〉

 

 エヴァンジェリンは双頭の龍を見据え、好戦的な笑みを浮かべると、また新たな指輪を指にはめ、ベルトの前にかざす。

 途端に出現する、ひときわ巨大な陣。その奥からは、宝石の目と銀色の体躯を持った、巨大な(ドラゴン)が顔を出し、凄まじい雄叫びを上げて天に飛び立った。

 

「ギャオオオオオオオ‼︎」

「むっ! あやつめ……勝手なことを! はぁっ!」

 

 現れて早々、双頭の龍を敵と見定めた竜は、力強く翼を羽ばたかせ、二つの首のうち一方に食らいつきにかかる。

 エヴァンジェリンは飛び出していった竜に舌打ちをこぼすと、肩を竦めてから自身も宙に跳び上がる。そして、ガチガチと牙を鳴らす竜の背に飛び乗り、首根っこをがしりと掴んで引き寄せた。

 

「相変わらずのじゃじゃ馬ぶりじゃ…! 少しは言うことを聞きなんし‼︎」

 

 引っ張られることを嫌がって、竜は唸り声をあげて無茶苦茶に辺りを飛び回る。

 竜が暴れるたびに、身体が周囲の空間に激突し、ひび割れが一層ひどくなっていく。それに眉をひそめたエヴァンジェリンは、無理矢理竜の鼻先を双頭の龍に向けさせ、互いの戦意を向き合わせた。

 

「どぉりゃああ‼」

 

 相当の龍の片方の顔に竜が食らいつき、もう一方の顔にエヴァンジェリンが剣を振りかざす。

 ガキンッ、と甲高い音が響き渡り、小さな魔女が振るう刃が竜の片目を潰し、同時に竜が喉笛を引き千切ってみせる。相当の龍は両方揃って悲鳴を上げ、ズシンとその巨体を空間に激突させた。

 

「あまり無茶はできんな……いま一度、ふぃなーれじゃ」

〈キャモナスラッシュ・シェイクハンズ! スラッシュ・ストライク!〉

 

 エヴァンジェリンは小さくぼやき、剣に備わった手の形のギミックを操作する。そして出来上がる金属の掌に、握手をする用に指輪を重ねさせる。

 その瞬間、エヴァンジェリンの剣に業火が纏われ、凄まじい熱と光を放ち始めた。

 

「はぁあああああ‼」

 

 翼を羽ばたかせ、天を舞う巨大な竜の背に乗り、エヴァンジェリンは炎の剣を振りかぶる。

 咆哮を上げる竜の向かう先で、憎々しげな目を向ける双頭の龍。その鼻先に、エヴァンジェリンの振るう刃が鋭く食らいつく、そして。

 

 ソーマ流血晶魔導第1章第39節

 紅き剣閃(フィニス・グラディオルブラン)

 

 ギャリンッ!と。無数の金属同士が擦れ合うような不快な音が木霊し、花火のように大量の火花が飛び散る。

 鼻先に刃を突き立てられた竜は、見る見るうちに顔から胴体までを真っ二つに斬り裂かれていく。肉を焼かれ、引き裂かれ、見るも無残な姿に替えられ、異形の龍はその命を絶たれていく。

 そして最期は、残るもう一方の顔までもを両断され、次の瞬間強烈な閃光を放って爆発四散してしまうのだった。

 

「ギャオオオオオ‼」

 

 消え去った敵を見届けた竜が、勝利を歓喜するような咆哮を高々と上げる。

 ビリビリと震える大気に、やや顔をしかめたエヴァンジェリンは、剣を陣の中にしまい込み、ようやくホッと息をついた。

 

「…今度こそ、ふぃ〜」

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