豊饒の女主人に住んでいたのは間違っているだろうか? 作:コトコト
逃げるは恥だが役に立つ。
そんな言葉をどっかから聞いた気がする、詳しくは覚えてないがとても共感できるので言葉だけは覚えてある。
そもそも逃げる事が恥とされる事に僕は疑問を覚えるけどまぁオラリオの冒険者は戦ってなんぼ、逃げる事が恥みたいに捉えられるのも無理はないだろう。だけど僕の担当アドバイザーであるエイナさんはいつも口を酸っぱくしてこう言っていた。
『冒険者は冒険しちゃいけない』
意味はそのまま無茶をしちゃいけないという意味だろう。おおかたエイナさんは未だに神様の恩恵を受けてない、すなわちファミリア無所属の僕の身を案じて行ってくれてるのだろう。いやエイナさんは優しい人だから僕じゃ無くても同じことを言うんだろうな。
まぁエイナさんのその心配は無用だろう、なぜなら・・・
「僕は五階層までしか行かないしそこにはあまり危惧するべき敵もいない、って続けたかったんだけどなぁ」
そう独り言を言いながら僕は再び目の前のモンスターと向き合う。
そのモンスターは僕をはるかに上回る体格を持ち荒い息遣いをしながら怒号をダンジョン内にこだませる。
『ヴヴゥ・・・ヴヴゥ・・・ヴヴォォォォォォォッ!!』
「なんでミノタウロスがこんなところに・・・君の居場所はもっと下の階層でしょ」
手にした魔石をしまいながらそう言ってみるけど案の定答えは怒号だけ、さてこれからどしよう。
逃げるにしてもここを離れれば最悪さらなる犠牲者が出る。だからと言ってこのままだと色々まずい、こいつがどんだけ
満身創痍なその体を引きずりながらミノタウロスはその巨体を動かし襲いかかる。
いくら瀕死でも相手はモンスター、攻撃方法も間合いも限界を超える可能性がある、彼らも生きているのだから。
その上相手はこっちに敵意丸出しで向かってくる。こっちは戦うつもりなんてないのに・・・
『ヴヴゥォォォォォォォッ!!』
まさしく猪突猛進、覆いかぶさるようにそいつは僕に襲いかかった。
僕は後ろに飛び下げようとするが・・・
(ッ!やばっ・・・)
背後には壁、どうやら壁に追い詰められたらしい。
突如現れたミノタウロスに動揺した自分の落ち度だ。そう覚悟を決めたその時・・・
「え?」
『ヴォ?』
ミノタウロスの巨体に縦一筋の線がはいりミノタウロスは驚きとともに動きを止める。そしてその線を境にその巨体は二つへ別れていきあたりに赤黒い体液を撒き散らす。
僕は突然のことでその場から動けず体を赤黒く染めてしまう。
(あぁ、せっかくの服がボロボロだ。ミリィに怒られるなこりゃ)
ミノタウロスの猛攻と先ほどの体液によって赤黒く染まりボロボロとなった服を見ながら思い浮かぶのはこの服を作ってくれた友人。
(戻ったらまずは謝らなきゃ)
そう思いながらまずは自分を救ってくれた人物に礼をいうためその人物へ視線を移す。
「・・・大丈夫?」
モンスターを一撃で屠り現れたのはそのモンスターとは真逆なほど美しい、女神とも見える人だった。
僕を見つめるその目は黄色く輝き髪も同じような美しい輝きを持っていた。手にしたサーベルには地などついておらずそれはその人の汚れなき姿を現しているようだった。
「あの・・・大丈夫、ですか?」
大丈夫じゃない、全然大丈夫じゃない。別に怪我とかはしてない、問題はその人物にあった。
女神と見間違うような美しい人物、その容姿を見ればたとえ無駄だと知ってても誰だって彼女とお近づきになりたいだろう。少なくとも僕はそう思う。だけど問題は彼女が所属しているファミリアにある。
【ロキ・ファミリア】オラリオにおいて【フレイヤ・ファミリア】と肩を並べるファミリアに所属する第一級冒険者、このオラリオで生活するものなら誰だって一度は聞いたことはある人物。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。それが問題だった。
ロキ・ファミリアは豊穣の女主人のお得意様、よくダンジョンの帰りで宴会を開くとかも聞く。つまり少なからず僕と彼女らは面識があるということになる。
それはまずい、全然大丈夫じゃない。
なんとかしなければ・・・
「・・・・・」
「・・・・・」
しばし沈黙が続く、どうやらアイズさんはあまり話すのは得意ではなさそうだ。そう願いたい。
今はおそらく僕の姿は血まみれではっきりしないだろう。それがせめての救いだ。
だけどこれじゃあ自体の根本的な解決にはならない。何か、何か変化さえ起きれば・・・
「えっと・・・そこの君」
アイズさんがそう言いながら僕に近づく、そんな時。
「おーいアイズ、そっちのミノタウロスは片付けたか?」
そう言いながらこちらに近づく気配がする。声色からおそらく男、アイズさんの仲間から考えるにおそらく同じロキ・ファミリア。かなりヤバイ状況だ・・・いや待てよ?これはチャンスだ。ここでうまく逃げらなければ・・・
「ベート・・・」
「アイズ、そいつは?」
現れたのは
さて肝心なのはここからだ、気づけば血がだんだんと引いてきている。時間がない。
「うわっ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕はアイズさんを呼びながら現れた男へ反応するような様子を見せ周囲を見回す動作をしそのようにできるだけショック状態の哀れな冒険者を装いその場を全力で逃げ出した。
お願いだから覚えてませんように!!
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「な、なんとかなった・・・かな?」
少しゆったりとしたペースで辺りを見回しベルは1人そう呟いた。すでにミノタウロスの返り血はある程度消えているが服などについた血はそのままだ、そのため少し周りの目を引くがベルの外見から『新米冒険者がまだ慣れない戦いで返り血を浴びた』ぐらいしか思わないようでそこまで気にする様子はなかった。
だが少し、バベルの塔はいつもより賑わう様子だった。その賑わいの中心にはとある一団がいた。
「おいアレ、ロキ・ファミリアだぜ」
「遠征から帰ってきたんだってな」
そう周りから聞こえる情報からどうやらあの一団はロキ・ファミリアに属する者たちらしい。ベルと同じようなヒューマンからアマゾネスやドワーフなど十人十色のメンバーがそこにはいた。そのどれもがこのオラリオにおいてかなりの実力を持つ者たちなのは冒険者としての感覚がそうベルに知らせていた。
「ちょっとレフィーヤ!それって
ふとアマゾネスの少女がエルフの少女の衣服を見るとそう言いある一点を凝視した。
そこには可愛らしくその服の景観を崩さぬような刺繍がしてありその刺繍も簡素に描かれた小鳥が何かを背負ってるような刺繍だった。
「あれ?こんな刺繍買った時にはなかったのに、それとなんなんですか?
エルフの少女も初めてその刺繍に気づくようで驚いた様子だった。
「
「ですがこの服は普通の服屋で買ったものではじめはこんな刺繍・・・」
「そこが不思議なのよ!気づいたら刺繍がしてあってね、買った後に縫われたのか買う前から縫われて使い続けたら浮かび上がるのか。しかも人によって発動しない時もある、その他もいろいろと不思議が多いんだよ・・・とにかく!最近オラリオで流行りのラッキーアイテムなんだよ!」
「ですが私が使っていいのでしょうか・・・今回の遠征だって・・・」
「またそれ〜。レフィーヤは考えすぎだって、もっとポジティブに考えなきゃ」
「ですけど・・・」
「ほらほらそう暗い顔しない。アイズもそろそろ戻るだろうし、そんな暗い顔しないの!」
その声を聞きベルはハッと我に帰る、ダンジョンの入り口を少し気にする仕草をしながらとりあえず魔石を換金するためその場を後にするのだった。
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場面は少しさかのぼりベルが逃げ出した後のダンジョン。
取り逃がしたミノタウロスを追ってきたアイズとベートはとてつもない勢いで逃げていった少年の行動にあっけにとられていたからか少しその場にとどまっていた。
「なんだあのトマト野郎?アイズ?知り合いか?」
「ううん、知らない子だった」
「そうかよ、ならとっとと魔石回収してずらかろうぜ。みんな待ってるだろうし」
そう言いその場を後にしようとするベート、しかしアイズは少しばかりの違和感を感じていた。
「ん?どうしたアイズ?」
その場に立ち尽くすアイズを見てベートはそうたずねる。それにアイズは自分が軽自他違和感を打ち明ける。
「手応えが・・・なかった・・・」
「手応え?そりゃ瀕死だったからな。お前がその分強くなってんだよ」
ベートはそう言い、アイズは少しの違和感を覚えながら魔石を回収しようとするが・・・
「無い・・・」
アイズがふと呟く。
「あん?なにがだよ?」
そのつぶやきに反応するようにベートが振り返る。
「魔石が・・・無い・・・」
振り返ったベートにアイズは静かにそういった。
「そんなわけあるか」
ベートに は少し焦り気味にアイズとともに魔石の痕跡を探すが・・・
「なんで・・・無いんだよ」
目的のミノタウロスからドロップした魔石を見つけることはできなかった。
別にベートやアイズも魔石が欲しいわけでは無い、金には困ってないしミノタウロスも倒せない相手でも無いからだ。だからこそ、2人にとってこの謎はとても大きく捉えられた。
「あの野郎!まさか魔石だけとって逃げ・・・「それは無い」」
逃走した人物を追おうとするベートをアイズはそう言い止めた。そして続ける。
「私が見た限りあの子は逃げ出すまでずっとあそこで動かなかった。ミノタウロスが死んだ後も」
「ならなんで魔石が。アイズ、魔石ごと切ったなんてことは・・・」
「そんな感じはしなかった、そもそも私が倒した時に魔石があったのかすら今では怪しい」
そうアイズが言うと辺りを再び静寂が支配した。それも先ほどとは比べられぬほど重く、不気味な静寂だった。
「とにかく、まずは戻ろう。それからみんなにも聞いてみよう、もしかしたら何か知ってるかも・・・」
「あ、あぁ・・・そうだな」
不気味な違和感を残したまま、2人はそうして地上へ帰還した。
・
近頃オラリオの冒険者の間で密かな噂になる服に付けられる刺繍のこと。気づいたら服に付けられており刺繍が発言してからは常に何かしらのアビリティが発動状態になるものでありアビリティは持ち主に合うものになる。その性能上からか持ち主以外にはアビリティの影響はなく、売買はされておらず貴重さに拍車がかかっている。
その便利さからどこかのファミリアが作っていたり、天界からの贈り物であったり、神や精霊の作り出すものと噂されているが真偽は不明。
名前の由来は刺繍が共通して武器を背負う小鳥という模様から。決してウォーをブリングするという意味ではない。