豊饒の女主人に住んでいたのは間違っているだろうか?   作:コトコト

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豊饒の女主人での一件

その時の僕はいつも通り魔石をヴァイスに換金して帰ろうとしたその時。

 

「えーっと・・・ちょっと待ってね。」

 

そう換金担当の職員さんに呼び止められ・・・

 

「ねぇ、聞いてるかな?ベルくん」

 

現在に至る。

僕の担当のアドバイザーさんであるエイナさんにつかまってというか連れられてギルドの応接室みたいな場所に連れて行かれた。

エイナさんはとても美人だ、聞いた話だと数多くの冒険者さんたちもエイナさんの容姿に惹かれてプロポーズをする人もいるらしい。

そんな美人さんと2人っきり、脈がないとわかっていても心は高鳴るものだろう。

 

「にしても久しぶりだね、最近はダンジョンによくこもるらしいけどあまり会わなかったし」

 

相変わらず素敵な笑みのままのエイナさん。このまま世間話程度なら良かったんだけど

 

「ねぇ、聞いてる?ベ・ル・く・ん!!」

 

「はいっ!聞いてます聞いてます。なんでしょうかエイナさん」

 

「なんでしょうかじゃないでしょ!前に言ったでしょ、ファミリアに入って恩恵(ファルナ)が与えられるまでダンジョンに行くのは控えなさいって!」

 

やっぱりかぁ〜。

神様に髪留めプレゼントするのに張り切っちゃったからな、注意されるのはわかってたけどここまでとは。心配をかけちゃってなんか情けないなぁ〜。

 

「ちょっと!聞いてる?」

 

「はいもちろん!」

 

だから元気なところを見せて少しでも安心させないと。

エイナさんにはお世話になりっぱなしだし。

 

「と・も・か・く!!」

 

「はいっ!」

 

らしくなくエイナさんはそう声をあげ言った。

 

「私もできるだけ協力するから、ベルくん!なんとしてでもファミリアには入りなさい!」

 

やっぱりそうきたかぁ〜

 

「ぜ、善処します」

 

「善処じゃなくて必ず!わかった?」

 

エイナさんは正しい、神様たちの恩恵を受けてない冒険者がダンジョンに潜るなんて自殺行為だろう、それもこんな頼りない子供ならなおさらだ。だけど僕は正直言ってもうファミリアには入らなくてもいいと思っている。

 

今のままでもなんとかやれてるし稼ぎも安定している、ファミリアには入らなくてもダンジョンのことはいざとなったらシルさんやベジータさん、神様の友人のミアハ様やお世話になることも多かったガネーシャ様にも相談できる、もちろんエイナさんにも。

確かにファミリアに憧れはある。背中を預けて戦える仲間、家族、ダンジョンないで見かけると羨ましくなることもある。だけど・・・

 

『俺がお前の師匠になってやるって言ってんだ、お前を上に帰してやるよ』

『お前も気付いてるんだろ?もう限界は近い、()()()()()()()()()()()()

 

僕には既にその資格もなければ自信もない。

だからもういいんだ。

 

「良く!ないっ!!」

 

突然の声で思わず驚く、前を向けばエイナさんが息を切らしながら何か決心した様子でこちらを見ていた。

 

「あ、あの・・・エイナさん?」

 

「決めた!」

 

「何を!?」

 

「ベルくん、今日の夜予定ある?」

 

「えっ、あの、一応豊饒の女主人で仕事がありますけど・・・」

 

「なら私今日の夕飯そこで食べるから、その時ファミリアのことで話し合いましょ」

 

突然のことで僕が何か質問しようとしても。

 

「ともかく!今日は夕飯食べに行くから、わかった?」

 

「ハ、ハイッ!」

 

結局エイナさんの勢いに押されて承諾してしまった。

そろそろ腹を決める頃なのかもしれない、だけれど

 

 

・・・・・

 

 

「はぁー・・・どうしよ」

 

「どうしたんだいベルくん、ため息なんてついて」

 

夜に向けて裏口で休憩中の僕と神様、僕のため息に神様が心配してくれた。

 

「実はですねーーー」

 

とぼとぼとわけを打ち明ける。

 

「なるほどねー、確かにそれは死活問題だ」

 

腕を組み悩む神様、すると何かを思い出したかのように

 

「ベルくんはそこで待っていて、すぐ戻るから!」

 

そう言うと店の中へと戻っていき数分経たないうちにこちらに戻ってきた、もう1人の足音とともに。

 

「ボクだけじゃ力不足だと思ってね、心強い味方を連れてきたよ」

 

そう言い連れてきたのは確かにこの店で頼りになる人だ、ただ僕が少し避け気味になっている人でもある。

もちろん彼女に落ち目など一切なく、これは僕の問題なんだけど。

 

「リュ、リューさん。お疲れ様です」

 

「はい、お疲れ様ですベル」

 

変わらぬ表情のままリューさん。

 

「それで、確かファミリアについての話でしたね」

 

「はい、そうですけど。何か心がけることとかありますか?」

 

リューさんは特に考える様子もなく答えた。

 

「ベルは確かこの街に来た時、一度ファミリアをまわった。あってますか?」

 

「はい、まぁ応募しているファミリアには片っ端にお願いして全てに断られましたけど」

 

思い出すだけで落ち込む、断られることはわかってたけどどこか1つぐらいはと心のどこかに思ってたのも確かだ。その結果、有名なロキファミリアやフレイアファミリアを筆頭にことごとく断られた。

 

「ならば視点を変えて商業的な目的を持ったファミリアにはいるのも1つ手だと考えます。そろそろ怪物祭(モンスターフィリア)の季節ですし自分を売り込みに行くのも悪くない手だと思います」

 

ここでベジータさんたちの名前を挙げないのはリューさんなりの配慮だろう。

それにしても後の手段はそれぐらいしかないか。確かにデメテルファミリアにはベジータさんやブルマさんを含め知り合いも多いしガネーシャファミリアに至っては色々とお世話になっている。

それらの件も含めて一層の事ファミリアになって恩返しも悪くない気がしてきた。

 

「ベル、上客が来るにゃ、臨戦態勢にゃ!」

 

ドアを開けてそう知らせるアーニャが慌てた様子でドアを開けそう伝える。

 

「わかったすぐ向かうよ。神様、リューさん相談に乗ってくれてありがとうございます

 

相談してくれた2人にお礼を言い厨房へと戻る。それにしても神様だけでなくリューさんの助言を受けられたのはうれしい、リューさんはいつもかっこいいし頼りになる。できればもっと仲良くなりたいけど・・・

 

『ここだけの話よ、よく聞きなさい。私たちエルフ族ってのは・・・』

 

懐かしい声が脳裏をよぎるとすぐさまそれを否定する。

あれはただの冗談じゃないか、エイナさんもしっかりとした人だしあんな性格が強いのはきっと()()だけだ。きっとそうだ。

なんとか自分に言い聞かせ慌ただしくなった厨房へと向かった。

 

 

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「ありがとうございます。」

 

ベルが場を去り、ドアが閉まった瞬間にリューが言葉と同時に完璧なお辞儀をヘスティアに披露した。

あまりにも素早く突然だったためヘスティアも驚きを隠せない。

 

「な、なぁにたいしたことじゃないさ。リューくんには仕事を教えてもらったお礼もあるし、ボクとリューくんの中じゃないか!」

 

そう小さな同僚の言葉に微笑むリューだったが少し気になることがあった。

 

「ところで少し尋ねたいことが」

 

「ん?なんだい?」

 

「あなた自身は自分のファミリアを「リュー、ヘスティアぁ〜、ヘルプですぅ〜」

 

リューの質問はリューの言葉を遮るように発せられたシルの救援要請によって曖昧となる。

どうやら自分たちの出番らしいと話を切り上げ店内へと戻っていく。今夜の上客はオラリオ最強のファミリアの1つでもあるロキ・ファミリア、忙しい夜になりそうだ。

 

 

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ガヤガヤと騒がしい店内、穏やかな灯火が疲れた人々の心を照らし、暖かく美味な料理がもてなすここは豊穣の女主人。

 

中央の席ではオラリオ最強の一角であるロキ・ファミリアによる宴会が始まっておりそこ以外でも今日の疲れを癒す冒険者たちによって賑わっていた。

そんな店内で唯一、静かな様子でカウンター席に座る女がいた。ギルドの職員であるハーフエルフのエイナ・チュールだ。

エイナは現在、この店でとある人物を待っている。待っていると言ってもその人物が遅れているのではない、その人物は現在進行形で彼女と同じ店の中におり今も彼女の眼の前でいつもと違う姿を見せていた。

 

「3番、4番テーブルお願いします!」

 

そう指示を出しながら調理器具を駆使し同時にいくつもの料理をこの店の女主人と仕上げていく少年をエイナは見上げていた。

 

(あのベル君がねぇ)

 

ついさっき配膳されたばかりの料理を食べる。とても美味しい。

そして再び今の少年と今朝の少年を見比べる。別人と言われても悪くはない変わりぶりだ。

ぶっちゃけ冒険者よりも今の料理人としての彼の方が

 

(って言ったらさすがに怒られちゃうわね)

 

そう自らに言い聞かせるがいざという時にはそう言うのも仕方なしと考える。冒険者は厳しい現実と幾度となくぶつかる、少年を違う道へと導くのもアドバイザーとしての役割だとエイナは考えていた。

 

(それにしても・・・)

 

料理を口へと運んでいき再び思う。

 

(本当に美味しいわね、今度教えてもらおうかしら)

 

 

・・・・・

 

 

「お待たせしました、エイナさん」

 

エプロンを畳みながらベルはエイナの隣のカウンター席へと座る。

 

「もう仕事はいいの?」

 

「はい、ミアさんがあとは自分がやるからお前はこれからのことだからしっかり決めなって言ってくれて」

 

「そう、ならいいけど」

 

(仕事先も特に問題なし、まぁ評判はいい店だから心配はしてなかったけど)

 

「それにしてもベル君がここまで料理が上手だったなんて驚いちゃうな」

 

彼の料理を食べての感想を率直に述べる。

 

「いやいや、僕なんてまだまだですよ。今日もミアさんのお手伝いみたいなものですから」

 

決して誇らず謙遜の姿勢を見せるベルはいつものエイナがよく見る彼だった。

 

「さてとベル君、まずはじめに君みたいな新人でも募集しているファミリアをまとめてーーー」

 

そうギルドで持ち出せるだけの書類を見せようとした時、エイナはベルのすぐ後ろの椅子ぐらいの高さにしゃがみ込む謎の物体を発見した。

黒い髪にこの店のウェイトレスの服を来ている様子から無関係ではないはずだが。

 

「ベル君その子は?」

 

「ん?」

 

エイナに言われ、その人物に気づいたベル。

 

「神様、どうしたんですか?」

 

(ん?()()()()?)

 

謎の物体、ヘスティアはそう呼ばれると顔を上げあからさまに不機嫌な顔でエイナを見つめる。

当のエイナは自分を見つめる少女に違和感を覚える。

 

「ちょっと嫌な奴がいてね、ミアくんにお願いして今日はもう休みにしてもらったんだ。ところでベルくん、そこの彼女は一体誰なんだい?君とどういう関係なんだい?」

 

そうベルに問い詰めるヘスティアにエイナはいつも通りの自己紹介をする。

 

「私ギルドでベル・クラネル氏の担当者(アドバイザー)をしております。エイナ・チュールと申します」

 

「僕はヘスティア。ここで働くベルくんの同僚で同じ部屋で過ごす仲さ、どうぞよろしく」

 

あからさまな自分に対するその態度、しかしそれは彼女がギルドなどで目にする悪意のあるものではなくとても可愛らしくそして自分たちへの慈愛が自然と滲み出る言葉だった。エイナの違和感はさらに高まる。

そんな時だった、中央の席から男の声が響いたのは。

 

「なぁなぁアイズそろそろあの話、みんなに披露してやろうぜ!」

 

「あの話・・・」

 

男の声とともにその堂々たるメンバーに店内の人々の注目は自然と中央の席へと集まる。

 

「遠征の帰り、逃げたミノタウロスを5階層で始末した話」

 

その言葉に3人はそれぞれ反応を見せる。

ベルは自分のことがバレるかという少しの焦り、ヘスティアはあの時のベルを思い出しエイナはギルドの職員という職業柄だった。

 

「5階層のミノタウロス、当時ギルドでもお騒ぎだったんだから。ベル君、いざとなったら絶対に無茶はしないでね」

 

「はい、もうあの時はすごく動転してしまって・・・」

 

「アドバイザーくんのいう通りだぜ、ベルくんが怪我したらボクも悲しいんだから」

 

(ん?今何か・・・それとなんというか・・・)

 

ベルの言葉に新たな違和感を覚えるエイナ。そして少し、店内の空気が重くなったようなそんな気がした。

中央の席では男が再び話し出す。

 

「あの時のトマト野郎、明らかに駆け出しでヒョロくて弱っちいガキが逃げたミノタウロスに追い詰められてよぉ、ソイツアイズが斬ったクッセェ牛の血を浴びて真っ赤なトマトみてぇな姿になってよぉ」

 

男の言葉に同じファミリアの仲間もそれを聞いていた他の人も笑いをこぼす。

 

「それでよぉそのトマト野郎、叫びながら逃げてよぉ。ウチのお姫様、助けた相手に逃げられてやんの情けねぇったらないぜ。あぁいう奴がいるから俺たちの品位が下がるっていうかよ、勘弁してほしいぜまったく」

 

「あの状況では仕方がなかったと思います」

 

「いい加減にしろ、ベート。そもそも17階層でミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ、恥を知れ」

 

爆笑する男をそう注意するはエルフの女。しかし男は止まらない。

 

「あぁん?ゴミをゴミと言って何が悪い!アイズ、お前はどう思う!例えばだ、俺とトマト野郎ならどっちを選ぶんだ?おい!!」

 

「ベート、君酔ってるね」

 

既に男の前では仲間の制止も意味をなさない。

 

「聞いてんだよアイズ!あのトマト野郎が言いよってきたら受け入れるのか!?そんなわけないよな!自分より弱くて軟弱な奴に、お前の隣にいる資格はねぇ!他ならぬお前自身が、それを認めねぇ!!」

 

その発言はあたかもくだんのトマト野郎以外にも発しているような言い草だった。

 

「雑魚じゃ釣りあわねぇんだ。アイズ・ヴァレンシュタインにはなぁ!!」

 

「えっと・・・ベル君は気にしなくていいんだよ、何事も焦らずに慎重に、誰だって初めから強いわけじゃないんだから」

 

男の言葉が気になったのか、エイナは目の前のまだ駆け出しの少年を気遣う。

 

「そうだぜベルくん、逆に君は無傷で生還できたことを誇るべきだ。何事も命あっての冒険だからね」

 

「はい、僕も今回のことをしっかりと教訓にしていきたいと思います」

 

少年はすこし落ち込みながらも、前向きな気持ちを言葉にする。

 

「ん?今回のこと?」

 

「そうそう、服とかところどころが今まで以上に血だらけだったんだから。ほんと肝が冷えたよ」

 

「本当にすいません」

 

そのやり取りを聞きエイナの中で一つの仮説が完成する、仮説と言っても既に実説となりつつあるもの。

 

「ねぇベル君、もしかしてだけど今回のことってまさか・・・」

 

「えぇっと・・・はい、お恥ずかしながら先ほどのトマト野郎です」

 

少し照れくさそうな仕草をするベルにエイナはたまらず。

 

「えええぇぇーーー!!」

 

エイナの声が店内に響きシンっと静けさが店内を包む。エイナは店内の客に軽く謝罪をするとベルにコソコソと話し出す。

 

「なんで言ってくれなかったの!」

 

「いやぁ・・・忘れてました。すいません」

 

あははと聞き流す少年。

 

「はぁ・・・まずベル君がこうして無事でいることがまず奇跡って言っていいけど・・・」

 

そうベルの安否に落ち着いた様子を見せ続けざまに注意をしようとするエイナだったがその言葉は意外な人物、神物によって遮られる。

 

「ん?おいそこの陰におるやつ」

 

そう言いながら近づいてくるのは先ほどまであらかた仕事を終えたミアと話していたロキ・ファミリアの主神であるロキ。

酒を片手に目を効かせながらベル達の元、正確にはベルの陰に隠れているヘスティアに近づいていく。

 

「チッ、嫌な奴に気づかれた」

 

ヘスティアがさらに不機嫌そうな顔でそう言った。

 

「やっぱりそうやったわ。すまんなドチビ、あまりにも小さすぎて気づかんかったわ」

 

軽く酔いながらしゃがむヘスティアを見下すようにそう言う。しかしヘスティアも黙っているわけにはいかない。

 

「・・・それはそれは、ごめんよロキ、だけどそれは君のためでもあるんだ」

 

そう言いながらヘスティアは勢いよく立ち上がる、突然だったためヘスティアの豊満な胸はそのままの勢いに乗り上へと押し上げられ。

 

「ぷげぇっ!」

 

ロキの顔へと直撃する。

 

『おぉー』

 

周囲からその様子を見て少なからず声が上がる。その様子を見て流れは自分にありと感じたのかヘスティアは続けてまくしたてる。

 

「ボクのこの!」

 

胸を突き出すような姿勢でロキへと詰め寄るヘスティア、その胸は彼女が動く度に当然揺れる。

 

「素敵な服を着た姿を見たら!」

 

揺れる

「君が自分のことをさぁ!」

 

揺れる

 

「自分の平原を不憫に思うんじゃないかとさぁ!」

 

揺れる

 

「わかってくれよロキ、君のためだったんだよ」

 

ロキの肩を叩きながら意地悪そうな顔で言う。

 

「なんやなんや、ちぃとぐらい大きいだけでお高く止まりよって!うちにはデカさではなく美しいアイズたんがおるねん!おいドチビ、おまんの方はどうや!うちにあんな大口叩いたんや随分大きいファミリアなんやろうなぁ!!」

 

その発言にヘスティアは何も言えず唸り。

 

「大勢の前でやめてください」

 

アイズは少し不機嫌になり

 

(話題を変えたなぁ)

 

エイナは神達の口喧嘩に呆れかえっていた。

 

(ってそうだ!)

 

「神ロキ、ぶしつけながら良いでしょうか?」

 

エイナが静かにロキへと尋ねる。既に周りはこちらに注目してないことも確かめ本題を切り出す。

 

「ん?誰や自分」

 

「私はギルドのエイナ・チュールと申します」

 

「ほーん、ウラノスとこの子がなんのようや」

 

「ロキ・ファミリアは現在、新人冒険者の募集などは行っているのでしょうか?」

 

その言葉と椅子に座るベルを見てロキはあらかた事情を察したのか中央の席に座る自分の子供達に声をかける。

 

「フィン、どう思う?」

 

フィンと呼ばれた小人族の少年は少し考え。

 

「僕としては今回の遠征で人手が必要なのは明白だ。鍛冶師にも協力を仰ぎたいところだね、あの体液は厄介だ。武器がなければどうにも。すぐに参加とは行かないけど・・・ガレス、君の意見は?」

 

「若いもんがくる分には構わん、良い刺激剤になるかもしれんしなぁ!見たところ鍛えがいのありそうな・・・「おいおいおい冗談だろ!」む?」

 

そう声を上げ立ち上がるのは先ほどの話をしていた狼人の男。立ち上がりベルに睨みを利かせながら近づいてくる。

 

「俺は反対だぜ、見るからに雑魚そうなガキを入れるなんてよぉ!」

 

(や、ヤバっ!)

 

何よりも危機感を感じたのはベルである。

ベルこそは先ほどのトマト野郎、すなわちあの場にいた彼なら当然()()()()にも気づいているはず。何よりも彼は見るからに武闘派な狼人だ、血まみれだったとはいえ自分は気づかれない保障などない。

 

「あぁん?テメェどっかで」

 

まだ相手が酔っている隙になんとかしなければとベルは事態を迅速にできるだけ穏便に完結させようと行動を開始する。

 

「エイナさん、大丈夫ですよ。僕のファミリアは僕自身が決めますから、ロキ・ファミリアの皆様にご迷惑はかけられませんし」

 

その言葉にエイナは納得せざるおえない。ほかならぬベル本人の意思だ、彼の意思を尊重するほかないだろう。これ以上いくのは流石に仕事の範疇を超える。

 

「そうだそうだ!雑魚はさっさとそうやって引き下がればいいんだよ。」

 

そう言い元の席へと戻っていこうとする男、しかしその主神だけは変わらずベルを用心深く見続けていた。

すでに酒は抜けており、その瞳は何人たりとも逃さない鋭いものだった。やがてロキは口を開く。

 

「なぁ自分、うちらに隠し事してるやろ?」

 

率直な質問。

だがその一言がいかに重いものか、周りの客は気づかず店の生協は変わらぬままだが既にロキ・ファミリアの面々の意識はベル達へと向けられていた。

 

『神に嘘はつけない』誰だって知っていることだ。下界へと降り力を制限されても神は以前変わりなく神のままでありそんな神を言葉で欺けることなど不可能なのだ。なのでこういった場合嘘でも発するか無理ありにでも話題をそらす、黙秘を貫くなどするのが策だが生憎ベルにとってそのようなものは無縁であった。

 

「はい、もちろんしています」

 

はっきりとした言葉で、一時も思考を迷わせることなく、真正面からロキへとそうベルは言った。しかしロキもこの程度のことに臆するわけなどない。

 

「うちに話してくれへんか?その隠し事」

 

「そこは隠し事なので、申し訳ないのですが・・・」

 

変わらず笑顔で答えるベルに対して次の言葉を発したのはロキではなく

 

「雑魚のくせして随分生意気な態度だな、おい!」

 

そう突っかかるのは先ほどの狼男、見れば片手に酒を持っており酔いも深くなっている様子だ。

 

「雑魚は俺らの言うこと素直に聞いてりゃいいんだよ!」

 

そう言いながら酒を置き、ベルに向けて手を挙げる狼男。

ただそれは単なる脅しのようなものであり、彼も口は悪いが冒険者である。その程度の加減もできるのだ。

しかしその予想とは別に行動を起こした人物がいた。

 

「なぁっ!?」

 

それはロキでもヘスティアでも様子を伺っていたエイナでもなければ遠目から見ていたロキ・ファミリアの面々でもなく、陰ながら警戒していた店のウェイトレス達でもない。その人物は渦中の人物、白髪の少年ベルだった。

 

ベルの目論見からしてみればただのミスだろう。そしてベルにとってそれは仕方のないことだった、飲食店で料理人として働くことにおいて衛生面には人一倍気を配っているからこその行動。単なる職業病と言っていい。

 

それこそただ狼男の動作によって、机に置かれた酒が落ちてしまい、それをすかさず拾って差し出すことは。

それが自分へ手を挙げた男の方へ向かって、驚くべき速さで、目の前で、動いたことは失敗としか言わざるおえない。

 

「き、気をつけてくださいね」

 

酒を机の上に置き、心の中で後悔しながらもそう述べるベル。しかしたまらなかったのは酒の持ち主である狼男である。

 

新人冒険者を前にしてあのロキ・ファミリアの団員、それも名の知れた実力者が酒の場といえど手を挙げた。当たらないとしても同様もしくは怯えるのは当然といっていい。それが目的だったからだ。しかしよりにもよってわざわざ手を挙げた相手の方へと体を動かし気にしない様子で自らへの気遣いを素早い動作で行った。

このあと起こすであろう狼男の行動など予想たり得るものだろう。

 

「おいテメェ!」

 

ベルに向けてそう声を荒げ今にも突っかかろうとする。

今度こそエルフのウェイトレスが行動を起こそうと足音ともに気配すら断ち現場へと駆けつける・・・が、それより先に狼男の体を縛ったのはひとりでに蠢き出したロープだった。

 

「これ以上は見てられん、少し頭を冷やせベート」

 

「うおっ!?おい話せ、話せオラァ!」

 

縛られながらも威勢よく吠えるその様子に再び笑いが沸き起こる。

そして狼男を縛ったと思われる同じくロキ・ファミリアのエルフの女性がやってくる。

 

「連れが無礼を働いた、すまない」

 

「いえいえ、滅相もございません。むしろこちらの事情に付き合わせてしまい申し訳御座いません」

 

いつも以上に丁寧な言葉遣いのエイナにエルフの女性はなんとも言えない表情のままロキにも戻るよう告げる。

 

「リヴェリアちぃと待ち、今うち柄にもなく考え事しとるから」

 

縛られた狼男を見て笑いながらそう告げるロキであったがエルフの女性は続けて忠告した。

 

「おしゃべりはそれくらいにしておけ、このままでは料理が冷めてしまうぞ。よもや作った料理人の目の前で料理を冷ますつもりではあるまいな」

そこまで言われ、ロキはちらりとミアの顔を伺い諦めたようにその場を去った。

ただ深々とお辞儀をするエイナには軽く手を振りあっかんべーをするヘスティアには同じくあっかんべーを返しベルに対しては

 

(めっちゃ見られてる〜)

 

変わらず鋭い目つきのままであった。

 

 

・・・・・

「お騒がせして申し訳ありません」

 

「いえいえ、元は僕自身の問題ですし。ファミリアの件については後日僕も気になるところ回ってみます」

 

エイナに向けてしっかりとベルは言った。

しかしエイナにとってその問題よりも大きな問題があった。

 

「それよりもベル君、ベル君の知り合いというか近くに神様っている?」

 

突然の質問、ベルは少し戸惑いながら思考を巡らせ考えられる神物の名を挙げる。

 

「まずはガネーシャ様ですよね、それとデメテル様、あと神様のご友神であるミアハ様とタケミカヅチ様ぐらいでしょうか?」

 

思ったよりいるなと思いを巡らせるベル。

エイナはあげられた神たちの中である神がいないことをしっかりと確認した。そして今度はベルのすぐ横に座っている少女の姿をした神様に向けて言った。

 

「では改めて神ヘスティア」

 

「ん?なんだい?」

 

突然自分に降られた話題を不思議に思うヘスティア。

 

「ヘスティア様は神様ですよね?」

 

「エイナさん突然どうしたんですか?神様は神様ですよ。当然じゃないですか」

 

「そうだよボクは神様だよ」

 

エイナの当然の質問にそう答える2人、エイナはその流れのまま本題を告げる。

 

「ベル君はすぐ近くにヘスティア様がいるのになんでヘスティア様のファミリアに入らないの?それともヘスティア様がファミリアを作らない理由でもあるのかな?」

 

もしかしたらヘスティアやベルの事情で・・・そんな考えを隅に置きながら切り出された言葉に2人は初めは意味のわからぬようだったが次第に理解をし始め。

 

「だあぁぁぁーーー!!」「わあぁぁぁーーー!!」

 

共に絶叫、それこそ今晩一の大絶叫であり店内を揺らす。幸い店内にいる客は既にロキ・ファミリアだけであり先ほど団員が騒ぎを起こしたからか口を出す様子はなかった。

1人、未だに様子を探る神がニタニタと笑みを浮かべてはいたがヘスティアは気づかない。

 

「ベル君!そうだよボク神様だったよ!」

 

「そうでした!神様は神様でした!」

 

「なんてこった、現状に甘んじすぎたせいで自分が神であることすら忘れかけたなんて・・・はっ!」

 

頭を抱えながらヘスティアはふと気づいたかのようにある神物へ視線を向ける。

そこには予想通り腹を抱え笑い転げる神がいた。

 

「傑作や傑作っ!アカン、笑い死ぬ、天界に帰る、召される!」

 

「ぐぬぬぬぬぅ〜」

 

「いやぁ今日は一段と酒がうまいうまい!ソーマ(神酒)よりも断然絶品や!いい土産話も聞けたしなぁ!」

 

わざとらしく声を上げる主神注意を促す団員がいるもロキは結局の所、終始笑顔のまま

 

「ファミリア決まんなかったらうちのところ来てや、歓迎するで〜」

 

「誰がお前のとこなんか行かせるか!べー!」

 

苦し紛れのヘスティアの行動を笑い飛ばし帰っていった。

 

「それでは改めまして神ヘスティアあなたはファミリアを作る気がありますか?よろしければそこにベル・クラネル氏を入れて欲しいんですが」

 

「もちろんだとも!でもベル君は・・・」

 

自分に自信が持てずしょぼくれながらもベルの様子を伺うヘスティア。しかしヘスティアの心配はよそに、ベルの心は既に決まっていた。

 

「もちろん僕は神様のファミリアに入りたいです」

 

「いいのかいベル君!?ボクなんかで、自分が神様であることすら忘れかけてたボクなんかで!」

 

「もちろんですよ!僕もまだまだ新米で全然強くなくて料理の腕ばかり上がっていく始末ですから!」

 

励ましあってるのか貶してるのかわからない口論が2人の間で繰り広げられる。

店内に客はおらず、従業員たちがやっとかと思いながらその顛末を見守る。

やがて2人は静かに見つめあい笑みを浮かべ。

 

「ベル君!」「神様!」

 

お互いに抱き合った。

エイナだけでなく他の店員たちも安堵を浮かべる。

 

「こうしちゃいられない!早速ファミリア入団の儀式をするとしよう、ベル君!」

 

「はい!神様!」

 

そう勢いのまま自室へと向かうヘスティアに同じく元気な声で返事を返す。

 

「ありがとうございますエイナさん!」

 

ここまで付き合ってくれたアドバイザーにお辞儀をするベル。

 

「いいよいいよ、当たり前のことなんだから。その代わり明日ギルドに顔出しなさいよ、色々と手続きがあるんだから」

 

「はい、それではまた明日」

 

「うん、また明日」

 

そう外までついてきたベルに告げて自宅へと帰るエイナ、その心に思うことは一つ。

 

(普通神様って時点で気づくよね?)

 

「でも、まあいいか」

 

今日はとにかくすぐ寝よう、色々情報量があってドット疲れた。

そして明日に備えよう。

エイナはそう思い帰路へと着いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ドキドキと胸が高鳴る、階段を上がる度に胸の奥から熱い思いが沸きあがる。

部屋へと入り大好きな彼と対峙する。

 

既に諦めきっていたことだった。踏ん切りも付いていて、今の生活にも満足していた。だからこそ忘れてたんだけど。

ロキやヘファイストスへの反発というか意地でむちゃくちゃなことも言った。そんな自分が今、何よりもこの瞬間に心をときめかせ待ち望んでいる。

 

「本当にいいのかい?ベル君、本当にボクの家族(ファミリア)になってくれるのかい?」

 

何度も夢じゃないかと思った。

本当はあの路地裏で今も寂しく倒れて、夢を見ているだけなのではと。だが目の前の少年が、それを現実だと教えてくれる。

 

彼を目の前にして高鳴る想いが!この歓喜が!

 

「なにいってるんですか神様、さっきも言った通り僕の方からもお願いします!それに僕達はもう家族みたいなものじゃないですか!」

 

「〜〜〜!!!」

 

このままではマズイ、褒め殺される。

いつもならこのまま彼に褒められ続けるのも悪くない、しかしそうしてなぁなぁにした結果が今までチャンスを逃してた原因だ。下手したら目の前で彼をロキに奪われてたかもしれない。

 

今回ばかりはキッチリと決めなければ!!

 

そう直感したヘスティアはなんとか自分を奮い立たせファミリア入団、もとい創設の儀式へとはいる。

 

上着を脱いだベルの背後で神の恩恵(ファルナ)を刻む。

現れたステイタスは初めての入団者にしては高い方だろう。だがヘスティアはベルが最初の眷属であるため比較対象もいなくそこには気づかなかった。

 

ファミリアに入団する者も千差万別である。オラリオを訪れてすぐに入団しステイタスを刻むもの、他でそれなりの冒険をしてから刻むもの、何らかの事情で他のファミリアからの改宗をして入団する者。

だがそれらに共通するのは経験値(エクセリア)によって良くも悪くも反映される。それは不可視でありながらそのものが経験したことを表すもの、その者の歴史と言っていい。

 

だからこそヘスティアは気づかなかった。

ベルが入団以前にも迷宮に潜っているのに、それにしてはステイタスの上がり方が控えめな事に。

何よりそれはその下に記されたスキルに深く起因していた。

 

ソレが神聖文字(ヒエログリフ)で刻まれるにつれて彼女の背筋に悪寒が走る、まるで刃が突き立てられているような気配が

しかし彼女は

 

「ぐへへ、ぐへへへへぇ〜ベル君が、ボクの眷属にぃ〜」

 

静かに迫り来るソレにすら気づかないほど目の前の少年に夢中となっていた。

そして瞬く間に刻まれた神聖文字がそのスキルを浮き彫りにする。

 

《スキル》

人間賛歌(ギルガメッシュ)

・ウェポンルーキー、あらゆる道具、武具に対して一定の補正がかかる。

・神に対して耐性、特攻を持つ。

・やがて彼らは時代を終わらせる。

 

見るからに一筋縄では行かない、理解不能で妙なスキル。だがこれも

 

(流石ベル君!以前からダンジョンに行ってたことは知ってるけどもうスキルまで持ってるなんて!)

 

今のヘスティアにとっては文字通り彼のステイタス(魅力)としか映らない。

そして更に神聖文字は刻み続ける。

 

深層踏覇王(ラストダイバー)

・深層から離れるほど一部の経験値のみステイタスに反映される。

・迷宮に拒絶される。

 

(これは・・・あまり良くないな)

 

先程とはうってかわりこのスキルに対して懸念の気持ちを覚える。

それはいわゆるデメリットスキル(ハズレスキル)と呼ばれるもの、神の間では笑い話の種になるが、彼を想うヘスティアにとっては自分の事のように悩みの種であった。

 

そして最後、予想だにせぬ、不意打ちにして奇襲とも呼べる。神である自らにすら刃を向けるソレが神聖文字で記される。

 

殺害権限(メメントモリ)

・殺意を持つ際のに比例してアビリティが大幅に上昇。

・全ての存在に対しての殺害が可能。神も例外ではない。

 

見たことも聞いたこともない、優しい彼に存在してはならないものがそこにあった。

こうして下界におりているものの、根本的に命ある者たちとは文字通り次元の違う自分たちへも向けられたスキル。神殺しを実現させうるその事実に対してヘスティアは

 

(ベル君・・・君はーーー)

 

最っ高だよ〜♥

 

そう喜びを噛み締めるかのように、恍惚した表情を浮かべて見せた。

自らへの殺害手段、永遠であるはずの神の終わりの可能性。

冷たく、静かで、何も無い死への道筋が記されたとしても。

 

「大好きだよ、ベル君」

 

今のヘスティアの情熱の前では死という概念すら脅威と映らない。

彼なら許せる、彼だからこそ許せる。

恋は盲目もはや盲信と言うべきか、愛は神をも変えると称すべきか、今の彼女はある意味ハイになっている。

興奮もとい暴走と言っても良いだろう。

 

(まぁそれはそれとしてスキルはやっぱり誤魔化しとこ、あまり見せていいものじゃないし、何より愉快犯(他の神共)に見られたらどうなるか……。時が来ればしっかり話そう)

 

それでいて冷静に思考する。

最も彼への献身が最優先に置かれた思考であり、今のヘスティアの脳内は正しく愛しい彼一色であった。

手早く誤魔化しを済ませると記念すべき最初のステイタスを書き写し、神聖文字(ヒエログリフ)から彼にも読める共通語(コイネー)に書き換える。

 

そうしてようやく気づく、先程から返事がない少年が既に眠りについてることに。

眠りを妨げないように、静かに彼の首に口付けをする。

 

「愛してるぜ、ベル君」

 

ここから、彼と彼女の眷属の物語(ファミリア・ミィス)が始まった。

 

 











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