織斑一夏[感性 A+]   作:卯月ゆう

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その16

 あれから、デュノアにはお薬を飲んでいただき、その後の検査でもなんの予兆もなく、健康そのものとのお墨付きをもらったようだ。当の本人がどことなく不服そうなのは気のせいであってほしい。

 また箒たちに隠し事ができた訳だが、おかげで俺の胃は毎日キリキリと痛んでストレスの訪れを告げている。だが、これも自業自得。その痛み、受け入れよう。あ、胃薬切れてる。

 

「デュノア、ちょっと購買に――」

「シャルロット」

「……シャルロット、購買に行ってくるけど何か買ってくるものあるか?」

 

 そして、デュノアは事あることに(二人きりのときは)名前で呼ぶように迫るようになった。今みたいに。

 今回ばかりはなんのフラグも立ててないはずなんだが…… 逆に風呂を覗き、望まないセックスをし、嫌われる要素しかなくね? どうしてこうなった!

 

 

「そうだなぁ、特にないや。ありがと、一夏」

「おう……」

 

 そして、なんだこのもやもやっとした感情は! まるで好きな子に優しくされたような、甘酸っぱい感覚!

 部屋を出てから廊下で頭を打ち付けていると、後ろを通り過ぎる生徒たちの視線とヒソヒソ話を一身に浴びてから購買へ。コーラと胃薬、それからお菓子を少し買って部屋に戻ると……

 

 

「いいところに来たな」

「千冬姉」

 

 俺の手から下がる袋に視線を向けて、少し複雑な表情をした千冬姉がいた。

 テーブルには何やら書類が束になってるし、デュノアが神妙な顔をしてるからきっと亡命の云々だろう。

 

 

「進めていたデュノアの亡命手続きが最終段階に入った。身元引受人の選定だ。そこで一つ提案がある。私にその役目を務めさせてほしい」

「えっ……! それって」

「まぁ、里親的なものか。あくまで日本におけるお前の身元を保証する人間だが。デュノア、お前の気持ち次第だ。一夏にも話を聞かせておくべきだと思ったんだが」

 

 それは…… 俺が口を出す立場ではないからあくまで話を聞かせておくべき、と言ったのだろう。もしも千冬姉がデュノアの身元引受人になるのなら、それ相応のリターンがあると考えるのは行きすぎだろうか?

 

 

「今すぐに決めろとは言わない。他に宛があるのならそっちを頼ってくれても構わ――」

「お願いします、織斑先生」

「そうか。書類が山ほどある。長い夜になるぞ」

 

 俺は黙って買ってきた胃薬を流し込んだ。

 

 

「なら夕飯持ってくるよ。千冬姉のも」

「お願い、一夏のチョイスでいいよ」

「丼ものにしておけ。持ってくるのが楽だ」

 

 食堂で食券を買って並んでいると脇腹を突かれた。

 隣にはちっこいツインテ。

 

 

「なに死んだ魚の眼してんのよ」

「いろいろあってな……」

「その割によく食べるのね。丼ものばっかり」

 

 唐突なフリにも対処できるボキャブラリーはここ数ヶ月で一気に蓄えられた。

 例えば、デュノアがおらず、部屋に千冬姉がいるということを踏まえたこの瞬間の正解はこう。

 

 

「千冬姉がデュノアに書類の束を持ってきたんだよ。長引きそうだから夕飯の差し入れさ」

 

 嘘は言ってない。限りなく真実だし。

 

 

「そうなの? 男ってだけで用が増えるなんて大変ね。またお昼ご飯一緒に食べましょ。スタミナ料理作ってってあげる」

「楽しみにしてるよ」

 

 ほれ、うまく切り抜けられた。

 しかし、死んだ魚の眼なんてしてるかね? たしかに気苦労は耐えないが……

 ベッドの下にストックしてあるモンエナがそろそろ切れそうだから注文しないと。

 

 

「デュノア、夕飯持ってきた。開けてくれー」

「はいはーい」

 

 その翌日、いつものごとく休み時間にトイレまでダッシュした帰り、廊下で話し声を耳にした。

 気になって影からひっそり耳を傾けると、あのクソジャーマンが千冬姉……じゃなくて織斑先生に迫っているようだ。

 

 

「――度ドイツでご指導頂けませんか?」

「何度も言わせるな。私は、私の役目を果たすためにここに居るんだ」

「しかし!」

「くどいぞ」

 

 ははーん、読めたぞ。ドイツで織斑先生のお世話になったクソジャーマン。本国の命令か自分の意志かしらんけど、学園に来てみればびっくり。軍とは比べ物にならないくらいユルユルだ。そんな環境じゃ織斑教官サマは勿体無いとおっしゃるわけね。

 

 

「……弟の、織斑一夏のせいですか」

「どうしてそうなる。一夏は関係ないだろう」

「アイツが居るから教官はこの国に縛り付けられる、アイツのためにこんな場所に縛り付けられる。アイツが――」

「いい加減にしろ」

 

 声量的には大したことのない一言。

 けれど、背筋がゾワッとするような凄味が込められ、思わず力の入っていた手が緩む。

 

 

「私は私の生きる道を選んでいるまでだ。その内に一夏を一人前にすることが含まれるまで。それは私の責任だ。お前が口を出すことではない」

「……っ!」

「授業が始まるぞ。戻れ」

 

 クルリと踵を返して早足でかけていくクソジャーマンを見送ると、視線をこっちに向ける織斑先生。バレてたか。

 

 

「嫌な物を見せたな。だが、言ったとおりだ。私はお前の姉として、肉親としてお前を責任持って一人前にしてやる。それに負い目を感じる必要はない」

「ごめん」

 

 なんに対しての謝罪か、自分でもわからないまま教室に向けて走り出していた。

 

 

「気にするなと言ってるそばから。織斑、廊下は走るな!」

 

 放課後、今日も今日とて鈴とセシリアが自主練と言う名の模擬戦に精を出していた。

 一夏を自由にする権利を手にすべく、今はライバル同士で手を組んだ格好だ。その成果は早々に現れ、鈴は龍砲(衝撃砲)の命中率が15%上がり、セシリアは近距離での格闘戦で一夏に負けることがだいぶ減った。

 つまるところ、一夏は超とんでもなくハイパー不利なのだ。

 

 

「セシリアに教えてもらってから飛び道具の扱いがだいぶ上手くなったわ」

「わたくしも、鈴さんのおかげでインターセプターの呼び出しも、格闘戦の勝率も右肩上がりですわ。箒さんに剣道の稽古をつけて頂いてることもあるのでしょうけど」

「ほんと、最近のセシリアは戦いにくくて仕方ないわ」

 

 斬り合えば背中からビットに撃たれ、離れれば逃げ場を塞がれライフルで撃たれ。以前より隙がなくなっていた。

 もちろん、鈴も黙ってみていたわけではない。龍砲は拡散力をコントロールすることで射程や効果範囲を調整できる。その特性を活かしてピンポイント狙撃…… とは行かないまでも腕に当てて銃の狙いを逸らしたり、姿勢を乱させたりと打撃力以外の部分で新しい活用法を見出していた。

 

 

「今日はアタシの近距離特訓、行くわよ」

「ええ、お願いしますわ――っ!? 敵襲!」

 

 直後、二人の間に着弾した砲弾。

 反射的にバックステップを踏んで散開した2人が見たのは一夏の言うクソジャーマン。ラウラ・ボーデヴィッヒの駆るシュヴァルツェア・レーゲンだった。




先話が思ったよりも好意的に受け止められて驚きを隠せない

原作沿いとタグ付けちゃったからここからハーレムに持ってかねば
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