6月も最終週。これから1週間かけてタッグトーナメントを行うわけだが、まだ1回戦すら始まってないのにこの熱気である。
だだっ広い更衣室をふたり占めしつつ、天井から下がるモニターを眺めていると、早くも観客でいっぱいのスタンドを舐めるようにカメラが映し出していた。
「緊張してる?」
「そりゃな。けど、今回の目的はとりあえず腕試しだ。変に気張らずに頑張るよ」
「そうだね」
結局タッグはデュノアと組むことにした。一番健全というか、お互いにやりやすいというか。
もちろん、一応箒に声もかけたが、なんと、断られたのだから驚きだ。
「よし、準備完了。デュノアはどうだ」
「シャルロットって呼んでって言ってるよね?」
むぅ、と頬を膨らますデュノア。呼んだら負けな気がするから俺はずっと意地でファミリーネームで呼び続けている。
何度見ても不思議なデュノアのコルセットだが、肩幅と腰回りだけはどうしようもないらしい。この骨盤の形は女性のソレなのに、どうして周りは気づかんの?
「ほら、組合せが出るよ」
ちょっと不機嫌モードのデュノアに言われるままにモニターを見れば、1回戦の対戦相手が出てこようというところ。
「ゲェっ……」
「これは……」
まさか初回からクソジャーマンと当たるとは。それも、ペアが箒とは聞いてねぇぞ。
「ペアが決まってるとは聞いたが、まさかソイツと組むとはね」
「織斑先生に言われてな。組んでみると悪いやつではないぞ。実力は確かなものだ」
悠長に話してるのは俺と箒のみ。デュノアもクソジャーマンもゴミを見る目で互いを見下している。ヒェッ
箒がニヤリと口元を歪めると、視界の片隅でカウントダウンが始まった。
「ぶっ飛ばしてやる」
「叩きのめす」
おや、クソジャーマンは俺を視界に捉えて手を伸ばす。アレが来る。
即座に空中で体をひねって前転の要領で一回転。これにはクソジャーマンもびっくりらしい。そりゃ、見えない糸を避けられれば驚きもするわな。けど、残念ながら仕掛けはわかってるんだぜ。お前が2つ以上の対象を同時に止められないこともな!
その間、デュノアは箒を相手に飛び道具で一方的に嫐る仕事を始めている。まてまて、箒さん、いつの間にハンドガンを扱えるようになっていらっしゃいますの?
「お前の得物はそのブレードのみ。リーチと手数なら私が上だ」
「だろうね。けど、お前のトリックは破った」
「フン、どうだか」
クソジャーマンが言うが早いか、6本のワイヤーブレードがすっ飛んでくる。前によければ肩のレールガンの餌食。後ろに避けてもレールガンの餌食。こりゃマズい。
だが、俺は正面から行かせてもらおう。それしか能がない。
「バカめっ!?」
「ははっ、これで一撃!」
凸る、レールガン撃たれる、雪片振る、弾丸真っ二つ。
いやぁ、人間やってみるものですね。
目を見開くなんて致命的な隙を見せたクソジャーマンにまずは零落白夜で一閃。そして背中に突き刺さるワイヤーブレードで俺のシールドエネルギーも半分以上なくなるも、クソジャーマンの機体に抱きついてそのまま押し倒す。
そして肉弾戦開始。もう、ワイヤーやら、ブレードやらがガシガシとお互いを削り合っている。
手を伸ばせば届く距離だから飛ぶに飛べないし、近すぎるからレールガンは使えない。
「このっ! 粘るな!」
「てめぇこそ、さっさと落ちちまえ!」
ここまで来ると子供の喧嘩も同然。もはや剣とかそんなんバシバシあたって火花散らせば、デュノアは箒を片付けてくれているはず。そんな期待もわずかに抱きつつ、劣勢なこの状況を引き伸ばす策を考えねば。
「なんだ、さっきの威勢はどうした」
「腕が、多すぎっ!」
「あるものを活かすのは当然だろう? お前こそ、ワンオフアビリティを使わないのか?」
ぐぬぬ。このままじゃジリ貧。はやく助けに来てくれ、デュノア!
「一夏、下がって!」
「女神かよ!」
ドヒャァとブースターを吹かしてバックステップ。するとクソジャーマンを鉛玉の雨が襲った。
バリバリと響く銃声に、クソジャーマンもタジタジ。あのAICとかいう相手の動きを止める第3世代兵器も面では捉えられない欠点がある。
「クソっ、篠ノ之!」
「箒はお休み中だよ! さぁ、僕らが相手だ」
しかし、距離を取って有利に立つのはクソジャーマン。ワイヤーブレードを飛ばして捕まえるのは、俺かよっ!?
あっさり捕まりそのまま壁へ叩きつけられると、思わず頭がくらくらする。そこに迷わず叩き込まれるレールガン。頭が引きちぎれるんじゃないかという痛みに襲われ、視界も歪む。
「一夏っ!」
「よそ見をしている場合か?」
「ぐぅ!」
やばい、すりガラス越しに見ているみたいなフィルターのかかった世界。
どこかぼやけて聴こえる銃声と、金属同士がぶつかる音。
「お前、ここで終わるのか?」
周りの音がフェードアウトした頭にそんな声が響く。
終わらせたくねぇよ。負けっぱなしで終われるかっての。
「なら、力がほしいだろ?」
あたりめぇだ。あって損しない。まぁ、使い方間違えたら怒られそうだがな。
「お前を待ってる者がいる。行かないのか?」
行きたいさ。行かなきゃならねぇ。
「力を持って力を制すか、無力のまま地に伏すか」
力を持って力を制す、そっちに決まってる。このままくたばってたまるかっての。
「なら、これを持っていくしかないだろう。姉の姿を、追いなさい」
音が、視界が、戻ってくる。
クリアな視界、シャープな音が。
面白い。やってやる。
ここから巻き返しだ。
「一夏! どうしたの、ソレ……」
「貴様……! どうして貴様がその姿をしている!」
なんでだよ、俺は俺のままだろ。
視界に捉えた黒と橙。俺は本能に従い、というとおかしいな。普通に一歩踏み出すように"一瞬で距離を詰め"青白く光るその剣を振るった。
「一夏、そんな音もなく……」
「その技は、その瞬時加速は教官のものだ! 貴様がぁぁぁ!!!」
「黙れ。死ね」
自分の声とは思えないほど冷酷な声が出た。
なんとなく千冬姉っぽいな。
吠えながら突っ込んでくる黒を一振りで地に叩き伏せる。いい気味だ。
「一夏、おかしいよ。まるで織斑先生みたい」
「何がおかしいことがある。眼の前の敵を討つ。それだけだ」
さて、トドメだ。
そう思い、剣先をクソジャーマンに向け、瞬時加速を……
「んぐっ! なんだ…… うがぁぁぁぁぁ!!」
「一夏、一夏大丈夫!?」
頭が焼ききれそうだ!
目玉が熱い! 身体中の血液が一気に沸騰したんじゃないかと思えるほどの熱量。焼ける!
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!