織斑一夏[感性 A+]   作:卯月ゆう

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予想通り「お前が暴走するんかい!」のツッコミありがとうございます。


その19

 Damage Level... C

 Mind Condition... Downburst

 Certification... Clear

 

<<Valkyrie Trace System>> Boot

 

 

 突如として白式を包み込む紫電。

 少年の叫び声が響き、それに呼応するかのように少女も声を上げている。

 少年の声が止んだときには、白式と呼ばれていた純白の機体はそこになく、ただドス黒い、粘土細工のようないびつな黒に成り代わっていた。

 

 

「どうなってるの……」

「貴様…… どこまで教官を愚弄すれば気が済むのだ!」

 

 シャルロットはひたすらに一夏の名前を呼び続け、沈黙を貫いていた、いや、突然の光景を理解することに努めていたラウラも再び吠えた。

 ドス黒い粘土細工は確実に、現役時代の織斑千冬を模していたのだから。

 そして顔を上げる黒。目があってしまったラウラは背筋に氷を当てられたような、嫌な感覚を覚えたのもつかの間。反射的に肩のレールガンを発砲すると目の前で砂煙が上がり、何かにあたった感触を覚えた。そのまま後退して距離をとるも、砂煙の中から飛び出してくる白色だったなにか。その刃が振るわれ、ワイヤーブレードを束ねて受け止めるも、衝撃は受け止めきれずにアリーナのシールドまで追い込まれてしまった。

 

 

「こっちだよ!」

 

 トドメを刺しにかかった千冬モドキに向かってアサルトライフルを乱射するシャルロット。目的はあくまでも牽制。一撃の火力に優れたラウラの機体ならば彼の機体を叩き落とせる可能性が高い。

 

 

「僕が囮になるから、頼んだよ!」

「言われずとも!」

 

 ラウラは集中する。二度とないかもしれない一瞬のために。左目を覆う眼帯を外し、金色に輝く瞳で尊敬してやまない師を真似るものを追う。

 そしてシャルロットとラウラ、黒く染まった白式が一列に並んだ瞬間、停止結界が発動。黒いのは動きを止める。

 

 

ありったけぶっ放せ(Alles feuer)!!!」

 

 大口径レールガン、アサルトライフル、ワイヤーブレード、彼女が手に持つ火力すべてを1機のISに向ける。そこに慈悲など無く、踏みにじられたプライドと、甘酸っぱい恋心と、その相反する感情を混ぜこぜににした乙女の咆哮だった。

 

 

「一夏、戻ってきて!」

 

 そしてトドメの一撃。重戦車すら貫く69口径パイルバンカー。"灰色の鱗殻(グレースケール)"、通称シールドピアース(Shield Pierce)

 その重い砲撃が5発立て続けに腹に決まると、粘土細工がどろりと溶け、吐き出されるように一夏の体が滑り落ちる。

 すかさずシャルロットがその体を受け止めると、ラウラへ振り返って一回頷いた。

 

 

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 夢を見ていた。

 3年前、千冬姉が決勝で戦うはずだった相手、炎のように赤い髪のイタリアの代表。彼女と戦う夢だ。もちろん、俺ではなく、千冬姉が。

 だが、その千冬姉の目線で進んでいく。眼の前で爆発が起きれば砂煙の中から飛び出して一撃を浴びせ、アサルトライフルで牽制されれば、付かず離れず、被弾しないように追い、隙を狙う。

 けれど、唐突に体が止まるんだ。理由はわからないけど。もちろん、待っているのは銃弾の雨あられ。トドメに至近距離から殴られて、そのまま倒れ……

 

 

「がぁッ!?」

「一夏!?」

 

 跳ね起きると体中に激痛が走る。

 声にならない悲鳴を上げながらぶっ倒れるが、地面に叩きつけられた感覚は無い。どうやら、ちゃんとベッドで寝ているようだ。

 涙でぼやける視界を誰かが覆った。蛍光灯の光が金色に透ける。

 

 

「一夏、一夏…… よかった、生きてる……」

「デュノア……」

「うん、僕だよ。どうなるかと思ったんだから」

 

 頬に水気が降ってくる。おいおい、泣くなよ。

 

 

「体がクッソ痛いっ!?」

 

 そして俺が感想を述べる間もなく迫る顔。

 唇に伝わる温かくて柔らかい感触。

 あぁ、俺は死ぬんかな。

 

 

「スキンシップは結構だが、時と場所を選んだらどうだ」

「……!」

 

 やべぇ、死ぬ。

 

 

「お、お、織斑先生っ!」

「肉食系女子というのだったか。あまりがっつきすぎると食べるものがなくなるぞ。それで、具合はどうだ、一夏」

「体中が痛い」

 

 慌てふためくデュノアを自然に退かすと、千冬姉の優しい声色が耳に届く。

 デュノアはぐるぐる目で「あのっ、そのっ」とか詰まりながら言い訳を垂れ流す機械になっているが、千冬姉はもうどうでもいいらしい。ベッドサイドのテーブルに置かれた書類に目を通すと、少し苦い顔をした。

 

 

「体に無理な負荷を掛けたのと、腹部に打撃を受けたせいで打撲傷がある。しばらく安静にしておけばいい」

「俺の体はわかった、何があったんだ?」

「デュノア、戻ってこい」

 

 出席簿アタック(弱)で現実に引き戻されたデュノアが説明役になるようだ。

 千冬姉は出席簿に挟んである書類に目を向けた。

 

 

「一夏の機体は不正なプログラムに乗っ取られちゃったんだ。それで僕やボーデヴィッヒさんを無差別に襲った。結果的には返り討ちだったんだけどね」

「そうか…… 悪かったな、迷惑をかけて」

「そのプログラムと言うのは通称VTシステム。アラスカ条約によって使用はもちろん、研究開発も禁止されているプログラムだ」

 

 説明を引き継いだ千冬姉曰く、VTシステム、正式にはヴァルキリートレースシステムといい、文字通りヴァルキリーの動きを真似るプログラムだ。

 そのヴァルキリーというのはモンドグロッソの部門優勝者のこと。そして、俺が今回トレースしちまったのが、総合優勝の織斑千冬だった。そう考えると2人がかりで織斑千冬に勝ったデュノアとボーデヴィッヒはとんでもない実力者なんじゃないか?

 

 

「簡単に言えばお前は私の劣化コピーになっていたんだ。そのシステムは機体の状態はもちろん、操縦者の精神状態もトリガーになって起動するようになっていた」

「って言われてもよくわかんねぇけどな。確認だけど、俺は誰も傷つけてないんだよな?」

「ああ、デュノアは見ての通り、元気が有り余っているようだし、ボーデヴィッヒも機体に多少ダメージは有るが人間は無傷だ」

「はわわわわ……」

 

 夕方まで休んで、明日には事情聴取だ、とありがたい予定を受け取り、千冬姉はデュノアを引きずって去っていった。

 いろいろありすぎた。クソジャーマン…… じゃないな、ボーデヴィッヒと初っ端から当たり、箒はデュノアに任せ切りだったが、デュノアもそれなりに時間がかかっていたから善戦したんだろう。それから、ボーデヴィッヒにボコされ、暴走し、目が覚めたらデュノアにキスされ……

 なぁ、あの時俺はデュノアとキスしたか……? してない、気がする。

 ってことは、え、俺の初めて奪われたん……?

 

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