「長い時間お疲れ様でした。最後にいい知らせなんですけど」
タッグマッチトーナメントでの暴走から一晩。アリーナでは1回戦を消化すべく試合が行われているが、俺始め、昨日の暴走に関わった4人は山田先生と織斑先生から代わる代わる尋問を受けていたところだ。
山田先生と狭い部屋で2人きり、そんなシチュエーションではあったが、前もって用意されていたであろう質問にひたすら答えるだけの時間が数時間。山田先生がいつも通りのやさしさを持ってくれたので尋問という言葉から想像されるような厳しいものではなかったから良かったが。
「いい知らせですか?」
「はい! ついに!」
「ついに!?」
「男子の大浴場解禁です!」
「おお!!」
日本人の心、風呂。それも大浴場! 旅館とかのでかい風呂はやっぱロマンだろ。それも独り占め。いやー、これはテンション上がらざるを得ない!
「デュノア君には後で伝えておきますけど、織斑君からも言って上げてくださいね。私は、鍵を取ってくるので大浴場の前で待ってますね」
「はい! ありがとうございます!」
山田先生から大浴場使用スケジュール(女子とは日程をズラしてある)を貰い、本日点検作業が早く終わったので臨時開店だと言う情報でさらにテンションを上げ、早速風呂に入ることを心に決めたところで我に返った。
あれ、デュノア女じゃね、と。
「なるほどね。僕は脱衣場で待ってるから、一夏はゆっくりしてきなよ」
「けどなぁ、それはそれで申し訳ないし」
「いいよいいよ、とりあえずお風呂行こうか。遅いと変に思われそうだし」
うーん、とりあえず運を天に任せて…… いやいや、まずいだろ。
「来ましたねー、大きいお風呂を2人占めですよ! それでは、上がったら声をかけてくださいね」
「は、はい……」
ごゆっくり〜 と言って戸は閉められた。さてどうする。
「よし、時間を決めて入ろう」
「そうだね、それがベターかな。一夏、最初に入ってきなよ」
「いや、俺長風呂だから、デュノア先行きなって」
それからまた「どうぞどうぞ」と譲り合った結果。
「あぁ〜 沁みるぅ……」
大浴場を独り占めしている。
部屋の風呂も小さくは無いが、体ごと伸ばして入れるのは最高だ。
お湯に体を任せて、重力が半減したような感覚は風呂ならではだと思う。プールだと体が溶けたような感覚は薄れるだろ?
「んああああ〜 ん? 戸が開いたか?」
「お、お邪魔しま〜す……」
「……何考えていらっしゃるんですかね」
「ああ、えっと…… お背中お流しします……?」
さて、非常にドギマギしたままデュノアに背中を流され、また風呂に戻るとデュノアも入ってくる。いやいや、まずいまずい。
俺の隣には一糸まとわぬデュノアさん。鎮まれ、鎮まれ雪片!
「い、一夏。大丈夫だった?」
「な、なにがでせうか?」
「暴走したとき、お腹にパイルバンカー何発も入れちゃったから」
俺の腹には青あざがある。
デュノアのパイルバンカーのお陰と聞いたときには顔が青ざめたが、それでも僕は元気です。
そんな青い腹にデュノアの手が伸びる。触られると鈍い痛みが襲うが、まぁ、すっ転んで作った痣と変わらない。
けどね、もうダメですわ。
「デュノア、まずいって」
「えっ、あっ…… 一夏のえっち」
ふぅ……
なんだろう、この爛れた感じ。
いろんな意味で温まると山田先生に声をかけてからその日は終わった。
ああ、寝る前にデュノアに何故かありがと、って言われたな。お礼を言うのは俺だ、って返したけど、あれはなんだろうな。どこかお別れ感があったんだけど。
鈴や箒が引っ越す前みたいな。
その翌日。早朝ランニングから戻ると、普段はいるはずのデュノアの姿が見えず、用があるから先に行っていて構わない、といった趣旨の書き置きが置いてあった。
千冬姉のところかな、とアタリを付けて書き置きの通り、いつもと同じように着替えて教室へ。
ホームルームが始まってもデュノアの姿は見えず、少し疲れて見える山田先生がやってきて、衝撃的な言葉を発した。
「今日は皆さんに転入生、って言うとすこしちがいますね…… はぁ、入って来てください……」
さて、そこで入ってきたのは誰でしょう。
ヒント。その子は女です。その子は金髪です。その子は紫眼です。
「シャルロット・デュノアです。みなさん、改めてよろしくお願いします」
教室が揺れたのは言うまでもなく、同時に俺は激しい殺気に振り向くと目の前には銃口。いやいや、セシリアさん、まずいっす!
慌てて首を引っ込めると髪の毛を数本焼き飛び去るレーザー。威力は抑えられているだろうが、それでも生身の人間を焼き肉に変えるには十分だろう。
「一夏さん、お話がございますの」
「そ、ソウデスネ…… 後でゴユックリ……」
「逃げるんじゃないぞ」
「ヒッ……!」
そして頭を下げたと思ったら、股ぐらから生える日本刀。動けば削ぐ、と言わんばかりだ。
まさか、バレてる……?
「やれやれ、貴様らは落ち着きというものを知らんのか。年頃の男と女が同じ部屋にいればセックスくらいするだろう」
「「はぁぁあ!!??」」
問題は唐突に聞こえた内容ではなく、発言者の方だ。
「やれやれ」と言わんばかりに片手を腰に、もう片方を肩の高さでヒラヒラとするのはボーデヴィッヒだったのだ。
「教官から聞いたぞ。お前も大変後悔して、そして自己鍛錬を怠らなかったそうだな。そんなことも知らずに酷な物言いをしてしまった事を詑びよう。済まなかった」
「お、おう……」
眼の前まで来て頭を下げるボーデヴィッヒ。いや、確かに謝ってもらえた事は悪いことじゃない。だが、この不自然なほどの優しさはなんだ?
「そして、贖罪と言ってはなんだが、私のできる技術を伝えよう。いわば、なんだ。私はお前の教官であり、母になってやる」
「はぁ…… はぁっ!?」
「どういうことですの!?」
「ラウラ、それはどういう意味だ!」
「言葉通りだが? 私は教官と同じように一夏を導くのだ」
ちょっと待てよ、どういうことです?
俺の疑問はチャイムでかき消され、それぞれも憮然とした顔で席に戻ると授業が始まった。
問題はその昼である。
「まずどこから話すべきか」
「ねぇ、そもそもアタシはシャルルが女だって事実を受け止めきれないんだけど?」
「それで一夏さんとシャルル…… シャルロットさんはそ、その…… セックスしましたの?」
昼休み。以前と同じようにテーブルを囲む我々、プラスボーデヴィッヒ。
だが、和気藹々とは程遠い空気が包みこんでいるのは言うまでもない。
「したよ。けど、それはセシリアとは関係のないことだよね」
「デュノアさん!?」
「一夏、千冬さんに言いつけるぞ……」
「織斑先生も知ってるよ。それに、この前も――」
「はぁ!? 千冬さん公認っての!?」
「待て、鈴。デュノアは千冬さんの養子になると聞いている。セックスしても結婚はできない」
「えっ?」
「なっ!?」
「……!?」
上から鈴、セシリア、ボーデヴィッヒの反応。まぁ、そりゃ驚くよね。ってか、結婚ってなに? そこまで考えてらっしゃいますの、箒さん?
まさか鈴もセシリアも……!
「一夏、4股は感心しないぞ。デュノアにしておけ。一番いい女だ」
「お待ち下さいな、そもそもボーデヴィッヒさんはどんなポジションですの!?」
「そうよ! アンタにケンカ売られたの忘れてないんだから」
「それは済まなかったな。あの時はどうしても一夏をぶっ殺してやりたくてな」
「えっ、なにそれ初耳」
俺にとって地獄のようなランチタイムはまだまだ始まったばかりだ……