織斑一夏[感性 A+]   作:卯月ゆう

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その3

「なんですって! 物珍しいからという理由でこんな男にされては困ります! わたくしはISの技術向上の為にここにいるのであって、サーカスをしに来たわけではありませんわ! そんな巫山戯たことを言う人間が同じステージにいるなんてあり得ないことです!」

 

 おやおや、火に油を注ぎやがったな。確か名前は…… まぁ、俺を売った人間だ、覚えるまでもない。彼女が救いを求めて俺に視線を向けるが敢えて無視した。口元だけ動かして「自分でなんとかしなよ」と。

 ものすごい剣幕で怒鳴り散らすオルコットさんはさらにギアを上げ、ついにはお国自慢とイギリス上げ、日本下げまで始めたからさぁ大変。

 織斑先生の頬がひくつき始めたからそろそろ止めてやろう。せめてもの情けだ。

 

 

「オルコットさん、そのへんにしておいた方が……」

「黙りなさい! そもそも貴方はどうしてそう卑屈に、男というのは皆こうなのですか! まったくだらしのない――」

「いい加減にしとけよ候補生サマ? 国背負ってんだろ?」

「ええ、そうですとも、わたくしはイギリスを……!」

 

 さて、ようやくお気づきになりましたね。代表候補生とはいえ、一国を代表している立場に変わりなく、その口から出る言葉の重みはまるで違う。

 ま、あとはお察し。

 

 

「賢明だ、オルコット。議論では決着が付きそうに無いが、どうする」

「織斑先生、わたくしは、彼とのISバトルを希望しますわ」

「ほう?」

「え、ちょっと待てよ、俺不利すぎだろ」

「ええ、わかっていますわ。ですから、勝敗だけではなく内容で勝負いたしませんこと?」

 

 オルコットさんの言うことをまとめるとこうだ。

 普通にISを使って勝負するが、勝敗だけではなく内容で、俺ならオルコットさんにどれだけ善戦したか、オルコットさんは俺にどれだけ余裕で勝てたか。そういうポイントを加味しようというのだ。

 審査員はクラス全員。そして織斑先生と山田先生。贔屓目で見るなと口では言うが実際には俺のほうがポイントを稼ぎやすいとおもう。多分。

 

 

「なるほど、面白い。来週の月曜、放課後の第3アリーナで行う。良いな」

 

 

 四の五の言わせない雰囲気で、全員が返事をすると、織斑先生の授業が始まった。

 

 その日の放課後、疲れ切った体に鞭打って授業内容をまとめなおしていると「まだ残ってたんですねー」とふんわりした声で山田先生がやってきた。

 

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました!」

「はい? 1週間は自宅通学って聞いてたんですけど」

「織斑くんの立場上、それは難しいんです。なので、無理矢理決めてしまったんです。――上からなにかきいてますか?」

 

 最後だけ耳打ち。

 俺は黙って首を振ると、少し困ったように目尻を下げて、ですよねぇ、と。

 あと1ヶ月もすれば個室が用意できるそうだが、そもそも着替えとかなんも持ってきてねぇぞ。

 

 

「でも、着替えとか、いろいろ家に取りに帰らないと」

「それなら――「私が用意しておいた」

「織斑先生、ありがとうございます」

 

 そう言うと、織斑先生は少し残念そうな顔をした。なんだよ、学校だからちゃんと先生呼びしてんだろ。

 

 

「クローゼットの中から適当に見繕っただけだから、あとで確認しておけ。あと携帯の充電器とパソコンがあれば良かっただろう」

「まぁ、中身によるけど……」

 

 千冬姉、生活力ゼロだからなぁ…… そこはかとない不安を胸に、食事や寮の場所などについて説明を受けると最後にキーを渡されて2人は会議に行ってしまった。

 うーん、ここわかんなかったから聞いておきたかったんだけどなぁ。

 そろそろ外から覗く視線にも疲れたし、部屋に戻るとしよう。山田先生の言い草だと、おそらく同室の人がいるはずだ。知らない女子と同室とか嫌だなぁ…… お互いにストレスマッハだろ。

 地図を片手に寮にたどり着き、入り口脇の事務室で千冬姉が用意してくれたスーツケースを受け取ると、館内図とにらめっこをしてから部屋に向かった。

 

 

「1025は…… ここか」

 

 寮はどちらかというとホテルっぽい感じ。廊下含めてカーペット敷だし。

 意を決して扉を4回ノック。これが正しいマナーだったはず。それから、同室になった織斑です。と名乗れば中から一夏っ!? と反応があった。箒か…… それはそれで気まずいなぁ。

 休み時間以降、箒とは話してない。それどころじゃないというのもあったけど、やっぱり気まずかった。

 

 

「い、い一夏、どうしてここに!」

「いや、政府命令とかで、今日から寮にはいるんだとさ。いま忙しいみたいだし、また後で出直すよ」

 

 声が遠かったから、おそらくシャワーだ。それに、何もなければドアくらい開けてくれるだろう。

 触らぬ神に祟りなしと寮内探検がてらウロウロしてみることにしよう。共有スペースには風呂上がりと思しき何人かが飲み物片手に喋っていたし、時間が時間だからか、そういう子と廊下ですれ違うことも多かった。

 みんなその、無防備な格好をしておられまして、思春期男子にはとても目に毒なわけですよ。ええ。

 心を鬼にしてステイクールステイクール。寮舎を一周して、屋上に出ると春の夜風が心地よい。さっき買ってきたコーラを開けると、一口煽った。

 

 

「あら、織斑さん」

「ん? ああ、オルコットさん。こんばんは」

「えっと、お風呂上がり…… ではなさそうですわね」

「まぁ、ね。オルコットさんは涼みに?」

「ええ。そんなところですわ」

 

 昼間の縦ロールは鳴りを潜め、きれいなストレートになっている。高そうな生地のナイトウェアと、手にはサイダー。

 

 

「ふふっ」

「なにか面白いことでも?」

「いや、オルコットさんもそういう物飲むんだな、ってね」

「わたくしもサイダーくらい飲みますわ。その、織斑さん」

「どうした?」

「昼間のことを、お詫びしたくて。言いすぎてしまいましたわ。織斑さんが止めてくださらなければもっと恥を晒すところでした」

「それは俺じゃなくてあの子にするべきじゃないか?」

 

 けれど、と言ってオルコットさんは一言ありがとう、と言った。そこからは2人黙って夜の暗いくらい海を眺めていた。それも長くはなかったけれど。

 

 

「そろそろルームメイトも風呂上がってるかな。それじゃオルコットさん、また明日」

「ええ。また明日。おやすみなさい」

 

 1025室に戻る道すがら、オルコットさんの事を少し考えていた。初対面の印象と言い、昼間の言動と言い、正直なところ印象は最悪クラスだったが、さっきの短い会話で印象はだいぶ良くなった。

 なんというか、やっぱり普通の女の子なんだなって。まぁ、行き過ぎた言動はあるにせよ、それもしっかり反省してるし、これ以上悪くはならないだろう。

 さて、再び1025室とご対面。ノックは4回。名乗るのも忘れず。

 後ろから織斑くんの部屋ここなんだー、とか聞こえても心を無にする。

 

 

「……待たせたな」

 

 ドアを数センチ開けた箒のセリフは、まるでどこかの蛇だった。

 部屋はホテルのツインルームみたいな感じ。と言うかまるでそう。キッチンがあったり、シャワーがシステムバスじゃなかったりは素敵。だが、トイレが1階にしかないと言うのはいかがなものか?

 誤解の無いように付け足せば、女子トイレは各フロアの両端にある。だが、そもそも男が入ることを考えられてないこの学園である。男子トイレは1階に来客用としてある場所しかこの建物には存在しないのだ。

 

 

「暇すぎて死ぬかと思ったよ。シャワー浴びて寝たい」

「い、一夏?」

「ん?」

 

 頑張って平然を装いながらスーツケースを漁って変えの下着とパジャマ代わりのスウェットを確保。バスタオルも…… 入ってる。よし。

 

 

「そ、そのだな。やはり同じ部屋になったとはいえルールは必要だろう?」

「そうだな。どっちのベッド使うんだ?」

「手前のだ。ってそうじゃない! シャワーは私が8時まで、一夏はそれ以降だ」

「わかった。けど、女子は大浴場使えるんだろ?」

「自室じゃないと落ち着かんのだ」

「そーですか。んじゃシャワー浴びてくっから、他のルールは上がったら決めようぜ」

 

 そして風呂場に逃げ込む俺。なんでもないようにしたつもりだが、あれはやばいって!

 箒さんどれだけ成長してるんですかぁ!? それもあいつ昔から、寝るときは薄着だから目立つんだって! うがああああ!!

 煩悩退散煩悩退散煩悩退散!!! 滝行だ。それだ。

 シャワーの温度を最低に。蛇口を捻れ!

 水を被って頭を冷やし、頭の天辺からつま先まで丹念に洗ってからもう一度水を被って風呂から出た。

 

 

「遅かったではないか」

「悪いな。温まったついでにストレッチしてたんだよ」

 

 口から出まかせだ。ひたすら水を被っていただけなのに。だが、箒は納得したのか、追求してこなかった。

 まぁ、突っ込まれたらそれはそれで社会的な死が待っているわけだが。

 それから部屋のルールをいくつか決めて(どれも一般常識的なものだ。友達呼ぶなら了承を得る、とか)から眠りに落ち…… るわけがない。

 隣には女の子、それもこっちをバリバリに意識してるのがわかる。なんなら今だって寝たふりしながらこっち見てる!

 俺だって思春期男子。昼間からもうたまらんわけよ。それもここ数週間ナニもできない、ってかする暇すらなかったわけでピークでもあるんです。ハイ。

 寝不足で翌朝を迎えました。それでも朝の6時には起きて、学園の中を探検がてらランニング。同じような習慣の人も多く、朝から視線が痛かった。

 部屋に戻ってシャワーを浴びてから朝ごはん、と行きたいところだが、

 

 

「なんだこの混雑は……」

「仕方ねぇよ、1年全員いるんだから」

 

 食堂は大混雑。和食セットのトレーを手にキョロキョロしてしまう。同じような境遇の人の先を越さねば朝食はない。

 む、あのダボダボ袖のキグルミは…… 同じクラスの布仏さん! それもテーブルに空きがある。行くしかない。

 

 

「箒、こっちだ」

 

 そして布仏さんと、谷本さん、だったかな。それから鏡さんの3人に近づくと、サラリと声をかけ着席。箒もおずおずといった様子で布仏さんの隣についた。

 

 

「いやー、織斑くんから来るとは。朝からツイてるぅ」

「そんなことないだろ、どうせ1時間後には教室にいるんだし」

「ねーねー、おりむーとしののんは何食べてるのー?」

「おり、むー?」

「しののん……?」

 

 この布仏さん、片っ端からあだ名をつけて回っているらしく、まだ2日目だというのにクラスの半分以上は既に命名済み。

 谷本さんはゆっこ、鏡さんはナギナギらしい。まんまだな。俺のネーミングセンスも人のこと言えないけど。

 そして会話を楽しめば箒さんの不機嫌度が急上昇。なぁ、俺はお前のなんでもないんだからそんなみっともないことすんなよ。

 

 

「ごちそうさまでした。一夏、先に行っているからな」

「お、おう」

 

 明らかに不機嫌丸出しでそんなこと言われてみろ、残された側は

 

 

「ねぇ、私達篠ノ之さんになにか悪いことしたかな」

 

 こうなるに決まってる。

 箒、頼むから人並みのコミュ力と想像力を得てくれよ!




次は15日
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